IS〈インフィニット・ストラトス〉宿命を変える奇跡の双騎士 作:《陽炎》
「ねぇ、あれが昨日まで幽霊みたいだった男子なの?」
「そーなのよ!見てみたらクールなイケメンに変身してて驚きよ」
「あーあー。こんな事なら初日に声掛けておけばよかったなぁ……」
1時間目の授業が終わり、廊下は以前にも増して生徒達で出来た人集りから発生する会話で非常に賑やかである。女3人集まると姦しいと言うが、これだけ集まると姦しい所の騒ぎではない。下手をすれば小規模ライブの観客席並みに生徒が集い賑やかなのだ。昨日までは一夏目当ての生徒だけだったのに対し、髪を散髪し外見がガラリと変化した一季の情報がこの短時間で瞬く間に広まり今現在では一季目当ての生徒まで駆け付けているので廊下は渋滞寸前だ。1年生どころか、2年生3年生までイメチェンした一季を見にきている。一夏は多少は慣れては来ているが、一季はというと
「……………はぁ」
突然の周囲の変化に御覧の通りげんなりしており、小さな溜め息を吐く。初日こそ騒がれたが騒動の件もあり、自身目当ての生徒は居なくなり好奇の視線からは一旦解放されていた。しかし散髪して忌々しい長髪から解放されかと思いきや、再び好奇の視線に捕らわれこんな有り様である。昨日までよりは明らかに好意的には見られてはいるが、本人からすれば免疫のない異性の集団に囲われ視線の集中放火を浴びているので非常に困っている。怖がられたり暗くみられるよりかはマシなのだが、かと言って興味津々と言わんばかりに見られても困惑する、女子への免疫などないのだから。加えて廊下に1番近い席である一季にはその姦しさがもろに耳に入って来るので更に困惑の感情を加速させている。某赤い彗星の三倍の速さを軽く超える勢いで加速していく。
『何故こんな事に……』
よもや次の授業の準備をしていた間に廊下に包囲網が完成しているとは予想だにしていなかった。女子達で作り上げられた包囲網を通り抜ける気力など沸かず、机に座り只この時間が過ぎるのを待っている。
「大丈夫か?一季」
「……これが大丈夫に見えるのか?」
そんな一季を見かねて同じ動物園の珍獣扱いの境遇にある一夏が気遣いの声を掛けてくるが、一季は何時もと変わらず鬱陶しげに返事を返すが、その様子は昨日までより覇気がない。元々覇気を露わにしている人間ではないが、現在はその普段よりも覇気がない。一夏が掛けた言葉が言葉なのでこのやり取りだけを見ていたら一季は病人と間違われても可笑しくはない。
「見て見て!織斑君と話してるわよ」
「イケメン同士の会話……絵になるわね!」
「この女の園IS学園で2人だけの男子……」
「何時しか友情が芽生えてやがてそれは……ふふふっ!」
2人の会話する様を見ていた女子達がキャアキャアと騒ぐ。一部の腐った趣味を醸し出している言葉を聞いて、一季はこんな奴と友情など芽生えるものか、と思いながら意味の分からないその言葉を聞き流していた。意味は理解出来ないが、知らない方がいいであろうと本能的に理解したから。
『早く授業にならないだろうか……』
さっさとこの観賞物扱いの好奇な視線から解放されたい、そう考えながら一季は一夏との言葉のキャッチボールを最低限の言葉で返しながら休み時間が終わるの待ちわびる。次の授業が終わればすぐに教室から出ようと心に決めてこの空間に耐える事にした。
『……………やっと昼か』
