今回から、UA50000突破!!記念のリクエスト作品になります。
そういうことだ。
何のこっちゃと言われても困る。そういうことと言ったら、そういうことなのだ。
俗に、冷や汗と呼ばれる(実際にかいてみるまで、冷や汗が何なのか分からなかったが、まさしくこれは冷や汗だ)、嫌な汗を
ハンカチ。
ジャージの上。
弁当の箸。
数学IIの教科書。
靴下。
靴の中敷。
これ等の品は、元々は俺の私物だったものだ。正確には、私物として使っていた頃のそれとは違う品なのだが、製品としては同じ物だ。
これ等の品は全て、一度俺の手元から無くなっている。失っている代物だ。じゃあ何故、今は俺の手元にあるのかと言うと、簡単だ。無くなったから。再び買い揃えたからだ。
何故無くなってしまうのかと頭を捻ってみても、理由は分からん。自分の物をどこにやったか分からなくなるほど馬鹿ではないつもりだったのだが。しかし、現に無くなっているということは、俺は馬鹿だったのだろう。
このまま、どうしたものかと原因について考えてみても、恐らく解決に漕ぎ着けることは出来ないだろう。恐らく、漕ぐといっても違う意味になってしまう。
寝逃げ。もう知らんと布団にダイブして、明日からまた頑張ろうと布団を被ってから、頭に感じる。
ちょっとした違和感。
「……」
枕カバーが無くなっていた。
*
「ということがあったんだ」
「……大変だな」
翌日の、昼休憩。同じクラスで前の席の友人(というかクラブメイト)の
「犯人は、誰だか分かっていないのか」
「いや、俺だろ多分。それかオカン」
「親御さんには、何か聞いたりはしていないのか?」
「聞いたけど」
「じゃあ違うだろう」
「違うのか」
男子高校生らしい、中身の無い会話。ゲラゲラと笑って、いつまでも続く。そんな会話をHRギリギリまで続けて、担任に怒られるまでが朝のテンプレートだ。
「やべ、先生来たぞ」
黒板に背を向けて俺と会話していた富士宮にそう告げると、富士宮は慌てて反転して背筋を正した。教師陣の前では、優等生を演じることが好成績への秘訣らしい。
しかし、残念なことに、元々は相談のつもりで持ち掛けたこの話も、1限目が始まる頃には俺を含めて二人の頭から完全に抜け落ちてしまっていたのだった。
*
「部室に行こう」
6限目の授業が終わった直後に、鞄を持った富士宮が心なしか口元を緩めながら誘ってきた。今日は昼休み前に帰りのHRを終えていたので、6限さえ終わればあとはもう各自解散なのだ。
「何だか、部活動に積極的な富士宮を見ると嬉しくなるな」
「よしてくれ。あの頃の話をされると、背中がむず痒くなる」
「あの頃の富士宮はえらく攻撃的だったもんな」
今となっては笑い話の一つとして片付けられる、富士宮との出会いの季節。
春。
富士宮を部活に勧誘しようとしたら、
文庫本の裏に書くなら、こんな感じの一文。部室への道程を歩きながら、半年程前の出来事を思い出した。
詳しいことを話すと長くなってしまうので割愛するが、要するに富士宮と俺は元々仲がよろしくなかったが、交流を重ねる内に仲を深め、部活にも入ってもらえるようになった。そういうことだ。
「今は、こうして部活に積極的になっているんだ。頼むから、昔の話は」
手のひらを合わせて懇願する富士宮。俺も意地悪をするつもりは無いので、切り替えて本日の活動内容について話し合うことにした。
所属する部活、部員2名。教師の方々からのお情けによって成立している俺発足の部活は、今日も楽しく活動していく。
「この前は猫の後を付いていった。その前は、曲がり角を左、右の順番で交互に曲がった。今日は、どうする」
「うーん。俺の方針としては、あまりやり方が被るのはよく思わないんだがな」
「毎日行うモノなのだから、ネタ切れにもなるだろう。諦めろ」
「……それもそうだな。富士宮、過去のやり方OKなら、何が良い?」
問い掛けると、富士宮は制服のポケットからメモ帳を取り出して、己が筆した内容を見返した。
「これが良い」
「どれどれ。……お前、それ好きだな」
「いつか、再チャレンジしたいと思っていたのだ。良いだろう。別に」
「いやいや、貶している訳じゃないって。俺もそれ大好きだから、今日はそれにしよう。そうしよう」
「ああ。そうと決まれば部室に急ぐぞ。時間は有限だ」
そう言って、早歩きで俺を置いて部室に向かって行く富士宮。俺もその後を追おうとして、止まる。
「誰だ」
直感。
もしくは、予感。
