IS〈インフィニット・ストラトス〉宿命を変える奇跡の双騎士   作:《陽炎》

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今回は一季側のインターバル。


第25話 幕間から佳境へ

『雪、片……だと!?』

 

一夏の敗北で幕を閉じたかと思われたが、白式がギリギリのタイミングで初期化と最適化を終え第一形態移行した事で試合はまだ終わらずに進む。第一形態移行した事について特に驚きもしなかった一季だが、一夏が右手に握るその刀、形状を変え《雪片弐型》へと変化したそれを目にするなり驚きを隠す事なく顔や声に露わにする。

 

『何故、だ……どうして、どうして奴ばかり姉さんから『大切な物』を貰っているんだ!』

 

許せなかった。自分を愛し守ってくれる家族も、名乗り呼ばれる名前もなく、人として生きる権限さえ奪われて、挙げ句の果てに『人間』である事すら奪われた一季にとって、姉という家族から守られ、大切に思われ、人として生きて来た一夏が、千冬が扱い世界の頂点の座に輝いた立役者であるその武器さえ苦労なく貰い受けた事が。腸が煮え来り返ると表せる位に憤りが、嫉妬がこの身から溢れんばかりに沸き立ってくる。

 

「千冬姉の名誉を守る為にも、俺は負けられない!俺にとって『たった1人の大切な家族』だからな!」

 

「っ!」

 

『たった……1人……『たった1人の大切な家族』……?』

 

その言葉は一季に取って己の存在さえも否定され奈落に叩き落とされた感覚を覚えさせる。例え一夏が一季の生い立ちやその正体を知っておらず発した言葉だとしても、その言葉は一季の心を抉る刃となった。

 

「『零落白夜』までも……!ふざ、ふざけるなよ……」

 

「イツキ?」

 

刀だけならまだしも、千冬の機体のワンオフ・アビリティー『零落白夜』すらも一夏が使用した事実が更に怒りや嫉妬の念を増長させる。声に出した事で試合鑑賞に集中していたマリアが気が付いた、一季のその高ぶった怒りと嫉妬が入り混じり憎しみへと変貌を遂げた物を露わにした顔を。その表情に隠れる瞳に浮かぶ悲壮さを。

 

『試合終了。勝者、セシリア・オルコット』

 

試合は終わった。一夏が『零落白夜』を発動した全力の攻撃の危険性と、怯えるセシリアに躊躇した結果エネルギーが尽き敗北した。

 

「ふざけるなよ……!武器どころか力まで貰っておいて負けるだと!?何処まで……何処まで俺を苛立たせれば気が済むんだ!」

 

「イツキっ!?いきなりどうしたんだよ!」

 

一季はその事実が許せない。姉の武器や力まで継承した癖に負けた?自分がどれだけもがき足掻いても手に入れられなかった物を全て手に入れているのに負けた一夏への苛立ちで声が荒ぐ。

 

「イツキっ、おいイツキっ!」

 

「はー、はー……………すまない、つい我を忘れた……」

 

マリアの呼び掛けにより何とか本来の落ち着きを少しは取り戻つつあるが、息を整えようとしているその表情は未だに感情がどうなっているのか説明するかのように険しさが色濃く残る。

 

「一体どうしたのさ?今のアンタ物凄く怖い顔してるぞ」

 

「……そうか」

 

そんな一言しか返せない、一季本人も今の自分がさぞ険しい表情をしているのはなんとなしに理解出来る。興奮状態から脱して間もないからか呼吸の際の息づかいも荒い、荒れた心境を見事に表している。

 

「なぁ、少し外に出ないか。気分転換にはなると思うぞ?」

 

「……そうだな」

 

時間に余裕はないがピットから出るだけでも少なからず気分転換位にはなるだろう。取り敢えず血が登った頭を冷やそうと2人でピットを後にする。

 

ガコンッ

 

「ほら、これでも飲んで落ち着きなよ」

 

「……悪いな、払わせて」

 

「いいって、いいって。ジュース位奢るから」

 

一旦アリーナから出た2人は其処から1番近くの自動販売機へと向かいジュースを買う。ガコンという効果音を耳にした後、自動販売機の受け取り口から取り出された缶ジュースをマリアからを渡される一季。自分で買おうとしたものの財布を制服のポケットに入れたままにしていたので、そのままマリアが押し通される形で奢ったのだ。

 

「……ふぅ」

 

プルタブを明け、クイッとオレンジジュースを飲み一息付く。熱くなった思考と感情を外の空気と冷たいジュースがクールダウンさせると感じる。

 

「あっ。それ、飲む前に振るやつだった」

 

「……………」

 

