IS〈インフィニット・ストラトス〉宿命を変える奇跡の双騎士 作:《陽炎》
拘束された俺は、そのまま地下牢へと幽閉された。何故牢屋などが学校にあるのか疑問が沸くが、特に知りたいとも思わない。俺みたいな侵入者をこうして捕らえた後に幽閉しておく物だろう。こんな所、普通の人間が放り込まれる場所ではないからな。
「……………」
光も音も無い静寂の暗闇、あの頃を思い出しそうで嫌な気分だ。悲劇の復讐者も押収され幽閉され整備も出来ない、気を紛らわす事も無い。今まで時計も何も無い部屋で過ごして来たので大体の時間の経過はわかる。かれこれ6時間程は経過している。
『……誰か来たのか』
コツコツと聞こえてくる足音、誰かが此処に来た事を証明する音が耳に入ってくる。
「着いてこい。お前に聞き事がある」
来るなり牢の鉄格子を開け、そう俺に告げたのは織斑千冬。ブリュンヒルデと呼ばれた世界最強のIS操縦者。そして俺が此処に来た最大の理由とも言える人物だった。その言葉を拒む事もなく、俺は言われる通りに後を着いていった。
「まぁ、取り敢えず座れ」
言われた通りに席に着く。連れてこられたのは先程の牢屋よりはマシだが机と椅子以外殆ど物がない殺風景な一室だった。
「此処は懲罰部屋でな、規則違反をした生徒に過ごさせる部屋だ。此処なら生徒達も近付かんからな」
懲罰部屋か、確かにそんな部屋に好き好んで近付く生徒など居ないだろう。聞いて納得した、道理で殺風景な部屋の筈だ。
「さて、本題に入るか」
その一言と同時に雰囲気が一変する。成る程、これがブリュンヒルデと称えられた人間が放つオーラという物か。並大抵の人間ならこの雰囲気に物怖じしてしまうだろう。
「これは貴様のISだな?」
「……」
その問いに俺は黙って頷く。待機状態の悲劇の復讐者がポケットから鎖部分を持ち出されて、ユラユラと空中で揺れている。
「貴様、これを何処で手に入れた?」
「……ISの違法研究所だ」
「なに?」
俺の問いに表情を険しくする。この答えを聞けば当然の反応だろう。
「その話、詳しく聞かせて貰うぞ」
正直あの過去の話は余り話したくはないが、話さないという選択肢は目の前の存在には通用しない。
「……わかった」
話す事にしよう。俺が伝えられる情報を、そして……あの話も。
「……以上だ」
非合法の実験内容等、重要な件を掻い摘まんで、大方の事は話した。
「そうか……」
淡白な返事だが、その表情に隠しきれない感情が滲んでいた。今の話を聞いて憤りを覚えたのだろうか。その厳しい表情からは余り汲み取れない。
「お前の事情はわかった。では、今度は此方の要件を話させて貰う」
話の主導権が向こうに移る。
「お前には、IS学園の生徒になってもらう」
「……成る程」
別に驚く話ではない。現状公にされている男でISを動かせるのは織斑一夏だけだ。俺は奴に次ぐ2人目のイレギュラーだ。だが、奴と俺とでは違う点がある。奴と違い俺は存在が公になってはいない上に、非合法の実験でISを動かした可能性が大いにある。そんな俺が軍や国に捕らわれれば……実験材料に逆戻りする可能性が高い。だからこそ、此処ならばその可能性が一番少ないと踏んで此処へ来たのだ。
「学校か……」
想定していなかった訳ではないが、まさか本当に生徒にされるとは……産まれてこの方まともな人生を送った事などない、学校に通った事などある訳もない。勉学なら実験の一環として叩き込まれたので学力に不安要素は余りないが、もう長年人と会話をした事がない。コミュニケーションに激しく不安がある。ましてや此処は実質女子専用の学校だ、同世代の異性と会話などした記憶がない。
「悪くない話だと思うぞ。此処に入れば3年間は安全だ。此処の生徒には国や企業は手出しは出来んからな」
色々と不安も募っているが、この話を断るつもりなど端からない。帰る場所もない、行く宛てもない、家族も……
「……わかった。此処の生徒になろう」
問題は山積みだが、これで3年間は住む場所はなんとかなった。
「そうか。なら、直ぐに手続きをしなければならんのだが……」
早速問題が浮上する。そう、俺は名前さえ無い。戸籍も存在していない。それは先程説明する際に伝えた。最も、この解決策なら一応ある。解決するかは別としてだが。
