私は天使なんかじゃない   作:月詠ウサギ

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その奴隷、女誑しにつき

 

  その者、女垂らしにつき注意。

 

 

 

 

 

  定期的にスチールヤードで鉄のインゴット回収を命令された。

  レイダーに?

  ううん。

  ミディアに。

  私の肌はピットの街の放射能と病に冒されていないと丸分かりらしい。つまり街の住人ではないとすぐにばれるらしい。最近売られてきた

  ばかりの奴隷だとしても綺麗過ぎるらしい。そこは誉め言葉として受け取っておこうかな。

  ともかく。

  ともかくミディアの言い分は『下手にうろつくとばれるから作戦開始までスチールヤードに籠もってろ』って事だ。

  命令されるのは私は大嫌い。

  それも一方的過ぎる。

  というかそもそもこの街にはワーナーに拉致されてきただけだしね。

  ピットに愛着なんてない。

  護るべき相手もね。

  ……。

  ……まあ、カイやノラ達を可哀想だとは思う。

  救えるなら救いたい。

  現実問題として私はこの街にいるし、それなりに力を持っていると思う。救える術があるのに救わないのは私にとっての道義に反する。

  救世主?

  解放者?

  私はどちらの言葉に陶酔する気もない。別の言葉があったとしてもまた然り。

  当初私はワーナーの言葉を拒否した。

  何故?

  それは私は正義の味方ではないので手の届く範囲外の事は手を出さないと決めていたからだ。その取り決めは今も変わらない。変わらない

  けど私はここにいる。今後のワーナーやアッシャーを取り巻く流れや私の動きはまだ不明だけど関与する可能性はある。

  どちらに付く?

  さてさて、それはどっちかしらね。

  ワーナー側に付く可能性もあるしアッシャー側に付く可能性もある。どっちにしろまだ情報が足りな過ぎる。

  判断を下すには情報が少ない。

  もちろん。

  もちろん第三の道もある。

  新しい道の模索も選択肢の中にある、それがこの街にとって異邦人である私だからこそ出せる選択肢。

  誰にだって選択権はある。

  私が選ぶのは……。

 

 

 

  「出来たわよ、スマイリー」

  「そいつはありがたい。さて、飯にするかーっ!」

  「……元気ね」

  「飯だからなっ!」

  無駄に元気なグールのスマイリー。

  この地下シェルターの主だ。

  場所はスチールヤード。

  スマイリーはここで安穏とした生活を送っているらしい。暇をしたら外に出て鉄のインゴットを拾い集めてコレクションしたり、トロッグ相手に

  ハンティングしたり、物資が尽きれば夜陰に紛れてピットの街から武器や弾薬、食料、日用品を強奪してる模様。

  良いご身分ですなぁ。

  簡素なテーブルに私は食事を並べる。

  その隣ではシーが飲み物やらスプーンやナイフを並べている。

  彼女はスマイリーの同居人。

  特に深い付き合いではなく、シー自身最近この街に送り込まれてきただけらしい。そしてたまたま鉄のインゴット集めの際にスマイリーと出会い

  そのままスマイリーの地下シェルターに居ついてしまっただけの関係。

  誰に送り込まれた?

  ワーナー。

  シーリーンは、シーは私よりも数週間前にこの街に送り込まれたらしい。

  どうやらワーナーは定期的に『事態を解決出来るであろう人材』をピットの街に送り込んでいるらしい。甘言を駆使してね。まあ、私の場合はある

  意味で強制連行だったけどさ。方法を変えたのかな?

  どっちにしろワーナーは好きなタイプではない。

  「ほら、座れ座れっ! 飯にすっぞっ!」

  スマイリー、ご機嫌。

  そりゃそうか。

  彼は基本的に物事に対して執着がない……ように思える。これまで接してきてね。

  コレクションの鉄のインゴットも必要とだと言えば簡単にくれたし。

  ただ1つだけ拘るものがある。

  食事だ。

  彼は美食家らしくおいしい食べ物をこよなく愛する。ただ良い食材を手に入れても彼自身には調理する能力がないらしい。まあ、私の来訪を

  歓迎してくれたりシーを同居させている最大の理由はおいしい食事を作って欲しいだけなのかもしれない。

  それならそれでいい。

  安い見返りだ。

  それにスマイリーが気の良い人物だというのは確かだしね。

  『いただきますっ!』

  私、シー、スマイリーの声がはもる。

  さあ、食べますか。

 

 

 

