IS〈インフィニット・ストラトス〉宿命を変える奇跡の双騎士   作:《陽炎》

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さて、今回は一夏とセシリアの対決となります。その結末は如何に。


第23話 白の初陣 蒼へ挑む騎士

「一季がセシリアと……」

 

「まぁ、奴とお前がオルコットと戦う順番が入れ代わっただけだ。そう気にするな」

 

専用機の来ない自分の代わりにオルコットと戦う事となった一季の姿を、一夏はモニター越しに食い入る様に見詰めている。やはり一夏も一季の事が気になるのだろう。かくいう私も気になっている、一季が私の弟……一夏の双子の兄弟ならば2人目の男のIS操縦者だけでも衝撃的だというのに、尚更世界中に再び衝撃が走る。DNA鑑定の結果はまだ来ていない、今日の夕方頃には来る手筈だ。この代表決定戦が終了する頃にけ結果が届くだろう。

 

「一夏、この試合しかと見届けるんだぞ。一季とオルコットの情報を得れて戦いに備えれる、またとない好機なのだからな」

 

「……あ、あぁ。そうだな」

 

篠ノ之のその言葉に若干遅れ気味に一夏は返事を返す。篠ノ之の言う通り対戦相手の情報を手に入れるのはまたとないアドバンテージだ、此処に来て自主練を重ねてはいるが、例え専用機で戦ったとしても実戦は実質今日が初めて。一季は兎も角として代表候補生のオルコット相手では実力の差は歴然。此方としては喜べないトラブルの影響から、少なくともオルコット相手には自分の手の内を晒さず戦いに挑める。故に少しでも相手の情報は把握しておく所だが、今の様子から見る限り恐らく一夏は情報よりも一季の勝敗に意識が傾いている。

 

「それにしても……一季のIS何だか独特の姿だな」

 

「確かに……いくら専用機とはいえあそこまで特徴的な出で立ちになるものなのか?」

 

2人は一季の専用機の外観を確かめるように見た感想を素直に漏らす。その感想の通り一季の専用機、悲劇の復讐者はISとしてはかなり珍しい外観をしている。機械である筈のISにも関わらず何処か生命を感じさせる、それを纏いし一季の顔は悪魔の顔の様なヘルメット状のパイザーで隠れその表情は確認出来ず、人が悪魔にその肉体を乗っ取られたかと例えれる外観。ウイングスラスターやその他の装甲も悪魔のそれである。

 

「うおっ。一季の奴、喋ってるセシリア相手に攻撃したぞ」

 

「何を言っている、既に試合は始まっているんだ。油断している相手を攻撃して同然だろう」

 

べらべら喋ってるオルコットを一季がガトリングガン搭載のランスで撃つ。馬鹿者め、試合が開始しているにも関わらず相手を見くびり余裕をかましているから隙を突かれるのだ。いくら代表候補生とは言えども相手を見くびっていては足下を掬われるぞ。しかし、その後はオルコットが自身の機体最大の武装である4機のビットとISの全方位視覚接続によって一季の最も反応が遅れる箇所から狙撃を行い、一季は避けて直撃を免れてはいるがジワジワとシールドエネルギーが減少していった。

 

「一季……」

 

モニターに映る戦闘中の一季をジッと見ながら一言そう名前を呟く一夏。大方一季の心配をしているのだろう、姉弟だからこれ位はわかる。一夏はすぐ態度に出るからな、最も私も多少は心配しているのだが。その事実は誰にも知られる事なく試合は進んでいった。

 

「一季の奴、セシリアを押し始めたぞ」

 

「あぁ。先程まで避けるのに費やしていたのが嘘のようだ」

 

試合開始から15分経過した頃合いで、先程までオルコットの狙撃を回避し続けていた一季が一転してオルコットの操るビット兵器を次々とランスで貫き撃墜していった。

 

「どうやら今までは様子見に費やし、オルコットの機体の特性等を見ぬいた今、攻めへ転じたようだな」

 

「はぁぁ……一季君凄いですねぇ」

 

この3日間、3組クラス代表のマリア・ブライト相手に

模擬戦を繰り返していたらしいが、僅か数日でここまで代表候補生相手に戦えるのは一季自身のポテンシャルの高さだろう。相手と機体の得意とする戦闘スタイルとその弱点を冷静に見抜きそれを利用して攻め込んでいる。模擬戦相手のブライトはアメリカ代表候補生であり、本来ならば1年には搭乗が許可されていないトムキャットを操る実力を誇り、オルコット、4組の更識と並んで1年ではトップクラスの実力だろう。そんな人物を相手に何度も模擬戦を重ねる事で短期間とはいえ実力を上げたこともあって、オルコット相手でもビット4機を落とし善戦しているという訳か。それにしても一季の奴、一体何が切欠でブライトと模擬戦をするまでの間柄になったというのだ?クラスでも誰とも会話すらしていないというのに他のクラスの生徒と親しくしているとは、此処に現れた時に偶然ブライトがその場に居合わせたと聞いたがそれが切欠か?まぁ、孤立していないだけマシだが少しはクラスメイトともコミュニケーションを取れないものなのか。

