ヤンデレの女の子って最高だよね!   作:大塚ガキ男

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どうも、大塚ガキ男です。
UA40000突破!!記念リクエスト作品は、今回で最後となります。リクエストして下さった方々、どうもありがとうございました。



女の子。

「・・・あー、本当好き」

 

 放課後。窓の外から吹き込む爽やかな風に揺れるカーテンを眺めていると、幼馴染(女)が唐突に呟いた。一瞬、俺に向けての告白かと思ったが、すぐにそれが勘違いであると気付く。

 

茨城(いばらき)ちゃん、本当可愛い。愛してる」

 

 そう、俺の幼馴染——閖上(ゆりあげ)は、所謂(いわゆる)レズビアンなのだ。

 いつから閖上がレズなのかは分からないが、恐らく俺が中学に上がった頃にはもう、閖上が目で追う相手は女子だった気がする。閖上は俺の二つ上なので、もしかしたら俺の知らない閖上の中学生時代に、何かあったのかも知れない。・・・誰かの影響でこうなっているのなら、それはそれで困るのだが。

 兎にも角にも、閖上は女性しか愛さない。何度か閖上に好意をアピールしている俺も、その都度(つど)心に傷を負う結果となってしまっている。閖上の奴、幼馴染のくせして、俺に対する容赦というモノを知らない。ついでに言えば情けも知らない。直接的な告白は何もしてないのに、ちょっと「あー、お前のそういう所好きだわ」とか言おうものならボロクソに言ってきやがるのだ。そんなに俺のことが嫌いかと半泣きで聞けば、別に嫌いではないのだとか。じゃあやめてくれ。

 

「おいおい、茨城さんよりも断然イケてる男が目の前にいるぜ?」

 

 前髪をかき上げてそう言う俺を見て、閖上はハンッと嘲笑った。

 そういう所だぞ。

 

「嫌よアンタみたいなナヨナヨした弱っちいの」

「それを言ったら茨城さんの方が弱っちいだろうが」

「アンタなんかと茨城さんを一緒にしないで。茨城さんは、守ってあげたくなる『か』弱さなのよ。どうせ弱いなら『か』が付いていた方がよっぽど良いわ。ちんちん取って出直しなさい」

「真顔でちんちん言うな」

 

 恥じらいも躊躇(ためら)いもない閖上のちんちん発言。嫌いじゃないが、できれば控えていただきたい。コイツ、マジで異性からの目とか気にしないのな。心の底から同性(好きな子)しか意識していない。男なんか二の次三の次ってか。

 そんな閖上へのツッコミを入れた直後、唐突に閃いた。

 

「成る程」

「何?」

「・・・弱いはダメ。か弱いは良い。『か』は良い——可愛いって訳か!これは一本取られた」

「ぶっ飛ばすわよ」

 

 怒られた。

 このまま何も言わないと俺に対する罵詈雑言の嵐が訪れることは今までの経験上必至なので、なんとか話を変えてみる。ついでに、色々探ってみる。

 

「んで、いつから茨城さんのことを?」

「昨日から」

「思ったより最近!」

「昨日、たまたま体育の授業中に茨城ちゃんと話す機会があってさ。茨城ちゃんったら同性に対するボディタッチが多い上に、無防備なのよね」

「要するに身体目当てか」

「違う。性欲に負けたの」

 

 どっちにしろ不適切なことに変わりはない。

 溜め息。

 

「・・・参考までに聞くけどさ、何て言って告白したんだ?」

「あなたのドスケベな身体に惚れ込みました。是非、私とインモラルな関係になってください」

「・・・」

「何よ」

「・・・今の感情を一言で表すなら、『サイッテー』だな」

「はぁ!?」

「はぁ!?じゃねぇよ!おっさん並みのセクハラかましながらの告白するJKがどこにいるんだこの馬鹿!アホ!変態幼馴染!」

「ほ、本気だったのよこれでも!うぇぇぇぇぇぇん!」

「泣くなよ!あぁもう!」

 

 目からピャピャピャと漫画のような放物線を描きながら涙を流す閖上。いくら二つ上の幼馴染がアホでも、女子は女子。愛した女。これだと俺が泣かせたみたいなので(いや、実際そうだけれども)、何とかして慰めなければならない。