4時間目の授業が終わり、一季は学食へと向かっている。あれから休み時間になる度にすぐさま教室を後にして、屋上に避難して時が過ぎるのを繰り返していた。丸で鬼がいない鬼ごっこを1人でやっているみたいな光景であった。幸いなのは、見た目がグルッと変化し一季に興味を持ち出した生徒達が初日よりも格段に増えてきてはいるが、一季が放つ話し掛け辛い鋭いオーラや例の騒動から間もないのもあってか、暗い印象は消えてはいても、怖い印象はまだ抱かれているのか、今の所話し掛けてくる生徒は居ない。その影響も遭ってか1人屋上で時間を潰せた。最も入り口付近から見られてはいるのだが、それでも廊下に包囲網を張られるよりは遥かにマシだと割り切り屋上から見える景色を眺めながら休み時間を過ごしていた。とは言え今は昼休み、昼食を食べる時間である。購買でおにぎり等を買って1人屋上で食べるのもいいが、そんな毎日を過ごしていれば支給された資金があっという間に底を尽きる。食堂での食事は無料なのだから其処で食べた方が圧倒的に懐に優しい。どちらも美味いのだが、資金に余裕のない一季は食堂を選んだ。たとえ視線の集中放火を浴びようとも温かいご飯が食べたいのだ。
『やはり人が多いな……』
授業が終わるなり直ぐに向かったのだが、やはり全学年が共通して使用する学食だからか既に生徒の人数が多い。因みに一季は存在をまだ知らないが、学食の隣にはカフェが隣接されている。食堂とは違い有料なのだが、年中無休営業で何時でも本格的なドリンクに四季折々のスイーツが楽しめるのもあって、生徒や教師達で年中賑わっており繁盛している。
『さて、今日はこれにするか……』
券売機のボタンを押し、出て来た食券を手に取りカウンターへと向かう。この日一季が選んだのはこの日のオススメであったハンバーグ定食である。取り敢えずは気になった食べ物があればそれを食てみようと行動しているのが現在の一季の食事スタイルである。今日のオススメではなく、他に気になるが名前の分からない食べ物はマリアに教えてもらいそれを頼むのが定番となりかけている。
「おや、髪切ったのかい。えらいカッコよくなったね~」
「……ど、どうも」
食券を出すと、身なりの変化のに気付いた食堂のおばちゃんに誉められて一季は少し照れを見せる。生まれてこの方褒められた事が殆どないので褒められるとどうしても動揺が隠せない。
「はい、ハンバーグ定食お待ち」
その後少し待つと、カウンターに注文したハンバーグ定食が置かれる。湯気と食欲を掻き立てる香りが立ち上り、空腹を刺激していく。昼食を乗せたトレーを持ち座るテーブルを探して歩く、早めに来たのもあって幸いにもまだテーブルは空いている。適当に空いているテーブルに座ると、一季は昼食のハンバーグ定食を食べ始める。
『くっ……難しい、な……』
箸とは別に付いてきたナイフとフォークを手慣れない動きでハンバーグを切り始める。ハンバーグ事態は簡単に切れる程上手く出来ているが、何分食器の扱いが下手な一季にはそれを切るのも一苦労なのだ。それでも箸に比べたらまだ扱いやすいと思いながらハンバーグを一口サイズに切り終えると、それをフォークで刺して口へと運送する。
『う、美味い……!』
噛み締めると100%国産牛で出来たハンバーグの旨味と、溢れるかと思う程の肉汁が口一杯に広がる。かかっているソースはデミグラスではない醤油ベースの和風ソースであり、仕上げの段階でかけられて熱が加えられた事で香ばしくなりハンバーグの旨味を更に引き立てており、豊潤な旨味なのだがくどくない。そこに白米をかっこめばハンバーグとソースが米を、白米が肉とソースをと互いに引き立て、口内で全ての味が纏め上がる。正に旨味の大軍勢が一季の口に押し寄せていた。
「イツキ、隣いいか?」
「……んぐっ。あぁ、構わない」
一季がハンバーグ定食に驚愕していると、昼食を乗せたトレーを持ったマリアが相席してもいいかと声を掛けてきた。これまで世話になっているのもあるので一季は口の中の咀嚼物を飲み込むと、すんなりと相席を了承する。
「あぁ、また出遅れた!」
「くっ……まだ焦る事はないわ。まだこれからよ!」
「でも、こんな事なら早く話し掛けておけばよかった……」
一季のマリアが会話を交わし同じテーブルで昼食を取ろうとしている光景を見ていた生徒達は一夏の時に続いて出遅れたと嘆いている。一夏の時と同じく興味津々だががっつかないですよ作戦が再び失敗した瞬間である。
「それじゃ、いただきまーす」