 

「なんだ今の!?一季が一気にセシリアに接近した?」

 

オルコットが隠していたミサイルビットで迎撃されたかに見えた一季だが、煙の中から凄まじい加速でオルコット相手に一気に特攻してそのまま地面へと突っ込んでいく。成る程、武装を隠し持っていたのはオルコットだけではなかったらしいな。一季は『瞬時加速』に加え《灰色の鱗殻》という2つの奥の手を温存していた。そして『瞬時加速』による急激な加速により生まれた勢いのまま地面へとオルコットを叩き付け、そのまま《灰色の鱗殻》を4発叩き込み一季の勝利で勝負が着いた。よもや『瞬時加速』まで使うとはな、意外とやるではないか、一季。

 

「おぉ!一季の奴、勝ったぞ」

 

一夏が一季の勝利に興奮気味に喜びを見せている。喜ぶのはいいがオルコットの次にお前は連戦であいつと戦うんだぞ、負けたオルコットは信じられないといった様子だが、自身の実力を過信し対戦相手である一季を見くびって試合に臨むからこのような結果に繋がったという事を本人は気付いていないだろう。ブルー・ティアーズがビットと他の武装を併用出来ないとう弱点とオルコットが接近戦に不慣れな点も敗因の一因だが、最大の理由は相手を男だからと下に見ていた傲慢だ。大方一季の実力が低いと決め付け戦いに臨んだのだろう、そしていざ試合が始まってみれば奇襲を掛けられ、直ぐに立て直した後は自分のペースだったものの、弱点を見抜かれ攻め込まれた結果、下に見ていた一季相手にビットも余裕もペースさえも壊されて負けた。

 

『一夏、お前は勝てるか?』

 

ピットから出て、もうすぐやってくる一夏の専用機の到着を待つ。直にオルコットと戦う我が弟は一季が勝利した事に喜んでいるが、お前はオルコットの後にその一季と戦うんだぞ。代表候補生を倒したもう1人のISを動かせる男と、お前の双子の兄弟かもしれない人間と……この口に出さない独白は私の心の奥へひっそりと消えていった。

 

 

 

 

「白い……IS?」

 

ポツリとそれを目にして思わずそう呟いた。目の前にある無機質な眩い程に飾り気のない純白、これが自分の専用機となる俺のISなのか、そんな感情が俺の心を占めてゆく。

 

「これが織斑君の専用機、『白式』です!」

 

この白き機体を目にして、その名前を耳にした刹那、俺は不思議に思う。無機質なそれが、自分を待っているように感じ取れる、この直感が錯覚やそんな類ではないと確信してしまう程に。

 

「すぐに装着しろ、フォーマットとフィッティングは実戦でやれ。アリーナを使用出来る時間は限られているからな、ぶっつけ本番で物にしろ」

 

「わかりました」

 

「その意気だ、この程度の障害男子たるもの乗り越えて見せろ。一夏」

 

セシリアの準備も終わり次第試合は始まる。しかしフォーマットとフィッティングには30分はかかる、どの道試合開始まで初期化も最適化も間に合わない。今からぶっつけ本番でこの専用機を物にしなきゃならない、今この瞬間から俺はこいつを纏うんだ。そしてこの俺の専用機、白式と共に戦う事になる。己の意地と誇を賭けてセシリア、そして同じ境遇である一季、この2人の専用機持ちと戦いを繰り広げるんだ。

 

『よろしく頼むぜ、相棒』

 

そう言って白式の装甲にピタッと触れる。その台詞に相棒と証した白式から返ってくる言葉はない。だが、触れた掌から指先までの至る所に馴染む感覚を覚えた。

 

「そうだ、背中を預けるように座る感じでいい。後はシステムが最適化する」

 

カシュ、カシュと空気が抜けるような音を発しながら、白式が背中を預ける俺を受け止めて体に合わせるように装甲を閉じていく。ずっと俺の体であったかの如き一体感、俺の為に調和していく白式が俺と違和感なく繋がり、クリアーな感覚が視界を中心に広がっていく。

 

「ハイパーセンサーは問題なく動いているな。一夏、気分は悪くないか?」

 

