Devil of a child   作:神崎 真由

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第七話 溝

嶋田宅の調査から二週間が経ち、梅雨明けして夏の到来まで後少しという六月。

 

調査の後、真夜はナルからお茶いれを頼まれなくなり、それによって麻衣の機嫌は良くなり、ナルと真夜の溝は埋まらずにいた。

 

**********************

 

「麻衣、お茶」

 

ナルのオーダーに上機嫌で麻衣さんは用意をする。

 

ナルにお茶をいれなくなってからどれぐらい経っただろう。

 

仲直りの機会がない。

 

あったところで疑いが晴れない限り無理だろうし。

 

思わず溜息が出る。

 

「どうしたのー、真夜」

 

「あ、いえ、大丈夫です」

 

んー、と麻衣さんの気の抜けた返事が返ってきた。

 

ここ数日を見るに、ナルは自分の疑いについて他のSPRメンバーには話していないようだ。

 

ということはまだ、確信には至ってないということなのか。

 

でも、お茶の一件だけでも避けられてるのは分かる。

 

ナルの中では、疑いは限りなく黒に近い灰色で、真っ黒にするための証拠を見つけるまでは泳がそうってとこかな。

 

「入るよ、ナル」

 

盆にティーカップを乗せて麻衣さんが所長室に入った。

 

「どこ置いたらいい?」

 

麻衣さんの声が漏れ聞こえてくる。

 

普段ならありえない。

 

見たら、扉が少し開いていた。

 

盗み聞きなんて良くないと思いつつも聞き耳を立てる。

 

「ナル、真夜となんかあったの?」

 

「麻衣には関係ない」

 

「ナルの事に私が関係なくても、私と真夜は関係あるの!」

 

「だから?」

 

「ナルは最近一切真夜にお茶頼まないし、真夜はなんだか落ち込んでるみたい。これで何にもないっていう方が変だよ。喧嘩でもした?」

 

「麻衣は、僕が真夜にお茶を頼めば満足なのか」

 

「そう言うことじゃなくて!」

 

「要領を得ない話に付き合う暇はない、用が済んだのだから出ていけ」

 

ナルの冷たい物言いに麻衣さんは何も言えず、落ち込んで所長室から出てきた。

 

「ねえ、真夜」

 

いつもにない低いトーンの麻衣さんの声。

 

「はい」

 

「ナルと何かあった?」

 

そう来たか。

 

「何か、とは?」

 

こうでも言ってはぐらかすしかなかった。

 

「うーん、喧嘩とか?」

 

「そんなことしませんよ」

 

微笑みながら言えた。

 

「でも……」

 

「季節の変わり目でナルも少し機嫌が悪いのかもしれません。時が経てば、またいつも通りに戻りますよ、きっと」

 

「そうだよね、うん」

 

なんとか麻衣さんは納得してくれたようだ。

 

いつも通り…………そんな日来るのだろうか。

 

私が、私さえ居なくなればいつも通りに戻るだろうな。

 

 

 

突然オフィスの扉が開いた。

 

来客かと身構えたらぼーさんと綾子さんだった。

 

「来たぞー麻衣」

 

「ケーキ持ってきたわよ」

 

綾子さんの手には、某有名ケーキ店の箱があった。

 

「ありがとう~綾子!」

 

麻衣さんが破顔する。

 

「ちゃんとあんたの分もあるわよ、真夜」

 

「ありがとうございますっ」

 

三人の輪に入れずにいた私を自然に入れてくれる、綾子さんには本当に頭が上がらない。

 

「俺、アイスコーヒー」

 

「私は、アイスティー」

 

ラジャーと言って麻衣さんが立ち上がる。

 

「私も手伝います」

 

「ありがと」

 

二人で給湯室にいく。

 

 

各自の飲み物が行き渡り、さてケーキを食べようとした時、所長室の扉が開いた。

 

「ナル坊、邪魔してるぞー」

 

「麻衣、お茶」

 

ナルはぼーさんを華麗にスルーして麻衣さんに言う。

 

麻衣さんは一瞬顔を曇らせたが、了解と言って再び給湯室へ。

 

そんなのを見逃すはずもない綾子さんが、私を視線で貫く。

 

目を合わすことはできなかった。

 

余計に疑いを持たれるとは分かっていたけど。

 

所長室にお茶を運んで戻ってきた麻衣さんはいつも通りで、何も言われなかったようで安心する。

 

「ねえ、麻衣。ナルと何かあった?」

 

「へ?私?」

 

麻衣さんがキョトンとした顔になる。

 

「それに、真夜も。あんた何か知ってるでしょ」

 

知ってるも何も私が原因ですから……ねぇ。

 

「二人共、私に隠し事なんて十年早いわ。ケーキ食べる前に洗いざらい話なさい」

 

仕方ないと腹をくくった麻衣さんがまず、今日のことを話した。

 

「ふーん、なるほどね。今度は真夜の番よ」

 

「はぁ……」

 

言うしかないようだ、事実を伝えるわけにはいかないけど。

 

「最近お茶いれてないなとは思ってましたけど、喧嘩とかはしてませんし、単に麻衣さんのお茶が飲みたい気分なのだと思ってました」

 

「じゃあ、麻衣が言ってた真夜が落ち込んでるってのは?」

 

「自覚はありませんでしたが、季節の変わり目ですし疲れでも溜まってたんでしょうか」

 

嘘ばっかり。

 

自分が嫌になっていく。

 

綾子さんはまだ疑いの目を私に向けていた。

 

「もー綾子!私の勘違いだったんだよ、きっと。もういいじゃん、ケーキ食べようよ」

 

「まあ、そういうことにしといてあげるわ」

 

麻衣さんの発言に綾子さんが渋々と納得する。

 

幸せな時間が崩壊するのは時間の問題かもしれないとケーキを見つめ思った。

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