そんな雑談を特に気にもせず椅子に座ったマリアは、両の掌を合わせてから昼食を食べ始める。マリアも選んだ昼食は一季と同じハンバーグ定食である、マリアも食堂で食べるのはその日その日のオススメメニューである事が多い。これだけ多国籍の料理があるんだから食べなきゃもったいないじゃん、という理由から来ている。但し箸は使えないので白米を食べるのはスプーンを使用している、箸は現在特訓中との事。
「もぐっ……へぇ。デミグラスじゃないけど、このソースも美味しいねぇ」
「……あぁ。肉にも米にもよく合う」
互いにハンバーグの味に舌鼓を打つ。一季も取り敢えずだが、マリアや十蔵とならば多少のコミュニケーションは取れてる様にはなってはいる。最もそれでも人と接するのはまだまだであり、未だに話す際には若干の間は空居てから話している。それでもこうして話すだけならば流石に免疫のない異性相手でも照れはしない。
「それにしてもさイツキ、アンタ随分と注目浴びてるなぁ」
「……そうだな」
マリアの言う通り現在食堂の生徒達の興味は一季に注がれている。一夏はといえば、今日は箒と屋上で購買でおにぎり等を買って昼食を食べている。一夏目当ての生徒も何名か屋上へ向かっているので、食堂の席もまだちらほらと空席が見れる。だが一夏が居ない事で、教室内では分散していた視線が一気に一季へと集中する。
「……まったく、俺を見て何が面白いんだ?」
「前にも言っただろ?此処に男が居るってだけで珍しいんだ、何もしなくても注目されるってもんだよ」
付け合わせのポテトや人参を口にしながら愚痴を漏らす。そんな愚痴へのマリアの返しを聞いて、確かに初日の時にもそう言われていた事を思い出す。 自身のトラブルがきっかけで一旦ほとぼりが冷めたので気を緩めていたが、まさか散髪しただけで想像以上の視線を集めるとは……髪を切る前はマリアと食事していてもさほど騒がれもしなかったというのに、今では此処まで興味を引いている。一季は女子達の男子への関心や興味を甘く見ていたと自覚する。
「ましてや見た目のいい奴なら尚更さ」
「……自分では、見た目がいいとは思っていないのだが」
容姿についてマリアから褒められ多少照れを見せるも、一季には自身の容姿について自信がない。顔の左側は包帯で巻かれ隠れており顔立ちは半分隠れている。この包帯の下を見れば誰も自分の容姿を褒めてなどくれないだろうと思い込んでいる。とは言え、現在露わになっている切れ長のつり上がった瞳等のパーツを見れば、充分整った容姿をしており生徒達の気を引くのも無理はない。
「謙遜すんなって。アンタは充分カッコいい顔してるよ」
「……ほ、褒めても何も出ないぞ!」
マリアにカッコいいと言われて明らかに照れを見せる一季は、それを隠そうとハンバーグを頬張りご飯をかき込む。米を食べる時は箸で食べてはいるが、照れの影響からか普段から下手な使い方が余計下手になっていた。そんな一季を可愛い奴と思い微笑みながらマリアも付け合わせのポテトを一口食べた。
「ねぇ、君。君って噂のもう1人の男子でしょ?」
そんな調子で昼食を食べ進めマリアが水を取りに行った所に、1人の女子生徒が一季に話し掛けて来た。大人びているが何処かリスのような雰囲気を持つ人懐っこい顔立ち、赤いリボンをしたその生徒は一昨日一夏にISを教えるという名目でお近付きになろうとして箒に阻止された3年生だった。
「……噂が何なのか分かりませんが、多分」
リボンの色で学年を判別したのか、一季は一応敬語口調で会話をする。基本的には目上の人間に対しては敬語で話す事にしている、晩年の奴隷時代や研究所の頃に目上の人間には敬語で話せと叩き込まれているからだ。
「代表候補生やもう1人の男子と戦うんでしょ?」
「……そうですけど、それがなんですか?」
前回の一夏の時と同じ切り口で話しを進める3年生。どうやら一夏で失敗した今、系統は違うが容姿が整っている一季に狙いを変更したのだろうか?
