境界線上の飛翼恋離 作:クーゲルシュライバー中尉
「やれやれ……あんなことがあったってのに、長閑過ぎるくらい良い天気だねぇ」
武蔵と三河を結ぶ関所にある建造物。その木造テラスから、覇気の欠片も存在しない中年男の声色で呟きが垂れ流された。
声の主は、酒井だ。
パラソル付きのテーブルセットに寄り掛かり脱力する姿は、ともすれば休暇を満喫しているように見えなくもない。現実としてはただの軟禁だったが。
三河での騒動の際、酒井は郊外に残っている人間たちの避難を行っていた。知人などもいたため、それを見捨てるわけにもいかず奔走していたものだが、それによって武蔵に帰る機を完全に逸し、結果だけ言うと不審者扱いで聖連にとっ捕まった。
元松平四天王であり、つい昨夜に全世界放送で夫婦漫才かましていた脳筋やセメント自動人形らと直前に会合していたりと、客観的に見てクロどころか役満レベルの怪しさだったが、術式などを用いた聴取によって無事に無関係であることが証明された。
現在は迎えに来た"品川"が保釈手続きを行っており、責任者としてそれに同行した"武蔵"が酒井の側に付いている。
どうにも呆れたような視線が向けられていたが、酒井はのらりくらりと躱しつつ、しかし暇なので会話の相手を"武蔵"に求める。
「早く暖かい布団で寝たいもんだよ。……つーか腹減った。思えば、昨夜のつまみはほとんどダ娘ちゃんの腹ん中だったからな……」
ご機嫌取りに差し出したのは酒井であるのだが、それはそれとしてもう少しなにか食っておくべきだったか、などと今更ながらに後悔する。
「"武蔵"さん、実はなんか食えるもん持って来てたりとか──はないかな、流石に」
と、苦笑を作り冗談交じりで口に出してみると、
「Jud.、実を申しますと、伊吹様より朝食用のお弁当を渡されております」
言葉と共に取り出されたのは、一見可愛らしくもそこそこの量が入りそうな大きさの弁当箱だった。準備の良さに軽く驚きつつも、言ってみるもんだね、とややウキウキした様子で酒井が手を伸ばし、
「──ので、主人の心遣いゆえ有り難く頂戴致しました。日によって味付けに誤差が生じるのは、人類ならではと言うべきでしょうか。Jud.、本日の出汁巻き玉子など特に絶品で。──以上」
「食っちまったの……!?」
パカリと軽快な音を鳴らして開かれた中身は米粒ひとつ残さず綺麗に平らげられていた。──なお、"品川"はやや濃い目に味付けされた唐揚げに対し好評を述べ、"武蔵"から「こいつ解ってないな……」系の目線を向けられた。無論、苦言を呈した際はそれはそれとして睨まれる。姉妹
ともあれ、唖然とする酒井に対し"武蔵"の方は、一体なにを言っているのだとばかりに首を傾げ、
「……なにか勘違いなさっているようですが、こちら──"夜には戻る"などと言いながら呑みに繰り出した挙げ句、日が明けてなお帰らないどころか、唯一の連絡がとっ捕まって拘留されたと。そんな酒井様を朝っぱらから迎えに赴く羽目となった私どものために、道中で朝食にでもと伊吹様が持たせて下さった品ゆえ、そもそも酒井様に所有権は存在しませんが。──以上」
そもそもの原因は酒井だった。否、全ての元凶と言うならば昨夜跡形もなく消し飛んだ彼の元恩師なのだろうが。
「……そうだね、こんな時に迎えに来させてホント、御免ね。でも俺も一応避難誘導とか頑張ってたっていうかさ……伊吹の"武蔵"さんら贔屓は今更だけどさぁ……」
と、今以上に老け込んだ表情になりつつある酒井を尻目に、続いて"武蔵"がハードポイントから取り出したるは携帯用の竹ボトル。今度はそちらを差し出しつつ、
「ではこちら、伊吹様より酒井様宛の品です。二日酔いに固形物はよろしくないであろうと。──以上」
「……なんだ、ちゃんと俺の分もあるんじゃん。あんま驚かさないでよ"武蔵"さん」
「Jud.、時にはお茶目な侍女として、愛らしさには定評があります。──以上」
一から十まで
「そうそう、こういうのでいいんだよ、こういうので。いや、この歳になると粥とか雑炊が妙に美味く感じるっていうかさぁ……」
「Jud.、カレーです。──以上」
──盛大にむせた。
「ゲホ……ゴホッ……し、刺激物じゃねぇか……!」
間違いなくハッサン印。仮に室内でもカレーの匂いに侵食されないよう、ご丁寧に浅間神社製の消臭系の術式も刻まれている。予め数歩下がって避難していた"武蔵"は、たっぷり数秒かけて観察した後、普段通りのセメント顔で堂々と、
