私は天使なんかじゃない   作:月詠ウサギ

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ボルトテック社の遺産

  ボルトテック社。

  アメリカでもっとも権威のある科学技術を有した会社。

  全面核戦争にも耐える核シェルター『ボルト』を建造した実績を見てもその技術の高さが分かる。

 

  だがそれは全て表の顔。

  実際には核シェルターとしての意味合い以上に実験施設としての側面が強かった。

  住人はモルモット。

 

  それでも。

  それでもボルトテック社の技術の水準の高さは誰もが認めている。

  何故なら技術は紛れもなく世界屈指だからだ。

  その遺産は今も眠っている。

  その遺産は……。

 

 

 

 

 

  レッドレーサー工場での一件から5日。

  特に何もない。

  何も?

  何も。

  最近はメガトンにレギュレーターが20名ほど常時駐屯しているのでこの近辺に出没するレイダーとかタロン社、奴隷商人、野生動物に暴走したロボット

  を勝手に撃退してくれるので私の出番がないのだ。

  保安官であり市長のルーカス・シムズもメガトン防衛の名目で保安官助手を募集したし。採用が10名。

  治安は内外共に完璧な状態ですね。

  スーパーウルトラマーケットもキャラバンの休息地点として整備したお陰で集落化しつつあるし。

  スーパーウルトラマーケット、メガトン、ビッグタウン、アレフ居住地区は交易路で結ばれた。街道が整備されて旅人の往来が増えた。これでそれぞれの

  集落は富んでいく事だろう。

  つまり私の出る幕がなくなったってわけだ。

  もちろんそれならそれでいい。

  喜ばしい事だ。

  私は私でパパとの日々を楽しむとしよう。

  ……。

  ……だけどやっぱり退屈だなぁ。

  たまには冒険したい。

 

 

 

  「お食事が出来ました」

  「ありがとう」

  二階の自室でアサルトライフルの整備をしていると声が掛かる。

  グリン・フィス?

  いいえ。

  彼も同居してるけど今は外出している。モイラから実験に付き合って欲しいと頼まれた、とか言ってたなぁ。……きっと人体実験。怖いなぁ、モイラは。

  まあ、彼なら死ぬ事はないだろう。……多分。

  死んだら?

  そりゃ賠償金貰わないと。

  「ふぅ」

  ガチャ。

  銃火器を机に置く。

  油臭くなってしまった。ちゃんと手を洗ってからご飯にしないとね。

  楽しい楽しい昼食時間だ。

  私は部屋の外に出る。

  「うーん」

  途端に良い匂いがする。

  食欲が湧く匂いだ。

 

  ごぅぅぅぅぅぅぅっ。

 

  騒音ってほどではないにしても結構大きな音がする。

  排出音。

  宙に浮いている物体から発せられる音だ。

  ワッズウォースだ。

  機体の正式名はMrハンディ。タコ型浮遊ロボットで主にメイドロボとして戦前に開発された。

  もちろんただのメイドロボではなく強盗撃退用として……というかそれ以上の攻撃能力のような気もするけど、火炎放射器と電動ノコギリが標準

  装備されている。料理に使用される能力なのは確かなんだけど物騒すぎると思うのは私だけだろうか?

