掌握 ~アメリア・ポッターとホグワーツ魔法魔術学校~ 作:カットトマト缶
01-01 アメリア・ポッター
この年の新入生は、多くの在校生、および教師から大いに注目を浴びていた。というのも、今年はかの有名なトム・リドルの一人娘であるダリア・リドルが入学するからだ。現魔法省大臣の娘は父母に似て、幼いながらも美しい顔立ちをした少女だった。父譲りの赤みを帯びた瞳が、妖しくも美しい。
ダリアの名前が呼ばれ、彼女が生徒たちにその顔を見せる。薄く笑みを浮かべ微かに観衆を見下ろすその様からは、彼女の尊大な性格を伺い見ることができた。組分け帽子を頭にかぶって間もなく、組分け帽子はその声を張り上げた。
「スリザリン!」
スリザリン生は当然だと言わんばかりに勝ち誇った表情を浮かべ、他寮生も結果などわかっていたはずなのに少し残念そうな顔をした。ダリアは涼しい顔をして、既にスリザリンに組分けされていたレギュラス・ブラックの隣に腰を下ろした。並ぶ二人は絵になるほどに美しい。
レギュラスは、隣に腰を下ろしたダリアに言った。
「やっぱりスリザリンでしたか」
「当然よ。他にどこが相応しいと言うの?」
ストレートの艶やかな黒髪を、撫でるように後ろへ流してダリアは言った。父も母も、誇り高きスリザリン生としてこの学び舎で育ったのだ。スリザリン以外考えられないわ、と。続けてダリアは同級生の残りの組分けを見ながらレギュラスに尋ねた。
「そういえば、シリウスはどこ?」
「あそこですよ。隣にいるのがジェームズ・ポッターでしょうか」
「はしたなくはしゃいで。見苦しいわね、グリフィンドールは」
「本当に、」
忌々しい。そう言うと同時にマクゴナガルが呼んだ女生徒の名に、大広間はざわざわとした騒がしさがなくなって、ひそひそとしたどことなく落ち着きのない空気に包まれた。
「ポッター・アメリア」
壇上に上がったのは、ウェーブのかかった長い髪をゆらす可愛らしい少女だった。ダークブラウンの髪がふわりと揺れて、パチリと開いた目から覗くヘーゼル色の瞳がキラキラと輝いている。桃色の唇はゆるく弧を描いていて、やや歳不相応な大人っぽい笑みが、容姿の可憐さとミスマッチなのに妙に魅力的だった。彼女がポッターであると聞いて見てみると、なるほど確かにその笑みはジェームズ・ポッターとよく似ている気がする。
スリザリン生はあのポッターの妹かとどこか嫌そうな顔をし、他寮生はやはりグリフィンドールだろうなと思いながら、その少女の組分けを見守っていた。しかし彼女は多くの生徒、教師の予想を裏切った。
「スリザリン!」
シーンと大広間が静寂に包まれた。本人も少し目を見開いて驚いていたようだ。しかし、すぐに納得したのか諦めたのか、椅子から降りてスリザリンの席に足を向けた。彼女が足を踏み出したその瞬間に、大広間は爆発したかのように騒がしくなった。それも当然だ。グリフィンドールを代々輩出してきた旧家ポッターの人間が、まさかスリザリンだなんて。
「ポッターの人がスリザリン……?」
「ブラックといいポッターといい、おかしなことがおこるもんだ」
「ミス・ポッターは『逆に』血を裏切る者なのかしら」
そんな声が所々であがる。当人はそんな声を無視して、ニコニコとスリザリンの席に着いた。スリザリンの誰も、彼女に話しかけようとしない。グリフィンドールの方からジェームズ・ポッターとシリウス・ブラックが騒いでいる声が聞こえたが、レギュラスはそれも無理のないことだとすら思った。彼女は、明らかに浮いていた。
「信じられない、誰よりもグリフィンドールが似合いそうな女が……」
ダリアがアメリア・ポッターを見て呟いた。ダリアは苦々しげに彼女を睨んでいる。スリザリンの血を父と母のどちらからも受け継いだダリアは確かな選民主義者で、グリフィンドールの血を継いでいるとさえ一般的に思われているポッター家の人間を、スリザリンに受け入れることができないようだった。
