私は天使なんかじゃない   作:月詠ウサギ

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決戦の時

 

  決戦の火端が切られたのであれば駆け抜けるまで。

  議論や妥協の時は終わった。

  さあ決戦だっ!

 

 

 

 

 

  激突が始まった。

  階下からはアッシャーの軍団(アッシャー自身が指揮しているから不明)、建物の上層からは奴隷商人が応戦している。

  銃弾と銃弾の交換。

  まず当たらない。

  お互いに距離を保ち過ぎてるから当たらない。

  まあ、強いて言うなら奴隷商人に分があるだろう。上から撃つ方が、見上げて撃つよりはわずかに有利だ。

  数の上ではアッシャー軍団が上。

  おそらく100近く動員している。動かせる兵力を全て投入したのだろう。それに対して奴隷商人は50いればいい方だ。ただしお互いに距離を取り過ぎてるから

  人数の差はさほど問題ではない。長引くわね、この戦い。

  それにしてもアッシャー、出せる兵力をほぼ全て出してきたわね。

  私は捕虜のジェリコを無断で連れ出した、アッシャーはその追撃の為にスチールヤードに兵力を回すとは思ってたけどここまで出してくるとはね。

  どうやら最終的には折れたらしい。

  私はスチールヤード出兵を提案した、彼は拒んだ、短期決戦に持ち込むべく私はアッシャーを挑発した。ジェリコを無断で連れ出す事でね。

  私に対する追撃にしては規模がでか過ぎる。

  反乱軍潰すべく出張ってきたのだろう。

  ……。

  ……多分ね。

  まあ、そうじゃないにしても別にいいわ。私にはアッシャーの軍団が騎兵隊に見える。悪者軍団を倒す正義の騎兵隊だ。

  少しばかり柄が悪い騎兵隊だけどね。

  ともかく。

  ともかく、これで部隊同士の戦いは連中に向かせられる。

  アッシャー軍団と奴隷商人の部隊の激突。

  わざわざパラダイス・フォールズの連中の背後を衝くとか面倒な事をしない。一気に上層に駆け上ってクローバー達を一網打尽にする事が先決だ。

  誰がトップかは分からない。

  クローバーかもしれないけど、もしかしたらもっと上の奴がいるかもしれない。

  ここでの一戦で邪魔な組織が1つ潰せるかもしれない。

  少なくともパラダイス・フォールズの戦力の大半をここで叩き潰せる確実だろう。一気に片をつけてやるっ!

 

 

 

  カンカンカンっ!

  私は鉄製の屋外階段を駆け上る。シーは先ほどの場所に残った。奴隷商人が崩れて後退した際に待ち伏せるのが役目だ。

  私は上で戦ってる間に下で戦ってた奴隷商人が戻って来ても困るしね。

  後方の備えってやつだ。

  まあ、シーの楽する為の方便かもしれないけど。

  その可能性もあるなぁ。

  カンカンカンっ!

  走る。

  走る。

  走るっ!

  もちろんまるで障害がないわけではない。

  思い出したかのように上から迎撃の為に降りてくる奴隷商人もいる。

  ただ、私と接触する前に哀れな連中は死骸となって転げ落ちる。

  スマイリーの狙撃だ。

  良い腕だ。

  クリスのスナイプ能力と良い勝負が出来るだろう。

  ……。

  ……あいつらとうとうピットの戦いに関与しなかったなぁ。

  まあ、いいけど。

  いずれにしても邪魔な敵さんはスマイリーの狙撃で瞬く間に撃ち抜かれる。実に素敵な道標だ。

  この調子で目障りな敵を蹴散らしてくださいな。

  そのお礼?

  私がご飯作ってあげるって約束した。

  さて。

 

  ドカアアアアアアアアアアンっ!

 

  「つっ!」

  この巨大な建物が揺れた。動揺の声が下からも響いてくる。

  アッシャー軍団&パラダイス・フォールズ部隊の双方からだ。つまり今の爆音はどちらの攻撃でもないわけだ。

  ミサイルランチャーでも叩き込んだのだろう。

  スマイリーめぇっ!

