IS〈インフィニット・ストラトス〉宿命を変える奇跡の双騎士   作:《陽炎》

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第9話 新たな季節

「坊や、大丈夫かい?」

 

「うん……大、丈夫……」

 

蝋燭の炎で微かに明かりを灯している部屋、地べたは土のままであり、寝転べば汚れるのは必至。しかし、そんな事は意に介さず何人もの人間が横になってたり、だらけた座り方をしている。そんな空間に年老いた男性と幼き子供が会話をしている。この2名を含む全員が汚れてボロボロな服を着ていた。

 

「可哀相に……何故こんな子供まで……」

 

此処は奴隷の部屋、様々な場所から集められた人々が虐げられるのと何ら変わらない労働を強いられている。女子供、老人おかまい無しだ。

 

「おらぁ!奴隷共、今日も仕事だ。さっさと働けぇ!」

 

短めの鞭を腰に携えた無精ひげを生やした中年の男が怒号に近い命令を下してくる。暴力を振るわれたくないのでそそくさと仕事場に向かう奴隷達の中、老人に心配されていた子供は移動速度が遅い。

 

「てめぇクソガキ、さっさとしねぇか!」

 

バシッ!と鞭が子供に振るわれる。少しでも気に食わない事があればこうして暴力を振るわれるのである、奴隷達に人権など存在していない。使えないなら捨てるだけなのだから。

 

「や、やめてください!この子は体調を崩しておる、今日は……」

 

「黙れクソジジイ!こいつは奴隷なんだよ、働かねえ使えない奴隷なんざ此処にいらねぇんだ!」

 

刃向かってきた老人を突き飛ばす。そしてそのまま動きが覚束ない子供に再び鞭を振るう。あどけない子供の細い腕や体に痛々しい痣が生まれる。

 

「や、やめて……ちゃんと働くから……だからやめて……」

 

「けっ、わかればさっさと働けや!俺様の手を煩わせやがって、クソが!」

 

唾を子供に吐き捨てて男の子は去る。頬に掛かった唾を拭うと、子供は体調不良を必死で堪えて自分の仕事場に向かう。

 

「ううっ……」

 

涙が出そうになるが耐える。泣いたらまた暴力を振るわれる、そう自分に言い聞かせて必死に堪える。暴力で支配されているこの環境では子供にさて容赦はないのだから。

 

「あんまりじゃ……神様はなんであんな子供まで……」

 

此処にいる奴隷の中で唯一の子供。物心つくまえからこんな劣悪な環境で虐げらられるなど余りに惨い。しかしこの現状を打破する術など持たない老人は、己む無力感を嘆きながら持ち場へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

「ううっ……ひっく……!」

 

仕事が終わり、脱走しない様に部屋に閉じ込められ自由さえない。繰り返される苦痛の日々、大人でさえ耐えられないであろうこの環境に年端もいかない子供が耐えられる訳がない。時折こうして啜り泣く唯一の子供。

 

「坊や……」

 

「本当に、なんであんな子供までこんな……」

 

「可哀相に……本来なら親に甘えたいだろうに」

 

奴隷の中で唯一の子供に対して、他の奴隷達は同情し優しく接している。しかし自分達も奴隷の身、庇う事も此処から救い出す事も出来ない無力さを憎みたくなる。出来る事と言えば励ます事と自分達の昔話をしてやれるくらいだ。

 

「坊や、辛いだろう、悲しいだろう。だがね、これだけは覚えていておくれ……」

 

「ひっぐ……おじい、ちゃん……」

 

先程も子供を気遣っていた老人が涙を流す子供に優しく語りかける。

 

「どれだけ辛くて、悲しくても……」

 

希望だけは、失わないでおくれ……

 

辛く、悲しく、苦しくても、この絶望的な環境の中でも、望みだけは失ってはいけないと言い聞かせる老人が語る。

 

「っ……う、うん……」

 

その言葉を聞いた子供は、泣き声混じりに小さくだが、確かに頷いていた。

 

 

 

 

 

「……………ちっ」

 

時刻は朝6前、太陽が登り始めているであろう時間に俺は眠りから目を覚ます。しかし目覚めは最悪だ、その事に舌打ちを打つ。夢を見ていた、夢を覚えている時と忘れている時があるが、今回は忘れて欲しい方の夢。俺が奴隷として虐げられていた頃を夢に見るとは、本当に最悪の目覚めだ。

