私は天使なんかじゃない   作:月詠ウサギ

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奴隷解放の為に

 

  未来を得るには戦うしかない。

  その方法は異なる。

 

  だけど戦うわざる者に未来を得る資格はない。

  未来を得るには……。

 

 

 

 

 

  『ハロー。愛しきアメリカよ』

  『ここで霊的な引用を。大統領ジョン・ヘンリー・エデン自身が、あなたの心に届けよう』

  『自由の代償は終わる事のない警戒だ』

 

 

 

  ユニオンテンプルの面々を率いて私達は廃墟のDCへと向った。

  途中に会ったキャラバン隊のラッキーハリスに『タロン社はDCから撤退した』と言われたけど……確かにDCは静かな感じがする。

  スーパーミュータントの戦争に敗れて撤退したらしい。

  その当の巨人達もジェネラルを欠いたりベヒモスを失ったりの痛手で姿を消していた。

  静か。

  静かだ。

  もちろん何の障害がなかったわけではない。

  途中でレイダーに襲われた。二度ほどね。

  結果?

  蹴散らしたわよ。

  そんで身包み剥いで物資をゲットしました。これはキャピタル・ウェイストランドのマナーでありルールです。

  引率する元奴隷は30名。

  かなり多い。

  遠足の保母さんですか私は。

  ただ、数は多いものの戦力的にはそう大した事ではない。大なり小なりと銃火器を全員が所持しているけど腕の方はたかが知れてる。

  素人だ。

  この中で強いのはリーダーのハンニバル、そしてシモーネだけだろう。

  あとの者は戦力として数えない方がいい。

  はっきり言って素人。

  ど素人。

  旅から3日が経った。

  私達だけなら問題はないんだけど30名も引率してるとどうしても旅の足は遅くなる。その結果だ。

  今だって小休憩だし。

  私は座って廃墟の街を見てる。スーパーミュータントいないとこんなに静かなんだなぁ。

  「ふぅ」

  こうやってると滅亡した世界に自分だけ取り残された感じがする。

  ……。

  ……そう考えるとスーパーミュータントって存在感あったんだなぁ。まあ、でかいし、絶対に視界の端に入るしね。

  そいつらがいない。

  まあ、いないならいないで楽で良いかな。

  「ねえ。クリス?」

  「……」

  2日目から完全に無口のクリス。

  機嫌悪そうだ。

  いや。確実に悪いわね。

  「クリス」

  「何も言うな」

  「付き合わせて悪いと思ってるわ」

  「付き合ってくれ、それならっ!」

  「……いや。意味分からんから」

  「ケチっ!」

  「……」

  何なんだ、その返答は。

  意味分からん。

  おおぅ。

 

  「た、大変だーっ!」

 

  「ん?」

  斥候に出ていた元奴隷の2人が走って戻ってくる。

  何かあったのだろうか?

  「ようやく出番だな、ミスティ」

  「クリス?」

  「あの慌てようから察すると何かがいるらしい。暇なだけの引率よりは、戦いの方が楽でいいっ! ふふふ。これぞ軍人魂だなっ!」

  「……」

  誰が軍人だ誰が。

  実に嬉しそうだ。クリスは立ち上がってハークネスとカロンに号令。

  まだ戦いと決まったわけじゃないんですけどね。

  私も立ち上がる。

  ハンニバルの元に向った。彼は斥候と話をしている。

  顔色が悪そうだ。

  「どうかしたの?」

  「奴隷商人だっ! 記念館に陣取ってるっ!」

  「ふぅん」

  なるほど。

  クリスの戦闘準備は正しいわけか。ただ、それにしてもどうしてこんな所に奴隷商人がいるんだろう?

  情報が漏れてる?

  そうかもしれない。

  いずれにしてもパラダイス・フォールズの奴隷商人はここで一戦交える為にやってきたってわけだ。

  実に都合がいいわね。

  潰してやるっ!

  ここは連中にとっても未知の土地。援軍は来ない。

  後続がない以上は簡単に叩き潰せる。

  ハンニバルは興奮しながら叫ぶ。

 

  「直ちに攻撃を開始する。自由あらずば死をっ! 皆、自由を勝ち取る為に、悪を倒す為に我々に協力してくれっ!」

  『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!』

 

  おー。

  盛り上がってます盛り上がってます。

  だけどDCの廃墟までやって来るぐらいだからリンカーン記念館に布陣している奴隷商人の部隊は強力だろう。少なくともユニオンテンプルの建物近く

  で交戦した部隊よりも強力なはずだ。元奴隷達に勝てるとは思えない。

  作戦が必要。

  準備が必要。

  ならば。

  「私に任せて」

  「何? 1人で戦う気か?」

  「まさか」

  私は笑う。

  自分を強いとは思ってるけど1人で部隊を相手に出来るとは思ってない。……まあ、相手の部隊の錬度にもよりますけど。

  「ハンニバル」

  「なんだね?」

  「まずは準備するわ。攻撃はそれからよ」

  「しかし……」

  「合図があったら攻撃して。ただ、その前に準備が必要なの。一人借りるわよ」

  「借りる?」

  「奴隷商人への手土産」

 