  私まで殺す気かよっ!

  まあ、まったくデタラメな場所に直撃しての爆発だからいいけどさ。双方の勢力に被害はなし。ただ建物に対する攻→パラダイス・フォールズに対しての攻撃

  とも取れるわけで、当の本人達は今の攻撃に恐怖し、士気が低下しているはず。そういう意味では効率的ではあったかもしれない。

  この戦い、結構簡単に終わるかも。

  スマイリーの方を見る。

  インフィルトレイターには倍率スコープが付いているからよく見える。

  「ん?」

  あれれ。

  スマイリーはスナイパーライフルを手にしているだけだ。ミサイルランチャーはどこにもない。

  だとしたら誰が撃ったんだ?

  周囲を索敵してみる。

  「げっ!」

  スコープに微笑した金髪野郎がいた。

  デリンジャーのジョンだっ!

  ミサイルランチャーを手にしていた。あんの野郎、キャピタル・ウェイストランドに帰ったんじゃなかったのかーっ!

  冷やかし程度なのだろう。

  決戦に対しての冷やかしとしてここまで来たのだろう。

  本気で私を吹っ飛ばすつもりならわざと外す必要などなかったわけだからね。

  彼はミサイルランチャーを捨ててゆったりとした足取りで去って行った。

  最後に華麗に一礼してね。

  腹立つ奴だ。

  あそこまで気障だとある意味で敬服に値するのかもしれないけどさ。

  それにしても『デリンジャーのジョン』という異名ならデリンジャーしか使うなよ。誇大広告だ。訴えてやるっ!

 

  「ぎゃっ!」

 

  悲鳴が響いた。

  それと同時に階段をずり落ちていく物体。奴隷商人の1人だ。これはスマイリーの狙撃だろう。ナイスっ!

  「ふぅ」

  デリンジャーのジョンとの因縁は、とりあえず置いておこう。

  私は別に因縁深めるつもりはないけどさ。

  奴との決着の場所はピットではない。

  「ウェイストランドで付けましょう」

  静かに私は宣言して上層に向かう。

  カンカンカンっ!

  屋外階段を駆け上る。

  クローバーやクリムゾン、ジャンダース・プランケットがこのまま撤退するのかは分からない。

  まあ、逃げる事はないだろう。

  連中はどこにも行けない。結局建物の下はアッシャーの軍団で固められてる。

  逃げ場はない。

  ……。

  ……まあ、空を飛べない限りはね。

  いずれにしてもこの決戦に逃げるという『空気読めない行動』はしないだろう。

  その根拠?

  空気読めたら逃げるなんて馬鹿しません。

  「待ってたぜ。決着は付けないとな」

  「よかった。空気読める奴で」

  ジャンダース・プランケット登場。会話をすっ飛ばして奴は喧嘩を売ってくる。

  上等っ!

  バッ。

  戦闘開始と同時にジャンダース・プランケットは私に何かを投げ付けた。

  44マグナムだ。

  どうやら弾丸の手持ちがないらしい。弾丸のない銃になど意味はないから、まあ、良い考えだ。

  私は回避する。

  そのわずかな間にジャンダース・プランケットは肉薄していた。

  咄嗟に右手で44マグナムを引き抜き、構える。

  バキっ!

  「くっ!」

  相手のパンチが私のコンバットアーマーに直撃。

  ライリーレンジャー仕様なので通常の代物よりも防御力は高い。打撃によるダメージはない。ただし衝撃はアーマーでは防げない。私はよろける。

  その間にさらに一撃、一撃、一撃っ!

  私の手から44マグナムが落ちた。

  そのまま屋外階段の外に転がり落ちる。つまり下層に落ちた。

  くそっ!

