IS〈インフィニット・ストラトス〉宿命を変える奇跡の双騎士   作:《陽炎》

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皆さん、本当にお待たせしました……!奇跡の双騎士最新話漸く更新できました。

完全な最新話は実に1年10ヶ月振りの更新という……

まさかここまで更新が滞るとは……

タイトル通り今回で代表決定戦が決着を迎えます。本当に長かった……

同時刻に遊戯王ARC-V~緋色の英雄~も更新しておりますので其方の方も見てみてください。


第28話 代表決定戦 閉幕

「接近戦になってから試合模様がガラッと変わりましたね」

 

「そうだな。これで僅かだが織斑の勝率も上がっただろう」

 

第3アリーナAピットのモニターで試合を観戦している真耶と千冬は此処までの試合内容を語っていた。先程までの一季の中距離から行われる一方的な攻撃を一夏が逃げ、防ぎ、避けるの繰り返しだったのに対して、近距離で接近戦を行っている現在は攻める側と攻められる側を互いに繰り返している。

 

「とは言え、接近戦に持ち込んだとしても織斑が勝てると決まった訳ではない。寧ろ自分が一気に止めを刺される可能性が増している」

 

千冬の言う通り、戦局が接近戦へともつれ込み勝利する可能性が増した一夏だが、それと同時に敗北する可能性は更に増している。嘗て『零落白夜』を使い頂点に立った事のある自分だからこそわかる。使いこなせば最強の名刀だが、使いこなせなければ使用者を苦しめる妖刀に変わる、正に両刃の剣だと。

 

「結局の所、織斑君の不利には変わらないと?」

 

「そういう事だ」

 

一夏の現在の実力や白式の機体性能を考慮したとしても、一夏の不利が変わった訳ではない。そうあっさりとした一言で千冬は認める。

 

「だが、このまま何もせずにやられる様な奴ではない。最後まで足掻き続けるぞ、あいつは」

 

しかし、それだけの劣勢で諦めたりするようなな人間ではない事も知っている。端から見たら弟に対して素っ気ない様に思えるがそれは一夏を弟として信頼しているからこそ、教師としての意見を述べているのである。言葉や表情や態度の節々に隠し切れていない姉としての情が滲み出しているのは御愛嬌と言った所か。

 

「そんな事言って、本当は織斑君が心配なんじゃ……」

 

「山田先生、最近体が鈍っていてな。トレーニングの相手を探しているんだが」

 

「す、すいません!私も仕事が忙しいものでっ!」

 

ジロリと睨まれてたじろいぎながら謝罪する真耶。それで千冬をからかうとこんな具合に酷いしっぺ返しをお見舞いされる羽目になるのでやらない方が身の為なのだが、真耶は時たまやらかして痛い目を見る。

 

「はあぁ!」

 

ガキィン!

 

「ぐぅっ……!」

 

『一夏……』

 

真耶を睨み付けていたそのつり上がった鋭い切れ長の双方の瞳をモニターに移す千冬。そこにはランスによる攻撃を捌きながらも押されている一夏の姿が映っていた。真耶の言う事は間違ってはおらず、一夏が心配なのはまた事実。しかしそれだけではない。

 

『……一季』

 

弟を追している一季という存在。もう一夏だけだと思われた家族、しかし産まれて直ぐこの世を去った筈の弟かもしれない。千冬はそんな両者のぶつかり合いを複雑な心境の中じっと見詰める。そんな時だった、千冬の携帯に職員からの電話が着たのは。

 

「織斑先生、至急職員室までお越しください。例の検査の結果が送られて来ました」

 

その着信に出た千冬に報告されたのは。例の一季の素性を割る為の物。それには違わないが、その真の意図は千冬のみしか知らない。なので結果が送られたらすぐに知らせる様にしておいた。多少時間が掛かるとはいえよりにもよってこのタイミングで来るとはと千冬は思う。

 

「わかりました、急いで向かいます」

 

そう言って電話が切れるのを確認した千冬は電話をポケットにしまう。いよいよ明らかになる、一季が言っている事が嘘か真なのか。

 

「山田先生、急用が出来たので私は職員室に向かう。何かあったらすぐに呼んでくれ」

 

「あっ、はい。わかりました」

 

そう告げるると急ぐ様にピットを後にして職員室へと向かう。早足気味のその足音は、まるで世界を驚かせる衝撃へのカウントダウンのようなリズムを醸し出していた。

 

 

 

 

 

『くそ、もう目じゃ追う事も出来ないな』

 