コーラを飲んでいたマリアがうっかりしていたと失念する。一季に奢った缶ジュースはオレンジジュースでも果肉入りのタイプで振ってから飲むよう推奨されているのだった。よく缶を見てみると確かに『果肉入りなので飲む前によく振って下さい』と書かれている。だが奢って貰っている身なので一季は何も言わずそのまま飲み続けた。確かに振った方がいいだろうなと最後の方に果肉が一気に口内にやって来たのを飲み干してそう実感した。

 

「どうだ、少しは落ち着いたか?」

 

「……あぁ。すまないな、気を使わせて」

 

「いいって。さて、そろそろピットに戻りますかっ」

 

互いに空になった缶をゴミ箱へと捨てると、余り長居している余裕もないので気分転換が済んだらそそくさ

とピットへ戻る。

 

「イツキ、次の戦いが始まる前に聞きたい事があるんだけど」

 

「……なんだ」

 

「アンタさ、今イチカと戦って大丈夫なのか?」

 

あの時一夏を見る一季の顔は尋常ではなかった。今は落ち着きを取り戻して来ているとはいえど、あの激情に染まった一季は今にも一夏へ殴り込みそうな剣幕をまくし立てていた、試合の最中にまた激情に駆られて暴走してしまわないかと危惧している。

 

「……俺は奴が相手でも、油断はしないし気を抜く事もしない。だから大丈夫だ」

 

「そういう事じゃなくてさ……さっきみたいに感情的にならないかって聞いてるんだよ」

 

質問の意味を一夏が相手だから油断や気を抜くのではと捉えた一季に、マリアはやれやれと溜め息を吐きそうになる。そんな心配ならこの場でなんとかなるが、マリアが危惧している事は彼女だけでは到底解決出来そうにない複雑で入り組んだ迷路のように難解なのだ。

 

「……………」

 

ストレートな問いにより一夏と戦っても大丈夫なのか?という本当の意味を理解したのか、その質問に一季が返すのは無言である、最早返してすらいない。

 

「……大丈夫だ」

 

漸く絞りだして返した返事はそんな一言だ。何とかこの場をやり過ごそうと出した感が満載の返答である。

 

「そーか?それならいいけど」

 

『何とか切り抜けたのか……?』

 

苦し紛れに放った遣り口で切り抜けれるなど正直予想しておらず、一季は軽く面食らってしまう。

 

「……意外だな。てっきりもっと問い質されるとばかり思ったが」

 

「そりゃあ、イツキが自分で大丈夫だって言ったんだ。ならあたしはその言葉を、イツキを信じるよ」

 

「……そうか」

 

正直これならば問い質された方がマシだと一季は思う。感情的にならないかどうかは本人もわからない、察しのよいマリアだ、もしかして苦し紛れに言った言葉と本心を把握した上で納得したのではと考えると良心が痛む。痛み等殆ど感じなくなったというのに。

 

「イツキ」

 

「……なんだ?」

 

「あたしはアンタと出会って一週間しか経ってないからさ、アンタの事はまだ知らない事の方が多いけど、アンタがイチカと何かが遭ったのかはわかるぞ」

 

「……………」

 

マリアの語りに一季は特に大きなリアクションを取る事もなく沈黙して聞いている。まだ出会って一週間、一季とてマリアと友好的に接しているが彼女の事は知らない事の方が多い。それは互いに同じ、イーブンだ。

 

「アンタの過去も事情もあたしは知らないから、難しい事も偉そうな事も言えない」

 

そう。マリアは此処に来る前の一季の事は何も知らない、何故名字がないのか?家族は居るのかどうか、どんな人生を歩んで来たのか、何が切欠でISを動かして此処に来たのか、その生い立ちを全く知らない。それを踏まえた上でマリアも意見を述べている、自分なりに一季へと綴る言葉を。

 

「だからイツキとイチカの間にどんな事があったのかも知らない。簡単に聞けそうな話でもないし、あたしが聞いたところでアンタは話したくないだろ?だから

無闇には聞かないよ」

 

「……いや、少しだけなら話せるな」

 

「えっ?」

 

てっきり、「そうだな」と返答するかと思いきやこんな返答が返ってきたので今度はマリアが面食らってしまう。

 

「……正直言って、俺は……奴が、織斑一夏の事が腹立たしくて嫉ましい……否。憎んですらいるな」

 

「憎んでるって……何でだよ?アンタとイチカが出会ったのつい最近だろ?なのになんで……」

 

憎んでるという物騒な単語がその口から出てきた事に驚くマリアだが、確かにさっきの表情は憎しみを帯びていた。だが何故だ?何故一季が最近出会ったばかりの一夏を憎まなければならない?そんな疑問が彼女の心に沸いてくる。

