IS〈インフィニット・ストラトス〉宿命を変える奇跡の双騎士   作:《陽炎》

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遅くなりました。約1ヶ月半振りの更新となってしまいました。


第14話 暗き夜空を彩る星

「……それでは、俺はもう行く」

 

昼休みの時間はまだ残ってはいるが、ブライトの言葉で答えを導き出した俺は行動に移そうと、スッと席を立ち行動へ移す。

 

「そっか。よし、頑張んなよ!」

 

この言葉に納得した様子を見せるブライトは、励ましの言葉を掛けてきたのと同時に俺の背中を軽く叩く。後押しのつもりなのだろう、そう受け取っておく事にした。ブライトのお陰で、今俺がやるべき事は怖い思いをさせた件をクラスメート達に謝罪し、誠意という物を見せる事なのだと早い段階で気付けたのが不幸中の幸いだった。 俺が謝罪をしたとしても許されるとは限らない。 許すかどうかは周りが決める事であり、俺が決められる事ではない。今の俺に出来る事は謝る事しかない、ならばそれをちゃんと行うしかないだろう。

 

「まっ、頑張りなよ。なんか困ったらあたしも手伝うからさ」

 

「……ありがとう」

 

上手く行く事を祈るというブライトの声が聞こえてくる。その激励に対して俺は一言「ありがとう」と伝えると、そのまま屋上を後にした。励まされるのは何時以来だろうなと思い返しながら。

 

 

 

 

 

屋上を後にして階段を下りていき教室へと近付いていく事で、遭遇する生徒の人数が増えていく。やはり先程の出来事を目の当たりにした生徒達からは距離を置かれている。顔ぶれを見たが、クラスメートには今の所遭遇してはいない。他のクラスや学年の生徒達であろう。他のクラスの生徒でこれではクラスメート全員に怯えられていると考えて間違いないだろう。心の中で改めて自分の犯した過ちを認識する。だが、悩んでいた所で怖がられなくなる訳ではない。怖がられない様に自分を改めるしか道はない、どう改めればいいのか方法が見当たらないのが問題だが……

 

『取り合えず、謝る。今はそれが先決だ。待てよ……という事は、奴にも……』

 

クラスメート達に謝罪するとなると、奴にも……織斑一夏にも謝らなければならなくなるのか?正直それは気が進まない、奴に対して謝罪の言葉や頭を下げるという真似をしようという気持ちは微塵もない。今回の件で怯えていたり恐怖を植え付けられたとしても、奴にだけは謝罪をする気が起きない。

 

『まぁいい、奴の事は後回しだ。それよりも、クラスメート達にどう謝るか……』

 

そう、謝ればいいという答えに辿り着いたのはいいが、どう謝ればいいのかで悩みが生まれてきている。謝罪の言葉こそ知ってこそいるが、なにせ謝った事があるのなど奴隷時代位だ。虐げから逃れる為に言った事と、俺を庇ってかわりに虐げを受けた人達へ謝った事でしか使った記憶がない。さて、どうした物か……と思考を巡らせている内に教室の目の前へと到着する。

 

『……椅子が変わっている?』

 

教室に入るなり、やはりクラスメートは俺を恐れているのか距離を置こうとする雰囲気がこの空間に漂い始めてくる。それを気にしながらも、もう1つ気になる事がある。俺の席は廊下に一番近い列の一番前なので、教室に入れば自分の席がどうなっているのかはすぐわかる。俺が教室から出て行った時には、椅子の背もたれは俺がへし折った事で一部破損したままの状態の筈。しかし、今目にした椅子には背もたれの破損などない状態だった。新しい椅子と取り替えたのだろうか、しかし、一体誰が……

 

「おっ、戻ってきたのか」

 

背後から掛けられる男の声、奴か。この声色と俺に話し掛けてきたという事は、俺に怯えてはいないのだろう。振り返ると、奴の隣には篠ノ之が立っていた。

 

「……なんの用だ」

 

「なんだその態度は、お前が壊した椅子の後始末をやったのは誰だと思っている?」

 