「翌日の胃に負担が掛かる呑み方をするな、という伊吹様なりの気配りです。なお、本命の雑炊は鍋の方を"奥多摩"に預けてあるのでご安心を。つまりは年甲斐もなく遊んでないでさっさと帰って来い、という意図をご理解下さい。慕われておりますね。──以上」
無駄に遠回しかつ攻撃的な気遣い対し、胃の中で暴れる香辛料的な意味で泣けてきた酒井は、可能な限りさっさと帰ろうと決意を固くした。そこに絶妙とも言えるタイミングで"品川"が戻って来たため、手続きが完了したのだろうと当たりを付け──、
「──もう帰るのか? 久しぶりだというのに、随分とつれない奴だなぁ、おい」
粘つくような、懐に手を伸ばして来るような低音の、酒井にとって確実に既知である男の声が響く。
少なくとも、居残りの延長は確定した。
+++
また面倒臭い奴が出てきた……、と酒井が億劫そうに呟く声が傍らの"武蔵"に届いた。
当の相手──白い張衣を纏った男の姿は既に酒井の対面に座している。テーブルに片肘を置き、不敵な笑みを浮かべながらやや前傾に乗り出した姿勢は、どこか挑みかかるようにも見える。
それを"武蔵"は知っている。
K.P.A.Italia。旧派の長、あるいはそのもの──教皇総長インノケンティウス。
聖連にて強権を持ち、武蔵と極東を押さえつけるトップのひとり。
主権を得られない武蔵にとっては忌々しい天敵たる相手でもあり──、
……毎年、御中元と御歳暮を欠かさず贈ってくる伊吹様の
高級特大ハムの詰め合わせなど、どこからともなく嗅ぎ付けて来る梅組集団にも好評でとてもありがたい。
つらつらと思考を回していると、然程興味はなくとも暇潰しの代替として外野の会話を聴覚素子が拾って来る。
どうにもこのふたり、酒井の現役時代に喧嘩を売ったり売られたりの間柄であるらしい。既に現役引退した酒井と違い、教皇総長の名の如くあちらは教導院を率い、今も尚バリバリの現役である。他国には学生の年齢制限はないゆえに。
あちらの舌鋒は滑りよく、過去を懐かしむと同時に酒井に対する二十年越しの嫌味や皮肉が湯水の如く溢れ出ている。若干、毎年本多家で敢行されていた飲み会に対する苦情もあったのはともかく、『過去』の因縁から始まった会話がやがて行き着くのは『今』の時代の話。世界の誰もが注するであろう三河と武蔵の行末だ。こればかりは"武蔵"とて無視できない内容である。
それは、
「三河の消失は、三河の君主──姫ホライゾンの自害によって支払わせる。それが戦国の習いだからな。"武蔵"の所有は聖連へと移譲、それを三河の代理都市とする。そうして抽出した大罪武装を配し──対P.A.Odaの最前線に置く」
「おいおい……また随分な扱いじゃないか。どうするよ? "武蔵"さん、"三河"さんになるってさ」
差し迫った現状と、暗澹とした陰を帯びる極東の未来に対し、言葉を向けられた"武蔵"は、Jud.、とひとつ頷き、
「これは少々、聖連諸共に自爆の準備などを進めておくべきでしょうか。三河に倣いドカンと一発。──以上」
いっそ潔すぎるまでに不謹慎な言動に、インノケンティウスの口元が余裕の笑みのまま軽く引き攣った。
「あの、"武蔵"様……? ──以上」
所在なさ気に佇んでいた"品川"が、言語化するのであれば困惑と怯えを同居した表情で"武蔵"を伺った。とはいえ自動人形に感情はないのでそのあたりはスルーを決め、しかしみなまで言うなとばかりに掌を向け、頷きを作る。
「──失礼致しました。武蔵は八艦からの統合物ですので、合計するところ八発のドカンでした。訂正とお詫びを申し上げます。──なお、その際にはこちらの"品川"が先陣を賜る所存ですので、どうぞお引き立ての程よろしくお願い申し上げます。──以上」
「「…………」」
大口開けて沈黙した面々を見回した"武蔵"は、やれやれとばかりに目元を伏せ、首を左右に振っては嘆息した。
続けて放たれた内容は以下の如く、
──先の発言は本気ではなく、朝っぱらから顔を突き合わせてはネチネチと言い合う中年たちによって発生した脂っこくジトッとしたこの場の穢れた空気を一掃すべく、ウィットに富んだ侍女式冗句を提供しただけである。そもそもあくまで総艦長でしかない"武蔵"が武蔵という国家そのものにおける決定権など当然ながら所有している筈もない。──それはそれとして、己の主人であれば大ウケした後に褒めていただけるものであると判断出来るが、一流の侍女による一流の冗句を解せない皆様は端的に申し上げていい歳した大人でありながら少々余裕と教養が不足しているのでは?