対戦相手の一季は、接近戦へと手段を変えるやいなやランス片手に、上、下、斜め、左右とあらゆる方向へ出鱈目とも思えるを行いながらも、接近戦で一夏に攻撃可能な距離へどんどんその距離を詰めて来ており、接近戦において一季が武器による攻撃可能範囲までに距離を詰められる。

 

『一季が接近戦可能な間合いまで20、15、10、5m……』

 

自らの視覚だけでは一季のその動きを追う事はまず出来ないだろう、しかしISを装着しているなら話は別だ。目から得る視覚情報だけに頼るのではなく、ISの全方位視覚接続を使用、そして一季が近付いてくる事で白式から警告アラームが伝えられる。これで辛うじて一季がじわじわと自分へ近距離攻撃が可能な距離へと近付いて来ているのが分かる。

 

『今だ!』

 

ガキィン!

 

「くっ……」

 

「ちっ、防いだか」

 

体当たりするかのように勢い良く、ランスによる一突きが繰り出されたが、一夏は白式の発する警告アラームと視覚情報を合図にその腕を動かす。自身の剣道経験に基づき、突き刺そうとばかりに襲いかかって来るランスを雪片で横から弾く様にして受け流しその突きをかわすが、勢い良く突進する様に繰り出されたランスの一突きは受け流しても電流が走るかの様な衝撃が両腕に響く。

 

「辛うじて避けたか、だが甘い!」

 

ズガガガガガガ!

 

「ちっ、本当に厄介だなそれ!」

 

突きを弾いた所に自分へと襲い掛かかってくる実弾。そう、これはただのランスではなくガトリングガン搭載のガンランスなのだ。その事は重々理解してはいたのだが、結果としてランスの突きこそ防げたものの不意を突かれてしまった。

 

「接近戦に持ち込んだとしても、貴様の不利には変わらない。接近戦になったからと射撃武器を使わないとでも思ったか?」

 

「くっ、わかってんだよ。そんなことくらい!」

 

ただのランスならば今ので避けたと言える、しかし突き出されたランスは悲劇の復讐者の能力より作り出された《悪魔の尾》のガンランス形態。例えランスによる突きの一撃を避けようが、弾き飛ばしようが、今みたいにガトリングガンによる実弾の奇襲が待ち構えているのだ。

 

『だけど雪片の届く間合いじゃなけりゃあ俺だけが攻撃され続ける』

 

繰り出される突きを避け、防ぎながらガトリングによる射撃も警戒しなければならない。しかも自分を襲うこの武器は鞭にも変化するのだから尚更厄介だ。そんな武器の存在もあり一季は一夏よりも多い攻撃パターンと広い範囲で攻撃が行える。しかし《雪片弐型》しか武器のない一夏は例え不利でも接近戦に持ち込むしか選択肢がないのだ。どの道接近戦だろうが中距離戦だろうが不利なのには変化はない、それなら自分も攻撃が行える接近戦を選んだ方が良い。少なくても自分だけ攻撃されるよりかは遥かにマシだ。しかし一夏はそれとは全く異なる理由で一季との接近戦を望んでいた。

 

「どうした?接近戦を望んでた割には変わらず防戦一方か?」

 

「舐めんな!」

 

ガキィン!

 

シールドエネルギーを削らんと繰り出された《雪片弐型》による一閃、切り札の『零落白夜』の発動により発生している光の刃を放ちながら振り下ろされたその刀身は、今さっき自分が受け流したランスにより防がれる。そしてこの一振りが防がれるのを見て、一夏は『零落白夜』の発動を一時止める。発動して持続し続けると自分のシールドエネルギーを食う両刃の剣たる切り札は長々と発動させ続けられない。この光刃が相手のシールドバリアに当たればよいのだ。その瞬間に発動しさえすれば無駄に発動している必要は無い。

 

ギギギッ……

 

光刃の放出を止めた雪片の刀身とランスというお互いの武器のぶつかり合い生じるギギギと軋む音。この軋みが此処まで均衡しているこの2名の戦いを物語っている様に思える。

 

「貴様こそ舐めるな、接近戦に持ち込んで『零落白夜』を発動した位で俺に勝てると……」

 

ギギギッ!

 

剣と槍がせめぎ合い、互いに攻め倦ねているこの現状が一季の苛立ちを表すかの如く、武器同士が作る軋みは強さを増していく。

 

「思うなっ!」

 

「くっ!」

 

その一季の荒げた声が発せられたと同じタイミングで雪片の刀身はランスにより振り払われ拮抗が解かれた。

 

ズガッ

 

「がっ……!」

 

振り払うとすぐさま一季がその右足より蹴りを繰り出す。その足蹴りは一夏の左脇腹横っ腹へ入り、一夏を蹴っ飛ばす。横っ腹から走る外部からの衝撃による圧迫感から空気を無理矢理吐き出させられる不快な感覚が一夏を襲う。

 

ガキン!