「箒、そうキツく言ってやるなよ。それに、俺がやったのは事情の説明だけだろ?後始末は先生がやったんだし……」

 

俺の返答が癪に触ったのか篠ノ之俺を咎めるかの如くキツい口調で言い寄ってきて、奴がそれを宥めている。どうやらあの騒動を奴が教師に説明して、後始末が行われたらしい。よりにもよって貴様がするとは……

 

「そのせいで私達が昼食を取るのが遅れたではないか」

 

「いや、俺だけでいいって言ったのに箒が付いてきたんじゃ……」

 

「そ、それはお前だけではしっかり説明出来るか心配だからだ!」

 

おいお前ら、話し掛けて来ておいて、俺をほったらかして話すな。それと篠ノ之、流石にその言い分は無理があるぞ。

 

「兎に角、お前のせいで私達まで迷惑を被ったんだ。何か言う事はないのか?」

 

あの件で迷惑を掛けたのならば謝らなければならない。奴は兎も角、篠ノ之には謝罪するべきだろう。

 

「……すまない。俺のせいで迷惑を掛けてしまった」

 

この言葉と同時に頭を下げる。奴に下げると思うな、篠ノ之に下げているんだ。そう思え。

 

「……わかっているならいい」

 

一言そう言うと篠ノ之は教室へと入り、自分の席へ戻って行く。あの返答は許したのか、それとも俺の対応に呆れたのか……

 

「余り気にするなって、箒はああいう奴なんだ。分かりにくいけど、許してるよ」

 

「……そうか」

 

本当に分かりにくい態度だ。俺が言えた事では無いが、篠ノ之も愛想がない奴だな。まぁそれでも、俺よりかは幾分マシか。

 

「所でさ、一季は何処に行ってたんだ?」

 

「……何故それをお前に話す必要がある?」

 

休み時間をどう過ごそうが俺の自由だ。詮索される言われはない。

 

「いや、学食には来てなかったようだから、何処で飯食ったんだろーな?と思って」

 

「……何処で食事を食べようが俺の勝手だろう」

 

何故俺に絡んでくる、これ程分かり易く無愛想な態度で返しているというのに。話し相手が欲しいのなら他を当たれ、少なくとも現在の俺と違って、貴様は話し掛けたら接してくれる生徒は多いだろう。此方は自業自得とはいえ、それすらもままならなくなりそうな状態だぞ。

 

「んっ?もしかしておにぎりでも買って食ってたのか?」

 

「……そんなところだ」

 

何故わかる?確かに轡木さんにご馳走になった物を食べたが、それをわざわざ奴に説明する気など起きず、軽くあしらう事にした。

 

「やっぱりな。歯に海苔が付いてるから、もしかしてって思ったんだよな」

 

「……………」

 

その事実を確認しようにも鏡など所有してはいない。なので再び廊下へと出て、近くの窓ガラスで確認してみる。鏡ではないのでハッキリと映らないが、確かに犬歯付近に湿った海苔の破片がこびり付く様に張り付いていた。見付けてすぐ、爪で削ぐ様に取り除いて教室へと戻る。

 

「まぁ、気にすんなよ。海苔食べれば誰だってそうなるもんだぜ」

 

「……やかましい」

 

戻るなり奴にフォローされるが、赤の他人ならまだしも、よりにもよって貴様に指摘されるなどとは……不覚だ。

 

キーンコーンカーンコーン

 

「昼休みも終わりか。じゃ、俺は席に戻るわ」

 

そう告げて奴は席へと戻って行く。無駄に爽やかさを帯びた笑顔も加えて。また時間を無駄に消費してしまった……もうすぐ授業も始まるので授業の用意をする事にしようと椅子に座った。

 

「さて、授業を始めると言いたい所だが、昼休みに揉め事を起こした奴が居るようだな」

 

姉さん達が教室へと入り授業に突入するかと思ったが、やはりあの騒動は耳へと入っていたらしく、その件を口にする。

 

「一季、オルコット、お前達で間違いないな」

 

「「はい……」」

 

