私は天使なんかじゃない   作:月詠ウサギ

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父親

  人とは1人では存在できない。

  どんな人間でも必ず父親と母親がいなくては存在する事すら出来ない。

 

 

 

 

 

  「よっと」

  むくりと私は起き上がる。

  宛がわれた客室。

  お風呂入ってベッドに入って熟睡……してたけど私は深夜に起き上がる。

  何故?

  内偵っす。

  ここまで来た以上、この街の行く末に関るべきだろう。

  神様の啓示なのだ、これが。

  ……。

  ……多分ねー。

  まあ、神様関係ないにしてもここまで関った以上は結末を紡ぎたい。私なりの、私としての行動の結末を。正直な話ワーナーは信じれない

  けどアッシャーもまた信じれない。正確には信じるだけの付き合いもなければ情報もない。

  付き合いは時間が掛かる。

  だから情報から始めるとしよう。

  ダウンタウンで何かあったらしくアッシャーは今日は戻らないらしい。

  実に好都合。

  腰に44マグナム二丁だけを差して私は部屋を出る。

  インフィルトレイターとライリーレンジャーのコンバットアーマーは身に付けない。屋敷を護衛しているレイダー……いや、兵士に誤解を与えか

  ねないからだ。完全武装で徘徊するとなると怪しい。マグナムだけなら特に問題はないだろう。

  この時代、この程度の武装なら普段着のようなものだからだ。

  私は部屋を出る。

  忍び足?

  いいえ。普通に歩く。

  廊下で兵士に何度か接触するものの私は自然体で通り過ぎる。

  屋敷は自由に動いていいと言われている以上、不必要に挙動不審だと逆に怪しい。堂々としてればいいのだ、堂々とね。

  あー、だけど研究室には近付くなと言われたな。

  まあいい。

  特に研究室に用はない。

  治療法?

  別に興味ないし。

  まだ確立されていないようだし治療薬の情報だけなら急いで入手する必要もない。薬の現物があるなら……うーん、まあ、まだワーナーに付くと

  決めたわけでもないし薬の有無はどうでもいいかな、うん。

  アッシャーの執務室に到着。

  「……」

  アッシャーはいない。

  室内は無人。

  この部屋の主がいないからか扉の外には護衛もいなかった。もしかしたら外出する際に護衛の兵士も連れてったのかな?

  そーっと私は部屋に入る。

  誰もいない。

  だけど監視カメラが作動している。それに機銃型のタレットもある。

  侵入した証拠は残したくない。

  ピッ。

  PIPBOY3000を起動させる。

  監視カメラ、タレットの死角を測定する。

  ふぅん。

  こう動けば……それでここを歩いて、えーっと……はい、ここでジャンプっ!

  死角を進んでセキュリティ突破。

  「ふぅ」

  意外に簡単ね、この屋敷のセキュリティ。

  もちろん幸運もある。

  奴隷王アッシャーの不在だ。

  ダウンタウンに向かう際に屋敷の護衛の一部も同行させているのだろう。だからこそセキュリティが甘いのだ。

  進む。

  進む。

  進む。

  執務室の先はプライベートルームだった。

  アッシャーとサンドラの部屋。

  キングサイズのベッドには枕が2つ。

  ……。

  ……毎夜毎夜、大人な展開が繰り広げられてるんだろうなー……。

  もちろん今はアッシャーはいない。

  サンドラもいない。

  サンドラ、ここにいないとすると研究室なのかな?

  研究熱心な事です。

  「おっ」

  コンピューターがある。

  コンピューターは情報の宝庫だ。

  周囲を見る。

  誰もいない。天井も見てみるけど監視カメラはここにはない。コンピューターと向かい合う。起動させた。

  カチャカチャカチャ。

  キーボードを叩く。

  「ちっ」

  アクセスできない。

  パスワードが必要か。だけどハッキングは私の得意分野だ。

  ピッ。

  PIPBOY3000を起動させてパソコンと無線通信でリンクさせる。現在ハッキング中。PIPBOYに英数字の羅列がズラズラとスクロールされていく。

  そしてその羅列が止まる。最後に出てきた文字をパソコンに入力。

  パスワード照合完了。

  これでパソコンの中身が見れる。

  「私ってば完璧☆」

  まさに天才です。

  ほほほ☆

  さて、パソコンの中身の中で調べたいのはアッシャーの人となり。指令の類からも人となりが判別できる。

  どういう人間か分からないと判断のしようがない。

  その結果次第でどちらに付くかを決めるとしよう。もしくは新しい道も考慮しないといけないしね。つまり、それはどちらにも付かず私が何らかの

  アクションをするって事だ。それはそれで選択肢の1つだと私は思う。

  さて。

  「これでもない、これでもない、これも……うーん、そうじゃない」

  ファイルの中には特に気になる内容はない。

  報告の類や軍のローテンション、武器の生産の進展具合とかだ。特に気になる内容はない。

  あっ。

  監視カメラと機銃型タレットの項目がある。

  良い事を思いついた。

  私のPIPBOY3000からでも遠隔操作出来るようにこのプログラムをダウンロードする。

  よしっ!