と、まぁ大体そのようなことを。
・武蔵:『そして"品川"は後ほど反省文です。──以上』
・品川:『えっ……。──以上』
・武蔵:『……そもそもですが、"品川"がちゃっちゃとと酒井様の釈放手続きを終えていれば、このような面倒極まる御人に絡まれることはなかったのではないかと判断出来ます。率直に言いまして、伊吹様の精神状態が少々気掛かりです。私としては、ぶっちゃけ今すぐ帰りたいところなのですが。──以上』
・品川:『いえ、あの、"武蔵"様? そうは言われても手続きの大半はあちらの管轄ですし……。それにあちらの教皇、早く終わってもそれはそれで絶対こっちになにか嫌味言いに来ますよ……? 出て来るタイミングピッタリだったじゃないですか。ニヤニヤしながら扉の前で出のタイミング待ちするタイプですよあれ……。あと先回りして言いますけれど、こちらを置き去りにして勝手に帰るとかしないで下さいね!? ──以上』
中年どもが沈痛な面持ちで俯いたり、さり気なく自身の体臭を確かめたりとしているのを放置しつつ、"武蔵"ら自動人形が相互間の交信を終了する。
──"武蔵"としてはこの場を"品川"に放り投げてすぐさま取って返すという最善の判断を決行したかったところだが、つまりは"品川"には未だ経験値の蓄積が足りないらしい。
やはり個別の指導を行うべきか。具体的には教導院裏。既に再教育と指導とでダブっている気もするが、これも麾下を想ってのこと。侍女である身で、主人に不要な恥を掻かせる事態になってからでは遅いのだ。──別段、"品川"の弁当に入っていた唐揚げがひとまわり大きかったように見えただとか、あちらのタコさんウインナーの方が少々可愛かった等ということを気にして、この機に明確な上下関係たるものを再度叩き込もうと画策しているわけではない。
その"品川"は既に隅での体育座りに移行している。なにやら同僚相手に通神帯で愚痴を零している様子だが、上役である"武蔵"に検閲されることをそもそも理解しているのだろうか。
+++
──ともあれ、挑発や煽りを続ける空気ではなくなったため、インノケンティウスが小さく鼻を鳴らし"武蔵"を一瞥した。彼はその自動人形の
「……貴様のそれは、あの小僧の影響か? なぁ、おい」
返答を求めての呼び掛けではなかった。既に自己のうちにある文字列を、音へと再定義するためのフックでしかない。
そうだよなぁ、と誰に聞かせるでもない呟きが前置かれ、
「武蔵の危機とも言える現状、あれが傍観者のままでいるなどそれこそ無理な話だろうなぁ。武蔵が『武蔵』としての意味すら失うなど、奴の視点からすれば当然看過できることではあるまい」
よりにもよって、その決定を下した当人がそれを言うのかと、聴くものは一様に眉をひそめる。だというのに届く言葉には不思議と悪意も害意も含まれていない。むしろ同情、憐憫、あるいは慈しみすらあるようで。
「いいか──あれをそうしたのは、貴様らだ。そうなるまで放置したのもまた同じく、だ。……出生の特異さについて言っているのではないぞ。単一種族など、多くはないが今時珍しくもないからな。生命の誕生自体は祝福すらしよう」
だがな──、と不機嫌極まる表情で溜めを作った男はあるいは、この場の誰よりも件の少年の理解者であるかのように言ってのける。
「このままの有様では確実に──壊れてしまうのだろうなぁ」
酷いことだよなぁ、と。
「生まれがどうあれ、魂がどうあれ。結局のところ──あれは
弱音を聞いたことはあるか? 心情の吐露は? 勝手な期待を押し付けなかったか? 言葉に出さずとも、それ一度たりとも考え得なかったと断言出来るか? 積み重なったそれらの負荷がどのように影響するか理解は及んでいるか?
「なぁ、酒井。俺は貴様をよく知っているぞ。貴様が動いた時、貴様の仲間は既に動いている。貴様が動かなくとも、貴様の仲間は勝手に動いている──ゆえに、だ」
一息。
「貴様が動けない今、貴様の教え子たちもまた、動くのだろうよ。恐らくは、三河の姫を救うために」
しかし、と。
「それはあの小僧すら救えるものなのか、あるいは致命の銃爪でしかないのか。実に興味深いことだとは思わないか? ──なぁ、おい」
+++
フン、と言うだけ言って再び鼻を鳴らしたインノケンティウスは、勢いのまま乗り出した姿勢を戻し、座り直した。
彼はやたらと眼力の籠もったメンチを切ってくる自動人形らの視線から身を反らしつつ、
「……少し、喋り過ぎたか」
などと呟き、水差しを求めるも、そもそも酒井に吹っかけに来るにあたり他の人間は外させていたことを思い出す。
と、中途半端に持ち上げられた手元の方へ、
「どうぞ。──以上」
差し込むように竹ボトルを手渡して来た姿は、"武蔵"のものだ。
相変わらず視線の剣呑さがヤバかったが、自動人形がどういった種族かを思い出したインノケンティウスがそのまま受け取る。
流石に毒ということはない。一瞬浮かんだが。仮にそうであったとして、聖連側の拠点である以上どうとでも対処可能であるし、国際問題に発展して収支はプラスだ。過度に警戒して小心と思われるのも腹立たしいため、ここは度量を見せつけるためにも躊躇うことなく一気に喉奥まで流し込む。──対面の酒井が「あっ……」と小さく漏らしたのが若干気になったが、口内が乾いて水分を欲していたことは事実ゆえに。