俺もオルコットも否定する事なく、ほぼ同じタイミングで認める。そして俺達は席を立つよう命じられ、椅子から離れ立ち上がると最初は俺への説教が始まった。

 

「まったく、初日から騒動を起こすだけならまだしも、学園の備品まで破壊するとはな」

 

「……すいません」

 

射抜く様な鋭い目線で俺を見据えて発せられた説教に返す言葉もない、全くもってその通りなのだから。精々謝罪の一言を返すのが関の山だった。

 

「謝罪ならば、お前は他にすべき面々が居るだろう。クラスの面々はお前にすっかり怯えてしまっているぞ」

 

その言葉に反応して、隣の席のクラスメートを見る。偶然に目が合ったが、すぐさま視線を逸らされる。俺に怯えの感情を抱いているのを立証するには充分な反応だ。これは……今の発言は姉さんが俺に謝罪を行う切っ掛けを作る為の渡し船なのだろうか?ならばこの機会を逃す意味はない、その渡し船に乗らせて貰おう。

 

「……その、みんなにも、嫌な思いをさせてすまなかった。本当にすまない」

 

謝罪の言葉を紡ぐと同時に頭を深く下げる。許されるか、許されないか、その審判が下されるまでの数秒が何百倍にも長く感じられる。時の概念が無くなったかの様だ。

 

「さて、こいつは頭を下げて謝っているんだ。お前達もそれにしっかり対応しろ」

 

どうやらクラスメート達は俺の謝罪に戸惑いを覚えたのか受け入れるのに時間がかかっているらしい。それを見かねた姉さんからの催促が入る。

 

「はぁ。織斑、お前はどう思う?」

 

「俺ですか?えっと……一季がこうしてちゃんと謝ってるんですから、俺は許します」

 

姉さんから話を振られた奴がそう答えるが、奴に許されても何とも思わない。何故よりにもよって奴に振るんだ。

 

「……どうする?」

 

「ちゃんと謝ってるんだし、許してあげていいんじゃ……?」

 

奴の発言に釣られてか、女子のそう言った会話がチラホラと耳に入ってくる。まさかこれを狙っていたというのか?

 

「えっと、みなさん、一季君もこうしてしっかり反省していますから許してあげてください。彼も悪気があってやった訳ではないんです」

 

「……まぁ、そこまで怒ってないしね」

 

「まだちょっと怖いけど、ちゃんと謝ってるし……」

 

「許してあげようか?」

 

「そうだね」

 

山田先生のフォローが入る。それを聞いたクラスメート達も今回の件は「許そう」という結論に纏まったらしい。

 

「一季君、もうみなさん怒っていませんから、顔を上げてください」

 

「……はい」

 

下げていた頭を上げてみるとクラスメート達の表情やクラスの雰囲気から怯えは薄まって感じられた。先程までの状況より少しはマシになったと思える。

 

「オルコット、お前もだ。昨日に続いて今日も問題を起こすな」

 

「……申し訳ありません」

 

お説教が俺からオルコットへと移行する。しかしオルコットは謝罪しつつもどこか納得がいっていないのか、少々不服そうな表情を浮かべていた。

 

「納得がいかないみたいだが、代表候補生たる者、言動や行動といった振る舞いには気を付けろ。お前が一季や昨日織斑へ言い放った発言は充分問題がある物だ、その事をキチンと理解しろ」

 

その態度に気付いた姉さんは間髪入れずにオルコットへ説教を続ける。その内容にオルコットは反論しようがなく、正にぐぅの音も出ないといった様子だ。しかしオルコットの奴、昨日奴に対しても俺に言い放った様な発言をしていたのか。

 

「お前が言った奴隷という言葉は、人間としての尊厳も自由も奪われ、虐げられ生きる事を強いられる、生き地獄と言っても過言ではない本来はあっては鳴らない物。奴隷にするなどと言う発言は代表候補生でなくとも言ってはならない暴言だ。それを忘れるな」

 

「はい……」

 

