私は天使なんかじゃない   作:月詠ウサギ

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結末の行方

 

  全てに結末は訪れる。

  永遠に続くものなど存在しない。この展開の結末はどう紡がれるのか。

  私はそれを見届けよう。

 

  当事者として。

 

 

 

 

 

  スチールヤード。

  貨物車両や発電施設、放棄された製鉄所。場所としては一等地ではあるものの現在は放棄されている。

  理由?

  私は異邦人なのでアッシャーの思惑も政策も分からない。

  何故ここは手付かずなのかが分からない。

  もしかしたらトロッグの巣窟だからかな。つまりここは放射能が色濃いのだろう。少なくともアッシャーがこの街に君臨した際にはそうだったのだ。

  だから手を出していない。

  正確には分からないけどね。ただ手が回らないだけかもしれない。

  まあいい。

  コツ。コツ。コツ。

  私は鉄で出来た屋外階段を上る。

  ここは製鉄所かな?

  ともかく。

  ともかく屋外階段を上る。

  ミディアの情報通りならワーナーはここにいる。私の仲間は引き連れていない。アカハナ達は引き連れていない。

  私の作戦に反対した、ではない。

  彼は賛成した。

  その直後に私は彼を銃底で殴って気絶させた。あくまでアカハナは『誘拐を阻止しようとして返り討ちにあった』という形にしたかった。だって彼はあくま

  でピットの、そしてアッシャーの戦士だ。この件が片付いたらキャピタル・ウェイストランドに戻るしね。

  わざわざ私の暴走に付き合わせる必要はない。

  アカハナ達にはアカハナ達の人生と生活がここではあるわけだし、あまり巻き込みたくはなかった。

  コツ。コツ。コツ。

  私は屋外階段を上る。

  そして……。

 

 

 

  室内は薄暗かった。

  わずかな照明が広い部屋を照らしているものの充分とは言えない。薄暗い。

  眼が慣れてくるとここは何かの機械の基部が置かれている場所だと気付いた。そこに十数名の人間がいた。正確には分からないけど結構いる。

  奴隷王アッシャーの元手下?

  革命家ワーナーがどこからか掻き集めてきた連中?

  少なくとも奴隷には見えない。

  何者だろ?

  ……。

  ……まあいいか。

  私がすべき事はこの場にいる者の排除。その為の誘拐であり、誘拐はその為の手段だ。

  相手を油断させる。

  誘拐はその為。

  バタン。

  施設に入り扉を閉じると光はさらに遮られてモノが見え辛くなる。

  だがそれは相手にも適用される。

  そう不利ではあるまい。

  この場にいる誰かが口を開くと声が反響した。

 

  「おお、ジェリコ。ついにやったかっ! 商談の準備は整ってるぞっ! 早速取り引きに移りたいから赤ん坊を……」

 

  ワーナーだ。

  ワーナーの声だ。

  だがその声に答える者はいない。私が口に布を入れて声を封じているからだ。

  誘拐した相手は傭兵ジェリコ。

  いくら偽装誘拐とはいえまさかマリーを連れて行くわけにはいかない。勝手に拘束されているジェリコを連れ出したのだから、まあ、誘拐の類だろう。

  相手からの返答がないのでワーナーは怪訝そうに言葉を続ける。

  薄暗いからジェリコの口に詰め込まれた布切れがワーナーには見えていないのだろう。

  実に好都合。

 

  「うん? お、おい、取り引きの道具はどうした? 落としたのか? 餓鬼は、餓鬼はどこだっ!」

 

  「取り引きね。それってどういう意味か教えて欲しいわね、Mrワーナー」

  「貴様は……っ!」

  私は不敵に笑って見せる。

  それに対して形相が憤怒に一変したのはワーナーだ。

  取り引きって何?

  ここにいる妙な連中はレイダーではないだろうしね。恰好が洒落ている。少なくともレイダーよりは一等上の装備だ。

  「邪魔は入らないわ、ワーナー。さあ、商談に移りましょうか」

  「赤毛っ!」

  ガン。

  私はその叫びを無視して眼前に立つジェリコの右足を後ろから蹴る。たまらずその場に膝を付くジェリコの後頭部に一撃を食らわせた。

  パタリ。

  ジェリコ、汚い床にキス。

  「ゆっくり話しましょうか、ワーナー」

  「なるほどな。裏切ったわけかよ、赤毛の冒険者」

  彼はゆったりとした口調に戻る。

  ふぅん。

  まだ余裕があるわけか。

  まあ、それはそうよね。あくまでこの場にいるのは私一人でありワーナーはたくさんお友達を引率している。

  どちらが有利かは一目瞭然。

  少なくとも現在の状況を考慮した場合わね。不特定多数の要素が関わる場合もあるわけだから絶対とは言えないけどさ。

  ワーナーは策士。

  だからこそ知るべきだ。策謀を練るのは自分だけではないという事を。

  私は私で策がある。

  相手にも策があるように私にも策があるわけだよワーナー君。

  どちらの皮算用が上かな?