 

「ちっ、防いだか」

 

その痛みを紛らわせる余裕すら与えまいと、一季はランスを一夏の延髄目掛けて振り下ろす。が、ブォンと勢い良く振り下ろされたそれは一夏の左腕の装甲により防がれて、失敗を示す衝突音が鳴る。

 

「そうやられてばっかしで……いられるかよっ」

 

そして一夏はランスを左手で握り締めると、反撃と言わんばかりに右手に握る《雪片弐型》で一季目掛けて横から振りかざす。その刀身からは当然の如く切り札の『零落白夜』の光刃が放出されており、これを食らえば絶対防御が発動し一気に一季が不利になりかねない。

 

「よしっ!貰っ……」

 

「そうはいくか!」

 

ブォン!

 

「なっ!?」

 

その光の刃が届くまであと10㎝も無かったであろうにも関わらず、一夏は突如としてその場から丸で『何かに引っ張られる様に』吹っ飛ばされてしまった。取り敢えず『零落白夜』の発動を止め、吹っ飛ばされた理由を模索する。詰めた間合いを引き剥がされた原因はすぐに把握出来た。

 

「ちっ、鞭かよ……!」

 

その根源は自分の左手が強く握り締めていたガンランスにあった。一季はガンランス形態の《悪魔の尾》を鞭へと変えて勢い良く横へと薙払う事で自分を遠くへ引き剥がしたのだ。鞭へと変わるのは把握していたのにも関わらず、握り締めていた事で鞭の攻撃はないと失念した結果が、ご覧の有り様である。折角の好機を自身の失念が失敗を招いた事に一夏は悔しさを露わにする。

 

『だけど、まだやれる。そうだろ?白式』

 

まだ自身のシールドエネルギーは300を上回っている。ダメージを食らう事を計算に入れてもまだ『零落白夜』を使用するには充分余裕がある。必要なタイミングで使用すれば何回かは使用可能。一夏のその思考通りまだまだ戦える状態なのである。

 

『奴にトドメを刺すには……』

 

同じ頃、一季はどうやって一夏にトドメとなる一撃を叩き込もうか思索していた。元々一夏に接近するのすら嫌なので徹底的に中距離戦に徹して倒そうと最初はそう決めていた、一夏相手なら瞬時加速も《灰色の鱗殻》を使わずとも勝てると。しかし下に見ていた一夏相手に中々ダメージを与えられずイラついていた所に一夏の煽り作戦で心の中のイライラが爆ぜ、接近戦へとシフトチェンジして速攻で叩きのめそうとしている。さっさとパイルバンカーを一夏に叩き込んで勝負を終わらせようとしているが、接近戦とのれば先程までの中距離戦と違い自分にもリスクが増してくる。

 

『『零落白夜』などなければ何事もなく攻め込めるものを……』

 

瞬時加速を使い距離を縮めパイルバンカーを叩き込もうとしても『零落白夜』を発動している《雪片弐型》のカウンターに突貫しようものなら、一撃で敗北という末路もあり得る。デメリットを差し引いたとしても『零落白夜』は接近戦において最も警戒する能力なのだ。それを使用する一夏相手との接近戦で此方が大ダメージを与えるには《灰色の鱗殻》を如何にリスクを少なくして繰り出すかが鍵となる。真正面からパイルバンカーを叩き込むのは流石にリスクが高い。

 

『なら、奴の背後を取るのが一番得策。となれば』

 

それならば人間の死角となる背後から2つの切り札を併用するのが一番得策。煙幕や閃光弾等の目くらましがない状況で背後を取るのは生身の人間なら兎も角、ISを装着した相手では難しい。だが隙を突いて回り込めば例えISによる全方位視覚接続があるとしても、自分の目で見ている視覚情報と比べるとその情報を整理し把握するには僅かにタイムラグが生じる。瞬時加速による加速で文字通り一瞬で詰めれば流石に反応は出来ない。仮に反応出来たとしても、その一瞬で『零落白夜』を発動させてカウンターの容量で斬撃を繰り出すのは不可能。それを考えた上で最も攻め込むのに適しているのは……

 

『最適なのは奴の背後の左側!』

 