  これで万が一の際には有利に立てる。

  もしもワーナー側に付き、アッシャーを殺す際には機銃型タレットで簡単に暗殺出来る。まあ、そんな物騒な使い方をするとは思わないけど、いずれ

  にしてもこれで万が一の際には監視カメラも機銃型タレットも私の意志で沈黙させる事が出来る。

  これはこれで収穫だろう。

  他に何かないかな?

  カチャカチャカチャ。

  キーボードを叩いてファイルの中を漁る。

  「ふぅん」

  この街の構造を示すデータがあった。

  現在は使用されていないもののアップタウン、ダウンタウン、スチールヤードは下水道で繋がっているらしい。下水道内部にかなりの電力が消費

  されている。おそらくはトロッグ対策だろう。下水道を使っていないのもその為だと思う。

  トロッグの巣窟なのだ、きっと。

  他に何かないかな?

  「何だこれ?」

  マリーヘ。

  そう記されたファイルがあった。プロパティで調べると音声データだ。マリーって誰だ?

  そういえば晩餐の席でもその名を聞いたな。

  うーん。

  2人の子供かな?

  晩餐での会話から察するに子供なのだろう、多分。

  人となりを知るには最適かもしれない。

  音量を下げる。

  さすがに大音量で聞くと誰かが来る可能性があるからだ。ある意味で日記のような類なのだろうけど……人の日記を見るのは少し照れ臭い。

  まあ、結局見ますけどね。

  音声ファイル再生。

  奴隷王アッシャーの声がパソコンの中から流れてくる。

  その内容は……。

 

 

  『あー、あー、あー、んー、マイクテスト。……よし、始めよう』

  『聞こえるかな、マリー』

  『私はイスマイル・アッシャー。君のお父さんだ。ピットの王とも呼ばれたりする』

  『今から十年後、君が私の膝の上に乗って安心してこのメッセージを聞いているといいんだが。……1人で喋っている私はちょっと間抜けだな』

  『だが物事がいつも望んだ通りに進むとは限らない』

  『いつだってリスクはある』

  『例えば……こうして話しているところを母さんに見られたらまずい事になる。遺言みたいで縁起でもないってな』

  『このメッセージは万が一の為に残す。君に父親としてのメッセージを残す為のいわゆる保険だ。父さんも君と母さんと共に生きれればいいのだが』

  『しかし先の事など分からない。この街は荒れているから命を落とす可能性もある』

 

  『マリー』

  『最初に言っておくと私はいつもピットの王だったわけじゃあない』

  『かつては学者であり兵士だったのだ』

  『私は西海岸から来たBOSの部隊の一員だったのだ』

  『名前は聞いた事があっても、リオンズが率いた大部隊がこの街に何をしたかは知らんだろう。特に天罰の事はな』

  『当時、ここはトロッグやワイルドマンが蔓延る地獄のような場所だった』

  『我々は司令官の命令で街を焼き払い、略奪を行った』

  『ピットには様々な遺産が残っていたがこの放射能の色濃い地に残るのは自殺行為だった』

  『攻撃の際に爆発に巻き込まれた私は死亡として扱われた』

  『私は見捨てられたのだ』

  『まあ、誰だってそうするさ。ピットでは人間は誰も生き残れないと思われていたからな。リオンズ率いる部隊はキャピタル・ウェイストランドに去って行った』

  『誰も生きられない地獄の地。だがそれは誤りだった』

 

  『マリー』

  『工場でのアリーナの戦いの事は知っているかい?』

  『最初の戦いは私が瓦礫の山から引っ張り出されて目覚めた時だった』

  『BOSの仲間が助けてくれた、最初はそう思ったが私を瓦礫から引き摺り出したその女は私のアーマーを盗もうとしていた。結局盗めなかったがね』

  『彼女の家族は全員スカベンジャーだと分かった』

  『工場で作られた武器を狙って街を訪れたのだ』

  『それで私は閃いた。稼動可能な工場を見たのはこの時が初めてだった。瓦礫の山の街にとってそれは再建を意味する』

  『どんな犠牲をも払う価値があった』

  『スカベンジャー達に神だと思われた私はBOSでの経験を活かしてその者達を組織化してこの街での基盤を固めた』

  『やがて街の再建が始まった』

 

