IS〈インフィニット・ストラトス〉宿命を変える奇跡の双騎士   作:《陽炎》

26 / 30
今回と次回は一季対一夏の試合の合間のインターバルとなります。試合のシーンを期待している方々には申し訳ありません、しかしその分次回は早めに更新しますのでご了承ください。


第24話 佳境までの幕間

「まさか、あの刀は……」

 

セシリアの視覚が認識する一夏が右手に握る一太刀の剣、第一形態移行を終えたその機体と共に武器も形を変えていた。その刀をセシリアは知っている、否、セシリアだけではなくこの時代のIS乗りならば全員知っているだろう。何せ一夏が握るその刀は世界最強と唄われた織斑千冬が使用した武器《雪片》その物なのだから、よく見れば作りが微妙に異なるかもしれないが紛れもなくあれは《雪片》だと確信した。初期設定のまま自分との戦いに臨んでいた事などこの際どうでもよい。

 

「そ、それがどうしたと言いますの?最後に勝つのはこのわたくしです!」

 

例え第一形態移行を終えて実体ダメージが消えて武器も進化したとしても、その機体のシールドエネルギーは僅か。状況としては此方が依然として有利なのだとセシリアはそう己を鼓舞する。

 

「千冬姉の名誉を守る為にも、俺は負けられない!俺にとって『たった1人の大切な家族』だからな!」

 

「いいえ!勝つのはわたくしですわ!」

 

負けたくないのは自分とて同じ、男相手に連敗など自分のプライドが許さない。再び装填したミサイルビットを一夏目掛けて放つも2機とも《雪片弐型》で一刀両断、ならばと残り1機のレーザービットで射抜こうと試みるも、それすら無情にも真っ二つに切り捨てられた。

 

『一体、一体なんですの!?奇妙なランスや刀だけでブルー・ティアーズが全て落とされるなんて……しかも素人の男相手に!有り得ません、有り得ませんわっ!』

 

自分の纏うブルー・ティアーズに搭載された第3世代型兵器ブルー・ティアーズを初対戦である素人、しかも男相手に全て撃墜された。しかもどの戦いもたった1つの武器だけで落とされていった、この試合で取り戻していった余裕が完全にセシリアの中から消え失せた、その心に残るは動揺と壊されたペースのみ。

 

「うおおおおおっ!」

 

それにより生じた隙を利用して、一夏がセシリアの懐目掛け突撃してくる。そしてその手に握る《雪片弐型》の刀身は光の刃へと変化していた。

 

『あ、あれはまさか『零落白夜』!?そんな馬鹿な事が……』

 

その光刃を目にしたセシリアに衝撃が走る。武器ならば形状を模倣して制作出来る、しかしワンオフ・アビリティーまで模倣など意図的に行おうとしても行えないのだ。しかも白式は第一形態へと移行したばかり、ワンオフ・アビリティーは操縦者とISの相性が最高状態に達した時に自然発動する能力なのだ。そしてそれを使用しているのは本来有り得ない男のIS操縦者、目の前に起きているのは最早異常事態の塊だ。

 

『また、負ける……?このわたくしが……男相手に続けて負ける?』

 

いくらエネルギーが無傷の状態で残っていたとしてもあの攻撃はバリアーを突き破り、それを喰らい続ける限り『絶対防御』を強制発動させ続ける。そんな物を喰らっては一溜まりもない、本当に負ける。男相手に連敗など自分のプライドが納得いかない、しかも最悪の場合『零落白夜』の一閃でこの体を切り裂かれる。迎撃しようにもこの至近距離ではライフルでの狙撃は無理、ミサイルも間に合わない。男相手に連敗という焦りと、最悪の場合の恐怖で体が震える。 だが、突如として一夏の動きが躊躇し鈍くなる。

 

『な……なぜ、攻撃を止め……』

 

ビー!ビー!