  『ご馳走様でしたーっ!』

  はい。

  食事終了。

  自分で言うのもなんだけどなかなかおいしかった。ただまあ、シーには負けるかなぁ。

  調理のスキルはまだまだです、私。

  食器洗いを終えて私は一息つく。

  ミディアに言われるまでもない。私は常にスチールヤードで1日を過ごしてる。ダウンタウンの食べ物は食べた事がないけどそれなりに私も食通

  なのできっと喉に通らないだろう。スマイリーのところでおいしい物が食べれるのだからここに居着くのも当然だろう。

  一応、私も食通ですし。

  スマイリーは満足そうに笑った。

  「シーとはまた別の味が楽しめて嬉しいよ」

  「そりゃよかったわ」

  ……。

  ……別にエロトークではありません。『別の味☆』とは変な意味ではないのです。

  てか私はパパのモノですから☆

  浮気なんてしないのさ。

  ほほほ☆

  「ところでスマイリー」

  「なんだい?」

  「ここに永住する気なの?」

  「いや。いずれは出て行くよ。しばらくは定住するがね。とりあえず安住の地の情報が得られるまではここにいるさ」

  「ふぅん」

  「元々はアーガイルに誘われてロックオーポリスにいたんだよ」

  「ロックオーポリス?」

  「ああ」

  聞いた事がない。

  「それって地方の名前? 街の名前?」

  「街の名前さ。キャピタル・ウェイストランドにあった街の名前さ」

  「過去形なのね」

  「……もしかして本当に知らないのか? アーガイルの名前も? ハーバート"冒険野郎"ダッシュウッドの名前も?」

  「知らない」

  誰それ?

  シーが突然爆笑した。

  「うっけるぅー☆」

  「何でよ?」

  「ミスティはGNR聞いた事ないの? どこの田舎者よ、まったく」

  ボルト101の田舎者よ。

  悪いか。

  「GNRと何の関係があるの?」

  「仕方ない、あたしが教えてあげるわ。ハーバート"冒険野郎"ダッシュウッドって言うのはね、一昔前の冒険者なの」

  「ふぅん。で? GNRとの関連性は?」

  「今話すってば。冒険野郎は自分の冒険譚をスリードッグに売り込んだってわけ。物語仕立てで放送してるわよ、GNRでね。ここには電波届い

  てないから聞けないけどさ。当然エンクレイブラジオも聞けないわよ」

  「冒険野郎は分かった。アーガイルって誰?」

  「従者」

  「従者?」

  「そう。冒険野郎の親友であり従者であり最高の相棒。実際的にはアーガイルの方が活躍してるのよね。……あー、アーガイルはグールなのだよ」

  「ふぅん」

  冒険野郎とアーガイルの説明は了解。

  それで?

  ロックオーポリスって何?