「──ん゛ン゛……!?」
「──Jud.、カレー(激辛)です。──以上」
結果として、白の衣装にカレーの染みはとても目立つ。
+++
珍しく静寂で満ちる三年梅組の教室に、カリカリと執筆の音色だけが響く。
教室内の面子にも不足がある、錯綜する現状にあってなお授業を敢行した女教師によるものだ。
内容は作文。
お題は──私のして欲しいこと。
どうしたものか、と浅間は思う。
そもそもテーマからして相性が悪い。無欲と清廉を求められる神職にどうしろと言うのか。つい昨日アイスとか酒とか伊吹とか欲した気もするが、あれは神の許可が降りているので合法。
無論、浅間とてひとの子。それも年頃の花も恥じらう乙女である。クラスの俗物クリーチャー共までとはいかずとも多少の欲くらいは持っていてしかるべきだ。巫女にしても、あくまでそうあることを美徳として
しかし白紙提出ともなれば、より危険な事態に陥るのは言われるまでもない。
──とりあえず他人をダシに遠回りすることにした。
……私の、私たちの誰もが望んでいることは、トーリ君に本来あるべきだった今日という一日を、迎えて貰うこと。
そのトーリは、彼の席で顔を伏せて俯いたまま。
朝からずっとその調子だ。
流石の担任も咎めようとはしなかった、今も物音ひとつ聞こえて来ない一角を意識しつつ、浅間は筆を動かす。
──本当は、楽しい告白の日になる筈だったと、そう思う。
成功しただろうか。成功するといい。成功であって欲しい。……でも昨夜の感じだと存在を認識されていたかすら微妙な……いや、一応思い出していたからセーフ! セーフ判定で! つまりは無事成功している……と、いいですよ……ね……?
……ともあれその後はお祭りです。茶化したり祝福したり、皆で騒いで。誰も彼もがきっと笑っていて。
そのためにも、伊吹君を野放しにするのはいけませんよね。いえ、流石に本気で豆を炒ったりはしないとは思いますけど。まぁ私も調理にまわりますし? ついでと言いますか、目を離した隙になにやらかすか解らないとこありますからね。勝手にフラグおっ建てたりとかやりかねません。昨日とか知らない女のひとの名前出てきましたし。つい先程映像で見ましたが、ええ。
だから隣で監視もやむなしというか、やっぱり伊吹君は私が一緒にいないと駄目っていうか、仕方のないひとなんだから、もう。えへへ。
なんとなれば、作業もそのままなし崩し的にペアになってしまうのが望ましい。勝手知ったると言うべきか、付き合いが長いと互いのテンポに慣れ親しんでいる部分があるため、実際効率がいい。
ささやかなコツとしては、調理しながら味見も兼ねたつまみ食いが意外と大事だ。少々行儀が悪い気もするが、この手の場で気にするほうがナンセンス。作る側だと、作業が一段落してから皆の輪に入っても、既に食べる空気じゃなかったり、大方食べ尽くされていることも多い。
……ええ。つまり自然の成り行きとして味見で「あーん」です。喜美はカロリーがどうのと嫌がりそうだけれど、大量生産するなら揚げ物なんかは定番ですよね。けど揚げたてはやっぱり熱いから、ちゃんと「ふー、ふー」ってしてあげないと。ここ大事なとこ。ふーふー大事ですよ。ええ、舌を火傷したら味見の正確性も失われますし、念入りに。
そこからは流れ次第だが、わざわざ別行動する必要もないですよね、と言い訳しつつ浅間は思う。基本的にどちらも行き着く先は身内だろう。
とはいえ男同士、女同士といった集まりはあるかもしれない。主な話題としてはやはり、彼氏とか彼女とかそういったものが多くなるのだろうか。タイムリーではある。
浅間個人としては、周囲がそうだから自分も付き合う、というのはやや不純に思えてならないが、恋愛に前向きになっていい空気というか、環境のようなものは結構大事とも思う。例えば、振られた人間のいるクラスで成功者が惚気るとか、もはや嫌味通り越して煽りに入っている。あ、やりそうですねうちのクラス。そもそもが不純の塊ですし。
……いよいよ宴もたけなわとなれば──トーリ君とホライゾンはどうでしょうか。皆と一緒? それとも集団からは少し距離を取って、良い雰囲気とか。私としては後者な気もします。なんだかんだで、皆も自然とそういう雰囲気に動いたりして。
そうなると……やはりキスでしょうか。とはいえ人前──ああでもトーリ君人前でも平気でオッパイ揉むタイプですよね。いえ、案外初々しく手を繋いで寄り添うとか。うん、いい感じ。
──ですから、ね。決して触発されたわけではないにしろ、こちらもですね。傍らにいる伊吹君相手にさり気なく! そう、さり気なく寄り添ってはそっと手に触れてみたりとか! あわよくば自然と彼の肩に頭を預ける感じでですね!?
そ、こ、で! そこでですよ!? 伊吹君が控えめに握るこちらの指先を優しく振り解くんです。それに私は、あ……ってなっちゃいますけど、けど! けどここ大事! だけどその時、今度はこちらに対して伊吹君の方から掌を重ねてきて、手指を絡ませて来るんです。──もうっ! ちょっとズルいですよこれは! もうですよ、もうっ! もうもうっ!!