一夏は右手に《雪片弐型》を握り攻撃して来ている。その右側に突っ込むよりも何も無い左側に突っ込む方がより確実。カウンターも右側と比べてロスが生じ、防ごうにも左側でガードするしか方法がない。その状況下に持ち込めばパイルバンカーを防ぐ事は不可能。

 

『一季の隙を突こうにも、隙なんか簡単に見せるような奴じゃない』

 

一夏もどうやって一季に攻撃を加えるのかを思案中だ。セシリアとの戦闘映像や実際に戦ってみて感じた、隙を見て攻撃しようにも一季は中々隙を見せてこない。此方が攻撃を受け止めて反撃に出ようとも受け止めた事を利用して危機を脱してくる。

 

『なら、やっぱりこれしかないよな』

 

そう心の中で呟く様に決意新たに一季を見据える。この試合が始まる前から心に決めていた。

 

『真正面から一季にぶつかっていってやる!』

 

そう、最初から一夏は決めていたのだ。この戦いどれだけピンチに陥ろうとも、一季にはただひたすら真正面からぶつかっていこうと。

 

「うおぉぉぉ!」

 

ガキィン!ギギギ……

 

その覚悟を体現するかの如く、今度は一夏が一季に攻めかかる。しかし振り下ろされたその斬撃はまたしてもランスにより阻まれる。

 

「ふんっ、そんな攻撃が……通るか!」

 

ドゴッ!

 

「がっ…!」

 

そして軋む金属音を停止させたのは真正面から放たれた一季の蹴りであった。その勢いの良い蹴りはものの見事に一夏の腹へと叩き込まれる。

 

「くっ、まだまだぁ!」

 

ガキィン!

 

しかし一夏もそれ位で値は上げない。崩された体制を、再び攻めようとすぐに立て直し、攻撃を再開する。

 

ガキィン!

 

「ちっ!何時までもしつこい奴だ」

 

「しつこくて構わねえよ、こっちは端からこれを望んでたんだからな」

 

ギギギギ……

 

何十回と繰り返された剣と槍のぶつかり合う金属音に拮抗を現す軋む音が更に激しさを増していく。大半はどちらかがそのまま距離を取り体制を立て直すが、今回はぶつかり合ったまま。どちらも膠着状態を打破しようとその手に力を込めて押し込んで軋む金属音が更に激しくなっていく。

 

「生憎、此方はさっさと終わらせたくて仕方がない。さっさと……やられろ!」

 

そう言葉を放ちながら一季は一夏の腹を蹴り飛ばさんと今度はその右足で蹴りを繰り出した。勢い良く風を切ったかの如く蹴り上げたその右足は一夏の左の脇腹へ目掛け一気に距離を縮めていく。

 

『今だ!』

 

ドカッ!

 

「なっ、この……!」

 

「これで捕まえた、もう逃げられねえぞ……」

 

その蹴りは一夏の左の脇腹へ直撃した。しかし驚きを露わにしているのは蹴りを喰らった一夏ではなく、蹴りを放った一季だった。そう、一夏はこの瞬間を待っていたのだ、一季が蹴りを放つこの瞬間を。一季は接近戦で戦う際にはランスによる攻撃以外では蹴りをよく行う。それを待っていたのだ、そして一夏の思惑通りに蹴り上げた一季の右足は一夏の左腕と胴体を使用した拘束により掴まれ、捕らえられる。

 

「うおぉぉぉぉ!」

 

作り出したこのチャンスを無駄にはしない。その意志と叫びを体現したかの如き素早い動作で右手に持つ《雪片弐型》を振り下ろす。もう既にその刀身からは『零落白夜』の光刃が放出されている。足を拘束された状態ではまともに避けるのは不可能に近い。

 

「舐めるなぁ!」

 

しかしそれに何の抵抗も見せない一季ではない。拘束されていない左足で今度は一夏の右脇腹を蹴り飛ばした。

 

「ぐっ……!貰ったぁ!」

 

だが先程の蹴りを耐えた一夏だ、2度目の脇への蹴りも顔を歪ませるが耐える。今の蹴りだけでは振り下ろされる斬撃の速度が僅かに鈍っただけであり、依然一季へ目掛けて光刃は向かって来ている。

 

「させるかあっ!」

 

しかし一季にも考えはある。先程の蹴りはただ単に攻撃を止める為の物ではない。左足で回し蹴りを繰り出した本当の狙いは『拘束されている右足と共に一夏の胴を挟み込む為』なのだ。

 

ブォン!