オルコットが俺にどんな事を言い放ったのかも耳に入ったのか、それとも昨日奴に絡んだ際にも発言したのかは知る由もないが、姉さんはオルコットに自分がどれだけ問題のある発言をしたのかを突き付ける。そう、奴隷など……本来は絶対にあってはならない身分。それは俺が一番よくわかっている。

 

「今回の件は双方しっかり反省する様に、2人共席に着け。……少々説教が長くなり過ぎたな。それでは、授業を始める」

 

その言葉で姉さんは話を切り上げる。俺とオルコットが席に着くとそのまま授業へと突入した。

 

 

 

 

 

時間は流れ現在は放課後、授業は終わりを迎えた俺は、朝言われた様にDNA鑑定を行う為の遺伝子提供をしに姉さん達と職員室へと向かい提供を終えて職員室は後にした所である。遺伝子の提供と言っても血液等の提供ではなく簡単な物だった。手渡されたキットである綿棒で口内をなぞり、唾液が含んだそれを袋に入れて提供という工程であり、すぐに終わった。これによりDNA鑑定が行え、俺の身元及び俺が言っている事が出鱈目ではないと証明出来るという物である。今更ながらに思うが、唾液で遺伝子検査が出来る科学の進化は人類の進化を先を行っていると改めて認識出来る。尚検査については少々時間が掛かるとの事らしい。

 

『長い様であっという間に初日が終わったな』

 

歩を進めながらそんな事を考える。時間というのは瞬く間に過ぎたかと思えば、延々と続くのではと思えたりと感覚があべこべになりそうになる。あれから特に特筆する様な出来事は起きず、クラスメート達と仲良くなった訳でもなく、休み時間は1人屋上で過ごしていた。

 

「それにしても……」

 

ポツリと戸惑いを示す如く呟く。別に職員室に赴いた時に備品を壊した罰として反省文を書くように命じられた事が鬱屈な訳ではない。

 

『俺も代表決定戦に参加させられるとは……』

 

事はホームルームの時間にまで遡る。

 

「来週の月曜に行われる織斑とオルコットによるクラス代表を決める模擬戦についてだが」

 

授業も終わり、後はホームルームだけという時間の中その話が上げられた。クラス代表を決める勝負につあては先程聞いたのでかろうじて意味はわかるが、何か追加事項でもあるのだろうか?

 

「それに一季も参加する事になった」

 

「……はぁ?」

 

その言葉を聞いて、思わず間抜けな声が出た。予想は当たり、確かに追加事項だった、俺がその枠に加わるという物……おい、ちょっと待ってくれ。何故俺が?クラスメート達もざわついているぞ。

 

「……織斑先生」

 

「なんだ」

 

「何故俺がクラスの代表を決める勝負に参加しなければならないんですか?その件については、俺は関係がない筈です」

 

当たり前の疑問を姉さんにぶつける。その件については昨日決まった事で、俺には一切関係のない事なのだから至極真っ当な疑問だ。

 

「関係ないか……一季、お前オルコットに決闘を挑まれてそれを承諾したらしいな?」

 

「……はい」

 

有耶無耶になりかけていた俺とオルコットの決闘の件が姉さんの口から飛び出した。大方奴が事情を説明するついでに話したのだろう。余計な事を……

 

「今日の様な問題を実戦で起こされてはかなわんのでな、私の立ち会いの下、模擬戦という形で決着を付けてもらう」

 

どうやら初日から問題児として認定されている様だ。実際に問題を起こしているだけに言い返せない。

 

「……それはわかりましたが、何故クラスの代表候補になるんですか?」

 

説明されれば、何となくだが納得は出来る。俺が目の届かない場所でISを使って問題を起こさない様に監視下の下で解決させようという考えなのだろう。しかしクラス代表候補になる必要が何処にあるのだろうか?