ダリアは食事中、一人で食事をとるアメリア・ポッターを睨み続けていた。
* * * * * * * * * *
自分がスリザリンに組分けされるだろうことを、アメリアは何となく察していた。むしろスリザリン以外にどこが相応しいのか、疑わしく思ってさえいたのだ。血には抗えないのだろうかという思いがあったが、どうやら思い違いらしい。
アメリアの左右には、見事に一人分の空間が空いている。やはりスリザリン生と仲良くするのは、難しいことなのかもしれない。それほど、ポッターといえばクリフィンドールだという考えが、皆の中に出来上がっている。アメリアはこっそりとため息をついた。
友人がいないのはとても心許ないし、虐められたりしたらどうしようとさえ思うが、アメリアが今考えなければならないことは、実はそんなことよりも他にあった。そう、兄にどう言えばいいのかということだ。あれほど一緒にホグワーツ生活を楽しみたいと言っていた兄に、申し訳ないという気持ちがしてくる。どうか絶縁だけは避けられますようにと祈るばかりだ。
食事をとっている間、周りのスリザリン生たちを安心させようと思ったアメリアは、とりあえず笑みを絶やさないようにした。笑顔をつくることで「敵意はありませんよ」とアピールしてはみたが、残念なことに効果はちっとも無さそうだった。
夕食が終わり、校長が注意事項などを言った後、校歌を歌って就寝となった。しかしその前にひと仕事ある。広間を出ようとしたとき、アメリアは大声で名前を呼ばれた。名前を呼んだのは、当然兄のジェームズだ。
「アメリア! どうして君がスリザリンに!」
「ジェームズ……」
「何かの間違いだ! 一緒にダンブルドアのところへ……」
「ごめんジェームズ」
息巻く兄の言葉を遮る。周囲の人々が注目しているのを感じた。けれどアメリアは、その数多の視線に怖気づくことなく、堂々と言った。
「私は組分けに不満なんてないよ」
「……は?」
ジェームズは目を見開いて、なんてことを言うんだ、という顔をした。しかしその言葉は、アメリアの本心からの言葉だった。
ジェームズの後ろにはシリウスがいて、アメリアの方をいぶかしそうにうかがっている。アメリアはそんなシリウスにニコリと微笑んでから、もう一度ジェームズの方に顔を向けて言った。
「むしろ幸運なことだと思うんだ」
「アメリア、いったいどうしたんだい? 誰かに呪いでもかけられたの? 頭がどうかしちゃったのかい?」
「だってね?」
アメリアはジェームズの目をまっすぐ見た。
「私はジェームズからグリフィンドールの良いところをたくさん聞いて、グリフィンドールが温かな人たちでいっぱいだということを知っているし、そしてそれは、これからも知ることができる。でもスリザリンにも確かに良いところがたくさんあって、素敵なところがたくさんあるはずなんだよ。……私はこれからそれをたくさん知っていきたいんだ」
「スリザリンの良いところだなんて、そんなの――」
「私が知ったスリザリンの良いところ、今度は私がジェームズに教えてあげる」
そう言ってアメリアは出来得る限りの笑顔をジェームズに向けた。ジェームズは何か言おうとして、けれど言葉が見つからなかったのだろう、俯いたと思ったら頭を掻き毟ってアメリアの肩をつかんだ。
「そこまで言うならわかった。でも、虐められたりしたらすぐに言うんだよ!」
「ふふっ、ありがとうジェームズ」
それじゃおやすみ、と言ってアメリアはジェームズと別れた。
アメリアの言葉を聞いていた他の寮の生徒たちは、アメリアへの印象を改めたようだ。純血主義だろうかと疑っていた人たちは、アメリアの底抜けに明るい笑顔を見て毒気を抜かれたような心地になった。監督生に連れられて地下へと向かうその背中を、温かな目で見送った。
しかし、それでも彼女がスリザリンで浮いていることに変わりはなかった。スリザリン生の一行から距離をとられているその小さな背中を、ジェームズは心配そうに見送るのだった。