「でも、君素人でしょ?ISの稼働時間どれくらい?」
「……100時間は越えているかと」
今までの展開して稼働させた時間は軽く見積っても確実に100時間は越えている。研究所からIS学園に辿り着くまで1週間は掛かり、船に忍び込み移動する以外は悲劇の復讐者を所々展開を解いたがほぼフル稼働させていた。最もそれが原因でアリーナに落下するというトラブルが起きたのだが。本人も漸く辿り着いた場所への到着の結末があんなにも格好悪く恥ずかしい結果となった事を若干だが気にしている。
「あら、結構動かしてるのね。でも、相手は代表候補生よ。軽くその3倍は稼働させてるわよ♪」
想像以上の稼働時間を聞いて驚きを見せるも、まだまだ余裕と年上の魅力を見せつけようと右人差し指で鼻をツンッと触り一気間10㎝位の近さにまで顔を近付ける。此処までの展開はほぼほぼ一夏の時と同じである。
「なっ!?ち、ちょっ……ち、近い……!」
「あらあら。そんなに照れちゃって、可愛いわね」
相違点を上げるならば色仕掛けに対しての照れ度合いであろう。一夏も年相応の男子なのでこの接近には照れを見せていた、だが一季は照れ過ぎではと思えるレベルで滅茶苦茶照れを露わにしている。異性への免疫など皆無の一季は、人生初の異性からの接近に明らかな戸惑いを見せ、テンパってしまう。
「ねぇ、よかったら私が教えてあげよっか?ISにつ•い•て」
これはチャンスと確信した3年生は右手の指全体で一季の頬から首を艶めかしくツーっとなぞっていく。言葉も一夏の時より3割増しで色っぽさが増長している。当の一季本人はといえば、最早色仕掛けにかなりテンパって、「なっ、な、なっ……」と呂律が回らなくなり始めていた。
「IS以外にも、い•ろ•い•ろ•とねっ」
色仕掛けに弱い見て、押せ押せモードへとスイッチONとなり、甘たっるいと感じてくる声色で一季への色仕掛けのアクセルを加速させる。左腕を使い順調に発育した胸を寄せて強調して見せつけ、一季へ更に詰め寄った。色々とはぐらかしているが、それは間違いなく女についてだろう。
「はい先輩、其処までにしてください。イツキ困ってるでしょ」
一季の初な情緒と困惑が臨界点へと差し掛かりかけていたその時、水を取り終え戻ってきたマリアが水が注がれたグラスをテーブルに置くと、空いた両腕を使って2人の間に差し入れて距離を離す。
「おーいイツキ、大丈夫か?」
「……か、かろうじて……」
間を取るとマリアは最早照れてショート寸前の一季を気遣う。限界寸前の様子だがマリアが止めに入った事により何とか大丈夫らしい。
「先輩、こんな所で何をやってるんですか。此処は色仕掛けする所じゃないですよ」
「あら、別にそんな事してないわよ。彼にISを教えてあげようとしただけ。まぁ、可愛い反応するからちょっと悪戯したけど」
その悪戯を色仕掛けと世間一般では言うのだが。これはあれだ、俗にいう開き直りというやつだ。
「あぁ、そうなんですか。でも、ISについてはあたしが教える事になってますから」
『……そ、そんな約束を取り付けた覚えはないが……』
マリアが自分にISを教えるなどそんな会話交わした覚えは微塵もない、疑問に思いながらも今の一季にそれを尋ねる余裕はない。
「でも貴方1年生でしょ?3年生の私の方が上手に教えられると思うけどなぁ」
一昨日はISの創造主の妹に阻止されたが今日はそうはいかない、普通の1年生には負けないという自信が3年生の表情に浮かんでいた。
「それに貴方、ISでの模擬戦経験はあるの?」
「ありますよ。だってあたしアメリカの代表候補生ですし」