普段となんら変わらぬ同じ態度に思えるが、微妙な声の震えまで聴覚で認識出来る。その証拠に俺の事を名前で呼んだ、心配してくれているんだな。

 

「大丈夫だ、千冬姉。いける」

 

「そうか」

 

ハイパーセンサーがなければわからない程の声のブレ。それは千冬姉がホッと安心した事を充分把握させた。まぁ、さっきも名前で呼んでいたから多分普段でもわかっただろうけど。

 

「……………」

 

後ろに居る箒に意識を向ける。意識を向けるだけで360°見えるんだ、振り返る必要はない。何か言いたそうだが言葉に迷っている表情をしていた。この表情の複雑さも普段では気付かないレベルなのだろうか。

 

「箒」

 

「な。なんだ?」

 

箒から声を掛けてきそうにもないので俺から声を掛ける。話し掛けられた箒は軽く驚き体をビクッと震わせながら反応する。この1週間行ってきた特訓の成果を今から発揮する、その特訓に付き合ってくれた箒の為にも無様な試合は見せられない。

 

「行ってくる」

 

「あ……あぁ。勝ってこい!」

 

気の利いた台詞でも掛ければいいのだが、生憎と浮かばないのでシンプルなこの一言を、後ろへ振り向いてしっかりと箒の顔を見て、混濁する様々な思いを込めて伝える。この一言を聞いた箒は口元に笑みを浮かべ、同じくシンプルに勝ってこい!と伝えてくる。その言葉を聞いてピット・ゲートへ向かう、そしてゲートが開放されアリーナへの道が広がる。開かれたゲートからアリーナへと飛び立った。

 

 

 

 

 

『負けた……?代表候補生であるこのわたくしが、男相手に……?』

 

アリーナからピットへと戻った今でもせは自分が敗北した事が信じられない。たった今まで行われた試合の結果が現実だと受け入れられていない、正確には受け入れてたくないと言う方が正しい。

 

『一体何故ですの!?相手は素人同然の男だというのに、そんな相手に敗北するだなんて……』

 

セシリアは金曜の放課後に一季がマリアを相手に行った模擬戦の初戦を一部始終見ていた、その結果は一季の完敗。自分と同じ代表候補生相手とは言えあそこまで簡単に敗北するなど実力は素人同然、たがが知れているとその場を去りこの日に備えていた。しかしそれがセシリアの誤算だった、それから一季は昨日までに合計40回模擬戦を行い短期間ながら経験を積み、代表候補生のマリア相手に3割の確率で勝利する程までの実力を付け、《灰色の鱗殻》という切り札に加え『瞬時加速』という新たな切り札まで習得していたのだから。そして接戦だがセシリアは負けた、エネルギーの残量だけ見れば接戦だが終盤はペースを壊され終始押されての敗北、自分に自信を持つセシリア本人に取っては接戦とは言い難い。しかしそんな事実など知らず一季の事を偶々ISを動かした素人の男としか見ていないセシリアには敗因がわからない、何故途中から押されたのか、何故弱点を見抜かれビットを次々と落とされたのかわからない。それがセシリア・オルコットの弱点だと本人は気付いていない。

 

『……確かに先程の試合負けはしました。ですが次の相手は間違いなく素人、このわたくしが立て続けに男に負けるなど有り得ませんわ』

 

次の相手は一夏、一季と違ってISでの特訓などしていない。動かしたのもまだ2ヵ月すら経過していない、それはISによる戦闘は素人で実力も低いとセシリアが決め付けるには充分な情報だった。いくらブリュンヒルデの座に輝いた織斑千冬の弟とは言え、間違いなく素人である男相手に負ける筈など有り得ない。先程の敗北は何かの間違いだと無理矢理プライドに納得させる用に言い聞かせながら、セシリアは修復を終えたブルー・ティアーズを装着し、ゲートから一夏の待つアリーナへと飛び立つのだった。己の弱点に気付かぬままに。

 

 

 

 

 

「あ、あら。わたくしより先に来ているなんて意外ですわね」

 

一足先にアリーナに移動し終えて少し待つと、セシリアがアリーナへとやって来る。その体に装着しているブルー・ティアーズは一季との戦闘で破壊されたビット等は元通り修繕・補給され一季と戦う前のダメージが何もない外観だ。セシリア自身も何時もと変わらぬ態度と口調だが声色や表情に動揺等が見え隠れしている、やっぱり一季に負けたの相当悔しかったんだろうな。プライドとか高そうだし。

 

「急に対戦カードが変更されましたから、てっきり怖じ気づいて逃げ出すかと思いましたわ」

 