 

「……別に奴が直接俺に何かをした訳でも、奴が悪い訳でもない。だが……それでも俺は奴の存在が腹立たしくて、嫉ましくて、憎たらしい……!奴の存在が俺の存在を掻き消しているようで……」

 

「……イツキ」

 

書類に記されていた内容と『あの日』一季を更に絶望させた出来事から、一夏という存在があったから自分がこんな人生を強いられたのではという気持ちを抱く一季に取って、一夏の存在は自分という闇を消し去る忌まわしき光に思えてくる、一夏が悪い訳でもないのは当の一季だって頭では理解している。だが頭でわかっていても心が納得出来ない、己の本心の欠片を紡ぐ一季の顔には確かに、憤り、嫉妬、恨み、そう言った念が浮かんでいた。機体の如く復讐者の様な険しい表情だがマリアは見過ごさなかった。その表情に隠れてしまっているが、その瞳は辛く、悲しくて寂しげな目。年不相応に家族からの愛情に飢える子供みたいな純粋な瞳を。

 

『可笑しいな、何故俺はこんな事を話しているんだ……?』

 

自分の心境を吐露した一季だったが、どうして話したのかは本人もわからない。誰かに自分の本心を少しでも吐き出すなど、今までやらなかった。気付いた時にはそんな人物が誰1人として存在していなかったのだから。誰かに言い聞いて貰う事でこの苦しく辛い気持ちを許容量を越えている心から吐き出したかったのか?それすらわからない。

 

「……ったく、大丈夫だよ。イツキはイチカに掻き消されてなんかいない。ちゃんとアンタは此処に居るよ、あたしが保証する」

 

諭すように一季に言葉を掛けるマリア、その光景は子供をあやす様にも見えなくない。

 

「何でイチカにそんな気持ち持ってるかは聞かない。聞いた所で答えそうにないし、あたし1人でどうにかなる程簡単に解決する事でもなさそうだからね」

 

「……………」

 

その問いに一季は、ぐずった子供が何とか認めるようにコクンと頷いた。確かにマリア1人の力で一季の複雑な心の悩みをこの場で解決出来るかと言われれば不可能に近い。初日の騒動の様に進言して解決策が見つかるような話ではないのはマリア自身察している。

 

「だったらさ、折角試合するんだからこの際一回思いっきりイチカとぶつかってみなよ。何時までもイチカを避けてても何も変わらないぞ」

 

「……そういう物か?」

 

「そーいうもんなんだよ。一回思いっきりぶつかり合えば少なくとも何かは起きるぞ、うん」

 

一季が一夏と距離を置いて素っ気なく最低限の対応しかしない事を知っているマリアは、試合で本気でぶつかり合えば少なからず何か変化が生まれるのではと進言した。このままの距離間では何も変わらない、一夏が一季の事を気にかけている事も知っているからこそ自分なりに意見を述べているのだ。

 

「言っとくけど、試合にかこつけてイチカ痛めつけるとかはナシだぞ」

 

「……なんだ、駄目なのか」

 

「いやっ、当たり前だろ!」

 

「……冗談だ」

 

「冗談言うなら笑える冗談を言えっ!ったく」

 

其処はしっかりと大丈夫だと断言する所だろと一季にツッコミを入れるマリア。真面目な雰囲気から少し砕けた空気へと変化する、普段の2人のやり取りだ。

 

「言っとくけど、もしそんな真似しでかしたら」

 

「……したらどうなるんだ」

 

「イツキに思いっきり抱きついてサブミッション掛けるからな」

 

「なっ!?」

 

その発言に何を言っているんだと言わんばかりに仰天する一季。関節技を喰らうのは別に何とも思わないが、抱きつかれるのは異性に免疫のない一季にとって非常にまずい。それを知っているからこそこの言葉には効果がある。それにしても関節技を喰らうのより金髪巨乳美少女に抱きつかるの方が困るとは奇特な奴である。

 

「……わかった。そんな真似はしない」

 

「よし、わかればいいんだよ。んっ?」

 

「……お前は」

 

何時ものペースでやり取りを交わしていると、バシュッとピットの出入り口であるスライドドアが開いた。そして隔てが消えた其処に立っていたのはセシリアだった。着替えたのかISスーツではなく、長いスカートの裾やブレザーの袖口に黒いフリルを付けた如何にもお嬢様的な制服を身に纏っている。

 

「……何の用だ?」

 

素っ気ない態度で応対する一季、やはり初日セシリアに言われた暴言を許してはいないのだろう。好印象を抱いていないのでもしや負けた事に因縁付けに来たのではと勘ぐってしまう。