「……えっ?代表候補生!?」
そうそれは普通の1年生ならばの話、しかしマリアはアメリカの代表候補生である。対して自分は代表候補生でもなければ専用機持ちすらない、マリアの方が明らかに自分よりエリートなのが理解出来ない程彼女も馬鹿ではない。
「で、でも専用機は持ってないんでしょ?」
「まぁ確かに専用機持ちじゃないですけど、その変わり家の国の量産機トムキャットの搭乗ライセンス持ってますから」
「えぇ!?」
苦し紛れに爪楊枝で重箱の隅を突っつく様に専用機の件に突っ込みをいれるが、マリアの返事を聞くなりまた驚愕する。トムキャットとはアメリカ製の量産型の第2世代型ISであり、それは最高速度と攻撃性に比重を置いた量産機である。例えるならばそれは正にじゃじゃ馬である。その為基礎知識を持たない1年生には搭乗を許可は降りず、搭乗ライセンスは本来ならば2年生からでしか取得する事が出来ない。その事は3年生である彼女も当然授業等で習って知っている。だがしかし、自分の目の前の1年生はそのライセンスをもっている。
『今年のアメリカから来た1年生に特例でライセンスを取得した子が居るって聞いたけど……それがまさかこの子立ったなんて……』
トムキャットの搭乗ライセンスを1年生で取得した実力のあるアメリカ代表候補生がいるという噂は小耳にはさんではいたが、まさか目の前にいる少女だったとは……3年生からすれば全くもって予想外、想定の範囲外よ!と口に出したかった。軍によって鍛えられた実力と高いIS適性値というポテンシャルからマリアは早期でライセンス取得に至っている。そこまで詳しい情報を知らなくても、それはつまりマリアにライセンスを与えるにアメリカが相応しい実力があると認めたいう事実を突き付けるには充分だった。
「そ、それならこうしない?あなたと私で模擬戦をして、勝った方がこの子に教えるのはどう?」
だが、今日の彼女は一昨日とは違い身を引く事はなく、自分とマリアでの模擬戦を提案する。3年生の彼女ならばこの時期でも訓練機の貸し出しは認められ、マリアも自国から貸し出されているトムキャットがあるのでこの2人ならば問題なく模擬戦を行える。
『昨日は篠ノ之博士の妹って事で諦めたけど、二度も1年生に遅れを取りたくはないわ。例え代表候補生でもね』
自分は3年生だが専用機も代表候補生の肩書きもない、対して向こうは1年でも代表候補生の肩書きに加え異例の早期ライセンス取得した実力者。たが、昨日に続いて1年生に負けるなど、流石に彼女のプライドが許さなかった。昨日はIS開発者の妹という事で諦めたが、自分とて此処で日々己を磨いてきたのだ、ISに関わってきた年数ならば此方が上なのだから。
「模擬戦かぁ。うん、いいですよ」
「決まりね。じゃあ時間は今日の放課後、場所はそうね……第2アリーナでどう?」
「それで構いません」
3年生が時刻と戦いの場を指定すると、マリアは否定する事なくすんなり承諾する。元々強い相手と戦いたい一種のバトルマニアでもあるマリアにとっては、1年に量産機の貸し出しが行われていない今模擬戦を行えるのは願ってもいないチャンスなのだ。
「それじゃあまた放課後に会いましょ。あっ、君も見に来てねっ」
そう一季に右目をパチリと星が飛び出していそうなウインクをすると、3年生は学食を後にした。が、当の本人はまだ色仕掛けによる精神的ダメージが予想以上に長引いていて気付いても反応する余裕がなかった。
「……………ブライト、どういう事だ?俺はお前にそんな要求をしてはいないぞ」