「逃げる?そんな恥ずかしい真似出来るかよ」

 

戦うのが怖くて逃げる奴と、自分にとって不利な戦いだとしても戦いに挑む奴、どちらが恥ずかしくないと聞かれれば俺は間違いなく後者だと宣言できる。だって前者は『僅かばかりでもある勝利する自分』すら捨てて逃げているのだから、俺は例え白式が来なくて量産機で戦わなければならなくなっても逃げ出さなかった。そんな事したら特訓に付き合ってくれた箒、男でISを動かせたという理由でも俺をクラス代表に推薦してくれたクラスメイト、そしてなにより、大切な家族である千冬姉に申し訳がない。親も弟も居なくなった俺にとって『たった1人』の大切な家族である千冬姉にまた『あの時』みたいに名誉に泥は塗れない……否、塗る訳にはいかない。

 

「こっちは何時でもいいぜ。準備万端だ」

 

「そうですか、なら……」

 

もう試合は開始している。何時でもあの手に持つ《スターライトmkⅢ》の引き金を引いて狙撃してきても可笑しくない。既に引き締めている気をより一層引き締める。

 

「お別れですわねっ!」

 

キュイン!

 

「うぉっ!」

 

つんざく音が耳に刺さり、閃光を放ちながらレーザーが俺へと襲い掛かってくる。1秒の半分にも満たない速度で向かってくるそれは例え白一直線のレーザーでも正確な狙撃をされても躱すのはかなり難しい。ギリギリ直撃は避けたが当然エネルギーは減少する。

 

「さぁ、踊りなさい!わたくしとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲で!」

 

「悪いけど、円舞曲なんて踊りたくても踊れねぇよ!」

 

踊れるのなんて盆踊りかソーラン節が関の山だ、ワルツなんて見た事すら怪しい。って、そんな事はどうでもいい。

 

『サンキュー箒、特訓のお陰で感覚が戻ってきてる』

 

ISを動かしてからゴタゴタして鈍っていた感覚はこの1週間で戻ってきた。だけどまだ俺が白式の反応速度に対応しきれていない、しかも相手は代表候補生だ。セシリアの流石は代表候補生と言いたくなるその正確な狙撃によって繰り出されるレーザーの雨は避けようとしても完璧には避けきれない。これ等の要素が合わさって少しずつだがシールドエネルギーが削られる。

 

「取り敢えず武器だ、一体どんな武器が……」

 

白式に問うと目の前にウィンドウが出現し現在展開可能な装備一覧が現れる。

 

『一覧……って、装備1個しかないじやねえか!』

 

近接ブレードとしか一覧には書かれていない、見舞い違いではなさそうだ。まぁ、何も無いよりはマシだ。その《名称未設定》の近接ブレードをコールし展開する。

 

キイィィィン……

 

高い周波音を出しながら光の粒子が放出され右手の中で形を作り収まった。片刃のブレード、刃渡り1.6メートルはあるこの長い刀が俺の唯一の武器。

 

「けどまぁ、やってやるさ!」

 

中距離射撃型相手にこっちは近距離格闘型の近接ブレードのみで戦わなければならない。まぁ、扱い慣れてる剣立ってのが数少ない救いか。これで銃のみとかだったら本当に手詰まりだ。相手との距離は30メートル、剣しかない俺には絶望的な間だ。それでも引くわけにはいかない、本格的に戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

シャキン!

 

金属と金属がぶつかり合う高い金属音の少し後に、物体が切り捨てられたような音が発生する。

 

「よしっ。3機目撃墜!」

 

「くっ……!」

 

そう、今のは3機目のブルー・ティアーズビットを切り倒した事で生まれた音色だ。切り落とされたビットはブルー・ティアーズの名の通り蒼き雫となって落ちていく。

 

『しかしヤバいな、もうエネルギーの残量が……』

 

だけど俺が優勢という訳ではない、寧ろ劣勢だ。試合が開始してから軽く20分は経過した今、白式は実体ダメージ中破し装甲の所々が破損、シールドエネルギーの残量は残り98。

 

「ま、まさか……またブルー・ティアーズを落とされるなんて」

 

だけどセシリアも余裕は余りない。実体ダメージやシールドエネルギーの減少こそないが、その機体の最大の兵器ブルー・ティアーズの弱点は一季との試合を見てわかっていた、ご丁寧に俺にもブルー・ティアーズの説明をしてくれたからな、頼んでいないのに。その正確な狙撃は一季と戦った時と同じように俺の反応が一番遅れる箇所からビットで狙撃を行ってくる。ビットと他の装備の併用は出来ないからビットの操作に移行すれば、俺がわざと作り出した隙により生じた『反応が一番遅れる場所』へと誘導出来る。後はその場所へと誘われたビットをさっきみたいにブレードで真っ二つだ。3機目を切り捨てた今、もうセシリアのブルー・ティアーズは残り1機だ。