  ふふふ。

  銃火器を構える手下どもを手で制するワーナー。

  会話を楽しむらしい。

  どう転んでも私が無残に射殺されるのをワーナーは予測しているのだろう。だからこそ会話を楽しむつもりらしい。残忍な笑みを彼は浮かべた。

  私も微笑み返す。

  それから肩を竦めた。

  「治療法が赤ん坊、ね。……悪いけどそんな話は何も聞いてないわよ。私が聞きそびれただけかしら? それとも私が忘れてるだけ?」

  「ふん」

  いつでもどこでもユーモアを忘れない女でいたい、それが私のモットーです。

  命知らず?

  いえいえ。

  ユーモアを漂わせる事で交渉や展開を有利に運ぶ事が出来る。もちろんシリアスとの使い分けは大切だけどね。

  まだ私は武器を手にしていない。

  44マグナム二丁、インフィルトレイターも構えていない。

  ワーナーもまた私と同じだ。

  彼も武器を構えていない。奇遇な事に彼の武器も44マグナムだった。こいつは一丁だけどね。ただ私と異なるのは手下を後ろに侍らせている点だ。

  それが彼を余裕にさせている。

  それが彼を饒舌にさせている。

  ふぅん。

  この程度の策士か。

  現状に満足しているようでは先がありませんよ、ワーナー君。

  さて。

  「赤ん坊の誘拐に加担は出来ないわ」

  「この場所を知ってるって事はミディアは拘束されたんだな? ……役に立たん女だ」

  「役に立たないあんたが上司だから仕方ないわ」

  「一人でここに来たって事は、憶測だがアッシャーに信用されてないってわけだな? ジェリコは捕虜だったが俺達を油断させる為に連れてきたってノリか?」

  「まあ、そんな感じ」

  「お前アッシャーが許すと思ってるのかよ? あいつに『ジェリコを無断で連れ出しちゃいました。てへ☆』とでも言うつもりかよ?」

  「要はあんたさえ始末すればいいのよ。それで全てが片付く」

  「何故俺達に付かなかった?」

  「私の思想とは合わなかった。それだけの事よ」

  「とんだ甘ちゃんだな。ここの悪党どもを懲らしめる為に、自分の手は汚したくないってか?」

  「さあね」

  「いいや、違うな。決断から逃げているだけさ。そうやってあのクズどもの残虐行為から目をつぶってるんだよ」

  「そうかしら?」

  決断から逃げてるとは私は思わない。

  積極的に関ってるだろ、この完璧に無関係な展開にわざわざ私から首を突っ込んであげてる。

  「はーん。読めたぞ」

  「ん?」

  「アッシャーの奴と手を組んで、奴のお役に立とうって腹か? ここで顔を売ってNO.2の座を射止めようと?」

  「興味ないわ、そんなの」

  「まっ、幸運を祈ってるよ。俺が手を下さずともお前ら2人はやがて殺し合いを始めるのがオチさ。……もっとも、その前にここでお前は死ぬんだがな」

  「殺されるつもりはないけど、どっちにしろアッシャーはあんたの計画を知ってる。先がないのはどっちかしらね?」

  「おいおい赤毛の冒険者、そりゃつまり自分以外の者は地獄に落ちてもいいってわけか? 奴隷はどうなる? ええ?」

  「はあ」

  溜息。

  断言してもいい。

  こいつの理屈はそもそもおかしい。自己犠牲を訴えるけど自分は代価を支払わない。代価を支払うのは他人だ。

  革命の代償は私であり奴隷。ワーナー自身は代価を支払わない。

  それでいて勝者の椅子に座ろうとしている。

  理屈としては正義ではなく偽善。

  ミディアも同じ路線にいる。

  そう考えるとワーナーとミディアは最終的に求める者は別としても似た者同士。

  そんな馴れ合いに私は付き合うつもりはない。

  「お前なら理解出来ると思ったんだがな。何かを変える為には、時にその手を汚す必要がある事をっ!」

  「ワーナー」

  「何だ?」

  「前から思ってた。ずっとね。私が手を汚さないんじゃないのよ、あんたは結局高見の見物をしてるだけ。いつだってそうよ、いつだってね」

  奴隷達は行動した。

  ミディアもだ。

  画策したのはワーナー。彼ら彼女らは自由の為と信じて動いていた。

  だけど。

  だけどっ!