 

「ほら、涙拭けよ。またいい出会いがあるって」

 

 制服のポケットから出したハンカチを渡すと、閖上は涙を拭かずに噛んで引っ張った。「悔しぃぃぃぃ」じゃねぇよ。拭け。

 

「もう駄目。どうせ私に彼女なんて一生出来ないんだわ」

「出来る出来る。駄目そうだったら俺が彼氏になってやるから」

「女じゃないとイヤ」

「・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同性に向ける優しさこそ、その人の本性である。

 とは、閖上の弁。

 閖上のルックスは中々良い。だからこそ、異性から向けられる心の内の下卑た感情や、同性から向けられる妬み嫉みにうんざりしていたのかも知れない。

 ならば、閖上がレズビアンなのも、ある種当然なのか。俺が相手にされないのも、仕方のない事なのか。

 ・・・いや、無理だ。何とか自分を納得させようとしたけど無理だ。

 好きになった相手が同性しか愛せないなんて(ツラ)過ぎる。同性愛を否定する訳じゃないが、俺が報われないのは嫌だ。

 

「何考えてんの?」

「何でもない」

 

 閖上の部屋で、何をするでもなくゴロゴロしている最中、閖上の長い睫毛を見詰めながら考え事をしていると、閖上が問うてきた。本心をそのまま言う訳にはいかないので、適当に返答。それから、この部屋を訪れる度に毎回思っていることを口にする。

 

「・・・つーかさ」

「何」

「幼馴染とはいえ、異性を自室に通して何とも思わないのか」

「え、アンタ相手に?ないない。アンタなんて眼中に無いし」

 

 いや言い方な。せめて『女の子にしか興味無いの』とかにしてくれよ。

 閖上は、俺が室内をまじまじと見回しても何も言わないし、ベッドに座らせるし、普通に隣に座るし、太ももの付け根辺りまで捲れ上がるスカートや、下着同然の布面積を誇るシャツの事など気にも留めない。コイツは世の男を何だと思っているのか。

 

「閖上だって好きな女の子からアウトオブ眼中かまされてるじゃねぇかよ」

「ぐほぉ」

 

 クリティカル。

 閖上は背中からベッドに倒れ込んだ。綺麗な膝が眩い程の主張を見せている。

 まぁ、俺だって同じクラスのイケメンから告白されたら全力で拒否するし。閖上に告白された女子も、大方(おおかた)そんな感じなのかも知れない。友人としては大いに歓迎だが、それ以上に関係が進むのは困る。みたいな。

 閖上にとって痛い所を突いてみると、すかさず反撃が来た。

 

「というか、前から人の恋愛にくどくど口出ししてるけど、そういうアンタはどうなのよ!どうせアンタだって好きな子に振り向いてもらえないクチでしょ!?」

「た、確かに」

 

 まさか、振り向いてほしい本人から馬鹿にされるとは思わなかったが、事実は事実。唇を噛んで悔しがると、閖上は「ふふーん!ザマァ!」とムカつくが可愛げのある顔で思い切り見下してくるのだった。

 切り替え。

 

「んで、何なんだよ」

「何が」

「部屋に呼んだってことは、それなりの理由(わけ)があるんだろ?」

「・・・気付いたようね」

「いや、この部屋で週一回の恋愛相談教室が行われていることを(かんが)みれば、そんなの答えが出てるようなもんだろ」

 

 放課後の教室でも恋愛相談。

 加えて、日曜日の昼には閖上の部屋でも恋愛相談。

 ちょっとばかし、コイツの恋愛観が心配になってくる。人を好きになり過ぎじゃないか?将来悪い男——いや、悪い女に引っかかったりはしないだろうか。

 

「3組の尾形(おがた)さんのことが好きになっちゃったの!」

「・・・おう」

「きっかけは、この前の選択授業の時に一緒の班になって——」

 

 頼む。俺が引いていることに気付いてくれ。

 そんな嬉しそうな顔で語らないでくれ。

 

「それでね、尾形さんったら包丁を握る私の手を見て『綺麗な手ね』って褒めてくれたの!私もすかさず『尾形さん(の手)も綺麗だよ』って口説いたら『ふふっ、ありがとう』って!これはもう脈アリでしょ!交際関係待った無しでしょ!」