  スマイリーに聞く。

  「それでアーガイルとは友達だったの、スマイリー?」

  「いや。ある意味で……そうだな、尊敬していた人物だ。きっかけはラジオで聞いたのが初めてなんだが実際にあったら完璧なまでの男っぷりに

  惚れてな。俺はロックオーポリスに移住したんだ。アンダーワールドにも行けなかったし、丁度やるべき事を見失ってたしな」

  「ふぅん」

  「ハーバート"冒険野郎"ダッシュウッドは引退して余生をテンペニータワーで過ごしているらしいがアーガイルはロックオーポリスの守護者としての

  生活を望んだんだ。その街は隠れ里的な場所でな。パラダイスフォールズの奴隷商人と敵対してたんだ」

  「テンペニータワー?」

  「金持ちの街だ」

  「へー」

  「昔は俺もロイ・フィリップス率いるグールの組織に加盟していた……いやまあ、それはいいか。ともかく俺もその隠れ里の守護者になったんだが

  ある日突然奴隷商人の大部隊に襲撃されたんだ。逆らう者は皆殺された、アーガイルもな。住民はピットに送られた」

  「……ここに?」

  「ああ。調査したんだが全員既に死んでる。環境がな、やっぱり劣悪なんだな、ここは」

  「どうして隠れ里に奴隷商人が来たの?」

  「ラジオだよ」

  「ラジオ?」

  「ハーバート"冒険野郎"ダッシュウッドがラジオに流す冒険譚のストーリーの中にロックオーポリスの居場所を喋っちまったんだ。まあ、俺もラジオ

  経由で場所を知ったんだけどな。アーガイルは良い奴だったなぁ」

  「思い出話モードに移行?」

  「さて、おやつにすっかっ!」

  「……」

  こいつも脈絡ないなー。

  まあ、良い奴なのは確かだから問題ないですけど。……そうね。脈絡ないのは、別に致命的ではない。致命的なのは横暴な奴だ。

  ワーナーとかミディアとかさ。

  ありゃ友達になりたくない人物です。

  ……。

  ……失礼。訂正です。

  友達になれない人物と訂正させて頂きます。

  さて。

  「シーはワーナーに送り込まれたのよね?」

  「ええ。あいつぶっ殺してやるっ!」

  「メスメトロンとかいうの使われてはないんだよね?」

  「牝……よく分からないけど……うっわミスティやっぱそっち属性? 苛められるの好きなタイプ?」

  「はっ?」

  意味分からん。

  だけど2人とも今の新しい環境を受け入れている。順応している。自分達のしたい事を見つけている。

  スマイリーは安住の地を探してるしシーはトレジャーハンターとしてキャピタル・ウェイストランドへのお土産としてお宝探してる。

  私も何か見つけないとな。

  「そろそろ帰るわ」

  「そうそう、ミスティ。あたしはたまに奴隷の格好して街を徘徊してるんだけどあんたを探してる奴がいたわよ」

  「私を?」

  仲間だろうか?

  キャピタル・ウェイストランドから追って来たのかな、グリン・フィス達が。

  シーはニヤニヤしてる。

  なんだぁ?

  「気を付けた方がいいわよ、ミスティ」

  「気を付ける?」

  「あいつはハートを撃ち抜くのが得意なの。惚れちゃわない事だねー。命取りになるよ、色々な意味で」

  「はっ?」

  「あの男、女垂らしだから気を付けてねー」

  「はあ、まあ、その、ありがとう」

  意味分からん。

  だけどシーはその人物を知っているらしい。

  命取り、ね。

  強化型32口径ピストルはいつも懐に忍ばせてある。もちろんどんなに強化しても44マグナム二丁には攻撃力で遠く及ばないけど、どんなタイプの

  銃であれ手元にある限りは人を殺すのは容易だ。銃がないと心許ないしね。

  まあいい。

  忠告は受けた、後は私がそれを活かすだけだ。

  どのような展開であれ私が何とかする。

  対処法はそれだけだ。

  さて。

  「じゃあ、帰るわね」

  「また飯作りに来てくれよな、ミスティ」

  「ばいびー☆」

 

 

 

  コツ。コツ。コツ。

  スチールヤードを私は静かに歩く。トロッグは見当たらない。この間スマイリー達が掃除したしね。

  暇だし放棄された製鉄所に行ってみようかな。

  この強化型32口径ピストルの持ち主を射殺した連中が徘徊しているらしい。

  この間この近辺にいたレイダーどもは『ワイルドマン』とか言ってたな。

  ワイルドマンって何?

  街に戻ったらミディアに聞いてみるとしよう。

  「やあ」

  「ん?」

  奴隷の服を着た男性が手を振った。

  鉄のインゴット集めに送り込まれた奴隷かな。……いや、待てよ……?

  確かこいつは……。

  「お嬢さん、君もインゴット集めかい?」

  「ええ」

  「私もだよ。人使いの荒い街だね、まったく」

  「そうね」

  金髪の男性。

  美しい。

  美し過ぎる。……なるほど。ミディアの言い分も分かる気がする。街の外の人間はすぐに分かる。この街特有の病気に感染していないからだ。

  肌が綺麗過ぎる。

  つまりこの男、奴隷の服を着ていても奴隷ではあるまい。

  奴隷の新入り?

  それもないわね。理由は2つある。

  1つは奴隷にしては痛めつけられた様子がないからだ。パラダイスフォールズに強制連行されたパッと身で形跡が見当たらない。

  1つはこの男を私は知っている。

  これは決定的だ。

  こいつは……。

  「デリンジャーのジョンっ!」

  「久し振りですね、お嬢さん」

  バッ。

  瞬時に私は動く。

  強化型32口径ピストルを抜き放ち相手の額に照準を合わせた。

  その動作数秒。

  「……」

  「……」

  お互いに沈黙したまま動きを止める。

  私の銃は相手の額に狙いを付けているものの、相手は私の右胸と左足に狙いを定めていた。二丁のデリンジャーだ。こいつの抜きは速いっ!

  だけど引き金は引けるのだろうか?