 

「……顔でも洗うか」

 

起き上がって洗面所に向かう、少しは気分が晴れればいい。蛇口から流れる水でバシャバシャと顔を洗ったが、冷たい水で目は冴えこそすれど、気分は微塵も晴れなかった。

 

「……着替えるか」

 

タオルで顔を吹き終えた後、やる事もないので制服に着替える事にした。そのままの足取りで制服を置いている机に向かう。目覚めの悪い夢を見たが、奴隷の頃はまだマシだった。誰かが居てくれて、励ましてくれたから……

 

「……………」

 

昨日の内に制服を梱包しているビニールは取ってある、後は着替えるだけだ。服を脱いで肌着だけになり制服に手を掛ける。

 

「んっ……こう、か?」

 

構造を確かめながら少年は制服を着始める。シャツに手をかけボタンを1つ1つ外し終えるとそのまま着てボタンをかけ直す。全てかけ終えると、ズボンをのボタンを外しチャックを下ろしてそれを穿くと、チャックを上ほボタンをはめ直す。履いた後に緩いと思っているとベルトを見つけ、それをズボンに通してなんとかバックルを装着出来た。残すは特殊な構造をしたブレザー、本来女子生徒しかいないIS学園には男子の制服などある筈もなく、織斑一夏の入学が決まった際に作られた特別な服、デザインは女子のそれとは異なっている。腰付近にベルトを通し学ランを混ぜたみたいなデザインのブレザーに手間取っさしまうが、なんとか制服を着る事が出来た。見事にキチンと着れている。このまま入学案内の制服見本の写真として使えそうだ、女の園IS学園に男子の制服見本を載せても意味はないのたが。着替えに思いの外戸惑ったのか、時計が示す時刻は7時を少し回っていた。

 

コンコン

 

かれこれ40分以上に渡る制服との戦いに決着を付け終え椅子に腰掛けていると、ノック音が聞こえてきた。

 

「轡木です。朝食を持ってきました」

 

轡木さんか、どうやら朝食を運んで来てくれたらしい。すぐにドアへと向かって、ドアを開ける。

 

「おはようございます」

 

「お、おはようございます……」

 

やはりこの人相手だと戸惑う、おじいちゃん達を思い出すからか、だからあの夢を見たのだろうか?答えはわからない。

 

「おや、もう制服を着ていたんですね。似合っていますよ」

 

「……ど、どうも……」

 

似合っていると言われくすぐったそうな少年、出で立ちを誉められるなど経験になくこそばゆいのだろう。

 

「はい、これが朝食です。余り大した物ではありませんが」

 

「……いえ、ありがとうございます……」

 

朝食が乗ったトレーを少年が受け取る。

 

「それでは、私はこれで。後で織斑先生が迎えに来ますのでそそれまでは部屋でゆっくりしていてください」

 

「……わかりました。朝食、ありがとうございます……」

 

「いえいえ、それでは……」

 

轡木さんが去るのを見送った後、朝食を机に運び食べる事にする。

 

「……これは」

 

受けとった朝食のメニューは、ロールパン2つに野菜サラダ、コーンスープに、デザートとしてヨーグルトと林檎二切れ、飲み物として紙パック入りの牛乳とオレンジジュースである。どれもこれも、少年が今までに目にした経験がない食べ物ばかりだ。

 

「貴族の食事か何かか……?」

 

至って普通の朝食である。これが貴族の朝食ならば世の中貴族塗れであろう。

 

「これは……パンか?」

 

パンだけなら口にした記憶がある、しかしカサカサのパサパサに乾燥した固い物で口内の唾液が枯れそうになった記憶しかない。いい印象はないが昨日の夜は何も食べずに寝たので腹もすいている。覚悟を決めて、それにかぶりついた。

 

「っ!」

 

な、なんだこれは!?柔らかな食感に芳醇な味、そしてこの口どけ……なんだこれは?