 

「うおわぁ!?」

 

一季は両足で一夏の胴を挟み込むと、そのまま自分の胴体を軸にして脚部スラスターを上手く噴かせその勢いで一夏を放り投げる。普通ならばこんな芸等は出来ないが、PICにより自在に飛行や浮遊を可能とするISを装着しているからこそ可能なアクション俳優さながらのアクロバティックな動き。

 

「くっ……うぉぉぉぉぉ!」

 

しかし一夏も意地を見せる。放り投げられまた距離を取られまいと、拘束している一季の左足を再びその手で握りしめ、自分もスラスターを噴かせて再度一季へと切りかかる。今度ばかりは避けられないだろう。何度も何度も一夏の攻撃を避け、防ぎ、かわしてきた一季でも流石に今回は無料だろう。この瞬間を目にしているアリーナの生徒達はそう判断した。しかしそれはすぐさま覆される。

 

ズガンッ!!!

「うわっ!」

 

「くっ……!」

 

突如、右腕全体に生じた衝撃により互いに体制を崩す。その衝撃によって一夏が掴んでいる一季の右足を離してしまう。それによって拘束が解けた一季は移動し、一夏の攻撃が届かない程度に距離をとる。

 

「くそっ!今のは決まったと思ったのに!」

 

この攻撃は決まったと思っていただけに一夏は悔しそうに顔をしかめる。拘束が解かれそうになるも何とか再びその足を掴み取ったというのに、またしても攻撃に失敗したのだ。悔しくもなるのも頷けてくる。

 

「ふんっ、そう簡単に攻撃を喰らうか」

 

そう冷静に語る一季だが、内心少しの焦りを覚えた。今のは後少しで『零落白夜』の餌食になる手前だった。

 

「つーか、そんな防ぎかたがあるかよ」

 

一夏が言う防ぎかたとは確かに普通の防御ではない。普通はこんな防ぎかたは恐らくやりはしないだろう。一季は《灰色の鱗殻》を露わにするとパイルバンカーを一夏の右手目掛けてぶち込んだのだから。

 

「貴様にそんな事を言われる筋合いはない。パイルバンカーを防御に使おうと俺の勝手だ」

 

攻撃をどう防ぐのかなどマニュアルに縛られていれば防げる物も防げない。防げるのならば例えパイルバンカーを使ってでも防ぐまで、一季はそれを実行したに過ぎない。あわよくば一夏に大ダメージを与えられるのだ、やらない手はない。最も失敗すれば自分のシールドエネルギーを大量に削られるという賭けの要素が強いカウンターであるが。

 

『くっ……まだ手が痺れてる』

 

直撃こそしなかったが握る刀に第2世代最強の攻撃力を誇る武器による攻撃を喰らったのだ、今も右手はジンジンと痺れている。一夏にとって幸いなのは放たれた杭が自分ではなく『零落白夜』を発動している《雪片弐型》の刀身部分に当たった事だ、もし自分に当たっていれば絶対防御が発動してエネルギーをごっそり削られていた。残りシールドエネルギーは200を切る手前、後一撃でもパイルバンカーを喰らえば『零落白夜』を発動する事すら危うい。

 

「悪運の強い奴だ、今の攻撃を避けるとはな」

 

「悪運なんかじゃねえよ、俺だって接近戦はそれなりに経験積んでるからな」

 

攻撃が当たらなかったのを悪運だと切り捨てている一季だが、そうではない。一夏は一時期離れていたとはいえ、幼い頃から剣道を経験してきている。剣道は大雑把に言ってしまえば、相手の小手・面・同に目掛け竹刀を振るう武道。そして剣道において相手の攻撃を防ぐ方法は相手の竹刀を自らの竹刀で受け止め、受け流すしかない。剣道経験者の一夏だ、小手への攻撃の対処法は当然知っている、竹刀と杭の違いこそあれど対処の仕方に苦はなかった。最も受け流す事は流石に難があり、受け止めた事でモロに伝わった衝撃は竹刀のそれとは比べ物にならず、本人の言う通り掌はジーンと痺れている。

 

『けど、そんな事関係ねえ!』

 

腕が痺れていようが折れていようが今の一夏には問題はない。その心が折れていなければ何度でもその剣を振るうだけだ。

 

「うおぉぉぉぉぉ!」

 

「ちっ……しつこいんだよ!」

 

鼓舞するかの如く叫びながら自分へと突っ込んでくる一夏に鬱陶しさを爆発させている一季は、その感情をぶつける様に手に持つランスを振るう。

 

ガキィン!