「所で、貴方は俺がISを動かしたのは偶然だと思うか?」
「突然なんなんだ」
突拍子もなく俺がISを動かせるのか?を問うと、「いきなり何を言っている?」という態度をあからさまに出している。
「俺は偶然だとは思わない。経緯が違うとはいえ、奴が……織斑一夏が動かしたのなら、俺が動かせても可笑しくはない」
俺は構わず話を続ける。これほどまでにと、過ごした人生が異なる俺と奴だが、男でISを動かしたという共通点の他にも共通する点がある。俺にとっては喜べない物だがな。
「なにせ、奴と俺は……」
この言葉を聞いたら貴方はどんな反応をするだろうか?驚くのか、喜ぶのか、怒るのか、それは俺にはわからない。俺が知った時は最初呆然としてたな。ふと思い出す、ISを動かしたあの日目にした書類をの内容を。
調査結果
実験体0号は男で初めてISを動かした織斑一夏と
「双子、なんだからな……」
双子と断定する。そう書類に記されていた。つまり、俺も貴方の弟なんだよ。
『姉さん……』
声に出さない呟きは心の中で何処にも響く事なく静かに消えて言った。
「……何を言っている」
今こいつは一夏と双子だと口にした。私の聞き間違い等ではなく確実にそう耳に入ってきた。確かに一夏と同じくこいつも男でISを動かしたイレギュラーだが、だからと言って一夏と双子だと?そんな訳がない。一夏の双子の兄弟、私のもう1人の弟は産まれて直ぐにこの世を去ってしまったのだから。
「冗談でも笑える冗談と、笑えない冗談がある」
今の発言は当然後者だ。質が悪いにも程がある。
「まぁいい。取り敢えず今日は休め、これは返しておくぞ」
手渡したISをこいつは黙って受け取る。その顔は先程までと異なり何処か悲しみを帯びていた。
「今の発言が冗談かどうかは、これを見てから判断して欲しい物だ」
そう言ってこいつが自身のISから量子変換されていた物をコールする。コールされたのは、厚さが2cm程で、ファイル程の大きさの箱の様な物体。これには見覚えがあ。数年前に開発された物で、重要書類をこれに保管し、保管したこれを量子変換してISに保管、二重の意味で保管する金庫みたいな物だ。まぁ、売れなかった物なので私も久しぶりに目にした。取り出した金庫の暗証番号を直ぐに解除すると、書類の束を取り出していく。
「それで、休むにしても俺は何処に向かえば?」
「あぁ、そうだったな。部屋までは他の者が案内する」
「そうか、出来れば直ぐにでも休みたいんだが」
「……ちょっと待っていろ。迎えを呼ぶ」
連絡を取る為に携帯を取り出す。おかしい……何故だ?こいつを……他人とは思えない。こいつの醸し出す雰囲気……何処か見覚えがある。何ともいえない違和感を心に覚える。
『まさか……本当に』
こいつの話が本当だとでも?いや、そんな訳がない。そう心の中で結論付けて電話を掛けた。
『やはり……信じてはもらえないか』
いきなり現れた俺が貴方の弟だと言っても誰も信じるとは思っていない。そんな事はわかりきっていた事の筈なんだがな。何故だろう、少し虚しさが産まれてくる。
「はい、それでは」
書類を取り出し終えると姉さんも電話を終えた。
「迎えならば、もう直ぐ来る。それまで少し待て」
「そうか、なら取り敢えずこれを」
取り出した書類の束を姉さんに渡す。これを見れば、俺の言う事が冗談やまやかしの類でないというのはわかるだろう。
「これは……」
手渡した書類の束をパラパラ読み上げていく。
「っ!?」
パラパラと書類を捲っていた姉さんだが、とある書類を目にした途端に驚愕する。
『そ、そんな……』
恐らくIS学園の教師や生徒が今の千冬を見れば驚くであろう。しかし千冬の驚きはそんな物ではなかった。
世界最強のブリュンヒルデと称えられた織斑千冬がここまで驚愕を露わにする、そんな内容がその書類に書き留められていた。
コンコン
そんな最中、ドアをノックする音が部屋に響く。
「織斑先生、轡木です」
「あっ、はい……ただいま」
戸惑いを隠しきれないまま返答を返す姉さん。
「織斑先生、どこか具合でも悪いんですか?」