そこからはふたりだけフェードアウトする形が望ましい。なんとなく散歩する的な空気で。しかしお互い言葉少なで。掌に汗かいていないだろうか、なんて考心中で焦ってみたり。繋いだ指先に力を入れたり抜いたりして、ちょっと悪戯なんかも。
後は、
……も、もう少し一緒にいたいとか、このまま帰りたくないなぁ、なんて──。いやそんな、やっ、駄目ですってば! え、今? ここでですか? でもそんな、ミトじゃないんですから、初めてが外なんて……っ! 野生! 野生ですよ!?
危ないところでした、と浅間は気を引き締める。いくらムード的にイケイケとはいえ、初めてが野外というのは無しだろう。ええ、ミトじゃあるまいし。──なんだか概念無視した親電波がゆんゆん飛んで来そうなの予感がしたので、よく解らないが深く考えるのは止めておく。
やはり浅間としては、理想は畳に布団を敷いて向かい合って、こう、三つ指付いたりなどして。末永く云々、とかそういう──はいバトルスタート!
……え? ええー? そこまで? そんなところまで? うわ、うわ──、えー、男の子ってこういうのが好きなんです? も、もっとですか? いえ、まぁ、どうしてもって言うならいいですけどぉ。あっこら、勝手に悪戯しない……! もうっ、仕様がないんだから!
ラウンド制かターン制か、あるいはタイムアップ制にするかは綿密な議論を必要とするため今は保留。
……でも流石に子供はまだ早いですかね。いえ、もちろん将来的に欲しいけど、でも暫くはイチャイチャしていたいみたいなところは正直ありますよね。若いですし。それに、自分たちの子(予定)に対して言うのもなんですれけど、なーんか嫌な予感がするんですよね……。こう、「大きくなったら、父さんのお嫁さんになる!」系の宣言を子供の可愛らしい言動だと放置していたら、いつの間にかガチめのアレに究極進化する的な危機感が未来の方からジワジワと……。いえ、いくらなんでも気のせいですよね! ええ! ちょっと回避出来る気がしないですけど。伊吹君、確実に甘やかすタイプでしょうし。
神道の人間としては、伊邪那岐と伊邪那美なんかも近親的なナニがアレした神だったりするため、万が一にもそうなるとあまり強く出れない気もする。
仮にいざ本格的な生産活動にあたり毎夜チャレンジに挑む場合、最低ノルマは兄弟姉妹のワンペアだろうか。ひとりっ子の浅間としては、トーリと喜美の関係をを羨ましく思ったことが幾度かあるため、子供に寂しい思いは余りさせたくないと考えている。同じひとりっ子である伊吹はショタ時代から自動人形侍らせていたため、まるで共感を分かち合えなかったが。なんで犬猫みたいなノリで縁側に自動人形集まってるんですか、あの家。
……そういうところなんですよね。本当に、そういうところなんですよ……。
あのキチガイ、外で浮気とかは絶対にしないだろう安心感はあるが、同時に身内相手に素で全又しかねない狂人性を兼ね備えている部分があるので油断出来ない。逆に考えればどう転んでも自分が入るスペースがあるかもしれないということで──、
……おおっと邪念っ! 邪念でしたよ今のは! 危ない危ない。今のはかなり危ないところでしたよーぅ? もう少しでヨゴレになるところだったけどギリセーフ! 退散退散。 ……まぁでもミトとか我慢した挙げ句に理性プッツンして押し倒しそうな残念さがありますし、喜美は喜美でしれっと種だけ持っていきかねない怖さを沸々と感じるんですよねアレ……。
もう
「……ふぅ」
ふとした弾みで未来における最適解を引いてしまった気がするが、まぁいいかと浅間は一息。そのまま視線を持ち上げたところで、興味深げにこちらを見ているオリオトライと目が合った。
そのまま彼女は浅間に笑みを向け、
「んー、新しい原稿用紙、いる?」
えっ、と己のうちで呟き、手元を見る。
エロ小説だった。
しかもやたらと出来がいい。ちょっとした短編一本くらいはありかねない。なお、コークスペンで書いてしまっていたため隠滅不可能。
ひとまず机に封印して対処を考えなければ。そう思い、小首を傾げつつ予備の用紙をひらひらさせる担任に対し、浅間は両の掌を左右に振る。
「いえいえ!
「あ、そう?
