IS〈インフィニット・ストラトス〉宿命を変える奇跡の双騎士   作:《陽炎》

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今回は少年側の話。境遇が少し明らかになります。


第2話 少年の初陣 黒と対する復讐者

悲劇の復讐者を起動させた俺はフィッティングとフォーマットを行い、それが終わるのを只じっと待っている。

 

ISを動かす事が出来た俺だが、現状はまだISを動かしただけであり、まだスタートライン立ったに過ぎない。知識などは実験の一環として叩き込まれているので問題は無い、しかし操縦は全く経験がない。言わば初心者も同然だ。ISを動かしたが、その事が俺の終着点ではない。忌々しい科学者達に復讐する事が叶わないのは心残りだが、憎き科学者共は亡骸とかしている。死体をなぶる趣味など俺は持ち合わせていない。それ以前に趣味自体が無い。だからと言って弔いも供養もするつもりもない、よってこのまま放っておく事にする。

 

こんな考えをしてる間にも、俺の体に合わせて悲劇の復讐者が最適化処理(フィッティング)を行い、前段階の初期化(フォーマット)も同時に行っている。一秒間という刹那的時間でも、悲劇の復讐者の装甲は着々と変化し成形されていく。外見・中身の双方が書き換えられていくのだ。この工程で扱われている数値は、一般人ならば見る事もない桁を示している。

 

『さて、これからどうするか……』

 

ISを動かしたのはいいが、これから先どうするかが問題だ。こんな亡骸共と共同生活などごめん被る、生きてた時でも不愉快極まりなかったのに屍など論外だ。血生臭さは血を拭き取って消毒すれば何とかなるが、死体は直に腐敗する。そうなったら腐乱した死体から漂う腐敗臭に、死体から沸く蝿や蛆……劣悪な環境になるのは免れない。そんな光景を想像しただけで吐き気がする。

 

次に食事だ。俺の食事は世間一般には栄養補助食品と言われるゼリーや固形物、後は水くらいだ。朝昼晩全て同じ物、時には嫌がらせから食事を無しにされた事もある。最高2日間飲まず食わずだ、あれは辛かった。此処での食事はずっとそれだ、もう何年も同じ物が出てくる、はっきり言って飽き飽きしている。だから俺は食事は嫌いだ。

 

食事は人間にとっては娯楽の一つらしいが、俺には只の栄養補給でしかない。娯楽要素など皆無だ。奴隷時代のほうが食事はまだまともだった。確か野菜類の皮に、泥臭い水で煮た米……訂正しておこう、どっちもどっちだった。

 

そもそも料理という物をまともに見た事がない。科学者共が湯気が立ち上る、見るからに温かそうな料理を嫌みったらしく見せつけて食べ散らかしたのを目にした位だ。

 

「……………」

 

ふと思い返してみる、今までの人生を、奴隷時代の仕打ちを、研究材料となってからの地獄の日々を、自らに施された実験を。そしてもう取り戻せない失ってきた物の数々。

 

「……………よく、生きてこられたな」

 

我ながらよく死ななかった物だと心底思う。普通は死ぬだろ、普通。どれだけ丈夫なんだ俺は?丈夫や頑丈とかそんなレベルてはない気がする。

 

「しかし本当にどうするか……」

 

死体を処理したとしても何れ食料は尽きる、かといって外に出ても身の安全の保証は全く無い。もし捉えられでもしたら……

 

俺は一般人の織斑一夏と違い、男でもISを動かせるようにする研究や実験を施され、実際に動かした唯一の成功例だ。捉えられたら間違い無く研究材料へと逆戻りだ。それだけは絶対に、絶対に嫌だ!最悪の末路というのは考えただけで背筋がゾッとする。

 

「……終わったか」

 

随分と長考していた物だ、気付けばフィッティングとフォーマットが完了した事を告げるデータが直接意識に送られ、目の前にウィンドウが現れている。

 

「成る程……」

 