「いえ、大丈夫です。少々疲れてるだけです」
「そうですか」
だが直ちに平静を装う。これもブリュンヒルデのなせる技なのだろうか。
「君が例の男子ですね。私が君の案内を任された轡木十蔵です。よろしくお願いします」
「えっ、あっ……よ、よろしくお願いします」
迎えに来た人物は年老いた男性だった。総白髪と年相応に顔に皺が刻まれている。初対面の俺でも、丁寧な物腰と柔和さを感じさせる人柄は親しみやすさを覚える。思わず返事がどもってしまった。
「それでは部屋の方に案内します。付いて来てください」
「は、はい……」
こんな丁寧な対応をされたのは産まれて初めてだ。どんな風に返事を返したらいいのかわからない。戸惑いながらも轡木さんに付いて部屋を目指した。
「……………ふぅ」
轡木さんがあいつを連れて部屋を出て行った直後、私は崩れ落ちる様に椅子に座る。この書類に書かれている内容、もしこれが本当ならば……
「織斑先生、山田です」
ドアをノックする音が再び聞こえる。来訪者は山田先生か。
「あぁ。入ってくれ」
「はい、失礼します。……織斑先生どうかしましたか?」
動揺を隠しきれていなかったのか先程と同じく指摘を受ける。
「いや、何でもない。少し疲れているだけだ」
「……そうですね。いきなりISを動かせる男の子がまた現れたんですから」
疲れているのは嘘ではない。山田先生の言う通り、侵入者がISを動かせる男子と判明してからというもの教師一同てんやわんやの状態だ。一夏の件がやっと一段落したかと思った途端にこれだ、疲れもする。
「……………」
どちらにせよ、この書類を見た以上は調べる必要がありそうだな。
「織斑先生?本当に大丈夫で……」
「すまない山田先生、急用が出来た。例の生徒の手続き後は任せたぞ」
「え?えぇっ!?おっ、織斑先生ー!」
書類を手に千冬は、山田先生の叫びが木霊する懲罰部屋を後に急いで書類に記されている内容を調べに向かう。一方、1人放置された山田先生は仕事が増えた事にうなだれるが、誰も慰めてはくれず、とぼとぼ歩いて押し付けられた手続きをしに職員室へ戻るのだった。
「着きましたよ」
部屋へと案内されていた俺は今その場所へ辿り着いた。轡木さんが木目調のドアを開けて入るのに俺も続くと、そこには今まで見たことのないような空間が目の前に広がってきた。
『な、何だこれは……』
「いやはや、急な事でしたが、なんとか1部屋用意出来ましてね。今日から此処で過ごしてください」
高級ホテルにも引けを取らないIS学園の寮、ふわふわモフモフのベットを筆頭に充実している家具や設備が特徴。しかしこの部屋は他の部屋とは違いベットや机等は1つだけであり、その質も何段か落ちている。それでもこの部屋は、今までの少年の過ごした人生からすれば余りに縁遠い物の数々だった。
「どうかしましたか?」
「い、いえ……余り凄い部屋なので……」
「はははっ、此処も本来は懲罰部屋の一つでしてね。本来は生徒が過ごす部屋ではないのですが、今回は急な事でしたので暫くはこの部屋で過ごしてください。いずれは君の部屋を用意しますから」
「は、はい。わかりました」
これで生徒が過ごす部屋じゃない?どれだけ本来の部屋は凄いというんだ、贅沢過ぎるぞ。それにしても、何故だろう、この人相手だと心が穏やかになる。この感覚……何処か懐かしい。
「疲れたでしょう。シャワーを浴びたりしてゆっくりしてください。必要な物は最低限用意してありますから」
「はい……」
「それでは、私はこれで……」
そう言って轡木さんは部屋から去っていった。取り敢えず、汚れを落とすか、とシャワールームへと向かう。
「こ、これは……」
洗面所兼脱衣所に入った少年は直ぐにシャワールームの扉を開けて内部を確認する。有るのは備え付けのシャワーにシャンプー等必要な物はあらかた揃っている。
「これが普通の風呂の設備なら、今まで俺が使っていた風呂はなんだったんだ……」
差し詰め巨大な人間用洗濯機と言った所だろう。
「……取り敢えず入るか」
これでは入り方もわからないが、取り敢えずISスーツを脱ぎ捨て、包帯を取り外してシャワールームに入る。このレバーを回せばお湯が出るのか?