 

「くっ、また……!」

 

数えていないからもう何度目かわからない。槍による攻撃を、自分にはない家族から受け継いだその証によってどれだけ防がれた事か。その事が更に一季を苛つかせ不快にしていく。

 

「とっとと……とっとと失せろ!」

 

「ったく……なんでそんなに俺の事目の敵にするんだよ!?」

 

「黙れ!お前など……見ているだけで不愉快だ!」

 

「なんだよそれ、理由言われきゃわかんねえだろうが!」

 

互いに手にしている武器で攻撃し、攻撃を受け止めながら出会ってからこの瞬間までの感情を吐露していた。一季は一方的な毛嫌いの感情を、対する一夏は何故そこまで自分を嫌うのかへの疑問をぶつけ合う。互いの感情が熱くなるのに連鎖する様に、ぶつかり合う武器の衝突音が激しくなっていく。そしてそれらと同じ様に2人の言葉でのやり合いも激しさを増す。

 

「理由?俺の気も知らずそうやって馴れ馴れしく近付いてくる所が目障りなんだよ!」

 

「仕方ねえだろ、俺にはこんなやり方しか浮かばねえんだ!」

 

「だからと言って貴様に構われる言われ等俺には無い!」

 

「お前になくても、俺には有るんだよ!」

 

そう、一夏にはこうするしかないか考えが浮かばなかった。攻撃を当てる手段もだが、理由はそれだけではない。一季に自分の気持ちを伝えるには真っ向からぶつかって行くしかない、そんな不器用な答えしか見つからなかったのだ。

 

「放っておけないんだよ!一季、お前を見てると死んじまった俺の兄弟が浮かんで離れないんだよ!」

 

「なん……だと?」

 

一夏のその叫びに一季は驚きを隠せない。それはこのアリーナに居る全員が同じ気持ちだ。しかし一季の驚きは他の面々の驚きとは違う。

 

「俺には双子の兄弟が居た。だけどそいつは産まれてすぐに死んじまった……どっちが兄貴で弟か、それすら決まらない内にそいつはいなくなった。俺も千冬姉から話でしか聞いた事がないからわからない……」

 

「……だからなんだ!それが俺に突っかかる理由になる訳がわからん!」

 

一夏の話す内容を一季は関係ないと一蹴しランスによる攻撃を続ける。一夏は《雪片弐型》で時には受け流し、時には受け止める。剣とランスがせめぎ合い軋み合う音をバックに2人の会話は続いた。

 

「あぁ、そうだよな……そうかもねえ。けどよ、無理もねえだろ。だって……」

 

次の瞬間、一夏の口から紡がれた言葉が一季の耳に届く。

 

「俺のその兄弟の名前、もし生きてたらお前と同じ『一季』って名前だったんだからよ……」

 

「なっ……!?」

 

その言葉は一季を心底驚かせた。名前の無い自分が一夏への対抗心から決めたこの名前、その名前がまさか『本来両親より自分に与えられる筈だった名前』と同じ物だったのか?と。

 

「そ、そんな話信じられるか!貴様のエゴを押し付けるのもいい加減にしろ!」

 

そう反論しながらせめぎ合う《雪片弐型》を払いのける一季だが、その感情には明らかに焦りが生じていた。それはそのハイパーセンサーによって伝えられる声からも僅かに把握出来る。

 

「うぐっ!」

 

「貴様の戯れ言にはもううんざりだ、とっとと終わらせてやる!」

 

その焦りが一季の冷静さを乱し、戦術をも狂わせていく。ランスで《雪片弐型》ごと一夏を払いのけた一季はこの試合を一秒でも早く終わらせようと一気に勝負を決めにかかる。

 

『これで……』

 

『瞬時加速』による急接近、《灰色の鱗殻》から繰り出されるシールドエネルギーを大量に削る一撃。2つの切り札によって一気に試合を終わらせる。

 

「終わりだあぁ!」

 

その叫びは本心でもあり勝利宣言でもある魂の叫び。これで終わり、一季はそう確信した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしそれは一季が『確信』しただけであり、『確定』した訳ではない。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

ブォォン!!!