 

「一季とお前を試合を見ていたからな。お陰で対処法がわかったぜ」

 

「くっ……」

 

ビットこそ落としたが俺が劣勢なのには変わりはない。白式の反応に追いつけていないでいたのと、武器が本当にブレードしかないのでかなりダメージを喰らった。だけど向こうも攻撃手段はライフルとビット1機による一直線のレーザーを放つのみ。さっきまでのレーザーの集中放火はない。加えてあのデカいライフルでは接近戦での狙撃は難しいし、接近戦に持ち込もうとすれば俺の攻撃を躱す事に集中してビットを操作しようにも意識が躱す方に傾くからビットからの攻撃はない。そして恐らく一季や俺との戦い方を見る限りセシリアは接近戦に不慣れだ、ならば接近戦へと持ち込めば俺にも勝機がある。

 

『よしっ、いける』

 

時間が経過してフォーマットとフィッティングが進んだからか試合が開始した時よりもISの動作がずっと軽い、接近戦に持ち込めば俺が有利だ。漸く辿り着いた勝利への希望という躍る衝動をトリガーに接近戦へと持ち込む事にした。

 

 

 

 

 

「はぁぁ……織斑君も凄いですね」

 

「あの馬鹿者め。浮かれているな」

 

ピットのリアルタイムモニターで一夏とセシリアの試合を観覧している真耶は一季を褒めた時と同様に一夏の戦い振りを褒めているが、反対に千冬は一夏に対してヤレヤレという態度を表すように呆れた台詞を吐いた。

 

「えっ?どうしてわかるんですか?」

 

「さっきから左手を閉じたり開いたりしているだろう、昔からのあいつの癖だ。あれが出る時は大抵簡単なミスをする」

 

過去を思い返してそんな台詞を述べる千冬、そんな千冬の言葉を聞いて不思議そうにしていた真耶は納得した素振りを見せる。

 

「へえぇ。そんな小さな事もわかるなんて、流石は姉弟ですねー」

 

「ま、まぁそのなんだ。あれでも弟だからな」

 

真耶が関心気味に放ったその言葉に千冬は思わず自分が言った言葉を思い出しハッとして、弟だからなと念を付け加えた。

 

「あー、照れてるんですかー?照れてるんですねー」

 

「……………」

 

ギリギリギリギリ

 

「いたたたたっ!?お、織斑先生、痛い!痛いです!」

 

止めておけばいいものを真耶はそんな千冬を見てからかう素振りを出したばかりにブリュンヒルデの栄冠に輝いた千冬のヘッドロックを喰らう羽目になった。ギリギリと痛々しい軋む音が真耶から鳴る。

 

「山田先生、私はからかわれるのが嫌いだ」

 

「は、はいぃ!わかりました!わかりましたから離して、あううぅぅぅぅぅ!」

 

「……………」

 

真耶が世界最強のヘッドロックに悶え苦しみ悲鳴を上げている騒がしいAピットにて箒はそんな騒がしさなど気にも止めず、戦いを繰り広げる一夏が映るモニターをジッと見詰めており、心なしか顔が険しさを増している。聖女のように掌を合わせて一夏の勝利を祈りを捧げるするような性分ではない。だからこそ、その険しい表情には様々な感情が入り混じった感情の複雑さを物語っている。

 

「ごめんなさい!ごめんなさい、許してくださいぃぃ!」

 

「……ちふ、織斑先生。そろそろ止めてあげてはいかがですか?」

 

千冬のお仕置きという拷問に苦しむ真耶の悲鳴に流石に気付いたのか、千冬に止めるよう進言する。うっかり名前で呼びそうになったのは昔から家族ぐるみの付き合いをしていた中だからこそのご愛敬だ。

 

『一夏……』

 

真耶が解放されピットが落ち着いた雰囲気を取り戻した事で再び試合に集中する箒。心の中で名前を呟いたその時試合は大きく動くのだった。

 

 

 

 

 

「もらったぁ!」

 

セシリアの間合いに入り、残る1機のビット右足で勢いよく蹴っ飛ばした動作に連動するように刀を振り上げる。この至近距離ならばライフルによる狙撃は無理だ、確実に振り下ろした一撃を喰らわせられる。そか確信していた時だ、セシリアの笑う表情が目に映ったのは。

 

ジャコン!