「おぉ……」
捻ると湯の雨が降り注いできた。温度も丁度いい加減だ。そのまま吹き出してくる熱い雨を浴びる。
『で、どうやって体を洗えば……』
一応シャンプー等はあるのだが、使い方がわからない。何せ今まで洗濯物みたいな入浴だったのだ、普通の風呂が理解できてないのである。少年にとってはシャワーノズルからお湯がでてる事さえカルチャーショックなのだから。
「これを使うんだよな……?」
探り探りで髪や体を何とか洗っていく。しかしシャンプーで体を、ボディーソープで髪を洗っていた事をリンスを流した後に気付いて、しまった……と悔いていた声がシャワールームに小さく響いていた事は誰も知らない。
「ふぅ……」
シャワーを終えてタオルで水気を拭き取っていく。コレが普通の入浴なのか、と納得しながら、タオルを全身に走らせる。髪は長いので水気を取るのに時間がかかる、なので途中で止めた。拭き終えた後包帯を巻き直してから、用意されていた着替えを着ようとしたのだが
「な、なんだこの立派な服は?」
用意されていたのは、何の変哲もないシンプルなデザインの普通のジャージ。しかしISスーツ以外ではボロ雑巾以下のボロボロな服しか着たことの無い少年にはジャージは初めて着るまともな衣服なのだ。まじまじとジャージを見回した後、ジャージを着てその姿を鏡で何度か確認したりしていた。その後は部屋をウロウロと見て回っている。
「これは……」
現在はベッドの感触を手で確認している。今まで土の上や床でしか寝た事がない少年にはベッドという寝具は未知との遭遇である。最も先程から何度も未知との遭遇をしているのだが。手探りで安全性を確認した少年は意を決してベッドに寝転ぶ。
「っ!こ、これは……!?」
産まれて初めて体感したベッドに寝転ぶ感覚。反発する床と違い、自分を包み込む様に受け止めてくれる、肌寒くなれば掛け布団がある、腕を枕にしなくても頭を置ける枕がある。
コンコン
ベッドの上で寝転がっていると、ドアをノックする音が少年の耳に入ってくる。
「……誰だ?」
「あ、あの、制服を持って来ました……」
どうやら教師らしい。そういえば学生は制服が必要だったなと思い出し、起き上がりドアへと向かう。
「……あ、君が例の男の子だよね。制服を持って来たんだけど……」
ドアを開けると、そこに居たのは小柄な女性だった。教師……なのか?
「あの……此処の教師、ですよね?」
「は、はい。そうですけど……それがなにか?」
「いえ、なにも……」
本当に教師だった。背伸びして大人の真似をしている此処の生徒かと思ったが、本当に教師とは……
「それで、制服は……」
「あ、はい。これが制服です」
そう言ってビニール袋に梱包された衣服を手渡される。……きちんと着れるかが心配だ。
「えっと、明日の朝迎えが来ますからそれまでは部屋で待機していてください。朝食は此方が持っていきますから。そういえば夕食は……」
「大丈夫です。もう済ませたので」
実際は食べて等いない。別に1日2日食事を取らなくても問題はない。さっさと休みたいのが理由だ。
「そうですか。あっ、そういえば挨拶がまだでしたね。明日から君が通うクラスの副担任の山田真耶です。よろしくお願いしますね」
「あ、はい。……よろしく、お願いします」
こういう丁寧な応対は慣れていない。今まで散々雑に扱われてきたせいだろうか?
「それじゃあ、おやすみなさい」
「はい……おやすみなさい」
そう返事を返してドアを閉めた後、寝る支度を始める。教科書や筆記具はさっき準備した。もう今日は休みたい。産まれて初めて床以外で寝るがどんな感覚なのだろうと思いつつ、歯を磨くかと洗面所に向かった。
夜空の星に照らされる世界、IS学園も例外ではない。その屋上では夜に匹敵する黒いスーツを纏っている織斑千冬がそこにいた。
「……………」
星空は嫌いではない。寝る前に見ていると心が安らぐ、しかし今日は全く安らがない。
「来たか……」
携帯の着信音が鳴る。掛けてきたのは普段なら出たくない奴だが今回は仕方がない。
「私だ……」
「もすもす終日?はーい!みんなのアイドル、篠ノ之た……」
ぶつっ!