 

 

  リンカーン記念館。

  そこにはバリケードが築かれていた。そしてバリケードの向うには自動小銃を手にした奴隷商人達。

  数は不明。

  視界に入る数は5名。

  バリケードの向うに4人、そして私の目の前に1人。

  「そこで止まれ」

  相手はハンティングライフルを手にしていた。

  硝煙と血の匂いが漂っている。

  スーパーミュータントの死体がそこら中に転がっている。私は何気なく視線を巡らすと……地雷が無数に設置してある。

  準備万端、いつでも来い、という感じかな。

  どうやらハンニバル達の動きは確実に読まれているらしい。

  奴隷商人が私に問う。

  「現在ここは俺達奴隷商人が占領中だ。お前、誰だ?」

  「観光客」

  「ここはリンカーン記念館だ。……好奇心もほどほどにしろよ、観光客。それで何の用だ? この記念館の観光はは許可してない、帰れ」

  「商売に来たのよ。女を買わない?」

  「何だ、お前そういう仕事か?」

  「少し違う」

  私は両手を拘束された女を前に突き出した。

  シモーネだ。

  「お探しの女よ」

  「お探し?」

  「この女は奴隷よ。あんた達に返すわ」

  「……ほう?」

  奴隷商人の男は興味深そうにシモーネを見る。

  興味を抱いたらしい。

  「確かに見た事があるな。噛み千切ってディッチを不能にした女だったか。……いいぜ、Mrウォーカーに会わせよう。報酬の話は彼にしてくれ」

  「ええ。分かったわ」

  私は先頭に立って歩く男の背を追う。

  追いながらシモーネに呟く。

  「噛み千切ったって何を?」

  「聞かない方がいいよ」

  「何で?」

  「餓鬼には早過ぎる」

  「はっ?」

  「まあ、コツだけは教えてやるよ。出来るだけ従順でいる事だ。そしたら噛み千切るチャンスが来るんだよ。そうやって私は逃げたんだよ」

  「ふぅん?」

  意味分からん。

  今度パパに聞いてみるとしよう。

  教えてくれるかなぁ。

  「何してる? ここだ」

  「はいはい」

  記念館のメンテナンスルームに連れて行かれる。

  扉をくぐる。

  内部には数名の奴隷商人がいた。どうやらここは休憩の場所も兼ねているらしい。

  1人、2人、3人……5人か。

  案内してる奴を含めてここには奴隷商人が6人。Mrウォーカーとかいう奴を含めると7人ってわけか。奥にもっといるのかな?

  「ところであんた誰?」

  「サイラスだ」

  「ティリアスよ」

  本名を名乗る。ミスティはあくまで愛称だ。

  ミス・ティリアス→ミスティリアス→ミスティ。私の顔すら知らない連中だから本名までは調べてないだろう。というかそもそも本名を名乗る状況はな

  かったと思う。クリスですら私の本当の名前は知らないはず。多分ミスティを本名だと思ってるんじゃないかな。

  偽名を名乗るとボロが出る。

  呼ばれても即座に反応出来ないのであれば問題だから、本名を用いた。

  まあ、すぐ殺すけど。

  「スーパーミュータントの死体は何なの?」

  「あんまり近くに来られたら始末するのが当然だろ。良い射撃練習だよ。俺達はパラダイス・フォールズで一番の精鋭だからね」

  「ふぅん」

  精鋭部隊か。

  尚更都合が良い。ここで潰せば後々が楽だ。

  「彼がMrウォーカーだ。話して来な」

  「ありがとう」

  シモーネを引き連れて私は紹介された男の側に行く。

  椅子にふんぞり返っているのは黒人の男。あれがMrウォーカーか。メタルアーマーを着込んでる。

  どうやらメタルアーマー着用→幹部は正しい法則のようだ。

  分かり易くて良い。

  始末する際に相手にわざわざ確認しなくていいし。

  ここの親玉が口を開く。

  「誰だ、てめぇ?」

  「脱走奴隷を連れて来たわ」

  「何? ああ、商談希望か。よしよし、その女奴隷を買い戻してやろう。ええっと、誰だっけ?」

  「ティリアス」

  「リロイ・ウォーカーだ。今作戦の全権を与えられてる。……そいつが奴隷女か? あとは引き受けた、ご苦労だったな」

  バッ。

  私はシモーネを突き出す。

  恨めしそうな顔で私を睨み続けるシモーネ。迫真の演技なのか本気なのかは不明。……本気かもー。

  奴隷商人はこいつ込みで7人。

  容易いな。

  「俺達がここで何してるか気になってるんだろ?」

  「ええ」

  「我々はパラダイス・フォールズから来ている。逃げた奴隷の探索だ。こいつの仲間を他に見なかったか?」

  「いえ。見てない」

  「見たら教えてくれ。だが俺達が興味があるのはリーダーのハンニバル・ハムリンだけだ。見つけてくれたら報酬は払う、充分にな」

  「どうしてここにいるかの説明を受けてないわね」

  「ああ。そうだったな。……ハンニバルって奴が奴隷を組織してここを狙ってるんだ。だから先回りして待ってる。武装してな」

  「ふぅん」

  やはり情報が漏れてる。いや読まれてるだけか?