 

「あぁ。それか、椅子を壊した罰だ」

 

「……そうですか」

 

あっさりそう返された。結論から言うと俺の自業自得なので渋々だが承諾する事にした。クラスメート達も騒動の件があるので大丈夫かと不安そうだったが、俺が2人しかいない男である事と、専用機持ちというのもあり、最終的には異議なしという結論的に達していた。その件もあり悲劇の復讐者の整備を行う為、現在は第1整備室へと向かい歩んでいる。無論だが整備室を使用する許可は得ている。

 

「ここか」

 

場所を教えられた第1整備室に到着する。本来は2年生から始まる『整備科』の為の設備と姉さんが説明していた。システムの調整だけならばコンソールだけで行えるのだが、出力・特性制御の調整を行うには機体のアーマーを開けて直接パーツをいじらなければならない、マシンアームを使用するとはいえアーマーを開くという作業は手間が掛かる。昨日起きたPICの異常については既に朝方調べてみたが特に問題は見つからなかった、だが念の為に整備するついでに改めて調べてみようと此処にやってきたのだ。

 

『広いな……』

 

自動ドアが開くと、アリーナ程ではないが、かなりの広さを持つ空間が飛び込んで来た。どうやら誰も居ないらしく物凄く静かだ。尚、整備室ではISスーツを着用との事だ、整備室の壁にもその注意事項が記載された貼り紙がなされている。既に制服の下に着込んでいるので制服を脱ぐだけなので問題はない。念の為だが何日も同じISスーツを着てはいない、昨日風呂のついでに洗浄しているし、予備もある。

 

「さて、始めるか」

 

制服を脱いだ後、俺は1人作業に打ち込み始めた。

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

1時間程経過しただろうか、改めて調べてみたがPICにも機体にも問題点は見つからなかった。やはり昨日け件は稼働のさせ過ぎで一時的な物だった様だ。とりあえず問題がなくてよかった。とりあえずは整備室に来たので、研究所を出て以来に此処でしか出来ないシステムの最適化や調整を行い、たった今それが終わっと所である。

 

「部屋に戻るか……」

 

使用した機材を元有った場所へと片付けて、待機状態に戻した悲劇の復讐者を首に掛け、脱いだ制服を着直す。開く自動ドアを通り整備室を後にする。

 

「……もう夕暮れか」

 

外に出てみると、整備室に入るまでは水色だった空が、今は茜色に染まり夕焼け空と化している。その空に包まれているこの学園も、ほんのり茜色に染まっている印象を持つ。それについての感想が漏れるが、生憎俺にこの光景を伝える話術などない。そんな茜色の夕焼け空の下で、俺は取り敢えず部屋に戻って風呂でも済まそうと、寮への道へ歩を進めた。

 

 

 

 

 

部屋へとに戻り、衣服を脱いだ俺は、浴室にてノズルから吹き出すお湯の雨を浴びている。丁度いい温度の湯が体を伝い洗い流していく。どことなく疲れが抜けていく心地良さだ、研究所での風呂とはえらい違いだ。これが本来の風呂なのか、と考え深い気持ちになりながら頭を洗い始めた。

 

「ふぅ……」

 

風呂を済ませてタオルで水気を拭き取り、用意されていた衣服を着る、ジャージという物らしい。梱包していたビニールにシールが貼られていた。

 

「……………相変わらず邪魔だな、この髪は……」

 

顔に貼り付く髪を忌々しげに剥がす様に払う。今更ながら、この長い髪……無駄に長く伸びているのでタオルで拭いても湿っている上に乾くのも遅い。湿った髪が顔や体に触れたり貼り付いてくる上に、乾いていても長い前髪が余裕で目に掛かる。何年もこの髪型なので慣れてこそいるが、時たま今みたいに鬱陶しくなる。

 

「暇だな……」

 

濡れた体や髪を拭い、変わりに湿ったタオルを洗面所の籠に入れ、特にやる事もなく部屋という空間に只1人だけのこの状況、人生の大半をその状況下で生き延び過ごして来た筈なのに何処か虚しい。大勢が暮らすこの学園という環境で1人で過ごしている事からくる寂しさなのだろうか?