切れた。電話と私、二重の意味で。しかし直ぐに同じ相手から着信が届く。
「もーう、ちーちゃん!みんなのアイドル篠ノ之束さんの電話をいきなり切るなんてひど……待って待って!切らないで!ちーちゃん!」
電話の主は篠ノ之束、ISの生みの親にして現在国際手配中の天才……いや天災だな。普段ならその無駄にハイテンションな言動を受け流す所だが、生憎今はそんな余裕は余りない。
「ちーちゃん言うな。それで先程の件はどうなった?」
今回はあしらえない理由がある。今日此処に現れた一夏の双子、私の弟を自称する2人目の男のIS操縦者。奴から渡された書類、その中に奴がどんな人生を過ごしてきたか、その経緯が書かれていた。その件について束に調べさせた。本来は一夏ともう1人が私の弟として生を受ける筈だった。だが9月27日、一夏の誕生日となったその日に事件は起きた。出産予定日を間近に控えた両親が乗る車が事故に巻き込まれたのだ。両親は骨折等の怪我をしたが命に別状はなかった。しかし、事故の影響か予定日より早まったのか、母が破水して緊急で出産を行う事になった。両親は手術の麻酔で眠っており、帝王切開で出産したとの事だ。その時私は学校の遠足で遠出しており、私が病院に辿り着いた時には一夏は産まれており、もう1人の弟は助からなかった。悲しみの余りにその日は家族全員で大泣きした。産まれて間もない一夏も悲しむように泣いていたそうだ。それから暫くして両親までもが行方を眩ますとはその時予想だにしていなかった。身寄りのない私達姉弟は篠ノ之家に世話になりつつ、私は一夏を守る為に今日まで生きて来た。
「ちーちゃんの言われた通り調べたけど、どうやら本当みたいだよ、その話」
「っ!」
その言葉に足元がぐらついた。それでは……本当に生きていたのか?一夏の双子が、私の……もう1人の弟が?
「人身売買も本当っぽいね。いっくんの出産に関わった医者や看護師が今は全員行方不明になってたし」
「ではやはり……」
「まぁーでも、その2人目が本当にいっくんの双子かどうかはわかんないけどねー」
確かに束の言う通りだ。書類の内容が事実だとしても本当にあいつがその本人と確信するには早い、もしかしたらなりすました偽物という可能性もなきにあらずだ。……だが、私はあいつが嘘を付いているとは思えない。何処か似ているんだ……あいつは、昔の私に……
「取り敢えずその2人目の遺伝子検査でもした方がいいよ。ついでにそれも……」
「……そうだな、それは此方で行う。今回は世話になった、それでは切るぞ」
「えー、束さんもっとちーちゃんの声聞きた……」
ぶつっ。
電話を切る。これ以上話すと話が無駄に長くなるからな。ふと、空を見直してみるがやはり心は晴れない。一夏、お前は双子の兄弟が生きていたと知ったらどうする?驚くのか、喜ぶのか、私は心の整理が付かない。まさか生きていたなど、私達は知る由もなかったのだから。
「……………」
思い出すのはもうすぐ私が姉になるという頃の記憶。男の双子とわかってからは両親は男の名前を考えていたな。そして決まったのが一夏、そして……
「……
ポツリと呟いたその名前は夜の帳へと消えていった。
世界を見る事なく存在を消された一つの季節、それは消えずに残っていた。そして今、その季節は漸く世界へと現れた事実を世界が知るのは、そう遠くはない。
文字数8000越えるとは予想だにしていなかった……
今回は色々と明らかにする話になったので文字数が増えました。
千冬が見たのは第0話で少年が見た書類と同じ物です。そして調べさたら、一夏の双子の兄弟は死んでおらず人身売買されていた、流石に千冬でも動揺はします。
そしてその双子の兄弟が少年という事実、まぁ大方予想はついていたと思いますが。
一夏の双子の兄弟の名前は一季、にじファン時代の改訂前の小説の後書きを御覧になっていた方はとっくにわかっていたと思いますが、改訂前を含めて漸く本編に初めてこの名前が出てきました。由来は一つの季節から読みは「かずき」でも「いっき」でもなく「いつき」です。いちかのい以外を一つズラせばいつきになったのでこの名前にしたというのもありますが(笑)
千冬が悩んでいる時少年(本編ではまだ名前はないので)は日常生活にカルチャーショックを受けまくっているという……でも仕方ないよね、今までがあんなだったから。
次回から本格的に一夏達と絡む予定ですが、どうなることやら……