  まあいいけどさ。

  どっちでも。

  「帰る時には気をつけな。記念館には近付くと危険だぜ。部下達には近付く奴を殺すように指示しているからな」

  「お気遣い感謝」

  「見つけてもハンニバルは殺すなよ。殺すのはこちらでやる。奴の為のとっておきのプランがあるんだ」

  「それってこんなのかい?」

  「……な、何……?」

  ザシュ。

  シモーネが隠し持っていたナイフでMrウォーカーの喉に突き刺した。

  吹き出す鮮血。

  手錠は飾り。簡単に外れるように細工してあったわけですよ。

  調べなかったのはこいつらの粗忽。

  私ら舐め過ぎ。

  「ふん。私は二度と奴隷にならない、二度とねっ!」

  Mrウォーカーのショットガンを奪い乱射するシモーネ。異変に気付いて顔を出した奴隷商人達を射殺する。

  バリバリバリ。

  私もアサルトライフルを連打。

  サイラスと名乗った奴隷商人も掃射の前に果てた。わずか数秒で全てが沈黙した。

  レイダー風に言うと『お前は死肉の塊だぁー☆』的な感じかな。

  「行こうか」

  「ああっ!」

  

 

 

  合図は銃声。

  四方を包囲したユニオンテンプル&私の仲間達は一斉に射撃。どこから攻撃してくるか見当がつかない奴隷商人達は足止め状態。

  身を伏せて防戦一方。

  「ゴーゴーゴーっ!」

  「仕切るなっ!」

  タタタタタタタタタタタタっ。

  私とシモーネは走る。

  奴隷商人達は私達に気付かない。いや。気付く余裕がない。まさか奴隷側から仕掛けてくるとは思ってなかったのだろう。これでまだ指揮官がい

  れば立ち直ったのだろうけど全権を担ってた奴は既に冷たくなってる。

  ご愁傷様です。

  一気に階段を駆け上る。

  「そこっ!」

  邪魔する奴は44マグナムの二丁拳銃の餌食。

  数は思ったよりも多くはない。

  確かに。

  確かに少数精鋭で陣地に籠もれば最高の威力を発揮する。数倍の相手でも敵ではない。しかし敵が侵入したら、内部を掻き乱されれば状況は

  一変する。立ち直らせる指揮官がいないのも敗因だ。

  少数精鋭、聞こえはいいけど一度崩れると人数が少ないのが痛い。1人欠けただけで戦力が激減する。

  結果として私達が負けるはずがない。

  「シモーネ、援護っ!」

  「だから私に命令するなっ!」

  テーブルを盾代わりにして防戦していた最後の奴隷商人3名。

  テーブルを盾に?

  はっはっはっ。

  馬鹿め。

  44マグナムから発射される44口径の弾がそんなもので防げるものか。

  全弾発射。

  「ふぅ」

  カラカラカラ。

  空の薬莢を排出する。私は溜息。あー、緊張感が解放されるのは気持ち良い。

  「シモーネ。ハンニバルに伝えて。制圧したって」

  「命令するなっ! ……まあ、いい。伝えてくる」

 

 

  リンカーン記念館、奴隷商人から奪還。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  『靴は靴でも暇な時に履く靴って知ってるかい?』

  『退屈さ。……オチが付いたところで最新ニュースだ』

 

  『皆、希望を失うな。まだ希望はあるっ!』

  『ボルト101のあの子が、赤毛の冒険者がウェイストランドの救世主として活躍してるんだっ!』

  『皆希望を捨てるんじゃないぜっ!』

  『俺はスリードッグっ! いやっほぉーっ!』

  『キャピタル・ウェイストランド解放ラジオが君に真実をお届けするぜ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちょこっと説明。
BOS、ブラザーフッドオブスティール。
西海岸のアメリカ陸軍の部隊が前身のシリーズお馴染みの組織。ハイテクを独占し、保全することを目的としている身内至上主義。1、2では主人公サイド確定の勢力ではあるものの無理難題を押し付けてくる。1でザ・マスターを倒し、2でエンクレイブを倒したがその後台頭してきた新カルフォルニア共和国との戦いで身内至上主義が祟り、共和国の物量の前に敗北、決戦を避けて地下に引きこもった。

3、つまりこの小説のBOSはキャピタルウェイストランドに派遣された部隊で、西海岸の本部を無視して独立した組織であり、地元民に寛容である意味でBOSではない組織。
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