誰かが、俺を見ていた。ただ見ていた訳じゃない。物陰からひっそりとこちらの様子を窺うような、湿度のある視線を向けられた。しかし、振り返っても誰もいない。念の為最寄りの教室のドアを開けてみるが、会話の途中だったのだろう。室内には机に座ってこちらを訝しげに見詰める女子二人しかいなかった。
「……不思議だ」
誰が俺を見ていたのかは気になるが、今は富士宮を追うことが優先だ。後ろ髪を引かれる思いで、俺も早歩きで部室へと向かった。
「好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです。好きです」
*
「付き合ったんだってな。おめでとう」
「あんなに可愛い子引っかけやがって。幸せにしてやれよ」
「羨ましい」
「凄い」
「お前にも春が来たんだな」
翌日。
教室に着くと、クラスメイトが一斉に俺に近寄って賛辞の言葉を述べてきた。覚えの無いその数々の中に『彼女』という単語を耳に入れて、やられたと頬の内側の肉を噛んだ。奴は俺が彼女を受け入れたと勘違いして、急速に事を進めやがったのだ。ついでに言えば、昨晩の母との会話を聞けるくらいには、俺の日常に侵食してきているのだ。
「あ、ありがとう」
ここで否定しても面倒なので、取り敢えず照れている振りをして自分の席まで逃げる(こういう所だ)。前席に座る富士宮は、やけに笑顔だった。嫌な予感。
「人伝てに聞いたが、おめでとう。お前は何だかんだで、やる時はやる男だと確信していた」
「富士宮もかよ……」
頭を抱える。富士宮が「どうした、そんなに恥ずかしいのか」と俺を心配して肩を優しく叩いてきた。
「ソイツはさ、何組だか知ってるか?」
「何だ、惚気クイズか」
「……あぁそうだよ。で、何組か知ってるか?」
「分からんな」
「そうか」
俺がソイツの存在を知らなくても、他の奴なら知っているかと思っての質問だったのだが。
残念。
手詰まりだ。
相手は俺の事を知っているのに、俺からしたら未知の関係に、モヤモヤとした嫌な感じを覚える。
奴の行動がエスカレートするのを、黙って見ている事しか出来ないのかと歯噛みしていると、富士宮が興味深い事を言い出した。
「……そう言えば、お前の彼女が屋上に行くのをよく見る。という人がいたな」
「本当か!?」
肩を掴んで再確認。それに仰け反りながら肯定する富士宮を見て、俺は確信した。
屋上だ。
屋上に行けば、俺に付き纏っている奴が誰なのかが分かる。
行くしかない。
時刻は、8時30分。朝のHRまであと10分程しか無いが、この際いくら遅れても構わない。そんな覚悟。
「うむ。日向ぼっこでもしているのか──って、おい。どこに行くつもりだ」
教室へと廊下を歩く生徒とは真逆の方向へと走る。階段を上り、上へ。昨今の学校にしては珍しく、我が校の屋上には鍵が掛かっていない。高さ5メートルを越すフェンスに守られているお陰で、この屋上という公共の場が成り立っているからだ。
屋上のドアを開ける。切れる息を整えながら、視線を左へ右へ。
「おい、いるなら出て来いよ!」
歩きながら呼び掛ける。と言うか、怒鳴り掛ける。
物陰や、貯水タンクの上、死角になりそうなところは全て確認した。
が。
いない。
いないのだ。奴は、どこにもいなかったのだ。
奴は俺のことを知っているのに、俺は奴のことを知らないという恐怖。教室に戻っても、身体の震えを抑えるのに必死だった。
*
「ただいま」
疲れた。
本当に疲れた。疲労のあまり猫背になりながらの帰宅。色々あったので、富士宮に断って今日は一人で帰宅。
母は、既に家に居るので、今の時間は夕食を作っているだろう母に聞こえるように声を上げる。リビングの向こうから「おかえり」と間延びした声が返ってきたのを確認し、洗面所で手を洗ってから階段を上がる。
ガチャリ。自分の部屋のドアを開け、中へと入る。
夕焼けに照らされた室内。
外からの風を受けて緩やかに揺れるカーテン。当たり前のように窓を閉めてから、
「──誰か居るのか!」
後ろを振り返りながら怒鳴った。
静寂。
緊張により跳ね上がった俺の鼓動だけが五月蝿い。
「……」
当たり前だが、この部屋は俺の部屋だ。母にも滅多な事が無ければ入室を許可していないので、俺以外の誰かが俺の部屋に入るなんてことは有り得ない。有ってはならない。だと言うのにだ。
何故、開けた覚えの無い窓が開いているのだろうか。
今一度、辺りを見渡す。他に変わっているところは無いかと血眼になって探す。