  こいつが臆してるとかではなく。

  確か安全装置がない関係上デリンジャーの引き金は滅茶苦茶重いと聞いた事がある。

  引き金は引けるのかな?

  ……。

  ……まあ、引けるのだろう、多分ね。

  ここでハッタリや構えだけしても私に撃つ意思があればまるで意味がない。引き金を引けるからこそ相手はしているのだろう。

  私は溜息交じりに呟く。

  「相打ちしてみる?」

  「遠慮します」

  「その真意は?」

  「ここで死ねば報酬受け取れませんので」

  「何しに来た、殺し屋」

  「この状態を見れば分かるでしょう? ……まさかナンパだけしに奴隷の格好をしてこの街に入り込んだ酔狂に見えるんですか?」

  「見える」

  「これは心外。女性を愛しく思うのは確かに私の信条ではありますがそこまで酔狂モノではないですよ」

  「どうだかね」

  「信じてくださいよぉ」

  「私を殺しに来たってわけね。誰に頼まれた?」

  「お心当たりは?」

  「あり過ぎて分からない」

  「敵対する組織を思い浮かべてください。その中の1つですよ。だけど答える義理はない。信用商売ですので。冥土の土産でも教えるつもりはないですよ」

  「ふぅん」

  食えない奴だ。

  ここはスチールヤード。撃ち合ったところで誰も止める者はいないだろう。この間シーとスマイリーがトロッグを掃除したから静かなものだ。

  邪魔する存在は何もない。

  何も。

  「どうする? 撃ってみる?」

  「そうですね。胸は女性の神秘。撃つのは忍びない。……だけど足を撃ち抜くぐらいはしてもいいかもしれませんね」

  「次の瞬間にあんたの頭を撃ち抜くけどね」

  「それはどうでしょうね。足をやられればいくらあなたでも体勢が崩れる、このデリンジャーは2連発。装填の必要はないんです。私の手にある

  のは二丁ですしね。よろけた瞬間にお嬢さんの頭を逆に撃ち抜けるかもしれません。試します?」

  「胸は狙わないわけ?」

  「ええ」

  「エロ」

  「失敬な。女性の象徴を賛美しているからこそです」

  「甘いなぁ」

  「そうですか?」

  「私は男性の象徴をなんとも思ってないわ」

 

  チィィィィィィィィィィィンっ!

 

  「はぅーっ!」

  力一杯蹴り上げるとデリンジャーのジョンは妙な声を上げた。

  どこ蹴ったかって?

  まあ、ナニです。

  ほほほ☆

 

  ばぁんっ!

 

  次の瞬間、私も体勢を崩す。こいつ本気で足を撃ち抜きやがったっ!

  いくら私でもここまで至近距離だと回避のしようがない。

  くそっ!

  お返しとばかりに強化型32口径ピストルを発砲。

  私は私で痛みで狙いが甘いしデリンジャーも急所をやられて狙いが甘い。……そんなに痛いのかな。私には分からん。そもそもモノがないし。

  お互いに弾丸の応酬をしつつ後退。

  「やめにしましょう」

  「やめに?」

  「今回は引き分けですね、それではまたお会いしましょう、お嬢さん」

  「ええ。機会があればね」

  そのまま相手は逃げ去る。

  別に余裕があるから逃がした、というわけではない。私は足を撃ち抜かれて手一杯だし相手は相手で股間を思いっきり蹴り上げられてかなり痛い

  のだろう、お互いに戦闘どころではない。今回は痛み分けって事にしとくかな。

  あいつが誰に雇われたのか。

  それはどうでもいい。

  挑まれれば、狙われれば返り討ちにするだけだ。その上で依頼主を聞けばいい。

  それでいい。

  もちろん聞かずとも問題はないですけどね。

  敵対組織とはいずれ全てと決着を付ける。差し向けられた殺し屋はそういう意味では小事。

  次は殺す。

  情報源として使えなくても別に構わない。

  それにしても……。

  「くっそーっ!」

  出血が激しい。

  ノラに貰ったスティムパックを投与する。これで傷は治るだろう。

  だけど本気で撃つとはね。

  口だけじゃないか。気を付けないといけない。

  奴はクールでドライ。

  なるほど。

  殺し屋としては理想的な正確かもしれない。今までの敵と比べると遥かにレベルが高いだろう。

  特に何が怖いかっていうと身の程を理解しているところだ。

  やりづらいなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ビッグタウンでちょい登場のデリンジャーのジョン、ピットにミスティ追撃(=゚ω゚)ノ
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