確認のボタンを押すと膨大なデータが整理されていくのが理解できる。起動させた最初の工業的な出で立ちではなく、滑らかなフォルムに変化している。しかしそれとは裏腹に、その姿は禍々しさを増し、それを遺憾なく発揮している。鎧を纏いし戦士というよりは、悪魔が憑依し変わり果てた人間と言うのが妥当だろうか。悪魔の顔面を表現した様なバイザーで口元以外は覆われて顔を確認する事は出来ない。胸部も装甲で守られており、この状態では一目で俺が男と理解するのは難しいだろう。

 

「外見には問題は無い。しかし……」

 

外見に関しては見掛けを気にする性分ではないから別にいい。やや悪趣味なデザインと思う程度だ。しかし問題が一つある、それもかなりの。

 

「何故装備が一つも無い……」

 

そう、悲劇の復讐者の装備を確認した所

 

現在展開可能な装備は有りません。

 

「……………は?」

 

何ともふざけた答えが返ってきた。暫し思考が停止した後、産まれてから初めてだろう、あんなすってんきょうな声を上げて呆れたのは。

 

少しして気を立て直し、思考を働かせ推測をしてみる。大方科学者共がISを動かした後暴れられた場合に被害を最小限に止める為に基本装備(プリセット)を全て外しておいたのだろう。用心深い事だ、それならセキュリティーを強化した方がまだ身を守れただろうに。

 

「これでは外には出れんな……」

 

もしこの状態のままで外に出て戦闘になればキツい。戦闘機程度なら装備が無くてもまだ渡り合えるだろう。だがもしIS同士の戦いとなると圧倒的不利だ。戦闘は愚か逃げるのさえままならない。この状態で外に出るのはリスクが多い。

 

「仕方がない、自分でやるしかないな」

 

確認した所 、幸い拡張領域(バススロット)には余裕がある。ならば自分で 後付武装(イコライザ)を行う、これしか方法がない。

 

簡潔に言うならば、空いたスペースに物を収納し、必要な時に取り出して使用するとの同じだ。この場合は武装を拡張領域(バススロット)量子変換(インストール)する事で自由に使用出来る様にする。これが後付装備(イコライザ)である。

 

「問題は装備が有るか無いかだが……」

 

悲劇の復讐者を待機状態にして移動を開始する。ISは一度フィッティングすれば、操縦者の体にアクセサリー状で待機している。悲劇の復讐者の場合は、悪魔の顔を現したネックレスとなり首に掛かっている。……これで合っているのだろうか?装飾品には詳しくないから分からん。

「やはり合ったか」

 

辿り着いたのは倉庫。中に入り物色すると、様々な機材と共に武装も貯蔵されていた。

 

「これだけあれば充分だな」

 

早速作業に取り掛かろう。不本意だが、それが終わるまでは此処で過ごすしかない。1日でも早く此処を出る為に、そう決心して装備を研究室に運び始めた。

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

あの日から一月程経過した。それまでは日付さえうろ覚えだっが、あの日カレンダーで確認した所その日は2月下旬、現在は3月下旬と1ヶ月程経過した。作業に取りかかったのはいいが、知識に問題は無くとも作業開始の途端に問題が生じた。科学者共が後付装備(イコライザ)が出来ない様にロックを掛けていたのだ。どれだけ陰険な奴らだ……このロックを解除するのにかなり手間取ってしまった。因みに科学者共の死体はもう処理済みだ。あのまま放っていたら腐乱するからな、倉庫を探す際に死亡した実験体を処理する焼却炉を発見したので、焼却炉に放り込んで焼き払ってやった。お陰で少しは気が晴れた。床に広がっていた血も科学者共の白衣や衣服を剥いだそれで拭き、消毒液を吹きかけたから臭いも気にならない。

 

「さて、もう一踏ん張りだ」

 

汗と埃を風呂で洗い流した後ISスーツを着る。風呂は気分転換になると科学者共が言っているのを聞いた事があるがあれのどこが気分転換になるんだ?湯と石鹸が混じった泡の湯が回転している水槽に入れられるのが気分転換になる訳がない。渦潮に巻き込まれた気分だぞ。実際巻き込まれた事はないが大体こんな感覚だろう。簡単に言えば洗濯機に洗われる衣服みたいな洗われ方だ。まぁ汚れは落ちてさっぱりはするからいいとしよう。