 

『試合終了。勝者、セシリア・オルコット』

 

そして『零落白夜』を発動し続けた事で白式のシールドエネルギーが0となりセシリアの勝利、連敗は免れた。そして2人にピットへ戻るよう指示が飛ぶ、それを受けた一夏は自分のピットへと戻ろうとする。

 

「お、お待ちなさい!」

 

しかし、そうは問屋が下ろさないと言わんばかりにセシリアが声を張り上げるように出して呼び止める。

 

「ん?どうしたんだ」

 

「どうしたもこうしたもありませんわ!貴方、どうして最後の攻撃を躊躇しましたの!?」

 

そう、試合に勝ちこそはしたがセシリア自身この勝利には納得などしていない。あのまま攻撃を行っていれば充分勝利出来ていたのに攻撃を躊躇し動きが鈍った結果白式のエネルギー切れで自分の勝ちだ、セシリアからすれば納得などいかない。わざと勝ちを譲られたようなものだ。

 

「どうしてって……あのまま全力で攻撃していればお前が危なかっただろ」

 

「なっ……?」

 

「つい勝てると思って『零落白夜』を使って全力で攻撃しそうになったけど、あれは威力が高過ぎる。全力で攻撃なんかしたら最悪の事態だってあると思ったらつい躊躇してさ……」

 

理由を聞いてセシリアは驚いてしまう。一夏は『零落白夜』を発動した《雪片弐型》による全力の斬撃がセシリアもろとも切り裂いてしまう事もあると思考と本能が感じ取り攻撃を躊躇した。まさか……勝利より敵である自分の身を案じたとでもいうのか?

 

「わたくしの身を案じた……?あれだけ上から物を言い続けていたこのわたくしを?」

 

「当たり前だろ。確かに色々言われた事には文句はあるさ、だけどこれは命の取り合いなんかじゃない。クラスメイトの命を危機に晒せる訳ないだろ」

 

あれだけ高圧的な振る舞いや言葉を投げかけた自分の安全を優先した?この試合に負けたら奴隷にするとまで言い放った自分を打ち破る事よりも、例え自分が敗れ手も相手の身を案じる道を選んだ?そんな一夏の行いや言葉に自分の意志の強さをセシリア感じた。

 

「もういいか?そろそろ戻らないと急かさせるし」

 

「お、お待ちください!」

 

もうそろそろ戻らないと千冬からどやされると長年の経験から本能で理解している一夏はそう切り出すが、セシリアはまだ帰るのを許してくれない。しかし先程と違い丁寧な口調だ。

 

「なんだ?」

 

「その……今まで数々非礼な振る舞いをしてしまい、申し訳ありませんでした!」

 

男相手に謝る等と本来のセシリアならば行わない事だ。だが一夏に対して謝らなければならないという罪悪感が湧いて来た、事実非礼な言動や振る舞いをしたのは紛れもないのだから。

 

「あぁ、その事ならもういいさ。この戦いでチャラにしようぜ」

 

「で、ですが……」

 

「それなら、俺よりも一季に謝ってくれないか?あいつの方が気にしていそうだし、一季に謝ってくれれば俺はもうそれでいいから。それじゃあ俺は戻るわ」

 

そう告げて一夏は箒や千冬の待つピットへと戻っていく。セシリアの謝罪やその態度から水に流したのだろう、お人好しとも取れる一夏の性格ならば充分に有りうる。そんな一夏が去る姿を姿をセシリアはただじっと見詰めていた。

 

 

 

 

パァン!

 

「何を無駄話をしている、さっさと戻って来いと言ったのがわからんのか。馬鹿者め」

 

ピットに戻ってくるなり担任兼姉の第一声がこれだ、加えて出席簿のオマケ付き。もう少し優しさを身に着けても罰は当たらないと一夏は思う。

 

「……………」

 

しかもそれに加えて幼なじみから鋭い睨みを利かされている。まるで日本刀の如き鋭さだ、視線だけで斬られてしまいそうだ。切れ味抜群である

 

「まぁいい。白式の点検とシールドエネルギーの補給を行う、それまで次に備えていろ」

 

「あ、あぁ。わかったよ千冬ね」

 

パァン!

 

「織斑先生だ」

 

「わ、わかりました。織斑先生……」

 

試合前の時みたくうっかり普段通り接したので再び頭に見事なまでの出席簿の一撃をお見舞いされた。言われるがまま取り敢えず白式を預けると、一季との試合まで待つ事になる一夏。整備が終わるまでの間休息を取ろうと一旦ピットから箒と共に出る。

 

「……一夏」

 

「なんだ?箒」

 

何やら聞きたげな箒が一夏に声を掛ける。事実、箒はセシリアとの試合を見てどうしても一夏に問いたい事があるのだ。

 

「その、なんだ……負けて悔しいか?」

 

「そりゃまぁ……悔しいさ」

 

「ならば何故あの時攻撃を躊躇したのだ?相手は完全に怯んでいたではないか、自ら勝機を手離すなど甘過ぎるぞ!」

 