 

セシリアに纏われているブルー・ティアーズの腰部分のスカート状のアーマーが動き何かが装填されたような音が聞こえる。

 

「し、しまった!」

 

俺は動き回るビットを落とすのに集中して、そのビットを殆ど撃墜してやっとの事で接近戦に持ち込めるという勝機に浮かれて忘れていた。なんで忘れいたんだ、セシリアにはまだ……

 

「お生憎様、ブルー・ティアーズは6機ありましてよ!」

 

レーザーを放つライフルとビットの他に弾道型ミサイルという武装があるというのを思い出した時には、回避が間に合わず2つのミサイルが目前にまで迫っていた。まずい!残り少ないエネルギーでこの2発のミサイルの直撃なんか喰らったら、俺の……負け。

 

ドカァァァァァン!

 

その結末を浮かべる思考を吹き飛ばすかのように、俺はミサイルが爆ぜた事で生まれた爆発音、そして黒煙に包まれた。

 

 

 

 

 

「わたくしの試合開始を見ていたにも関わらずこの事を忘れているとは笑止ですわ。けどまぁ……粘りを見せた事だけは誉めて差し上げましょう」

 

ミサイルの直撃を目にし、残りのシールドエネルギーと機体のダメージを考えれば自分の勝利。セシリアはそう確信した。一季に続いて一夏にもビットを3機落とされるという出来事も発生したが、終わってみれば大差で自分の勝利だ。一季には接戦の末に敗れたが一夏にはこのエネルギー差で勝利を手にした、そう確信して黒煙を見ながら笑みを浮かべてそんな台詞を吐く。

 

「一夏っ……!」

 

一夏が爆発に飲み込まれるのをモニター越しに目にし、箒は思わず声を出す。その声にも表情にも不安が含まれていた。先程までとは違い千冬と真耶も画面を真剣な眼差しで凝視している。

 

「……ふん、終わったか」

 

「試合開始から30分か。イチカもいい所まで行ったんだけどねぇ」

 

「……何処がだ?オルコットに一撃も喰らわせられず、挙げ句に接近戦を挑んでミサイルで返り討ちにされるとは、人の試合を見て戦った結果がこのざまとは」

 

同じくリアルタイムモニターで試合を観覧していた一季とマリアだが、マリアが健闘したと称えているのに対して、一季は容赦なくバッサリ切り捨てた。

 

「いやぁ、あのビットをブレードで3機落としたんだから大したもんだと思うぞ。うん」

 

「……ビットを落とした所で負けては意味などない、これはビットを撃墜する競技ではないからな。それに俺は《悪魔の尾》のみでビットを4機落としている上にオルコットに勝利している、初見にも関わらずだ。結果は歴然だ」

 

「なんだよ、張り合ってんのか?」

 

「……別に張り合ってなどいない」

 

誰がどう見ても張り合っているとしか思えない言葉を言っているのだが、マリアの最もなツッコミにも意固地に否定する一季。2人共にこの試合、一夏が敗北したと見ていた。一夏を覆うその黒煙が晴れるまでは

 

「ふん、機体に救われたな。馬鹿者め」

 

黒煙が晴れるなり千冬は鼻を鳴らし厳しい言葉を吐く、しかし何処となく安堵を含んでもいた。真耶も箒も煙の中から現れた一夏を見て安堵する。僅かに残る煙も吹き飛ばした其処にあるのは、一夏と真の姿とった白式の姿だった。

 

「おっ、どうやらまだ終わってなかったみたいだねぇ」

 

「……そのようだな」

 

同じく一季とマリアも煙が晴れ露わとなった一夏と真の姿へと変化した白式の姿を見て悟った、まだ試合は終わってないと。

 

「なっ!?……」

 

突如、一季が『何か』を目にした途端に驚愕した。

 

「どうしたんだ、イツキ?」

 

「あれは……」

 

「あれって……って、あれは」

 

マリアの尋ねる声すら届いているか今の一季には怪しい、恐らく届いていないだろう。その意識全てが一夏の持つ刀に注がれているのだから。白式の変化と共に武器の近接ブレードも姿形が変化していた。僅かに遅れてマリアも気付く、一夏の持つ刀の変化に。そして知っているのだ、その刀の名前を。

 

「「《雪片(ゆきひら)》……!」」

 

同時に発せられハモりを見せる2人の声。マリアも一季も知っている、否、恐らくIS関係者ならば全員知っている名であろう。《雪片》それは嘗て、現役時代の千冬が使用していた武器なのだから。

 

 

 

 

 

フォーマットとフィッティングが完了しました。確認ボタンを押してください。

 

負けたのかと思う俺の頭の中に、直接情報が送信される。これはエネルギーが尽きた事を知らせる物ではない、そうか……試合に集中していたから忘れていた。その指示の通りに目の前に出現しているウィンドウの真ん中にある確認ボタンを押す。

 

キィィィィィィィン!