言って頷きを作ったオリオトライが、はーい、と二拍鳴らして教室内に呼び掛けた。
「そろそろいいかしらー? 終わってないのもいるかもだけど取り敢えず一区切りね。──じゃあ浅間、大丈夫みたいだし、ちょっと読んでみてくれる?」
「うえええええええ!?」
容赦のないパスに思わず叫ぶ。同時に気付きを得、大丈夫ってそっちの意味に受け取られましたか──! と軽い絶望に浸る。
中身がバレているわけではないだろうが、皆は既に興味深々で浅間に注目している。どうにか外道共にだけは見られまいと、視線から隠すように用紙を胸に抱きつつ、公開処刑と大差ない鬼畜発表会を避けるべく孤軍奮闘を開始する。
「ち、違うんです! これ、これはその──実は作文じゃなくてですね!?」
「ほう──新説ね。じゃあ作文の授業中に一体なにを書いてたのかしら」
こ、これは──と言い募り、浅間はチラと件の危険物の中身に目を向ける。
控えめに言ってエロ小説なのだが、そんじょそこらのエロ小説とは格が違う。エロ小説にもジャンルがあり、ただエロを書き連ねた潔いものや、一定のストーリー性のあるものもある。
どちらかと言えば、浅間のコレは後者に該当する筈。
結ばれ。
繋がり。
育み。
寄り添い。
それはもう、おはようからおやすみまで。
タイトルは、私がして欲しいこと。
あえて一言で表すならば、これは──、
……し、しあわせ家族計画……!
浅間は決意した。かの暴虐邪智の外道共にだけは見られてはならないと──。
+++
あ、トーリ君は鈴さんのオッパイ揉んだら復活しました。
+++
早々に脱げた全裸が白のカーテンに覆われ、教卓の上に転がっていた。
鈴の必死の告白に、長の決断によってホライゾンを救いに行くという意思だけは成されたが、状況は手詰まりと言っていい。むしろトーリに関しては、手詰まりであることを理解している事実に関心される始末。
結果として選ぶのは丸投げだ。あるいは、いつもの彼のように。
「臨時生徒総会を開く」
そう言葉を放ったのはシロジロだ。
総長連合と生徒会の権限は凍結されているが、父親が所属する暫定議会の思惑として、副会長である正純には権限が残されている。それを利用した不信任決議を通じ、なんやかんやで正純を味方に引き込むことが、数少ない逆転の目だ。
昨夜の様子の限り、それが不可能でないことは皆理解している。──ただし、感情においては、と付くが。
正純は生粋の政治系だ。感情よりも利益や国益を優先した、間違いのない判断を必要となることもある。
更には、現状この場にいない面々も重要だ。
その者らの状況を、ハイディが皆に伝える。
「東君とミリアムは"警護"されてて、まぁあっちは気にしないでって連絡来たからいいとして。──ミトは騎士階級で会合、マサも機関部で似たような感じかな。で、爆発物あらため伊吹君は自宅待機という名の実質的な外出禁止、と」
彼ら彼女らの選択如何で状況は変わる。
──騎士がいなければ戦い抜くことは難しく。
──機関部が仕事をしなければ武蔵は飛べず。
──伊吹の許可がなければ自動人形はやる気が起きない。
最後だけやたらファジーに狂っていたが、概ね事実であるというのがより酷い。
伊吹自身は"総長補佐"として一応は役職者級の権限を持ってこそいるが、それだけだ。権力者としての立場としてはそれ以上でも以下でもない。
しかし彼は生まれながらにして武蔵の自動人形から主人設定を受けており──それ自体は特殊な事例過ぎたため、聖連からは渋々認められた。が、問題は権限の有無に関わらず、実質的に彼女たちを好きに動かすことが不可能ではないということだ。クソッ! そんなのエロいことやり放題じゃねぇかよ! とか勝手にキレた馬鹿が報復に遭ったりしたが、まぁ昔の話だ。
無論、それだけで武蔵そのものをどうにかできるわけではないが、ともあれ一種の爆弾であることには違いなく、存在がかなりアウト寄りのグレーゾーンなので敵にも味方にも厄介極まる。
とはいえ爆弾は爆弾でも今は時限爆弾なので、いざという時に自分が巻き込まれてさえいなければそれでいいのでひとまず横に置く。
「つまりこの臨時生徒会で、我々は決断することになる。ホライゾンの、武蔵の、極東の、そして我々自身の行末を、だ。全員、よく考えておけ。考えるだけなら
それに皆は、それぞれ神妙に頷きを作って見せる。
「私の話は終わりだ。さて、なにか言うことはあるか、そこの馬鹿」
結果的に金になるらしい話はそこそこに、シロジロが一言を促した。
ああ、と応じたキメ顔のままトーリが起き上がる。いつの間にか彼はカーテンを腰回りに巻き付け直しており、それをスカート状に纏いつつ教卓に仁王立ちする。オリオトライの視線が若干険しくなったが、皆は皆で、この男に下半身は隠すものという文明が存在した衝撃の事実に戦慄していた。
そのままトーリはゆっくりと皆を見回し──勢い良く腰下のカーテンを捲り上げてはスカートの端を一息で纏めあげ、上半身を包み込むかたちで一気に頭部の頂点まで運ぶ。いわゆる茶巾の形状を器用に作って見せた。