が、無い。窓以外に異常は無い。
安心しろ、ここには俺以外誰もいない。そう自分に三度言い聞かせてから、ようやく心臓を落ち着かせる作業に取り掛かる。ベッドに座り、そのまま後ろに倒れる。
「……何なんだよ、全く」
無くなる私物。
ふと感じる視線。
誰かが入室した跡。
私物は自分のミスだろうと思っていたが、こうも連続して埒外の事が起きてしまうと、俺以外の誰かの仕業である可能性を否めなくなってしまう。問題が、浮上してしまう。
空き巣か。
それ以外の何かか。
睨みを利かせ、気を張り巡らせていると、階下から母の声が聞こえた。夕食の準備が出来たようだ。遅れる訳にはいかないので、部屋を出る前にもう一度だけ部屋の中を見渡してから、ドアを閉めた。
「アンタ、彼女が出来たんだってね」
「……は?」
食事時、サラダをもしゃもしゃと頬張っていると、母が突然そんなことを言い出した。食事の手が止まる。
「な、何だよいきなり」
「その顔は、シラを切る気は無いみたいね。まさかアンタにあんな可愛い彼女が出来るなんてねぇ。優衣さん、家事手伝ってくれたり良い子だからお母さん嬉しいわ」
母の、してやったり顔に少し苛立ちを覚えるが、今思考を割くべきはそこではない。
何故、俺にいない筈の彼女がいるのか。
何故、母は存在しない俺の彼女の顔を知っているのか。
何故、奴は俺の母と当然のように交流を深めているのか。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。その子と会ったのか?」
「そうなのよ。今日、呼び鈴が鳴ったから宅配便かと思って出てみたら、可愛い女の子が立ってるじゃない。何の用かと聞いてみたら、アンタの彼女だって言うから、取り敢えずアンタの部屋に通して」
「はぁ!?俺の部屋に上げたのか!」
「何驚いてるのよ。アンタが良いって言ったって、彼女言ってたわよ」
「そ、そんな訳が」
否定の言葉が、喉を通って口から出そうになる。しかし、噤む。いや、待てよと一度冷静になって考えてみる。
ここで、見ず知らずの彼女のことを否定すると、母はひっくり返って警察に連絡し、俺の身の回りは少なくとも数日間ごたつくだろう。俺の部屋に警察の捜査などが入れば、俺のベッドの下の
聖域は、そこにあるから聖域なのだ。捨てられないし、移動も出来ない。
そんな、男子高校生特有の性欲丸出しの思考。数秒黙ってから、
「……言ったな。そんなことも言った気がする」
情けないことに、俺の彼女(知らん奴)を助ける形に事が運んでしまった。念の為言っておくと、その後の食事はロクに味わえなかった。上の空で口に料理を運ぶだけの作業ゲーになってしまった。
「やった。認めてくれた。これで彼氏彼女だ。恋人だ。付き合ってる。好き合ってる。一緒にいれる。公認だ。皆が祝福してくれる。誰も邪魔しない。誰にも邪魔させない。二人の関係。愛。嬉しいな。また目を合わせてお話したいな。次はいつお話出来るかな」
彼が彼女と出逢うまで、あと少し。
まず始めに、リクエストを下さった打ち止めさんに感謝を。ありがとうございました!
打ち止めさんには以前より何回かリクエストをいただいているので、もうリクエスト作品では常連さんになってきました。おめでとうございます。今度飯食いに行きましょう(嘘)。
リクエスト内容は、『主人公はヒロインのことは知らず、ヒロインが主人公のことを一方的に知っているヤンデレ』でした。リクエスト作品で初めてヒロインのお名前を指定していただきました。
じわりじわりと日常を侵食するヒロイン。
とても好きですd( ̄  ̄)
また投稿間隔が戻ってきてしまっているので、気を付けようと思いました(小並感)。
では、また次回のリクエスト作品にて!
なろうにも投稿して良いよってリクエスト主の方がいたら教えてくれると嬉しいです!
次のお話。
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TS
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近眼
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タイムマシン
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既にあるお話の続編