 

ボタンを押すと高周波な金属音が聞こえてくる。しかし不快な物じゃなくて、どこか優しい音だ。そしてその刹那、白式が光の粒子となり弾ける。それにより俺を覆う黒煙も吹き飛び周りが晴れやかになっていく。そして消えたかに見えた白式は、またその形を成す。まだ光を帯びている新しく形成された装甲は、今までの実体ダメージが全て無くなっていて、より洗練されたフォルムとなっている。

 

「ま、まさか第一形態移行(ファースト・シフト)!?あ、貴方今まで初期設定のままで戦っていたと言うの!?」

 

「あぁ。ちよっとゴタゴタしてこいつが到着したの、お前と一季の試合が終わった後だったからな。お陰でぶっつけ本番で試合に挑む羽目になったぞ」

 

そう、初期化と最適化が完了したというのは白式が『やっと俺専用の機体』となったって意味だ。その機体の外観からは工業的な凹凸が消えており、滑らかでシャープなデザインは中世の騎士が纏う鎧を連想させる物へと変化している。そして変化したのは装甲だけではない、その武器も姿を変えた

 

雪片弐型(ゆきひらにがた)……」

 

「まさか、あの刀は……」

 

先程まで名前なんか無かった刀が、刀より反りのある太刀に近い日本刀のような刀身となり、鎬には僅かばかりに溝があり、呼応するように光が漏れ出している近接特化ブレード《雪片弐型》へと変化していた。《雪片》、俺はその言葉を知っている。千冬姉が現役時代に振るい、世界の頂点へと登り詰めたその一振りの刀を忘れてようがない、この刀は千冬姉が振るった《雪片》の名とその『力』を受け継いでいる、その刀を俺が手にするって事は俺が千冬姉の力を引き継いだって意味だ。

 

「まったく、俺は最高の姉さんを持ったよ……」

 

本当につくづく思い知るな、千冬姉は俺の最高の姉さんだ。そんな千冬姉の弟として、その力を受け継いだ人間として不様な姿を晒して『あの時』みたいに織斑千冬の名前に泥を塗って汚す訳にはいかない!

 

「そ、それがどうしたと言いますの?最後に勝つのはこのわたくしです!」

 

「千冬姉の名誉を守る為にも、俺は負けられない!俺にとって『たった1人の大切な家族』だからな!」

 

物心付いた時にはもう両親も居なかった、果てには双子の兄弟さえ失っていた俺にとって……千冬姉は本当にもう『たった1人の大切な家族』なんだ。

 

「いいえ!勝つのはわたくしですわ!」

 

再装填されたミサイルビットが俺目掛けて飛んでくる。しかもレーザーを打ち出すビットよりも早い、だけど。

 

『動きが更に軽い!速度が明らかに上がっているのに俺の意のままに飛べる、白式が俺専用になった証しかな』

 

第一形態移行を終えた事で先程までの初期設定状態だった白式とは明らかに違う。速度もセンサーの解像度も。

 

「見える!」

 

シャキーン!

 

横一閃、その一振りで俺へと迫る2つのミサイルビットを一刀両断。両断されたビットはドォン!と爆ぜて、その衝撃が俺へ届く。

 

「そして……最後の1機だ!」

 

俺の死角へと移動していた残り1機のビットへと接近し、勢いよく振り下ろした《雪片弐型》で真っ二つに切り捨てる。

 

「ま、またブルー・ティアーズが全て、しかも……刀1本で!?」

 

「これで残るはセシリア、お前だけだ!」

 

『一体、一体なんですの!?奇妙なランスや刀だけでブルー・ティアーズが全て落とされるなんて……しかも素人の男相手に!有り得ません、有り得ませんわっ!』

 

ビットは全て落ちた。これでもう死角からの狙撃は出来ない。セシリアが動揺している今がチャンスだ!俺は再びセシリアへと突撃する。千冬姉から受け継いだ『力』を発動しながら。

 

「うおおおおおっ!」

 