 

「馬鹿馬鹿しい……」

 

どれだけ1人で生きてきたと思っている、同世代の人間と少々接しただけだぞ。我ながらくだらない答えに辿り着いた物だ。やる事が特にないとはいえ、曲がりなりにも学生になったのだから勉強に励もう。

 

「……その前に反省文だな」

 

椅子を壊した罰として書いて提出するよう命じられた書類を書き上げなければと、鞄から職員室にて手渡された原稿用紙を取り出して椅子に座る。

 

「……壊れたりしないよな?」

 

また壊して罰が加算されるのは御免だぞ。教室のより耐久性が低いであろう椅子を若干心配しつつも、机に向かい反省文を書き始めた。

 

 

 

 

 

「……………」

 

あれから暫く時間は経過したが、今現在に至るまで、俺は反省文を書き続けている。シャープペンシルを用紙に走らせた際に生じる摩擦音が未だに生み出されていた。

 

「……はぁ、漸く終わった」

 

最後の一文字を書き終えて、シャープペンシルを無造作に机に置く。

 

「もうこんな時間か……」

 

ふと時計を見てみれば時刻は7時を軽く過ぎていた。夕食を食べる時間帯なのだが、この学園では食堂で夕食を取るのなら午後6時から午後7時までに注文を済まさなければならない。そして現在の時刻は7時過ぎ、つまり今日は食堂で夕食を食べるのは不可能という事だ。

 

「……購買に行くか」

 

購買ならばまだ開いている。もとより今日の夕食は購買で済ますつもりだった、食器も禄に扱えないのでは食べられる物も限られるからな。目的地を呟きながら、金銭が入った袋を手にドアを開け、廊下へと出た俺は購買へと向かい始める。

 

「……………」

 

俺が住んでいる部屋は本来懲罰部屋なので周囲に生徒は居ないのだが、購買へと近付いていくと生徒達もちらほら現れてくる。それは別に構わん、本来女子の学園である此処に俺が此処に居るのは場違いなのだから。だが、だがしかしだな……!

 

『何故こうも肌の露出する格好ばかりなんだ……!?』

 

先程からすれ違う女子はどいつもこいつも肌の露出が多い。よく言えばラフ、悪くいえばだらしない服装をした連中ばかりなのだ。

 

『なんだ?この学園にはズボラな人間か露出狂しかいないのか?いくら放課後とはいえ、少しはちゃんとした格好で過ごせないのか?』

 

くそ、こっちが恥ずかしい……さっさと購買へ行こうと歩みを速める。長い事こんな環境に居れん。

 

肌の露出が多いラフな女子達を目にして、顔を赤くしながらそそくさと購買へ向かう一季。異性と過ごした時間がほぼ皆無な彼には、本来男にとっては桃源郷と言える同世代である女子高生のラフな部屋着という光景は刺激が強かったらしい。意外と初であった。

 

「な、なんで怒ってるんだろう……?」

 

「知らないわよ……」

 

「もしかして私のこの姿に照れてたりして」

 

「まさかー」

 

そんな一季を見て、怒っているのか、照れているのかと、彼を目にした面々は好き勝手に雑談していたのを一季は知らない。

 

 

 

 

「はぁ……」

 

購買にて夕食を調達し終え、部屋へと戻り扉を閉めると、俺は深い溜め息を吐いた。何故此処の女子はああも露出の多い服装なんだ……全く、こっちが恥ずかしい。

 

「さっさと食事にしよう……」

 

購買から行って帰るまでの僅かな時間が、整備室や反省文を書いて過ごした時間よりも心が疲弊している……此処で生活していくのは想像していたより遥かに厄介だ、主に寮での生活が。気を取り直して食事にしようと、夕食が入ったビニール袋を机に置いて椅子に寄りかかる。

 

「はむっ……むぐ……」

 

買ってきたおにぎりとお茶を取り出して、その流れでおにぎりを包むビニールを破いてかぶりつく。買ってきたのはおにぎり4個とお茶。朝食及び昼食と比べたら貧相だが、過去の食事を思い返せば、これでも俺には充分な食事だ。因みにおにぎりの具は鮭とおかか、それぞれ2つである。話し相手もいないので黙々とおにぎりを咀嚼し飲み込みまた咀嚼。合間にお茶。

 