「・・・そうだな」

 

 全く、楽しそうに話しやがって。そんなに楽しそうに話されると、こっちも知らず識らずの内に笑みが溢れてしまう。俺が肯定的な言葉を返せば、「でしょ!アンタもそう思うでしょ!?」とつけあがってきた。イラッとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、閖上は尾形さんに振られた。

 

『ごめんなさい。私、お付き合いしてる人がいるの』

 

 告白をする閖上を廊下の角の向こうから顔だけ出して見守っていた俺。

 丁寧な、心からのお断りを受けた閖上の顔は、今でもよく憶えている。苦痛と悲しみと嫉妬の入り混じった、見ていて痛々しい笑顔を。

 通算、12回目の失恋。

 10回の大台を迎えても、底知れぬ前向きさで同性へのアピールを続けていた閖上だったが、ここにきて初めて諦めの表情を見せた。

 恋愛への?

 いやいや、自分自身への。

 

「私、何がいけないんだろう」

「いや、いけないって部分は無いと思うぜ。ただ、相手との価値観っつうか・・・恋愛観が違っただけで」

 

 俺だって、意中の相手の悲しんだ姿は見たくない。自室のベッドに腰掛けて目を擦る閖上の肩をポンポンと優しく叩いて励ますも、顔色は優れない。

 

「やめてよぉ・・・優しくしないでよぉ・・・!」

 

 いつもなら、『もっと気の利いた励まし方無いの!?』と理不尽な怒りをいただきそうなモノだが。

 どうやら、俺が思っている以上に閖上のメンタルはやられてしまっているらしい。

 カチ。

 コチ。

 カチ。

 コチ。

 閖上の部屋の壁掛け時計の秒針が動く音が、時間の経過を(しら)せる。感情をしゃくりあげる時に洩れる声が、荒めの呼吸音と共に閖上の心情を表現する。

 

「ほら、ティッシュ」

 

 俺が箱ティッシュを差し出すと、閖上は目を伏せたまま一枚抜き取り、ズビーと勢い良く鼻水を噴き出せた。「ありがとう・・・」と気弱な声が返ってくる。

 沈黙。

 相手が不幸を嘆いている時の沈黙ほど、居た堪れないモノは無い。迂闊に言葉もかけられないし、やたらと行動することも出来ない。首元をぽりぽりと掻きながら窓の外を飛ぶ鳥を眺めていると、閖上がふと呟いた。

 

「・・・ねぇ、何でアンタはそんなに優しくしてくれるの?」

 

 そんなに。

 つまりそれは、今までの——計12回に渡る失恋への配慮、激励のことだろう。

 

「アンタには何のメリットも無ければ、むしろ迷惑でしかないのに、何でアンタはそんなに優しくしてくれるの?」

 

 迷惑なんかじゃない。俺は、閖上が悲しんでいるのを見たくないから励ましたんだ。自分の感情を心の片隅に追いやってまで、閖上を応援したんだ。

 そう言いたいのに、どもる。どもって、思っている事が口に出せない。

 言いたいことが、言えない。

 言うことを聞かない自分の喉との戦い。その末、俺は決意した。

 今だ。

 多分、好意を伝えるべきは、今なのだ。

 今までの、閖上との関係性に怯える、さり気ない遠回しの告白なんかじゃない。

 言え。

 喉を開け。

 口を開け。

 

「好きだからだよ」

「へ?ちょっと、何の冗だ——」

 

 赤くなった目を見開き、気丈に、笑いながら一蹴しようとする閖上の肩を掴んだ。

 

「冗談なんかじゃない。俺は、ずっと閖上の事が好きだったんだ」

 

 目を見る。右へ左へと、俺と目を合わせないようにキョロキョロと視線を彷徨わせる閖上。肩を掴み続けるこの時間に耐えられないと思ったのか、閖上らしくもない、弱々しい——か弱い目力で、俺を見詰めた。

 

「・・・ほ、本気なの?」

「あぁ。本気だ。俺は閖上が大好きだ」

「・・・本気の本気なの?」

「本気の本気だ」

 