そう、箒が言及したかったのは勝てる勝負だったのにも関わらず攻撃を戸惑った結果負けるという自ら勝利を放棄した件についてだ。あのまま躊躇せずに攻撃を続行していれば充分勝利を得られた筈なのだから。

 

「そう言われたら返す言葉もないが……怯えている相手に刀は振れないだろ」

 

確かに迷わず攻撃すれば勝利する事も充分有り得た、だが怯える相手を切り捨ててまで勝利を掴もうとする程一夏は勝利に飢えてはいない。

 

『……流石は一夏だ。あの状況でよく相手の心境を見極めた物だ。やはり男子たる者こうでなくてはな』

 

理由を聞いた箒は一夏が戦闘時という状況下でセシリアの心境を察して攻撃を止めた事に感心して、思わず口元が緩む。負ければ奴隷にすると言い放ったセシリアに勝つ事よりも、相手を案じる事を優先した一夏が箒には一際格好良く思えるし、実際に彼女の瞳にはそう映って見えた。

 

「……箒?」

 

「ば、馬鹿者!それで負けていては意味がないではないか!」

 

「はははっ……確かに負けてちゃ意味ないよな」

 

しかし所謂ツンデレな彼女はそれを素直には出せない、相手を気遣うのは結構だがそれで負けていては世話がない。そうも思っているので褒め言葉の代わりにこの言葉が発せられた。それは一夏も実感している、それにしても戦闘時で相手の心境を見極めたにも関わらず何故自身に寄せられる好意には鈍感なのだろうか?自分の心に素直になれない彼女にも問題はあるのだが。

 

「あ……明日からはあれだなっ、ISの特訓も入れなくてはいけないな!」

 

「えっ?ISの操縦教えてくれるのか?」

 

「む、無理にとは言わないぞ?なんなら千冬さんから直に教わるなり、先輩や代表候補生のマリアに教わるのもよい。やはり1日の長と言うのは重要だからな」

 

そして話はIS操縦の指導へと打って変わる。知識は身に着けたが一夏は戦闘面では素質こそあれどまだまだ素人同然なのには変わらない。トレーニングの際にも感じた事だが一夏は知識は一通り覚えている、明らかに不足して足りていないのは実戦経験だ。本当ならば2人っきりになれる機会を逃したくはないので自分が教えたい所なのだが、座学は兎も角として、操縦技術に関しては自分より実力も技術もある千冬やマリアに上級生といった面々がIS操縦の教え方は明らかに上手いのは箒自身重々自覚している。一夏の為を思えばその面子に教えて貰った方が一夏の為だし、一夏が強くなってくれるのは箒自身喜ばしい事だ。

 

「いや、千冬姉は嫌がるだろ。依怙贔屓っぽく見られても嫌だし」

 

千冬は別にそんな目はちっとも気にしないとは思うが、一夏は忙しい姉を気遣ってかそれは遠慮している。シスコンと言っても過言ではないが事情千冬は忙しい、千冬というより教師陣が一夏に加え新たに現れた一季という2人目のイレギュラーな存在が到来した事でてんてこ舞いを踊りそうな位に忙しい。てんてこ舞いがどんな踊りかはわからないが。

 

 

「な、ならばマリアはどうだ」

 

ふと、マリアを推薦した箒だが、思わず失念したとハッ!とする。同じ年不相応な大きな胸に悩む者同士という縁からマリア仲良くなったからこそ知った、自分と違いマリアは豪快で細かな事は気に止めず明るく社交的な人物だ。容姿も整っており何より自分より大きいあのたわわな胸だ。初対面の際思わず揺れたその豊かな双丘を一夏は見ていた、スケベな目で。もし教えるのが切っ掛けで2人の距離が縮まってしまったりなどしたらどうしよう……という考えが脳に生まれてくる。

 

「そうだな……まぁ、箒が無理だって言うなら当たって見るか」

 

「む、無理だとは言っていない!」

 

そう、照れから他の人物を推薦しているが無理とか嫌とかは一切口にしてはいない。なので箒は全力で否定する。それはもう全力で、一夏が怯む勢いで否定する。

 

「そ、そのなんだ。一夏は……私に教えて欲しいのか?」

 

勇気を持って箒からすればかなり積極的に打って出た質問をする。これで断られたらかなり落ち込むだろう。頑丈そうに見えて心とは繊細かつナイーブに作られている、故に丁重に扱わねばならない。悩み多き恋する少女の恋ならば尚更だ。

 

「そうだな。箒なら他の女子よりかは気が楽だしな」

 

