境界線上の飛翼恋離   作:クーゲルシュライバー中尉

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咥えた肉と水面の肉
どっちも欲しい
配点(脳筋


道上の騎士

 女騎士からの要求に、皆はまずスクラムを組むことで対応とした。額を突き合わせた小声の中、皆が一斉に伊吹を見て、

 

「終わったな……」

 

 諦めの呟きに、待て、と伊吹が数度反復して抗議した。

 

「ここで俺を差し出したりしたら、ほら、あれだ。日に二度も負けて俺が超可哀想じゃないか。大体貴様ら──二度あることは三度あるという言葉を知らんのか。今から俺に優しくしないと後悔するぞ。いいのか? んン?」

 

「自身の黒星でここまで高圧的になれる人、初めて見ましたよ自分……」

 

 負けるの前提なんですね……、とアデーレが続けるのを、まぁ、とネシンバラが引き継いだ。

 

「実際、在喜君って身内の争いだと途端にポンコツ化するタイプだから、内戦で出すカードとしてはかなり微妙なのも事実なんだよね……」

 

 そもそも、

 

「騎士が僕ら民と相対しようとするの自体おかしいんだけど──、でもこれって相対かな? 聖連は"刃向かう無意味"を知らせるっていう前提がある以上、出場者の選択権は僕らにある筈だ」

 

 皆で首を傾げていると、じゃあ、とトーリが言った。

 

「直接訊いてみっか。──おーいネイト、なんかネシンバラがネイトの頭がおかしいって言ってんだけど、オメェ伊吹と相対してぇの?」

 

「うわぁ──! なんてこと言うんだ君って奴は……!」

 

 ネシンバラが馬鹿の両肩を掴んで揺らしていると、あちらにかなり睨まれたが、返事が来た。

 

「はぁ……。否、相対は関係ありませんわ。ただ伊吹にはちょっと──ええ、ちょっと一発入れておこうと。個人的に私の気が済まないと、そういうことですのよ」

 

 言葉に、皆はもう用は済んだとばかりにキビキビとした動きでスクラム解除。退路を塞ぐように整列し、伊吹の肩にそっと手を載せた。

 優しい目を向け、

 

「よかったな、負けにならないってよ!」

 

「よくないわぁ──!!」

 

 いいからいいから、と皆して伊吹の背を押し出すなか、笑みのトーリが言った。

 

「ネイトもああ言ってんだし、大丈夫だいじょーぶ! な? ちょっとだけ、先っぽだけだから、一発だけでいいから!」

 

 それ最後までいってるやつでは……、と皆して思ったが、黙っておいた。

 

 

+++ 

 

 

 向こうで何か酷いやり取りがあった気がしたが、発端は自分だという認識はあるため、ミトツダイラは見なかったこととした。

 そして相手は今、こちらの正面に姿がある。この場に立つ流れを強制された伊吹だ。

 そのあたり、多少は申し訳ないという思いもあるが、基本的に悪いのはあちらで、こちらには権利がある。

 

 とはいえ、生贄か何かのように突き出された伊吹を前に、どう話の流れを持って行くか。

 悩むミトツダイラを前にして、伊吹が一度深く瞑目した。数秒を置いて瞳を開いた彼は──滑らかな動作でこちらの足下に跪いた。そして上目遣いで見詰めて来たかと思えば、すぐさま目線を落とし、何かを堪えるような仕草を作り、

 

「くっ、殺せ……!」

 

 ……また何か始まりましたわね……。 

 

 思い、自然と半眼になっていると、今度は鋭くした視線がこちらを向き、しかし合わず、一段下げられ首から下へ。

 

「貧乳に屈したりなんてしない……!」

 

 望み通り殺してやろうかこの男。

 一瞬本気でそう思ったが、流石に今はマズい。殺るなら後で校舎裏(ウラ)だ。

 

 しかしどうにも、狂人の行動を理解出来ないのは自分だけらしい。周囲、無駄に盛り上がった連中が、

 

「おいおい伊吹の奴、姉ちゃんに負けて帰ったら絶好調かよ?」

 

「フフフ絶弟、花は嵐の後にだって咲くものよ。アイツ男だから蒔くのは種だけど」

 

「後半無視して続けますけど、しかしまぁ、なんでこう悉く負けヒロインムーブが似合いますかね彼は……」

 