 

「その……申し訳ありませんでしたっ」

 

「……はっ?」

 

いきなり謝られたので少々間の抜けた声が出る。ついさっきまであれだけ上から目線で接してきた人間がどういう風の吹き回しだ?というのが本心だ。

 

「今まで数々の非礼な発言、本当に申し訳ございませんでした!」

 

『……一体どうなっている?あのオルコットが俺に謝るだと?』

 

頭を下げ改めて謝罪するセシリアを見て思わず本心が口に出る。先程までのセシリアを思い返せば男を下に見ているセシリアが自ら謝罪しに出向くなど考えられない。

 

「イツキ、何とかいいなよ」

 

何も言わない一季に小声で発言を催促するマリア。

 

「……まぁ、そのなんだ。頭を上げてくれ」

 

いきなり謝られて頭を下げられたままというのは調子が狂うのか、取り敢えず頭を上げるよう告げる。

 

「……それで、一体どういう風の吹き回しだ?いきなり謝りに来るとは」

 

「それは……貴方に言った発言が無礼な物の数々なのを今更ながら気付きまして、本当に申し訳ございません」

 

どういう心境の変化だと一季は思うが、その表情や態度から本当に自分に浴びせた暴走の謝罪に赴いたのに少々驚いている。

 

「……あぁ、そうだな。初対面の人間に見下され、見た目通り中身もみずほらしいだの、極東の猿だの、奴隷が丁度いい身分だの散々暴言を浴びせられたのは今でも忘れないな」

 

「ううっ……」

 

浴びせられた罵声を結構根に持っているのか嫌みな対応をする一季、最もあんな発言の数々を浴びたら誰でも根には持つだろうが。そんな暴言を言い放ったは紛れもない事実なのでセシリアも言い返せないしバツが悪い。

 

「……そういえば今回の決闘、俺の勝ちだったな」

 

突如として思い出したかのように一季はそう呟いた。事実セシリアから挑まれた決闘の結果は一季の勝利で終わっいる。

 

「お前が勝てば俺を奴隷にするなど抜かしていたが、結果は俺の勝ちだ。まさか、俺だけにこんな条件を突き付けておいて自分は負けても何も無しとは言わないよな?」

 

「そ、それは……」

 

鬱憤を晴らしているのか脅しめいた口調でセシリアを問い詰めている。これではどちらが悪いのかわかった物ではない。

 

グイッ

 

「……ブライト、何をしている?」

 

「そりゃあこっちの台詞だ、何を脅してるんだよ」

 

「……別に脅してなどいない。少々仕返ししただけだ」

 

「えっ?あ、あの ……」

 

そんな一季を見かねて髪の毛を掴みグイッと引っ張るマリア、肉体に触れないのは彼女の気遣いである。そんな2人の漫才じみたやり取りについて行けていけず少しオロオロとするセシリア。

 

「……冗談だ。別に俺が勝ってもお前に何かを強要するつもりなどない、別に俺は小間使いなど欲しくないからな」

 

「で、では今のは……一体?」

 

「……言っただろう、只の冗談だ。あれだけ好き勝手言われたままなのは癪だからな、少しだけ仕返しさせて貰っただけだ」

 

そう、別に一季には最初から脅して従わせるつもりなどさらさらない。言われっぱなしなのが癪なので少々意地の悪い仕返しを実行しただけである。

 

「まったく、謝りに来たこのタイミングでそんな事するかねぇ」

 

「……この程度の言い返しなら可愛い物だろ」

 

「はぁ……それで?イツキは許すのか?許さないのか、どっちなんだい?」

 

謝罪を受け入れるのかそうでないのか、肝心な事を聞くこの騒動に巻き込まれているマリア。まぁ、本人は特に巻き込まれているとは感じてなさそうだが。

 

「……まぁ、俺もオルコットを煽る言動が所々あったからな。だから……今回は許す」

 

「よ、よろしいのですか?わたくしは貴方に酷い事を……」

 

「……だから言っただろう、許すと。だが、2度と誰かを奴隷にするなど抜かすな。もしまたそんな事を言えば……次は絶対に許さん。いいな?」

 

「も、勿論ですわ!」

 

無駄に煽る振る舞いをした事が騒動に油を注いだ一因なのをわかっているからか割とすんなり謝罪を受け入れている一季。しかし今回は水に流すが、次はないとセシリアに釘を打つ。鋭い眼光で睨まれドスの利いた声で2度目はないと宣告されて、激怒された事を思い出し少し怯えながら返答するセシリアだった。

 