「っ!そうか、そうかそうか……成る程な。それは仕方がないな」

 

自分が教えるのを了承された嬉しさから、口から出る言葉と裏腹にいじらしく髪を指で弄る箒。表情も嬉しさが滲んできている。

 

「よし、では私が教えてやろう。特別だぞっ」

 

「あ、あぁ。頼りにしてるぜ」

 

教えてくれるのは一夏も嬉しいのだが何故箒まで嬉しそうにしているのだろうと不思議に思う。本人はただ単純に幼なじみの箒ならば気が楽だとしか考えていない、箒の乙女心などちっとも気付いても察してすらいない。こういう気持ちに気付かない人間を人は鈍感だの唐変木だの朴念仁だのと例えるのだ。勿論当の一夏御本人は全くその事に気付いていないが。取り扱い注意の恋する乙女の心は一夏のような輩には絶対に取り扱わせてはならない、触るな危険、触れた瞬間にガシャーンと豪快な音を立てて壊すのが目に見えている。

 

『次の相手は一季か……』

 

そう、これで今日の戦いが終わった訳ではない。まだ試合は残っている。自分とイレギュラーな存在、名を貰う前にこの世を去った双子の兄弟と同じ名前を持つ男、そして自分が負けたセシリアに勝利した一季が次の相手なのだ。正直勝てるのかどうかはわからない、そんな不安に駆られて次第に表情が複雑さを含んだ物へと変化していく。

 

『だけど……俺は勝ちたい!』

 

だが勿論その心の中には勝ちたいという強い気持ちも存在している。白式という自分の大切な家族の力を受け継いだ機体を纏う以上無様な姿など晒せない、晒したくない。そう決心して一季への試合へ望む覚悟を決める一夏、その決意に満ちた表情が直に驚愕に染まる事を、誰も知らないままインターバルは終わりへと近付いている。同時に一夏が人生で1番の衝撃を味わうその瞬間もまた、着々と足音を立てずに近付いてきているのだった。

 

 

 

 

 

「織斑、休息はもう終わりだ。準備は出来ているな」

 

「はい」

 

休憩時間も終わりいよいよ一季との試合へ望む一夏。整備と点検を終えて待機形態となっている白式を受け取る。ISというのは1度フィッティングすればアクセサリーの形状で待機する。一季の悲劇の復讐者が悪魔の顔をあしらったネックレスに、セシリアのブルー・ティアーズがイヤーカフスとなっているように。しかしどういう訳か白式はガンとレットである。アクセサリーではなく防具になっているのには一夏もなんでだ?としか浮かばない。

 

『悪いな、白式。お前の初陣飾ってやれなくて……』

 

受け取り触れた心中で相棒となった白式へ詫びを述べる、金輪際訪れない初陣を勝利で飾ってやれなかったことが申し訳なくて悔しいと思える。

 

「一夏」

 

そんな一夏に声を掛けたのは千冬であった。今日はやたら名前で呼ぶなぁと思いながら意識を千冬へと向ける。

 

「どうしたんだ?千冬姉」

 

「……いや、なんでもない。頑張ってこい」

 

「あ、あぁ。わかった」

 

普段ならそんな言葉を掛けて貰えば嬉しい筈なのに、一夏は何故か素直に喜べない。そう言葉を掛けてきた千冬の表情がどこか複雑に見えるから。それを気にしながらもゲートへと移動して白式を展開させる

 

「一夏っ」

 

「んっ?なんだ、箒」

 

白式を展開・装着してその身に纏い終えて何時でもアリーナへ向かう準備が完了する。後はゲートが開くのを待っているとついて来ていた箒が声を張って話し掛けてくる。

 

「その……なんだ。今度こそ勝って帰ってこい!」

 

もう少し気の利いたエールが送れないものかと本人は思い悩んでいるが、精一杯一夏へと向けた応援の言葉。そのエールを有り難がらない程一夏は酷い男ではない、鈍感さはかなり酷いが。

 

「おうっ!行ってくるぜ!」

 

「あぁ!行ってこい!」

 

そう元気良く返事を返した一夏は開いたゲートから飛び立って行き、その姿を箒は風圧を受けながら見送る。一夏の勝利を信じ願いながら、その背中をただじっと真剣な眼差しで見詰めていた。

 




前書きにも書いた通り今回は一夏側のインターバルのシーンとなりました。次回は一季サイドのインターバルとなります。果たして地雷を踏み抜かれた一季は如何に?前書きにも書いた通り次回は早めに更新します、それでは!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。