手の中のエネルギー密度が増していく、そして《雪片弐型》の刀身が光を帯びて開き、そこから光の刃が作り出された。これこそが千冬姉が世界一を掴み取った『力』単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)零落白夜(れいらくびゃくや)』。ワンオフ・アビリティーとは操縦者とISが最高潮に達した時に発動する能力の事だ、各ISによって能力は異なる筈にも関わらず白式のワンオフ・アビリティーは千冬姉の搭乗していた機体と同じ能力。今細かい事は気にしない、『零落白夜』の能力、それは作り出されたその光刃はエネルギー無効にし、搭乗者を守る為にISに張り巡らされているシールドバリアーをも切り裂いてシールドエネルギーに直接ダメージを与える事が可能。そうすれば『絶対防御』が発動してエネルギーを大幅に削れる。千冬姉が第1回モンド・グロッソで優勝出来たのはこの能力による物も大きい。しかしこの能力には致命的な弱点がある、それは自分のシールドエネルギーを『零落白夜』の使用に消費してしまう点だ。強力だが使えば使う程自分の身を削る両刃の剣、だけど……

 

『これなら勝てる!』

 

この力ならばセシリア相手でも勝つ事が出来る!そう確信して間合いに入った。この距離ならばライフルは意味を成さない、至近距離で光刃を放つ《雪片弐型》でセシリアへ振り上げたその刃で斬撃を繰り出そうとしたその刹那、頭に過ぎるISについての知識。ISは搭乗者をシールドバリアーで守っていてそれに攻撃を食らえばシールドエネルギーが減り、それを貫通する程の攻撃ならば実体がダメージを受ける。それを繰り返してエネルギーが0になった方が勝ちだ。そしてISには搭乗者保護機能という物がありそれが『絶対防御』、搭乗者は『絶対防御』というバリアフィールドで守られていてシールドエネルギーを大幅に消費するがあらゆる攻撃を受け止めて搭乗者を守る、ISがこの攻撃が通っても生命の危機にならないし平気だろうと判断すればそれは発動しない。そんな機能があるので生命の危機に陥る事は滅多にない。だが、いくら『絶対防御』が存在していてもその防御フィールドを上回る威力の攻撃を喰らえば搭乗者はダメージを負うし、最悪の場合は……

 

『死に至る……』

 

この『零落白夜』はエネルギーを無効・消滅させ、シールドバリアをも突き破る能力だ。つまりこの全力の一撃ならば『絶対防御』があっても搭乗者に直接ダメージを与えれる。そして今俺は勝とうとして『零落白夜』の光の刃を放出している『雪片弐型』でセシリアへ全力で切り掛かろうとしている、もしそんな斬撃など浴びせたら……防御型に特化して分厚く高い強度を誇る装甲を持つならまだしも、ISは基本的にシールドエネルギーで搭乗者を守っているから装甲は手足等部分的にしか存在していない。セシリアのブルー・ティアーズも同じだ。

 

『セシリアの奴……怯えている!?』

 

瞳に入ったセシリアのその表情は明らかに沈んでいて暗く、普段のプライド高く振る舞っている姿が微塵もない。ISを纏う体もそれを体現してかガクガクと振るえていた。あの自信満々に振る舞っていたセシリアが怯えているのか……?セシリアもISに関しては代表候補生になっている事実から優秀だ、恐らく察したんだろう。『零落白夜』の刃に斬られた自分の最悪の末路を。

 

『俺はこのまま斬ってもいいのか……?怯えている女の子を……』

 

そんな考えが脳裏を過ぎる、このまま攻撃を行えば『零落白夜』の力によって勝利も充分有り得る。たけど、怯えている女の子にこの斬撃を繰り出していいのかと迷いが生まれて躊躇して振り下ろす動作が鈍る。

 

ビー!ビー!

 

『試合終了。勝者、セシリア・オルコット』

 

シールドエネルギーが尽きた事を告げるブザーが鳴り、ウィンドウにも表示される。エネルギーが残り少ない状態で『零落白夜』を使い、底にこびり付く程度にギリギリ残っていたエネルギーが躊躇し動きが鈍った事で消費され尽きたようだ。そしてアリーナに勝者を告げるブザーとアナウンス。そう、俺はこの試合はセシリアの勝利で俺の敗北という形で結末を迎えた。




という訳で一夏とセシリアの戦いはセシリアの勝利となりました。殆ど原作通りですが、一番の相違点は一夏が零落白夜の全力の攻撃を行えばどうなるかと躊躇して攻撃が遅れた結果エネルギーが切れるという敗因に変化した事ですかね。まぁ、勝とうと攻め込んで訳も分からずエネルギー切れで負けるよりかはいいでしょう。

さて次の試合はいよいよ一季と一夏の戦いへと突入します。今回の戦いを見て一季がどんな心境なのか……

一夏が千冬の武器どころか能力まで受け継いだ。

知らないとは言え『千冬をたった1人の家族』だと言いきった。

……一夏本人のせいではないと言え、思いっきり地雷踏み抜いてますね。しかもかなり威力のある地雷を。

2人の試合の行方はどうなるのか……?それでは、また次回。


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