 

パンに続いてフォークでサラダを一口、食器などまともに使った事がなく手間取ったが、口に入れれば数種類の野菜の味に、それを引き立てるドレッシングが広がる。これまで野菜や果物など茎や皮くらいしか口にしたことの無い少年には今まで体感した事のない新鮮味だ。そしてスプーンでスープを一口飲めば、トウモロコシの甘味とクリーミーなコクが広がる。合間に牛乳を飲むと濃厚でいて喉越しのいい味が体に染み渡り、オレンジジュースを飲めば果汁が喉を潤し爽やかな気分が体中に広がる。

 

「な、なんだこれは……?」

 

初めてまともに食べる食事、取り付かれたかの如く少年は食べ進めていく。そして残りはヨーグルトと林檎、まずはヨーグルトをスプーンで掬い一口。酸味

ある滑らかな舌触りが口内を支配している。その後に林檎を一かじり、シャクシャクと心地良い歯応えと咀嚼音が生まれる。自然な甘味と果実特有の酸味がサッパリとした気分へと導く。それが気に入ったのかヨーグルトを食べては林檎をかじるのを繰り返していく。

 

「……………ふぅ」

 

最後の一口を飲み込むと、ふぅと息を吐き出して一息付く。無我夢中で食べ進めてしまった。生まれて初めてだ、此処まで食べる事に夢中になったのは。

 

20分近い食事を終えて、残っていたジュース一口をズズッと飲み干す。現在7時32分、まだ姉さんは来ない。そういえば、生徒になるからには授業を受けるのだろうが、何を持っていけばいいんだ?ノートと筆記用具は当然として、この教科書全てを持っていけと?わからん、学校など未経験なだけにどれだけ授業を受けるのかさえわからない。研究所の時には徹夜でやらされた事が何度もあったが、流石に教育機関がそんな事はしないだろう。

 

「まぁいい。姉さんが迎えに来た時に聞こう」

 

それが一番手っ取り早い、そう答えを出して迎えを待つ事にした。

 

 

 

 

 

コンコン

 

「私だ、迎えに来た」

 

8時を少し回った頃に姉さんが迎えに来た。ドアを開けに向かう。

 

「制服はちゃんと着れているか。準備は出来ているか?」

 

「……その事だが、今日は何を持って行けばいい?」

 

「あぁ……そういえば時間割を伝えてないな。……よし、取り敢えずこれを持ってくればいい」

 

そういえばそうだった、と納得した姉さんは所持していた筆記用具でスラスラと文字を書いていき、それを此方に渡す。

 

「……わかった。準備をしてくる」

 

紙に書かれている教科の教科書を鞄に入れる。荷物の入った鞄を手に持ち、姉さんの下へ向かう。

 

「もういいか?」

 

「……あぁ。大丈夫だ」

 

鍵を掛けて戸締まりも確認した、問題はない。

 

「そうか、それと私は教師でお前は生徒だ。それに応じた対応を取れ」

 

どうやらこの言葉使いで接するのは駄目という事らしい。教師として示しが付かないのだろうか。

 

「……わかりました。織斑先生」

 

「よし、なら行くぞ。付いて来い」

 

「……はい」

 

これなら大丈夫らしい。返事を返してそのまま後を付いて行く。

 

「取り敢えず入れ」

 

着いた先は職員室と書かれてた札がある場所に入室する。ん?生徒が居る様な場所にはみえないが……居るのは教師と思われる女性ばかりで、俺が入るなり軽くざわついている。

 

「手続きが少し残っていてな、取り敢えず名前だけでもないと色々と不都合だ。生徒達もお前をどう呼べばいいか困るしな」

 

言われてみれば納得出来る。確かに名前もない俺をどう呼ぶか、悩むといえば悩むのかもしれない。名前なない人生になれているから気付かなかった。

 

「それと……昨日の件もある。遺伝子検査をさせて貰うが、構わないな?」

 

「……はい。構いません」

 

抵抗なく了承を伝える。遺伝子検査でも何でもするがいい、そんな物慣れている。

 

「それは放課後に回すとして、まずは名前だ。何か望む名前はあるか?」

 

「……自分で決めろと?」

 

「なんだ?此方が好きに決めて構わんのか?」

 

いきなり名前を決めると言われても困る。親に名付けて貰えばこんな苦労せずに済む物を……しかしどうする?俺の名前か……名前で呼ばれた事などない、坊や若しくは0号と呼ばれていた事が殆どだ。全く、突然名前を決めると言われてもどうすれば……!