「……ふぅ」

 

最後の一口を飲み込み終え、夕食が終わりを迎える。時間にすれば10分にも満たない。

 

「……………」

 

お茶が入ったペットボトルに口を付け喉を潤す。緑茶というらしい、ラベルにそう書いてある。

 

『……自習でもするか』

 

茶を飲みながらそんな事を考える。調整も整備も反省文を書くのも終えた。それ位しかやる事がない。中身がなくなり空になったペットボトルを机に置いて今日の復習をする事にした。

 

 

 

 

 

「……もうこんな時間か」

 

約2時間前にも呟いた言葉をまた呟いた。授業の予習復習を終え、教科書でも読むかと思い読んでいたら、何時の間にか時計が指す時間は9時を回っている。本当に時間というのはゆっくり流れるかと思えば瞬く間に過ぎるな。

 

「外は真っ暗だな……」

 

窓に近寄り、窓越しに外の風景を眺める。空は漆黒の闇の如く真っ暗である。それを無数の星が彩り、黒き空が星の光を引き立てている。互いが互いを栄えさせて見事な夜空を創り上げている。蛍光灯等の人工的な光にはない幻想的で思わず見取れそうな星の輝きが漆黒の飲み込まれた世界を照らして、夜空を彩っているこの景色。

 

「……綺麗だな」

 

そう心情が漏れる。清々しい水色の青空も、茜色の夕焼け空もいいが、俺はこの夜空が1番好みだ。暗く恐怖さえ抱かせそうだが、幻想的な魅力を放つこの夜空が。それから30分は星が輝く夜空を見続けていた。

 

「……もう寝るか」

 

窓から離れ歯を磨きに洗面所に向かう。充分に夜空を鑑賞はしたが、やはり窓越しからだと思う様に見渡せない。今度は外で見ようと思ったが、そうなるとまた露出の多い女子達と遭遇する確率が非常に高い、それがネックだ。

 

『それにしても……初日から色々あったな』

 

歯を磨きながら今日の出来事を思い返す。自分を一季と名乗るのを決め、奴と対面して、オルコットと揉めて怒りの余り椅子を壊し、ブライトや轡木さんと昼食を食べたり、クラスの代表候補にされたり……初日から波乱の1日だな。

 

『これが3年も続くのか……』

 

喜ぶべきか悲しむべきか……現状では後者の方かだな、明らかに苦労するのが目に見えている。此処での生活は考えていた以上に困難を極めそうだ。

 

『それでも今までの日々に比べたら遥かにマシだな……』

 

過去を思い返しながら口を濯ぎ、歯磨き粉を洗い流しそれを吐き捨てる。また水を含みもう一度濯ぎ吐き出す。歯磨きを終えて洗面所を後にし部屋の電気を消す。部屋は一気に暗くなり窓から入ってくる星明かりのみで薄く照らされている状態だ。

 

「ふぅ……」

 

ベッドに寝転がり布団を被る、コンクリートの床とは段違いの寝心地の良さだ。

 

「明日はどうなるだろうな……」

 

何年振りだろうか、明日がどうなるのかを考えるのは。希望も何もない絶望の日々を生きてきたあの日々からは考えつかないこの現状。こんな日が訪れるとはな……

 

学生生活初日の夜は、そんは気持ちを抱きなら眠りへと落ちていき、終わりを迎えた。

 

 

 




今回は入学二日目、一季の学生生活初日が終わるまでの話でした。

さて今回は私が書いた話で初めて10000文字を超えました。取り敢えず今回で二日目を終わらせようと書いていたらこんなに長くなってました。

椅子を壊した罰として代表候補にされてしまった一季、非が自分にあるので逆らいませんでしたが、千冬に逆らわない方がいいと察したんでしょう(笑)どうせ逆らっても無駄だと。

今まで異性と接した事が皆無な男子が同世代ラフな格好している女子達が周りに居ればねぇ……意外と初な一季には刺激が強いようです。

さて、次回はどうなるのやら。おそらく今回が年内最後の更新となるでしょう。ではまた次回。
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