漸く自分のペースを取り戻して自分の話にも関わらず置いてけぼりにされていた一季がマリアに問う。自分が動揺している間に勝手に自分の指導を決める戦いを取り付けられたのだ、問い詰めたくなるのも頷ける。しかし来週の月曜日に控えるクラス代表決定戦では、強烈な対抗心を向けている一夏に加えて代表候補生のセシリアとも戦わなければならない。そんな一季からすれば模擬戦を経験はしておきたいという思いはある。ドイツで黒ウサギ隊との2対1の戦闘で1人を倒したとはいえ、経験し実戦はそれのみ。稼動時間と比べると明らかに実戦不足なのは誰がどう見ても明白だ。
『確かに実戦の経験が積めれば越した事はないが……そもそもそんな相手が居ない』
しかし現在1年生に量産機の使用許可はおりない上、そもそも一季には模擬戦を頼める相手が不在。理由は簡単、コミュニケーション能力が皆無だからである。アリーナで模擬戦を行おうにも量産機と対戦相手がなければ話にならない。自分も専用機持ちなので他の専用機持ちに頼み模擬戦を行うという方法もあるにはある。この学園に居る専用機持ちは一季以外だと1年生ではセシリア、そして4組に1人。後は2年生に2人、3年生1人の計5名。だがセシリアとは対戦相手でもある上に初日の騒動もあり現在不協和音を奏でている真っ只中。残りの専用機持ちの面々とは面識のめの字すらなく、コミュニケーション能力が乏しい一季に自ら模擬戦を持ちかける事など出来る筈もない。
「いやぁ、こうでもしないとあの先輩諦めてくれそうにないからさ。正直困ってだろ?」
「……まぁ、かなりな」
言い逃れしようのない事実を突かれて全く否定も出来ないので一季はすんなりと認める。実際困っていたのは事実だ、それもかなり、もう少しで爆発するのではと思うくらいに。正直言ってマリアが言いくるめてくれて内心助かったと思っている。
「心配すんなって、あたしが勝てばあの先輩も諦めるさ」
元はと言えば、上級生に言い寄られ慌てふためいていた自分に非がある様なもの。その色仕掛けから助けてくれた事もある一季は、自分の異性への免疫力の不甲斐なさに情けなくなりつつも、この場を乗り切ってくれたマリアに感謝しておく事にした。
「……まぁ、その、助かった」
「いいっていいって。ささっ、残りのご飯食べよ」
「……そうだな」
マリアの明るいトーンに感謝しながら、一季は中断されていた食事を再開する。少し冷めてしまってはいるが、食べると何処か温かく思えた。
「それにしても……あんなに慌てふためいて照れるなんて。ホント可愛い奴だなぁ」
「ぶふっ!?」
マリアのその言葉に、一季は思わず飲みかけていたコーンスープを危うく吹き出しそうになりかける。食事を取るだけでこんなに疲れるとは正直考えもしていなかった。
『……これから先もこんな事があるのだろうか?』
代表決定戦の事も今起きた厄介事もそうだが、これから先の3年もの間このような事が起こるのだろうか?そんなこれから先を予想すると、過酷な環境で生きてきた一季でも心はげんなりせずにはいられなかった。
という訳で、イメチェンして印象がよくなった結果心への疲労が悪化した一季でした。あー、書いてて面白かった(笑)マリアのお陰で何とか踏ん張りが利きましたが、あの程度はまだまだ一季弄りの序章なんですよね、こんなんではその内一夏とは違う物理的な意味でリア充爆発しろときう事になりそうです。
後、今回からマリアの一季への呼び方をイツキとカタカナ表記に変更と終生を行いました。理由としてはeagleさんにマリアが一夏の事をイチカと呼ぶ理由を尋ねた際に英語訛りと文語体による物という返信が送られたので、それらを表現する為カタカナ表記にしました。