「いやいやいや、誰であろうと男がやっちゃ駄目ぇ──。金髪巨乳ジャンルにのみ許されたシチュで御座るよアレは!」

 

「つーかリアル女騎士(みとっつぁん)相手に初手でくっころカマしてくとか、ブッキースゲーよ……」

 

 安全圏から鑑賞気分なのか、馬鹿の一味がやかましい。ミトツダイラが呆れていると、反応があった。

 連中に差し出された当人である伊吹だ。外道共の野次に、彼の表情が半目のセメント顔に変わり、あァ!? とチンピラ声で校舎側へ半身で振り向いた。勢い付けた動作のまま腕を振り抜き、あちらに掌側を突き付けると、彼はそれをゆっくりと握って見せ、

 

「馬鹿共め、精々今のうちに笑っておくんだな。──俺がワンパンで沈んだら、次は相対で貴様らがそうなる番だ……!」

 

 偉そうに言うことだろうか、と思っていると。彼は掲げた腕のまま、梅組メンバーを順番に指差していき、

 

「いいか──貴様も、貴様も、貴様もだ。全タテされる恐怖を思い知るがいい……!」

 

 そう言って脅しをかける狂人のオスに対し数瞬、ハッとした皆が声を揃えて、

 

「「いやそういうルールじゃねぇよ!!」」

 

 突っ込みに、あーはいはい、と勢いで勝ち抜き戦おっ始めようとした男が軽く手を振り、今度はこちらへ問うて来た。

 

「──よし、じゃあ次はどいつを血祭りに上げる?」

 

 あちらの背後で、うわぁ──! と悲鳴が上がった。彼の中で、まず本人が血祭りに上げられるの前提で言ってるあたりちょっと凄いが、こちらへの信頼だろうかこれは。

 

 捧げよ……、とか伊吹が煽っているが、放っておくとまた共喰い始めかねない連中だ。

 全く……、と。呆れもあるが、己の中の切り替えとして、溜息ひとつ。

 

「──いいですかしら」

 

 おお、と声と共に注目が来る。

 人前で、視線を浴びるのは慣れている。そういう立場だ。

 

「では……武蔵騎士団、並びに領主代表として、ここに宣言致します」

 

 言う。言ってしまう。言ってしまえ。

 視線は鋭く、言葉は強く。()()()()()()()()()()()()()()()

 迷いは見せない。己を隠すな。恥ずべきものなど、何ひとつとしてないのだから。

 

「私の相対は──既に、この場において無用のもの。そのように判断をすべきと、武蔵の騎士として、私はそう思いますわ」

 

 

+++

 

 

 ──ざわめきが煩わしい。ミトツダイラは素直にそう思った。構うものか、とも。

 

「──いいですの?」

 

 再び声を作る。

 こういった、己の内で作るリズムは結構大事だ。喜美達とバンド始めて得られた、気付きのひとつになるだろうか。

 

「たとえ武蔵側が勝とうと、聖連側が勝とうと──騎士の果たすべき誓いに変わりはありません」

 

 武蔵の民を守る──ただそれだけ。

 そして本来そのために、自分は相対戦にて負ける心算だったのだ。

 

 意味はある。

 ここで民に敗れれば騎士達はその権限を失い、やがて同じ市民となる。そして騎士階級を倒したとなれば、市民は権限を得て、革命の流れを作ることが可能となる。

 極東の歴史再現として、今の聖譜にそのようなものは存在しないが──その革命を経験した市民達は、武蔵移譲の結果、各国へと散る。行き着いた先で、そのまま帰化するとなれば。

 ──歴史再現における"革命の体験者"として、やがて来る革命の中心になれるのだ。

 もし武蔵を去る結果になったとしても、武蔵の民に価値を持たせ、行き場を示してやることが出来る。

 それが領主として、領民にしてやれる最後のこととして。

 

 仮に武蔵側が勝てば、戦争の道。更には騎士という戦力の存在が、聖連への敵対感情を煽る可能性もあった。

 故に、民の安全を第一とした場合、やはり降伏すべきだと。それが騎士連盟の結論だ。

 ミトツダイラもそれに納得した。

 していたが、

 

 ──あるいは、切っ掛けと、そう呼ぶべきものがあるとすれば。

 やはりあれだったのだろうと、ミトツダイラは最初の相対を想う。 

 トーリは、武蔵の苦難を厭わず。ただホライゾンを、大事なひとを求めて。

 なにもかもが大事な伊吹は、新たな喪失を得ないために。一度は失われ、しかし帰って来たひとを、諦めようとした。

 