 何回でも言ってやる。俺は閖上が大好きだ。切っ掛けなんか知らない。好きだから好きになっていて、好きだから閖上との関係性に四苦八苦し、好きだから閖上を応援し、好きだから閖上を慰めて、好きだから閖上に告白する。

 真心を尽くした告白。閖上は、震える手で、震える声で俺の手を払った。

 

「・・・帰って」

「え」

「取り敢えず、帰って」

「・・・わ、分かった」

 

 ・・・、

 ・・・・・・、

 ・・・・・・・・・、

 ・・・・・・・・・・・・、

 ・・・・・・・・・・・・・・・。

 やらかした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜更け。

 時刻は不明。だが、確実に夜更けだという事は分かる時間帯に、俺は何者かによって起こされた。ぼやける視界を、寝惚け眼を指で擦って目の前の何かに焦点を合わせる。住宅街の街灯の薄ら寒い明かりが部屋の中を照らし、俺を起こした人物の全貌を明らかにする。

 

「・・・閖上?」

 

 おはようと挨拶するには早過ぎる時間帯に、何故俺の部屋に?

 そんな意味を含んだ、名呼び。閖上はニッコリと笑った。

 

「何をしているんだ?」

 

 眠い頭と怠い身体に鞭打ち、上体を起こす。閖上はハサミを持っていた。外からの街灯を反射する刃先がおっかない。

 

「なぁ、閖上」

「私は、女の子しか好きにならないの」

 

 独り言。

 いや、俺の目を見ずに呟くように言う閖上の状態は、独白とも言えるかも知れない。

 

「なのに、何でだか、アンタに告白されてからドキドキが止まらないの」

「・・・そ、それって」

 

 胸が高鳴る。

 まさかのOK?駄目だと思ったら、実は結ばれる的なヤツ?

 俺は、その先の言葉を予想して、浮かれ始める。しかし、閖上の様子がおかしい。

 

「でも、それって違うじゃん。私は女の子しか好きにならないのに、アンタを好きになるのって違うじゃん。でも、アンタに対するこの気持ちが嘘でも冗談でもないのは私自身よく分かってるし。アンタに告白されてから数時間、考えて考えてようやく気付いたの。

 

 ・・・アンタが、女の子になれば良いじゃんって」

 

 は?

 聞き間違いかと思ったその言葉。瞬間、股間部分を撫でられる。快感。そして、突然の台詞に少々の混乱。

 閖上が、空になった両手で俺を抱き締めた。優しく、愛でるように。

 それから、耳元で呟いた。

 

「アンタは女の子。アンタは女の子。アンタは女の子。アンタは女の子。アンタは女の子。アンタは女の子。アンタは女の子。アンタは女の子。アンタは女の子」

 

 延々と、耳元で囁かれる言葉。魔法のように、もしくは薬のように俺の脳内に浸透する。何を言っているんだ。俺は男だ。いやでも、そもそも男って何だ?何が男で何が女にんだ?今まで俺は、自身を男だと思い込んでいただけなんじゃないのか?男子トイレに入っているから男子なのか?女性専用車両に乗っているから女子なのか?閖上が言っているように、俺は実は女の子だったんじゃないか?俺が男だという確証は、正しいのか?歴史が間違っていたんじゃないか?男ってなんなんだ?アダムとイヴは、どちらが男でどちらが女だったんだ?そもそも、あの二人は男女だったのか?

 

「アンタは女の子なんだから、()()()()()必要無いじゃない」

 

 そうだ。

 俺は、女の子だった。

 俺は女の子なのに、何で股間にこんなものが付いているんだ。

 

「早く、取っちゃおうね」

 

 そうだ。

 早く取らないと。

 閖上は女の子しか好きにならないんだから、俺も早く女の子らしくならないと。

 

「いくよ。3、2、1——」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジョキン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




まず最初に、リクエストを下さったオピニオンさんに感謝を。ありがとうございました!
リクエストは、レズの女の子(ヤンデレ)とそれを慰める主人公。でした。ハサミで切るか刺すかでメッチャ迷いました。

次のお話。

  • TS
  • 近眼
  • タイムマシン
  • 既にあるお話の続編
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