嶋田宅の調査から二週間が経ち、梅雨明けして夏の到来まで後少しという六月。
調査の後、真夜はナルからお茶いれを頼まれなくなり、それによって麻衣の機嫌は良くなり、ナルと真夜の溝は埋まらずにいた。
**********************
「麻衣、お茶」
ナルのオーダーに上機嫌で麻衣さんは用意をする。
ナルにお茶をいれなくなってからどれぐらい経っただろう。
仲直りの機会がない。
あったところで疑いが晴れない限り無理だろうし。
思わず溜息が出る。
「どうしたのー、真夜」
「あ、いえ、大丈夫です」
んー、と麻衣さんの気の抜けた返事が返ってきた。
ここ数日を見るに、ナルは自分の疑いについて他のSPRメンバーには話していないようだ。
ということはまだ、確信には至ってないということなのか。
でも、お茶の一件だけでも避けられてるのは分かる。
ナルの中では、疑いは限りなく黒に近い灰色で、真っ黒にするための証拠を見つけるまでは泳がそうってとこかな。
「入るよ、ナル」
盆にティーカップを乗せて麻衣さんが所長室に入った。
「どこ置いたらいい?」
麻衣さんの声が漏れ聞こえてくる。
普段ならありえない。
見たら、扉が少し開いていた。
盗み聞きなんて良くないと思いつつも聞き耳を立てる。
「ナル、真夜となんかあったの?」
「麻衣には関係ない」
「ナルの事に私が関係なくても、私と真夜は関係あるの!」
「だから?」
「ナルは最近一切真夜にお茶頼まないし、真夜はなんだか落ち込んでるみたい。これで何にもないっていう方が変だよ。喧嘩でもした?」
「麻衣は、僕が真夜にお茶を頼めば満足なのか」
「そう言うことじゃなくて!」
「要領を得ない話に付き合う暇はない、用が済んだのだから出ていけ」
ナルの冷たい物言いに麻衣さんは何も言えず、落ち込んで所長室から出てきた。
「ねえ、真夜」
いつもにない低いトーンの麻衣さんの声。
「はい」
「ナルと何かあった?」
そう来たか。
「何か、とは?」
こうでも言ってはぐらかすしかなかった。
「うーん、喧嘩とか?」
「そんなことしませんよ」
微笑みながら言えた。
「でも……」
「季節の変わり目でナルも少し機嫌が悪いのかもしれません。時が経てば、またいつも通りに戻りますよ、きっと」
「そうだよね、うん」
なんとか麻衣さんは納得してくれたようだ。
いつも通り…………そんな日来るのだろうか。
私が、私さえ居なくなればいつも通りに戻るだろうな。
突然オフィスの扉が開いた。
来客かと身構えたらぼーさんと綾子さんだった。
「来たぞー麻衣」
「ケーキ持ってきたわよ」
綾子さんの手には、某有名ケーキ店の箱があった。
「ありがとう~綾子!」
麻衣さんが破顔する。
「ちゃんとあんたの分もあるわよ、真夜」
「ありがとうございますっ」
三人の輪に入れずにいた私を自然に入れてくれる、綾子さんには本当に頭が上がらない。
「俺、アイスコーヒー」
「私は、アイスティー」
ラジャーと言って麻衣さんが立ち上がる。
「私も手伝います」
「ありがと」
二人で給湯室にいく。
各自の飲み物が行き渡り、さてケーキを食べようとした時、所長室の扉が開いた。
「ナル坊、邪魔してるぞー」
「麻衣、お茶」
ナルはぼーさんを華麗にスルーして麻衣さんに言う。
麻衣さんは一瞬顔を曇らせたが、了解と言って再び給湯室へ。
そんなのを見逃すはずもない綾子さんが、私を視線で貫く。
目を合わすことはできなかった。
余計に疑いを持たれるとは分かっていたけど。
所長室にお茶を運んで戻ってきた麻衣さんはいつも通りで、何も言われなかったようで安心する。
「ねえ、麻衣。ナルと何かあった?」
「へ?私?」
麻衣さんがキョトンとした顔になる。
「それに、真夜も。あんた何か知ってるでしょ」
知ってるも何も私が原因ですから……ねぇ。
「二人共、私に隠し事なんて十年早いわ。ケーキ食べる前に洗いざらい話なさい」
仕方ないと腹をくくった麻衣さんがまず、今日のことを話した。
「ふーん、なるほどね。今度は真夜の番よ」
「はぁ……」
言うしかないようだ、事実を伝えるわけにはいかないけど。
「最近お茶いれてないなとは思ってましたけど、喧嘩とかはしてませんし、単に麻衣さんのお茶が飲みたい気分なのだと思ってました」
「じゃあ、麻衣が言ってた真夜が落ち込んでるってのは?」
「自覚はありませんでしたが、季節の変わり目ですし疲れでも溜まってたんでしょうか」
嘘ばっかり。
自分が嫌になっていく。
綾子さんはまだ疑いの目を私に向けていた。
「もー綾子!私の勘違いだったんだよ、きっと。もういいじゃん、ケーキ食べようよ」
「まあ、そういうことにしといてあげるわ」
麻衣さんの発言に綾子さんが渋々と納得する。
幸せな時間が崩壊するのは時間の問題かもしれないとケーキを見つめ思った。