彼は隠すものがなくなったモザイク入りの股間部分をおっぴろげたまま、籠もった声でしかし威風堂々と、
「んん──にっく、ま──ん!!」
+++
「──うん? 今なにか聞こえたか……?」
シャワーから出た正純は、濡れた髪にタオルを当てながら呟いた。
微かにだが破砕音というか、ソニックブーム的な衝撃音が届いたような気がしたからだ。
まぁ、やはり気のせいだろう、と意識から消し去る。事実だったとして、武蔵ではよくあることだ。最近は慣れた。同時に、些細な物音や現象に意味や答えを求めている今の自分に気付き、
……自分では覚悟していたつもりだったんだが、やはり堪えているのかもしれないな……。
今朝、ホライゾンの自害の告知が成された。
思い返すのは、昨夜のこと。ホライゾンをそのまま引き渡すよう皆に言ったのは、自分だ。こうなることは予想出来ていたし、あの時の現場にいた連中のうちにだっていた筈だ。
純粋な政治系は己だけだから、と判断を信頼されたわけではないだろう。ただ、誰も彼もがどうすればいいのか解らなかっただけだ。その結果の今だが、正純は自身の判断は間違ったものではない筈だと、言い聞かせる。
……あの状況では、誰も救われない。
端的に言って
そして武蔵には、それに対して力押しが通せるほどに権力や国力は強くはない。
だが聖連とて一枚岩ではない。当然のように各国の利益や思惑が付いて回る。
必要なのは建前というか、いわゆる免罪符。ナルゼや伊吹などがよく使う手だ。
「読者はエロを求めているのよ!」
「つまり多数決によって光の勢力であることが確定した俺は、智を揉むことがむしろ正義。覚悟しろ悪の女幹部め……!」
──結果キチガイはボロ雑巾みたいにそこらに転がっていたのを見たが、悪の女幹部というフレーズが気に入ったとかで入稿は間に合ったらしい。
参考するには危険な記憶が出てきたため軽く額を抑えつつ、正純はソファーに腰掛ける。
眼前の机の上、一枚のメモ用紙がある。
──それは、ホライゾンを救うための手立て。
考えつく限り、帰ってからずっと書き出していたものだ。
シャワーを浴びに行ったのも、煮詰まりつつある思考をクリアにするための部分があった。
正直、出し尽くした感覚はある。
それでも、
……本当に、これでどうにか出来るのか……?
他に方法があるのではないか。自分のこれはむしろ状況を悪化させるだけなのではないか、と
なにより信じられないのが己自身だというのは、皮肉だ。
……皆は、ホライゾンを救おうとしているのかな。
思った瞬間、
「──っと」
手持ちの携帯社務が連絡を知らせて来る。
「正純だな? ──先程通報があった。今、教導院で学生たちの反抗が生じたそうだ。理由は、お前に対する不信任決議だそうだ」
それは、ホライゾンを救うことを皆が選択したと、そういうことだ。
不信任決議でこちらを釣り出した上での臨時生徒総会。そういえばそんなのあったな、と正純は思う。基本的に信頼出来ても信用は出来ない連中ばかりなせいで、完全に存在を忘れていた。
「悪くない手だ。お前の権限は残ったままだからな。そのように手を回したのはなにを隠そうこのわた──チィッ! 耳聡い奴らめ! コホン……我々だがな」
なんだかあちらが賑やかな気もしたが、正純は聞かなかったことにした。
「それで、私が交渉ですか」
「現在の主流は学生だ。なにより武蔵の学生に年齢制限を課したのは他ならぬ聖連なのだから、軽挙のひとつやふたつは想定内だろう。ゆえにこそ、彼らだけではどうにもならんだろうがな。今代の総長連合及び生徒会は歴代でも特に──ああ、かなり極め付きのアレではあるが、彼らは政治というものが解っていないな」
極め付きのどれであるかは知りたくないのでスルーしたが、正純は自身の父の語り口に、まるで皆のなかに政治に明るい者がいればどうにかなるとでも言うような、そんな感覚を得た。
気付けば己は手元のメモを握り締めている。今までずっと向き合っていたそれを。
大義名分がないから、昨夜はあのような形で終わった。ならば
否、と思考を追い出すように頭を振る。
そうなった場合、起こり得るのは全面戦争だ。
──世界が敵に回る。
武蔵は餌として上等だ。多くの国がこちらを絡め取ろうとしてくるだろう。武蔵や住民に被害が出ることも当然考えられる。
その選択はあまりにも、危うい。
「当然理解しているだろうが、暫定議会は武蔵の移譲を推し進める方針だ。聖連に逆らうなど所詮は子供の考え──痛っ、オイ貴様ら! ひとの頭をポンポン叩くな!」
……これ、一端切った方がいいんだろうか。
思わず頷き掛けた矢先、向こう口から打撃音などが聞こえた結果。
ふと、初めて聞くような。あるいは忘れてしまっている程、酷く懐かしく聞こえる音で、声が来た。
「正純──私たちのせいにしてしまえ」
……それは。
なにせ、父は昨夜の場にもいたのだ。なぜいたのかは知らん。だが、正純がホライゾンに対してどういう感情を思うであろうかは、容易に想像出来ることだろう。そのうえで権限を残し、しかし同時に暫定議会としての意を伝える。