 

「どうした?此方で決めて構わんのか?」

 

「……いや、自分で決めます」

 

思い付いた。俺の名前を……これから生きていく上での俺の名を。

 

「ならば此方に書け」

 

ペンを渡され書類に名前を書くのを求められる。椅子に座り、この名を名乗ろうと決めた名前を書き記す。

 

「っ!それは……」

 

漢字とふりがなで書いた名前を見るなり驚きを露わにしだす。その様子に周囲の教師達が何事だ?という様子で伺っている。

 

「……どうかしましたか?」

 

「い、いや……なんでもない」

 

ゴホンと咳払いをし、なんでもないという事をアピールしている。

 

「それが……お前の決めた名前か?」

 

「……はい。何か問題でも?」

 

平静を装っているが、明らかに姉さんは動揺している。不都合でもあるというのだろうか。

 

「……いや、問題はない。此方の書類にも名前を書け」

 

「……わかりました」

 

渡された書類にも名前を書いていく。名前だけなので楽だ。

 

『これは、偶然なのか……?」

 

千冬は少年が書いた名前に驚愕した。何故よりにもよってこの名前を名乗ろうと決めたのか?それとも、彼はこの名前を名乗る宿命だったのか。彼が書いたその名前とは……

 

一季(いつき)

 

本来家族として過ごす筈の弟の名前と同じ物だった。

 

 

 

 

 

書類を書き終えて少し時間が経った後、漸く教室へと向かい歩を進めている。

 

「まずは私達が生徒達に説明するから、それまでは廊下で待機しておけ」

 

「……はい」

 

道中、事の段取りを説明される。また待機か。

 

「大丈夫ですか?緊張とかしていません?」

 

「……大丈夫です」

 

山田先生が気を使ってくれるが、正直言って緊張しているのかどうか、俺にさえわからない。ただ、普段より歩くのがぎこちない気がした。

 

「何をしている。さっさと教室へ戻れ」

 

教室へと近付いていくと同時に生徒達をちらほらと目にする。その度に姉さんの一言でそそくさとその場を去るが、全員俺を見て驚いていた。

 

「着いたぞ。此処がお前のクラスだ」

 

とうとう教室に辿り着いたらしい。廊下に居ても教室内の賑やかな談笑が聞こえてくる。今までに聞いた事のない楽しそうな声色だ。

 

「私達が呼ぶまでは此処で待っていろ」

 

「……わかりました」

 

出来る事なら早くして欲しいのが本音だ。変に待たされるのは好きじゃない。そのまま2人は教室へと入っていく。

 

目を閉じ、深く呼吸をして心境を整える。自己紹介くらい出来なければここから3年間到底やってなどいけない。そして、数分経過して遂に呼びがかかる。

 

「……はい」

 

一言そう返答して、教室と廊下を区切るドアを開ける。そして一歩、また一歩と足を踏み出して、ざわついている教室へと入っていく。そして姉さんの隣で止まり、俺を射抜く瞳の持ち主達をしっかりと見る。

 

「ては、自己紹介を」

 

「……わかりました」

 

女子生徒の視線が集中する中、この学園唯一……いや、それはさっきまでの話だ。織斑一夏、奴も俺を見ていた。そんなに興味深いなら聞くがいい、俺がこの名で生きていくと誓った名前を。

 

「……一季だ。今日からこのクラスの一員となる者だ。これからよろしく頼む」

 

一つの夏の前に一つの季節が現れる。数多の数奇なる宿命に翻弄されし2人の少年。今、2人のイレギュラーが此処IS学園にて対面した。

 

『お、男……!?』

 

自分に次ぐ2人目の男がこのクラスの一員となる事に驚愕する一夏。しかし、更に彼を驚愕させる事実が待ち受けている事を、今の彼は知る由もなかった。

 




今回は少年いや、一季の過去から7話の最後までの話でした。

序盤は一季奴隷時代、本当に辛い過去です。ですが一季も言っていたように、後の研究所ではこれがマシお思える仕打ちが待っているんです。

そしてシリアスが続くかと思ったら中盤は朝食を堪能してるという……あれが貴族の食事なら私だって貴族ですよ。

この小説で一話丸々のシリアスは……あったなら相当重いです。

そして名前の決める事になり決めたのが一季、そりゃ千冬も驚きます。だって一季という名前を知っているのは千冬とごく一部だけなんですから。

一季が自分の名前をこれにした理由はいずれ明らかになるでしょう。

では、また次回!
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