 同じだ、自分達と。

 同じなのに。

 同じで──いいのだろうか。

 民を守るべき騎士がそんな様だから、彼はこちらを頼ろうとせず、己独りで動いたのではないのかと──自惚れだとしても、ミトツダイラには思えてしまえて。

 

 騎士団として、ホライゾンを救うことの何が問題か。 

 それは、聖連の戦争となった際、騎士や従士だけでは武蔵上の全てを守り切ることは出来ないだろうという、戦力や数としての現実から来る。

 三十と一人。

 これが武蔵全土における騎士の数だ。

 しかし、それらは年配や、中、小等部。更にそれ以前ばかり。

 現役として存在するのは、己くらいなもので。

 

 つまり──ああ、

 自分だ。

 現役の自分が弱く、未熟で、頼りないから。

 背負わすことは出来ないと。気遣いや、諦めだとか、そういうことなのだろうか。

 だから──その気付きを得た瞬間から既に、ミトツダイラはこの場において、振る舞うべき己を定めた。

 

『我々騎士がいることで、聖連に逆らう意思を強めてしまうかもしれない』

 

 ……否。

 

『降伏こそが、民を守れる唯一の道』

 

 ……違う。

 

『それが、武蔵の騎士として領民に出来る、最後の──』

  

 ……黙りなさい──!

 

 臆病も、不安も、今は引っ込め。

 さぁ、強い私よ。騎士としての己を前へ。

 

「──いいですの?」

 

 言う。

 眼の前。

 彼。

 頭のおかしいひと。

 皆のことが大好きなひと。

 騎士()に守られようとしないひと。

 だからここからは力づくで。

 ──聞け。

 

「何かに願わずとも、誰かに求めずとも──騎士の魂は、必ず民を救いますわ……!!」

 

 頼られなくても、無理矢理手を取る。

 隣に行くし、引っ張り回す。

 背中だって預けるから、独りの道程なんて許さない。

 そう決めた。

 

 だから己の、今成すべきは。

 民に、

 仲間に、

 世界に、

 彼に、

 己の存在を刻み込むのだ。

 この身が騎士として武蔵にあるからこそ、なにもかもは守られるのだと。

 愚かな意地を、しかし貫き通せる狼であれ──。 

 

「その在り方を誇り、己の義務として。その果なきに浪漫を感じ、歩みを止めないことをこそ──騎士道と、そう言うのです」

 

 深い息。

 吸って。

 喉、自然と上向いて。

 澄んだ空、目を細め。

 犬歯の隙間、音が漏れ。

 

「る」

 

 声、震えが喉を通って。

 

「る、ぁ」

 

 ああ、出て来なさい。我が血、我が本能。

 

「ぁ、お──」

 

 吼える。

 世界を揺らす、声。

 原初の恐怖。

 

「おぉ……!!」

 

 ──我は銀狼。

 欧州の森は、恐怖の具現。

 

 故に畏怖せよ。己の敵となる意味を知れ。発声に力んだ拍子の膂力で木床を軽く砕き、そう思う。 

 この場の行いの結果──騎士としては、孤立するかもしれない。あるいは隣人は去り、昨日までの友人は距離を作るかもしれない。

 構わない──ではない。

 きっと大丈夫だと、そう期待してもいいことを、自分は知っている。

 

 だって。

 

 ……私はもう、救われていますのよ。

 

 だから私よ。

 こいにくるったおおかみ(小娘)よ。

 今この瞬間は、最強であれ。

 

 ああ、とどのつまり、

 ──文句があるなら掛かってこいと、そういうことですのよ?




 続きはほんの少々お待ち下さい。

 主な原因はヒロイン勢の肉食化が止まらないせい。文字数が増えた結果時間が足りない。末世には勝てなかったよ……。
 
 それはそれとして、本編完結からソッコでEDGEとNextBoxの投稿が始まって戦慄してますが、思兼で八意な図書委員長とか貴様マジかよ。可愛い。GENESISは神との距離が遠いようで近いので、どっかのタイミングで何かに組み込めないかと、マーそんな感じに。
 
 それでは今年最後の日、皆様良いギャグに厳しい末世解決ライフを。
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