  データ上の数値を見ると人間をウェルダンにするだけの火力があるわけで。

  ただ使い勝手の良いロボットなのは確かだ。

  防衛と料理。

  そのどちらもそつなくこなす能力は素晴しい。

  Mrハンディが市場のニーズとして想像以上に受け入れられたので開発元はさらに攻撃に特化した、つまり軍用としての後継機を製作。

  それが軍用ロボットのMrガッツィーだ。

  フォルムはほぼ同じ。

  ……。

  ……ああ、そうか。アンダーワールドのケルベロスはMrガッツィーだったっけ。

  どちらも敵に回すと厄介。

  非常に高価でMrハンディ&Mrガッツィーはセレブの憧れだ。

  つまり。

  つまりそれを有している私はセレブなわけだ。

  セレブ☆

  「お嬢様。昼食はハムトーストとサラダ、ポタージュです」

  「うーん。おいしそう」

  このロボットはルーカス・シムズのプレゼント。

  まあ、この家自体がそうだけど。

  ただパソコンやらの機器は自腹。モイラの店で購入した代物だ。

  私は一階に降りる。

  あっ、手を洗わないと。洗面台で手を洗ってからテーブルに着く。既にパパは座っていた。

  「パパ。研究はどう?」

  「手詰まりだな」

  「そっかぁ」

  「パーツが足りないのが問題だ」

  「モイラの店で買ってこようか? 何が足りないの?」

  「パソコンの演算能力が足りない。劣化している商品では駄目だ。それに、彼女の店の売り物の元々の能力が低過ぎる。私が欲しいの特注品だ」

  「うーん」

  高性能のパソコンが欲しいわけか。

  それも特注。

  「実はティリアス、頼みがあるんだ」

  「頼み?」

  「そうだ」

  まさか……。

  「いいよ。私、パパの赤ちゃん産んであげる」

  「……」

  「冗談よ」

  そうでもないけど。

  「……色んな意味でキャピタルウェイストの気風に染まったな」

  「ありがとう」

  お礼言うべき事かな?

  まあいいけど。

  パパはタバコをくわえて懐を探る。ライターを探しているらしい。

  「ご主人様、どうぞ」

 

  ごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!

 

  「きゃあっ!」

  「うぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

  パパが燃えたーっ!

  Mrハンディがタバコの火を着けるべく火炎放射器で着火したのが原因だ火力凄すぎるだろーっ!

  私は消火の為に咄嗟にポタージュを浴びせる。

  カーン。

  「ぐはぁっ!」

  引っくり返るパパ。

  ……。

  ……あー、やばい。どうも私は動揺しているらしい。

  皿ごと投げてしまった。

  皿はパパの頭をクリーンヒットっ!

  し、死んだかな?

 

  しゅぅぅぅぅぅぅぅぅっ。

 

  と、ともかく火は消えた。

  何気にお昼から凄い展開になってるけど……ま、まあ、よしとしよう。結果オーライっ!

  沈黙が空間を支配する。

  そんな中でMrハンディが場を和ませようと発言した。

  「火葬場で新サービスが始まったようです。焼死体は火葬代が半額だとか。旦那様は半額で済みますね。ハハハ」

  『……』

  しーん。

  Mrハンディはメイドロボなので様々な機能が付加されている。

  生活に役立つツールとしての意味があるのだ。

  そんな中にジョーク機能がある。

  今の発言はそうなのだろう。

  ……。

  ……笑えねぇ。

  何故って?

  今の一撃でパパの髪型がチリチリなパーマになってしまったからさっ!

  ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ似合わねぇーっ!

  この髪型はパパは駄目だなぁ。

  「と、ともかく」

  パパは沈黙を破る。

  チリチリなパーマのパパ。駄目だ。この髪型はギャグの領域だ。

  笑える。

  笑える。

  笑うーっ!

  「あっははははははははっ! 何その髪型、受けるっ! 笑えるーっ!」

  「……」

  大笑い。

  これが家族団欒の一幕だろう。

  醍醐味よね。うん。

  ただパパは嫌そうな顔をした。こほん。私は咳払いする。

  「ティリアス」

  「何?」

  「頼めるか?」

  「いいわ。最近はメガトンの日々で少し退屈してたし」

  「すまん」

  「それで見当はついてるの?」

  「以前調べたのだがボルト92にあるパソコンの一部があれば研究に転用出来ると思う。欲しい部分はお前のPIPBOYに転送しておく」

  「了解。それで? その場所は?」

  「実は分からん」

  「はっ?」

  「無責任ですまん」

  「まあ、いいわ」

  ある意味でパパはこんな性格よね。脱走した時点で既に気付いてます。あれだってもっと方法あったと思う今日この頃。

  ともあれお願いされたわけだし何とかしないと。

  昼食を食べたら調べなきゃ。

  誰なら知ってるかな?

 

 

 