  『新しい街は噂が噂を呼んでグングンと成長していった』

  『ある時レイダーの襲撃を受けると私はリーダーを殺して残りのレイダーを傘下に入れた。仕方がなかったのだ。病気の所為で街には子供が生まれない』

  『外から人を招かなければ街は成長できなかった。街が大きくなると工場が人手不足になったからな』

  『こうなると定期的に労働者を外から受け入れるしかない』

  『酷い話だと思うだろうがそうしなければ街では物資や武器が生産できなくなる』

  『だがこの街を蝕むミュータント化を阻止できれば、そういったその場凌ぎの対策など必要なくなる。街は街として正常に運営される』

  『サンドラと私は昼も夜も研究に没頭した』

  『そしてある日の夜遅く、我々は治療法を発見した』

 

  『マリー』

  『今も研究は続いている』

  『どうすればこの街は君のその神の恩恵に与れるのか』

  『もちろん君の安全が第一だがね』

  『だから成長してこのメッセージを聞いている君はもう救世主になっていると思う』

  『おめでとうマリー。君はこの街を救い、この街に生きる全ての者達の命を救ったのだ。父さんは君がとても誇らしいよ』

 

 

  「良いお父さんじゃん」

  そう思う。

  ある意味で私のパパと通じるところがあるのかもしれない。

  だけど……。

  「これ卑怯じゃん」

  娘への愛に満ちた音声データ。

  卑怯です。

  これ聞いちゃったらワーナー路線にならないじゃん、アッシャー路線に決定じゃん。

  まあ、決定は公平にしますけどね。

  どっちに付くか。

  それはこの街を左右する……かもしれない決定だ。私が街の状況を左右するだけの存在なのかは微妙ですけどね。

  とりあえず奴隷王の能力を分析してみよう。

  私が思うにアッシャーのこの街に対する圧政はともかくとして、それはさほど誤りではないと思う。奴隷売買が正しいとは言わないし肯定もしな

  いけど街の再建は彼だからこそ出来たものだろう。奴隷売買は、まあ、私は異邦人なのでこういう視点でしか見れない。

  どうしてもミディアの視点では見れない。

  そこは仕方ないだろう。

  それにしても神の恩恵って何?

  マリーってどんな子?

  いずれにしてもアッシャーは父親としては百点満点だろう。パパ大好きっ子の私としては子煩悩なアッシャーには好感を感じる。

  今日はこの程度でいいかな。

  答えは急ぐ必要はない。

  少なくとも1日でどっちに付くかを決めるのは軽率だろう。

  判断材料がもう少し欲しい。

  ワーナーとミディアの動向ももう少し知りたい。明日はダウンタウンに戻って探るとしよう。

  さて。

  「ふわぁぁぁぁっ。寝ようかなー」

  本格的に寝よう。

  夜更かしは美容に悪いしね。

  おやすみー☆

 

 

 

 

 

 

 

 

  その頃。

  アッシャーの屋敷。研究室。

 

  「あらクレンショー、うちの人と一緒じゃなかったの?」

  「自分はアップタウンの守備をしてました。アッシャー様はまだダウンタウンです。……それで、サンドラ様、実は問題が置きました」

  「問題? うちの人が暴れてるの?」

  「その……」

  「なぁに?」

  「下水道の電力がダウンしていました」

  「えっ?」

  サンドラは硬直する。

  少し蒼褪めている。

  震える口から言葉をなんとか紡ぎ出した。

  「いつからなの?」

  「五時間前からです。原因は不明ですが……その、アップタウンにトロッグが一匹徘徊していたので……その、調べた結果、電力がダウンしていました」

  「五時間……それだけあれば連中は既に気付いているわっ! きっかけがあれば街に這い出してくるっ!」

  「守備隊を集結させています、直ちに討伐をさせようと……」

  その時、屋敷の電力が落ちた。

  アップタウンの明かりが全て消失した。

  そして……。

 

 

 

 

 

  同時刻。

  屋敷内の電力を制御するブレーカーの前。

 

  「およ? 何で街の電気まで落ちるわけ? ……まあ、いいか。お宝ゲットだぜー☆」

  屋敷内に潜入していたトレジャーハンタ




ちょこっと説明。
FEV。
とりあえずこの単語はまだ出てないですが、フォールアウトの世界のミュータント化は大体これの所為。強制進化ウィルスで、ボルト等で隔離された出身以外は全員が感染している。影響は大なり小なりの差異があるが全員ミュータントで、戦前の人間とは別人類。アマタやブッチは旧人類で、監督官が純血にこだわっていたのはこの為(=゚ω゚)ノ
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