「あの……1つだけお伺いしてもよろしいですか?」

 

「……別に構わないが、俺に何を聞きたいんだ?」

 

一季の一挙手一投足を伺うように尋ねているセシリア、初対面時の自分を下に見て都合などお構いなしに一方的に喋っていた態度と全く違うので一季も今のセシリアの態度に慣れない。

 

「……今思えば自分でも浅はかで愚かな発言をしたのは重々自覚しています。それを承知の上でお聞きします、何故そこまで奴隷という言葉に過敏に反応して嫌悪なさるのですか?」

 

「……………」

 

今となって考えれば自分がどれだけ愚かな事を言い放ったのかわからない程セシリアは馬鹿ではないし、奴隷などいう身分など誰しもが嫌悪するカースト制度だ。しかし一季の反応は端から見れば明らかに過剰とも取れる位に怒りを露わにしていた。それがセシリアの感情に引っ掛かるのだ。もしかしたら自分は本当に言ってはならない暴言を言ってはならない人物に言ってしまったのでは?と。

 

「……奴隷としての苦痛を嫌という程わかっているから、だろうな」

 

「えっ?」

 

「……悪いがこれ以上言いたくない。思い出すだけで嫌になるんだ」

 

「……はい。重ね重ね失礼いたしました」

 

そう語った一季の表情は本当に思い出したくない過去の断片を語っているのを立証するように苦い表情となっていた。それを見たセシリアの心に渦巻く罪悪感が増していく、その心を映し出す整った顔は未だ罪悪感が色濃く残っていた。自分は本当に愚かな発言をしたのだと。

 

『イツキ……アンタ、昔一体何が遭ったんだよ?』

 

その会話を聞いて過去に一体何が起きたのかと尋ねそうになるマリアだが、此処はグッと堪える。誰だって踏み込まれたくない事情は1つは存在する、そして恐らく一季のそれは並大抵の事情ではないのだろう。それにもうすぐ一夏との試合だ、漸く落ち着きを取り戻した心をまた乱す事は出来やしない。そしてそのまま、一夏と戦うその時まであっという間に時間が過ぎていくのだった。

 

 

 

 

 

『一季君、もうすぐ試合が始まります。準備は大丈夫ですか?』

 

「……はい。大丈夫です」

 

白式の機体ダメージは第一形態移行により消失している、シールドエネルギー補給と整備・検査に休息時間が終わりもうすぐ一夏との試合が始まる。ピット越しからの真耶の知らせに問題ないと返した。

 

「イツキ!アンタの全力、イチカにぶつけてきなっ!」

 

「……あぁ。言われなくても、そのつもりだ」

 

ゲートへと移動した一季がそう何時も通りの淡白な返答をマリアへ返すと悲劇の復讐者を展開し装着していく。少し前の荒れはすっかり形を潜めて普段の落ち着きを取り戻していた。

 

「イツキ」

 

「……どうした?」

 

装着し終えた今なら、ハイパーセンサーがあるので後ろにいるマリアの表情は振り返らずとも見る事は出来るがついつい振り返る。その表情は何時も通りの明るさにどこか心配を漂わせている様に見えた。それがハイパーセンサーによる補正かはわからない。

 

「あたしは信じてるからな。イツキの事」

 

一季が一夏に勝利する事なのか、一夏へ抱く感情で暴走しないと誓った事なのか、どちらとも取れるその信じてるという言葉。マリアがどちらの意味で言ったのか?それは一季にはわからない。だがマリアが自分を信じてくれているのはわかる。

 

「……わかった。行ってくる!」

 

そんな言葉を言われたからか、珍しくそう力強くマリアに返事をして、一季はゲートから飛び立っていく。その際生じた風圧を受けながらマリアは信じた男のその背中をしっかりと見送っていた。当人達は気付いていないが対戦相手の飛び立つ光景がテジャビュしていた、幾多の偶然が重なった賜物である。2人のイレギュラーがアリーナへと飛び立ったまさに今、インターバルという幕間は終わりを告げ、クラス代表決定戦は一夏VS一季の対戦カードの火蓋が切って落とされ、クライマックスという名の佳境へと移りゆくのだった。




予告したように一季側のインターバルの話でした。皆さんの予想通り地雷踏み抜かれたので荒れてましたが、まぁそこまで荒れずに何とか落ち着きを取り戻しました。

さて、次回からいよいよ一季対一夏の戦いが始まります。オリジナル主人公と原作主人公、黒と白が激突した先の結末とは、そして近付いている一季の正体を知る瞬間。もうすぐハーメルンに移転して一年が経つのでそれまでには何とかその話を投稿したいと思っています。それではまた次回!
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