 

「な……に……!?」

 

現実は違っていた。パイルバンカーは一夏を射抜く事はなく、変わりに『瞬く間に加速した一夏が通り過ぎ』、気付けば右のウイングスラスターが切断されている。

 

「い、瞬時……加速だと!?」

 

そう、今一季が理解した現実は先程までの『確信』ではない。パイルバンカーが一夏を射抜く前に何と一夏は『瞬時加速』を発動し加速、そして『零落白夜』を発動した《雪片弐型》の光刃が悲劇の復讐者のバリアを無効化、その勢いのまま右ウイングスラスターを切断。その結果、絶対防御が発動し悲劇の復讐者のシールドエネルギーが大幅に削り取られたのである。これはもう否定出来ない『確定』した出来事だ。

 

「馬鹿な……何故貴様が『瞬時加速』を……」

 

一季の疑問は最もだ。何故なら一夏は今日初めてISを操縦、その時間は1時間にも満たない。そんな人間が何故高等技術の『瞬時加速』を使用出来たのか?

 

「俺だって驚いたぜ、何せ『今初めてやった』んだからな」

 

「なに……!?」

 

「やり方は知ってたけど、一か八かだった。成功してくれてラッキーだった……」

 

理由は至って簡単。一夏も『瞬時加速』自体はこれまでの勉強により知っていた。当然それを行う方法も把握はしていたが今日初めてISを乗った身だ。セシリアの試合やこの試合でもやろうと試みたがそう簡単には上手くいかなかった。この局面で成功したのは一夏自身も偶然だと思っている、失敗すれば一季の確信通り一夏の敗北が決まっていたのは間違いないだろう。しかし、一夏のその予想外の行動が一季の確信を大きく狂わせたのだ。

 

「貴様……!」

 

しかし一季にはそれが非常に不愉快だった。自分がこの学園に来てからマリアとの模擬戦と練習を重ねてやっと習得した『瞬時加速』を目の前の憎い存在である一夏は一か八かの賭けでやってみせた。その事実はとても面白くない現実。

 

「うおおぉぉ!」

 

「ぐっ……!くそっ!」

 

またしても『瞬時加速』を成功させ一気に一季へと突っ込んでくる一夏。右翼が切られた悲劇の復讐者は移動速度が本来のそれより低下しており、避けるのが先程より遅れている。当たりこそしなかったが、このままではまた『零落白夜』の一撃を喰らいかねない。そうなったら一季の負けは確定だ。

 

「……………けるな」

 

『負ける?俺がこの男に……織斑一夏に負ける?』

 

攻め込んでくる一夏の攻撃をかわし、いなす一季だが明らかに先程までと比べると動きも対処も隙があり雑で冷静さを欠いているのは明らかだった。一夏に負けるのだけは一季は絶対に許さない。己の心が、人間として自尊心が一夏に負けるなど、許す訳がない。その感情が一季の心を染めて冷静さを欠けさせる。

 

『クズが!所詮はお前は……』

 

思い返される。忌まわしき、屈辱にまみれた地獄より悲惨な環境で生きてきた研究所で浴びせられた『あの日』一夏がISを動かした際に浴びせられた言葉を。

 

「貰ったああぁぁぁぁぁぁ!」

 

一季の隙を突いた一夏が『瞬時加速』で加速し突進。その手にもつ《雪片弐型》からは『零落白夜』の光が放たれており、これを喰らえば間違いなく一季の負けだ。

 

『貴様は織斑一夏に劣る、ゴミクズ以下の出来損ないだ!』

 

「……ふざけるなああぁぁぁぁぁぁ!」

 

「うわっ!」

 

思い返される屈辱、怒り、憎しみ。そして目の前の一夏への怒り、憎しみ、嫉妬が入り混じるドス黒い感情が混ざり、身体から弾け出す感覚が一季を覆っていく。そして悲劇の復讐者から光とエネルギーが爆発するかの如く放たれ一夏をぶっ飛ばす。

 

「なっ……!?」

 

体制を立て直した一夏の眼前に映る光景は、一季の叫びと共に悲劇の復讐者は光を放ち、その光に包まれた中で装甲が追加され、斬られたその右の翼は再生を初めていく光景。そう、一夏は知る由もないが一季の憎悪の感情を一定値吸収した悲劇の復讐者の単一使用能力、『憎悪の進化』が発動したのである。

 

「何が起こってんだ……?」

 

この状況に一夏は戸惑うしかない。光に覆われた眼前の悲劇の復讐者を纏う一季が光の中からその姿を現したかと思えば、先程切り落とした右翼が元に戻り、新たに二の腕、大腿部の装甲が追加されている。セシリアや自分との戦いで傷つき破損した装甲や翼が修復され装甲まで増えている。まさかこの状況で第二形態移行でもしたのか?

