「ナルっ!」
麻衣さんの声で、皆が一斉にナルの方を見る。
ナルの瞼が薄らと開いていた。
「ナル!ナル……。良かった。ナルはPK使った後倒れて、今は病院にいるんだよ」
ナルは視線を麻衣さんに向ける。
「見れば、分かる」
この調子なら、大丈夫そうだ。目覚めから毒舌が炸裂している。
「本当に心配しましたのよ」
整った眉をハの字にして真砂子さんが言った。
「もう、大丈夫ですから」
相変わらず、ナルは素っ気ない。
「ナル、お茶入れるね」
「たまには、わたくしがっ」
「私の仕事取らないでー」
麻衣さんと真砂子さんがじゃれあっていた。
「ねぇ、ナル、茶葉リクエストある?」
笑顔の麻衣さんに、ナルは顔を横に振る。
麻衣さんの表情が曇る。
「リン」
ナルはただそう名を呼んだだけだが、リンさんは全てを理解し頷く。
「私は、ナルの着替えを取りに車を出すので、皆さんそれに乗ってください」
リンさんが朗々とした声で言う。
「え……でもまだナルが目覚めたばかりなのに?」
「そうですわ。もう少しいてもよいのでは」
不満そうな麻衣さんと真砂子さんの肩に綾子さんが手を置く。
「歩いて帰りたくなかったら言うこと聞く!」
「えー!」
ぞろぞろと出ていき、病室にはナルと私、真夜だけになった。
少し日が傾いてきていた。
少しの沈黙のあと最初に口を開いたのは私だった。
「肝心な時に、いなくてすいませんでした。私が補助できれはこんなことにはならなかったのに……」
ナルの黒い瞳が揺れる。
「なぜ……僕を責めない」
「…………なぜ、なんでしょう」
ナルの眉間に皺がよる。でも、私は続ける。
「今、こうしてナルが生きててくれて嬉しいと、思っています。……だからでしょうか」
私にも責めない理由なんて分からない。
ただ、今はそういう気分になれなかった。
「理解、できない」
「してもらおうとは思ってません」
ナルにも私にも、普通の人が持ってる何かが足りない。
分かり合うのは、きっと難しいだろう。
「一方的に責めて悪かった。あの日、助けてくれて…………ありがとう」
ナルはこちらを見ない。
プライドの高いナルの珍しい言葉に少しばかり驚いてしまう。
「私はナルにSPRで雇っていただいて、そのことにすごく感謝してます。きっと、それでトントンです。こちらこそありがとうございます」
西日が病室を照らす。
白い壁に私の影が長く伸びた。
「真夜のお茶が飲みたい」
ナルがそう唐突に言った。
いつぶりだろうか。
なぜ、こんなに嬉しいのだろう。
思わず明るい声が出る。
「わかりました」