免罪符で、逃げ道だ。
それでも、喉から手が出る程に欲しかったのは、
思っていたより大事にされていたのかもしれないという気付きはあるが、同時に今、なにか出来るのはやはり自分なのだと、期待されていると考えてもいいのだろうか。
だとすれば、実に勝手だ。
勝手だが、今はそれに悪くない感情を持てる自分がいた。
見てはならないものを見てしまった系の言葉にし難い感覚は未だ拭えないものの──昨日得られたものは無駄ではなかったと、実感としてそう思える。
それは伊吹や武蔵のお陰で、後悔通りに行くことを勧めたナイトやナルゼのお陰で、彼らがそのように動く起点になったらしい馬鹿がいる。
言った。
「いえ──私は武蔵の副会長ですから」
そうか、とも、そうだな、とも取れる呟きが聞こえた。言葉の裏を読みたがるのは、やはり似たのだろうかと思うと、少し可笑しい。
やがて来たのは、昨日までの自分がよく知る、感情の籠もらない怜悧な声色で、
「こちらの意向は既に伝えた。……私個人が言ってやれることがあるとするならば──どのような結果であれ、
「──Jud.」
背を押されたのだと、こちらも勝手に思うことにする。
……行こう。
メモの中身は、全て頭に入っている。
+++
武蔵アリアダスト教導院前、橋上。
相対するように立つ、いくつもの影がある。
階段側に立つ姿は三つ。名目の議題となった当人でもあり、政治系の代表、本多・正純。そして道中で合流した、武蔵騎士階級代表、ネイト・ミトツダイラ。及び機関部代表、直政。
後者ふたりは、教導院側の主張や真意を問い質し、確かめることが目的でもある。
聖連の意思に反旗を翻すというのは戦争へ第一歩。
人的被害はなにより避けたいし、そもそも戦う力があるかも不明瞭。ゆえに立場としては聖連側だ。
対する教導院側。昇降口前に集った梅組連中から前に出た先、待っていたとばかりにシロジロがおり、
「……なんだい、その、アンタの側に転がってるトーリみたいな──面倒だからもう言うわ。一体なにさ、そこにある邪魔臭いケツは」
彼の足元には、頂点を固結びにされた茶巾がボロ雑巾の如く転がされていた。若干ヤバい感じに痙攣していたが、下半身丸出しなために振動で震える尻の姿が非常にウザい。無駄に張りと肌が綺麗なのが地味に精神を逆撫でしていた。
「く、臭くねぇよ! フローラルに決まってんだろ!? ああ!? ──ほら、恥ずかしがらずにちと嗅いでみ?」
恥ずかしい存在は渾身の蹴りで沈められた。
「ただの肉まんだ。ああ──今は小籠包かもしれん。中で少々、汁がな。まぁ余り気にするな」
言葉に大きめの痙攣で応えた元肉まんの姿に、ええ……、と全員ドン引くが、あれに構っていては話が進まないなと放置することで一致を得た。道中の会話で結構ノリノリなテンションであることが発覚した二名に左右を挟まれ、不思議と従えるような形になった正純が、内心軽くビビりつつも言葉を作る。
「あらためて、挨拶を──」
正純が片手を掲げる動きとともに言おうとしたところに、音が届く。
階段を昇ってくる音だ。荒々しさはなく、むしろ静謐といえる様子で、それでいて不思議とその足音が響いて聞こえた。
──皆の視界に姿が来る。
漆の髪。
はだけた肩、反射する義腕。
表情の薄い
いつもの姿。いつもの彼だ。表情少なで感情豊かで、煽る時には特に笑う、皆のよく知る。
皆の安堵の息が漏れた先、ゆっくりとした足取りはやがて停止を見せる。
えっ、と誰かが呟いた。
「伊吹君……?」
最初に戸惑いと疑問の声を上げたのは、浅間だ。彼女は両の目を見開き、己で確かめるように問うた。
「どうして──」
視線の先は当然、伊吹だ。彼の歩みは、橋上半ばで終わっている。
それは、道を譲った筈のミトツダイラや直政と同じ位置取りであり、正純の半歩後ろ。
──自分たちに相対する形だ。
「ま、そりゃあおめぇは
明るい声で言ったのは、トーリだった。
いつの間にか脱皮して全裸に戻った彼が、誰よりもホライゾンを救いたい筈の彼が、当然とばかりに頷いている。
向かい合った姿が、珍しく薄い笑みを浮かべ、それに応える。
「ああ──俺は、
──男同士、どこか解り合っているふたりの様子に、そんなんだからお前らしょっちゅうホモネタにされるんだよ……、と置いてけぼりになった連中が内心でこき下ろしていると、やがて誰かが、
「……なぁ、これって」
気付いた。
皆、顔を見合わせては若干の汗をかきつつ、しかし心に抱いた気持ちはひとつ。
それは、
──武蔵のパワータイプ上位三名が全員敵になりやがった……!
ヤバい。
真っ先に敵に回る主人公がいるらしい。
おまたせ
しかしⅩ上中下で明かされた諸々の伏線やら情報の結果、三河争乱の重要度がどちゃくそ上がったんですがこれは……。
まぁ、なのでね、いっそね、開き直る的なサムシングで、こう、タグなんかにね、約一名ほどね、存在をぶっこんでみたりなどね?
全く関係ないけど丼モノって美味しいですよね。私は大好きですよ。いえ、特に、深い意味などというものは、ないのですが、ええ……。
はは。
ハハハハハハハハハハ!