  「はっはぁーっ!」

  「ちっ」

  ジャンダース・プランケットはナックルを付けて私に連打を浴びせてくる。

  アーマーに集中的にね。

  顔は狙わない。

  何故?

  まあ、上段は回避されたら隙が出来る。しかし中段攻撃に限定すれば隙は遥かに少ない。何しろこの足場の悪さだ。

  屋外階段で戦ってる。しかもめちゃくちゃ高い。

  落ちたら確実に死ぬ。

  相手も大仰な攻撃をせずに的確に、確実に攻めてきてる。

  スマイリーの狙撃はここでは当てに出来ない。何故ならスマイリーがいる建物からはここは角度的に狙撃は適さない。

  「こんのぉーっ!」

  攻撃が来た瞬間に蹴りを入れる。相手の足にね。

  接近戦を挑んでくる以上、相手にも肉弾戦ならお返しが出来る。まあ、私の一撃なんて大した事ないだろうけど、それでもこの足場だ。わずかな小手先

  の攻撃でも油断すれば命取りになりかねない。さらに蹴り。相手は階段を駆け上る。

  私はもう1つの44マグナムを引き抜く。

  食らえっ!

  バッ。

  瞬間、ジャンダース・プランケットは大きく跳躍。こちらに向かってだ。

  ガンっ!

  息が出来なかった。

  奴の飛び蹴りが私の顔に決まる。

  くそぅっ!

  女の顔に蹴り入れやがったっ!

  ごろごろごろ。

  数段私は転げ落ちる。手摺りを掴んで転落を止める。ジャンダース・プランケットはさらに迫ってきていた。

  ふん。

  間合が遠いわーっ!

 

  ドン。ドン。ドン。

 

  44マグナムを三連発。

  転げ落ちながらも44マグナムを落とさなかったのは幸運だった。しかし頭を撃ったのか、いつものように狙いが定まらない。

  三連発、外れ。

  だけど銃を撃つ間合を手にした私とやり合うつもりはないのかジャンダース・プランケットは再び階段を駆け上る。

  逃げる?

  逃がすかっ!

  銃を構える。

  ……。

  ……ビンゴっ!

  相手の背中に狙いを定める。よーしよし、行くわよっ!

  ガンっ!

  突然頭に鈍痛が走る。

  後ろからだ。

  誰かが私を跳ね除けて階段を上っていく。

  奴隷商人?

  シーは何してんのっ!

 

  「ワーナー、待ってっ!」

 

  その声は、そしてその後姿はミディアだった。

  逃げたのかアップタウンから。

  もしくはアッシャーの温情でダウンタウンに戻されたのかは分からないけどこの場面に登場するとはっ!

  手には金属パイプ。

  あんなもんで頭殴りやがってっ!

  まあ、今はそれはいい。

  問題はミディアはあれをワーナーだと思ってる。

  まずいっ!

  私は叫んだ。

  「待ちなさいミディア、あれはワーナーじゃないっ!」

 

  「ワーナー、待ってっ! 私も外の世界に一緒に連れて行ってっ! お願いよ、こんな場所から連れ出してっ!」

 

  階段を駆け上るジャンダース・プランケットの背中にミディアは縋りついた。

  それと同時に強烈な彼女の首に叩き込まれた。

  「ミディアっ!」

  叫ぶものの私はその無意味さを知っている。

  首がありえない方向に曲がっていた。

  ミディアは好きじゃなかった。

  だけど。

  だけどこんな結末は望んでなかったっ!

  「殺すっ!」

  「やってみろ、赤毛っ!」

  ミディアの死体をこちらに投げるジャンダース・プランケット。脇に避けて死体を回避、ミディアの死体は階段を少し転がって、止まった。

  44マグナムを構える。

  再び相手は跳躍、今度は飛び蹴りではなく私を飛び越えて背後に降りる。

  度胸のある奴だ。

  空中で仕留めようと発砲したものの全て外れ。

  弾装は空だ。

  弾丸は持ってるけど装填させてもらえる時間はなさそうだ。インフィルトレイターを構えるにも距離が近過ぎる。

  背後から猛ラッシュが来る。

  背中が折れそうだ。

  回し蹴りでも食らえっ!