  「ワーナー、あんたはいつだって高見の見物をしてただけよ。手を汚していないのはお前だけだ」

  「ふん。言いたいのはそれだけか? 下らんな、実に下らんっ!」

  「下らない?」

  「結局、ただの腰抜けか。決断するのが怖いか? 世界を変えるのがそんなに怖いのか?」

  「怖くはないわ。面倒なだけ」

  私は万能ではない。

  手に届く範囲外の事にまで手を出そうとは思ってないしそこまで思い上がってもない。今回のピットの一件はあくまでワーナーが私を拉致した事から始まってる。

  それでも。

  それでも私は私なりに踊ってやろうとはしてた。

  結果、今の展開だ。

  革命家ワーナーは信用出来ない。それが私の出した結末。

  彼は吼える。

  「お前も、奴も、この街もっ! みんな燃えちまえばいいっ! そうさ、全部厄介払いさっ!」

  「それが本音なわけ?」

  「赤毛の冒険者。お前分かってるのか?」

  「何を? あんたの末路? それは大丈夫。完全に予測出来てるし頭の中でイメージ出来てる。完璧」

  「茶化すなっ!」

  「こりゃ失礼」

  「お前の決断は、つまり死ぬまで奴らの道具にされるだけだぞ? ……間抜けな奴だっ!」

  「私は誰の道具にもならない。あんたにも、アッシャーにも指図させない。私は私のまま、あるがままに存在する。おっけぇ?」

  「殺せっ!」

 

  「ミスティいっくよーっ!」

 

  部屋に喚声を上げて飛び込んでくる女性。シーだ。打ち合わせ通りの展開だ。

  カっ!

  彼女が投げた閃光弾が光を放つ。

  その瞬間……。

 

  『ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!』

  

  革命家ワーナーと愉快な仲間達は全員叫ぶ。

  私は目を閉じていたしシーも自分の仕掛けた閃光で目を潰す馬鹿な事はしない。

  だけどこれを予測していなかったワーナー側は?

  全員目を潰されて動揺している。

  いやいや。

  動揺ではない。完全なる混乱。

  四方八方に彼らは銃をぶっ放す。視界が利かなくても銃弾は銃弾であり脅威。しかし私達は物陰に隠れて防弾の盾にする。

  弾は私達には届かない。

  視界に制限があるから向うは気の利いた攻撃は出来ない。そもそも私達が物陰に隠れている事にすら気付いていないのかもしれない。

  だけど私達の攻撃は当たる。

  面白いようにね。

  隠れながら銃だけ露出させて撃つ。向うは密集しているしそちら側に私の仲間はいない。銃弾が当たるのは確実に敵だけであり同士討ちの心配はない。

  撃つだけ。

  それだけで確実に相手の数は減っていく。

  「アンクル・サムからのお届けものよっ!」

  シーはそう叫び再び投げる。

  閃光弾?

  いえいえ。投げたのは炸裂するもの。

  それは……。

 

  ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!

 

  グレネードが炸裂する。

  こういう密閉空間では広範囲の殺傷能力を発揮する。実に効率的だ。

  炸裂した際に飛び散る破片が容赦なくワーナーの手下達にダメージを与えていく。

  相手の視界は戻りつつある。

  だけど一度光に目がやられてから再び暗闇に慣れるまで時間はかなり要するだろう。それに対して私の目は完全にこの薄暗さに慣れた。

  44マグナムを二丁連打。

  相手の位置は完全に見て取れる。

  全て。

  全て撃ち倒した。

  最後に残っているのはワーナーだけだ。

  もちろんわざと残した。

  彼はカチカチとトリガーを鳴らしながら私達に向けて引いているものの弾丸は既に尽きているようだ。

  「ここまでのようね。ワーナー」

  「くっ!」

  忌々しそうに舌打ちするワーナー。

  傍らで銃を構えているシーは口を開いた。彼女もまたワーナーに騙されてこの街に送り込まれた。私は拉致された。方法は異なれど立場は同じだろう。

  彼に対しての非難の言葉の1つは当然あるだろう。

  だけど発せられた言葉はそうではなかった。

  「ねぇ、ミスティ」

  「何?」

  「その眼帯男、誰? 敵なの? ワーナーの仲間? それでワーナーはどこにいるさ?」

  「はっ?」

 

 

  こいつは、ワーナーじゃない?

  どういう事なの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




偽ワーナーの思惑とは?的な感じで次回に続く(=゚ω゚)ノ
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