 

「うわっ!?」

 

そんな状況に戸惑い思考を巡らせている隙を突き、一季は悲劇の復讐者へと『瞬時加速』を使用し一気に迫ってくる。それを咄嗟に《雪片弐型》による一太刀で返り討ちにしようとする。

 

「無駄だぁ!」

 

「なっ……!?」

 

しかしその光を放つ刃はそれを握る右手諸共『大きな悪魔の爪』の様な物で握られ動かせない。これこそ憎悪の進化で新たに誕生した悲劇の復讐者の新たな武器、悪魔の鉤爪(デーモン・クロウ)、今は右手のみに展開しているが、本来は両手のに長さ2メートル近いブレード状の鉤爪を展開する装備。指と同じとまでは言えないが指の様に動かせるその5本の鉤爪で一夏の右手の動きを封じる。

 

「ISを動かした事といい、雪片や零落白夜といい何故貴様ばかりが恵まれる!」

「何の事だよ!?」

 

自身の感情を叫び怒りながら一季はトドメを差しにかかる。そう。もう片方の左腕は切り札であるパイルバンカー《灰色の鱗殻》が備わっているのだ。感情をぶつける様に攻撃の構えを取り、その杭で一夏の土手っ腹を射抜こうとする。しかし一夏には一季の言っている事がさっぱりだ、《雪片弐型》や『零落白夜』はまだしもISを動かした男ということについて関しては一季も同じな筈。

 

「何故……俺とお前はこうも違うと言うんだ!?」

「がはっ……!」

 

ジタバタと暴れる一夏の左腕を《灰色の鱗殻》で払いのけ、両足を片足で蹴飛ばし身動きをほんの一瞬だけ完全に取れなくすると、口径を腹部へ叩き付け、そのままの体制で『瞬時加速』で地面へと急転直下の移動を見せる!そして地面に叩きつけられる寸背に一季が叫んだ言葉に一夏は耳を疑わざるを得なかった。

 

「何故お前ばかり恵まれる……!同じ……」

 

 

 

 

 

一方その頃、アリーナのピットを出た千冬は急いで職員室へ向かい件の書類を受け取るとそのまま一番近い無人の会議室へと場所を移していた。それは一季のDNA鑑定の結果。これを見れば一季の言っている事が本当なのか、彼の身元が明らかになるので

 

「……………」

 

覚悟を決めた千冬は検査結果が入れられた封筒を開けてその書類の文章に目を通す。

 

「っ!!!」

 

その結果を見た千冬の切れ長の瞳は大きく見開き、その表情には普段の険しく厳しい威厳が丸で感じられない程の衝撃で狼狽えていた。誰もいない無人の会議室で足から崩れ落ちると手に持っていた書類がパラリと手から離れて床に静かに落ちる。

 

「こんな……こんな事が……」

 

一季の言葉を聞いた時も束の調査報告を聞いた時もとても信じられなかった。一季が死んだ筈の一夏の双子の兄弟などと。しかし何処か一季は放っておけなかった、何処か自分に似ていたがら。しかし他人の空似、例え名前が同じでも一季がその場で付けた偶然。そう思っていた。この結果結果を観るまでは。その書類にはこう書かれていた。DNA鑑定の結果、一夏と一季は……

 

 

 

 

 

「同じ親から生まれたのに、何故こうも違うんだ!!!」

 

「がっ……!は……っ!」

 

一夏が地面に落ちたと同時に千冬の手から床へ落ちた書類に書かれていたのは『検査の結果、一夏と一季の両者は一卵性双生児である』という一季の話した内容が真実だという証明。奇しくも千冬が結果を目の当たりにしたのは、一季が一夏を地面に叩きつけ、己が感情と共にパイルバンカーを叩き込んで勝負を決めた瞬間と同じタイミングだった。

 

一季の勝利を告げるブザーがアリーナになる中、敗れた一夏は一季の言葉の衝撃の大きさに動けずにいた。

 

「同じ親から……生ま…れた……?」

 

そんな地べたに倒れて身動きをとらない一夏を一季はバイザーで隠れた目で睨みながら見下ろす。こうして代表決定戦は最後にとんでもない波乱の種を蒔いたまま終わりを迎えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




一季の勝利、そして衝撃の告発。そして証明された事実……

本当長かった……何時も通り戦闘描写は苦手ですし、この話で一季のあの叫びと鑑定結果の判明は入れるのは確定させていたので……

何はともあれ、漸く代表決定戦が終わりました。取り敢えずこれで1巻の半分は終わりました。後は鈴の転向とクラス対抗戦をやれば1巻はほぼ終わりますがそこまでまたどれだけ掛かるのか……

てか、2つのプロローグ含めて30話超えているのにまだ代表決定戦までしか進んでいないとは……

次回の更新は何時になるのか……

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