 

装備の取り付けも九割方完了している。今日中には作業も終わるだろう。そう考えながら少年は、タオルで拭いただけでまだ湿ったままの黒き長髪を靡かせながら研究室へと歩を進めた。

 

「よし、これでいいだろう」

 

あれから数時間、作業を終えた少年が完了を告げる声を漏らす。

 

『そういえば……科学者共を殺した奴は結局誰なんだ?』

 

外に出る身仕度を整えながらふと考える。もしや科学者達を殺した人間が此処に来るかと警戒していたが、結局は来ず終い。忍び込んでいるのでは?と調べてみたが、自分以外は誰も居なかった。

 

「さて、いよいよだな……」

 

準備を終え、作業の合間に調べておいた外への出口の真ん前へと移動し終えた少年。漸く忌々しいこの空間からおさらば出来るとあって表情は些か晴れやかである。

 

「よし……行くか」

 

自分にとっては未知で埋め尽くされている外の世界、これから正にその世界へと繰り出そうというのだ。ある種の覚悟を決め、未知の世界への扉を明けた俺は、悲劇の復讐者を展開し、世界へと旅立った。

 

「これは……」

 

扉を開けると、太陽の光が差し込み、何年振りかに日の光を浴びる。そして太陽が照らす世界へと踏み入れると、其処には今まで見た事も無い光景が広がっていた。

 

上を見れば、大空は何処までも水色の空と純白の雲がコントラストを作り出し、下を見れば青々とした大海原が波を立て何処までも続いている。大地には建築物と木々が作り出す緑が存在している。

 

「世界はこんなにも……こんなにも綺麗だったのか……?」

初めて目の当たりにした世界に、純粋に見惚れ、感動を抱く。今までの人生でこんな感情を抱いただろうか?いや、ない。これが……世界という物なのか。

 

「さて……行くか」

 

何時までも見惚れてしまいそうだが、そうはいかない。世界を見たのは終わりではない、始まりなのだから。俺は飛翔し、地平線のその先を目指し飛び立った。

 

 

 

 

 

『しかし……世界は広いな』

 

それなりの距離を移動をしているが、空と海は何処までも続いている。これでは地球を一回りしても気づかないかもしれない。

 

『しかし悠長にはしていられない。もし見つかれば、ISとの戦闘は免れないからな』

 

全てのISは『コア・ネットワーク』と呼ばれる情報網で繋がれており、元々宇宙開発の為に開発されたISには、この地球でさえちっぽけな星と化す程広い宇宙空間においても互いの位置を正確に把握する必要があった。そこでこのコア・ネットワーク情報によってそれぞれがお互いの位置を把握出来るのである。正確な位置座標を割り出すには、互いに許可登録する必要があるが、それをしなくとも大体の位置は理解出来る。

 

最も俺の場合は把握されると困るので、ステルスモードというのを使用している。これでコア・ネットワークで位置把握される事はない。しかし光学迷彩を搭載していないので衛星などで発見はされる。

 

「っ!」

 

突如海中からの砲撃が俺を襲う。辛うじて避けはしたが、やはりこうなるか。

 

海中に熱源。ドイツ所属のIS 黒い枝(シュヴァルツェア・ツヴァイク) と断定。ロックされています。

 

『……まぁ、見つからない筈はないか』

 

光学迷彩を搭載してないこの現状で、国境を跨いで移動をしていればこういう状況になるのは覚想定の範囲内。だから緊急通告にも驚きはしない、とうに覚悟は出来ている。イレギュラーとなったあの時からな。

 

『さぁ、何時でもこい。此方の準備は出来ている』

 

そう気構えていると、海面を突き破り、海中から勢いよく黒きISを纏った1人の女性が現れた。

 

『さぁ行くぞ!悲劇の復讐者!』

 

2つの黒が対峙したその瞬間、少年と悲劇の復讐者の初陣が幕を開けた。

 




次回は少年の初陣。あの人とどんな戦いを繰り広げるのか?

一つだけ言えるのは、一夏みたいなギャグ落ちにはならない。それだけは言えます。

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