  「おおっと。じゃじゃ馬だなっ!」

  「くぁっ!」

  蹴りは受け止められて捻られる。

  折れてはないけど痛い。

  涙出た。

  何とか逃れないと。撃てないにしてもインフィルトレイターは良いバットになる。ジャンダース・プランケットの顔にそれが命中、奴は呻きながら下がった。

  いい気味だ。

  私は上がる、奴は痛みで数歩階段を下りる。

  これで間合が出来た。

  インフィルトレイターの照準を奴の胸に合わせる。

  チェックメイトだ。

  「ここまでね」

  「ああ。そうだな。そのようだぜ」

  「で? 奴隷商人とはどういう繋がり?」

  「繋がりなんかないさ」

  「じゃあ何故一緒に?」

  「あんたの噂は聞いてるぜ。レギュレーターなんだってな」

  「ええ。それが?」

  「俺はあんたらのブラックリストに載ってる超悪党さ。何度も刺客を返り討ちにして来た。ソノラに言っておいてくれよ。無駄だから送るなと。……ああ。無駄か」

  「そうね。ここであんた死ぬし」

  「死ぬのはてめぇだろ?」

  「さあ? どうだろ」

  「まあいいさ。刺客を返り討ちするのにも疲れてな。そんな時だ。奴隷商人どもが俺に上手い話を持って来たのはな」

  「それがワーナーに成りすます事?」

  「そうさ。ピットはレギュレーターの勢力範囲外だ。ここにいれば問題はない。ついでにこの街の支配者として君臨すれば贅沢三昧だ。もちろん支配権は奴隷

  商人どもにくれてやる。俺はそんなものには興味がない。欲しいのは贅沢な暮らし。それだけだ。俺は無欲な人間だからな」

  「大した無欲よね。奴隷商人どもの思惑は?」

  「そんなの知るか。俺の関与しない事さ」

  「そうね」

  「そうさ」

  「最後に聞くわ。本物のワーナーは?」

  「トロッグの腹の中は覗いたか?」

  バッ。

  今度は私は跳躍した。奴に向けてインフィルトレイターを連打しながら飛ぶ。目測では、当初の予定ではジャンダース・プランケットに飛び蹴りのつもりだったけ

  ど奴は笑いながら後ろに下がる。下りて来たところを殴り殺すつもりなのだろう。だけどここまでは私の予測通りだ。

  笑いながら後退りするジャンダース・プランケット。

  その笑いが凍りついた。

  ドサ。

  奴は転んだ。

  突然の事で奴はまったく状況を理解していないようだ。

  答えは実に簡単。

  ミディアの死体に躓いたのだ。後ろを見ずに動くからこうなる。

  ふふん。

  勝ち誇ってた絶頂から絶望へのフォーリングダウンのお気持ちはいかが?

  私はそれが見たかった。

  ごめんなさい。それなりに私は性格が悪いものでね。

  だって私は天使なんかじゃないもの。

  「ジャンダース・プランケットっ!」

  「ま、待てっ!」

  「レギュレーターとして断罪するっ!」

  「待ってくれっ!」

  「バイ」

  インフィルトレイターを掃射。

  立ち上がろうとしたジャンダース・プランケットはその銃弾の連打を全身で受けて後ろに吹っ飛ぶ。

  そしてそのまま階段を転がり落ち、途中で手摺りの外に、つまり階下に落下していく。

  銃で死ななくても落下で死ぬ。

  確実にね。

  奴とはここに来るまでに色々と策謀合戦したけど最後は私が勝った。

  私は微笑した。

  「頭脳戦で私に勝とうだなんて百億年早かったわね」

 

 

  ジャンダース・プランケット撃破っ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回決着・・・と思いきや二転三転(=゚ω゚)ノ
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