  情報収集は酒場。それがロープレの鉄則だ。

  昼食を終えて私は酒場に顔を出す。モイラとゴブが経営している店だ。前店主のモリアティ死んじゃったし。

  店は繁盛していた。

  クリスの命令がない時はカロンはここで用心棒をしている。

  壁を背にして店に睨みを利かしていた。

  「カロン。こんにちは」

  「クリスティーナ様に聞け」

  「いや、挨拶しているだけなんですけど……」

  「知らん。クリスティーナ様に聞け」

  「……」

  面倒臭い奴。

  まあいい。

  別にカロンに用はない。私はカウンター席に座る。

  この時初めて気付く。

  店の客は全部グールだった。

  「よお。ミスティ」

  「ゴブ」

  店主の1人のゴブが私に声を掛けてくれる。

  ノヴァ姉さんと彼は対等の立場の共同経営者。出世したもんですなぁ。

  当のノヴァ姉さんは従業員のシルバーだけでは接客が回らないので手伝っている。

  さて。

  「何か飲むかい? それとも昼飯を食べるかい?」

  「いえ。済ませたから。話があって来たのよ」

  「俺に分かる事なら」

  「ボルト92の場所が分かる人っていないかな。もしかしてゴブは場所を知ってる?」

  「ボルト92?」

  「うん」

  「ボルトテック社の遺産の場所を俺が知ってるわけがないだろ。ただ、キャラバン隊とかが知ってるかもな」

  「キャラバン隊」

  なるほど。

  彼らなら知っていてもおかしくない。

  週に何回かは街の外にはキャラバン隊が到着する。聞いてみるとしよう。

  問題はある程度解決よね。

  それにしても……。

  「ゴブ」

  「何だい?」

  「やけにグールのお客が多いけど同窓会?」

  「いや」

  「じゃあ何でこんなにいるの?」

  「グール化治す新薬が開発されたらしい。その会社に行くらしいぞ」

  「ふーん」

  そんな薬が開発されたんだ。

  ……。

  ……てか誰が?

  会社なんてこの世界にまだあるのかな?

  まあ、タロン社は傭兵会社だから会社という枠組みはまだこの世界に存在しているのかもしれないけどさ。

  グール化を治す、か。

  「ゴブは興味ないの?」

  「眉唾だとは思うよ」

  「まあ、そうね」

  「しばらくは様子見だよ。店も軌道に乗ってきたところだし」

  「なるほど」

  「それで? 本当に何も飲まないのかい?」

  「ワイン頂戴☆」

  「ははは。ミスティの笑顔を見てると俺まで嬉しくなるぜ。とっておきの奴をご馳走するよ。少し待っててくれ」

  「うん」

 

  ギィィィィィィィっ。

 

  軋む扉を開けてお客が入ってくる。

  私は見る。

  あっ。

  「ビリー」

  「よう。直接顔を合わせるのは久し振りだな、ミスティ」

  レギュレーターのコートを着ているビリー・クリール。何気に今はレギュレーターの一員です、彼。

  私?

  私もレギュレーター。

  ただコートは着てない。てか貰ってない。

  わざわざ『私はレギュレーターっ! レギュレーターなのよっ!』という邪魔なアピールはしたくないし。

  そうだ。

  「ビリー、外の世界に詳しいよね?」

  「以前はキャラバン隊にも所属してたしな。……まあ、色々としてきたしな」

  「色々と?」

  「そこは聞かんでくれ」

  難儀な奴だ。

  色々と過去にはあったらしい。ソノラもその過去を見逃す形で彼を組織に組み込んだらしいし……悪党だったのかな、この眼帯伊達男。

  まあいいけど。

  過去は誰にもある。

  触れられたくない思いもあるだろうさ。

  さて。

  「ボルト92の場所って知らない?」

  「ボルト92?」

  「そう」

  「確か……デイブ共和国の近く……いや、オールドオルニーの近くと言った方がいいか。しかし……」

  「……?」

  さっぱり分からん。

  デイブ共和国って……こんな状況下の世界にまだ主権国家が存在してる?

  へー。

  世の中意外性に満ちているなぁ。

  「正確な場所は分からない。ただアガサという老女が知っている、と前に聞いた事がある。彼女に聞いた方が確かだな」

  「アガサ?」

  「ああ。辺境に住んでいる老女だ。キャラバン隊の行路に彼女の自宅がある。その場所は正確に分かる。彼女に聞いてみた方がいい」

  「どこに住んでるの?」

  「PIPBOYを起動してくれ」

  「うん」

  ピピ。

  起動。

  地図を表示すると彼はある一点を差した。

  「大体この辺りだ」

  「ありがとう」

  場所は分かった。

  その時ゴブがワインを一杯出してくれた。

  ごくり。

  私は一口飲む。

  おいしい。

  「ありがとう、ゴブ」

  「味わってくれ」

  「ええ」

  目指すはアガサの家。

  そこでボルト92の情報をそこにいるアガサという老女に教えて貰うとしよう。

  パパの望むパーツがあればいいけど。

  さあ。

  久し振りに旅に出ようっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回よりはボルト巡り、そしてパラダイスフォールズの奴隷商人たちと因縁深めていく展開です(=゚ω゚)ノ
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