IS〈インフィニット・ストラトス〉宿命を変える奇跡の双騎士 作:《陽炎》
「ISの基本的運用は現時点においては国家による認証が必要であり、枠内を逸脱した使用を行った場合は刑法によって罰せられ……」
現在は2時間目の授業の最中、山田先生が教壇上で教科書をすらすら読み上げている。この空間に発生しているのは山田先生が教科書を朗読している声と、ノートに記入する際に生まれる筆記具同士が擦れる音の二種だ。千冬姉はというと、教室の後ろ端で控えている。千冬姉が存在しているだけで、授業中のこの教室に緊張感が生じており、皆真面目に授業に取り組んでいる。
『へぇー、そういう事なのか』
山田先生の話に時折理解した事を体現する様に頷いてはノートにシャープペンシルを走らせる。入学までの間に必死に予習した甲斐もあり、授業の内容にはついて行けている。それにしても、十分理解してたつもりだったんだがなぁ。やっぱり教えて貰うと改めてしっかりと内容が理解出来るもんだ。
『やっぱり此処に入学する生徒は、皆キチンと事前に学習しているんだな』
さっきチラッと両隣の女子を見てみたが、どちらも内容を理解しテキパキとノートを取っていた。
『まっ、当然と言えば当然か』
ISが国防力に直結しているこの御時世、言うなら此処IS学園はエリートを育成する機関。此処の生徒はそんな学園の入学試験という難関をくぐり抜けて入学した優等生、事前に予習をしているのは当然か。脳内で納得した後は、授業が終わるまでノートを取り続けていた。
今さっき2時間目の授業が終わり、現在は休み時間。本来休み時間とは生徒達は休み時間の名の通り次の授業までの間に身と心を休めてリフレッシュしたり、次の授業の準備をして備えたりする時間だ。その筈なんだが……
『またか……』
休み時間になるなり廊下は女子が集まり、その女子達の眼から作り出された好奇を含む視線がこれでもかっ!と言わんばかりに俺に浴びせられている。休み時間をどう過ごそうと個々の自由だけど、こんな風に過ごしていいのかね?しかし……これは本当に珍獣扱いだな、今ならウーパールーパーやエリマキトカゲとかの気持ちがよくわかる。その内太い眉毛とセーラー服がトレードマークの珍獣ハンターが来ても可笑しくないな。
『気にしてもしょうがないか。さて、次の授業の準備っと』
暫くすればこの賑やかな見せ物体験も終わるだろ。流行ってのは流行るのも早いが飽きが来るのも案外早いもんだ。それまでにはこの境遇にも慣れるだろう。てか慣れないとやっていけん。
「ちょっと、よろしくて」
「ん?」
声をかけられ手の動きを止めて声のする方を向く。話しかけてきたのは僅かにロールがかかった鮮やかな金色の髪をした女子だった。白人特有のサファイアの様に透き通った青い瞳が俺を見据えている。目の前の女子はいかにも高貴なオーラを醸し出しており、『いかにも』この御時世の女子という雰囲気を感じた。
今の世の中、ISの存在からか女性はかなり優遇されている。いや、優遇を通り越して女=偉いの構図が出来ている。その影響から男の立場は低くなってしまった。もはや奴隷、良く言えば労働力だ。街中で初対面の女にパシりにされる男も今では余り珍しくはない。最も、そう言う女は男やまともな同性からは嫌悪されているが。
このIS学園も多国籍の生徒を受け入れなくてはならないという義務から外国人の生徒も珍しくもない。だから白人の女子がいてもさして驚きはしい。
「聞いてます?お返事は?」
「あ、ああ…聞いているよ。で、どういう用件だ?」
俺のこの返答に目の前の女子はかなりわざとらしく声をあげた。そりゃもうかなりわざとらしく。
「まぁ!なんですの、そのお返事は?わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるのではないかしら?」
『うわ……』
正直言ってこういう手合いは苦手だ。ISを使える、ISは国家の軍事力にもなっている。だからIS操縦者は偉い、そしてIS操縦者は女しかいない。だからといって、この世の中全ての女が偉い訳がない、現にISを動かせるってだけで、ろくに操縦も出来ない一般人なのに偉そうにしている女もちらほらいたりする。ISもそうだが、力を振りかざして粗暴な振る舞いをしていい訳がない。粗暴な力はただの暴力でしかない。
「悪いけど、俺は君が誰か知らないし」
素直に答えた。だって本当に知らないのだから。自己紹介の時も視線で出来た針による針のむしろ状態で聞いてる余裕がなかったからな。この答えが目の前の女子にはかなり気にくわなかった様で目を細めていかにも男である俺を見下した口調で続ける。てか、いい加減名前を教えてくれ。
「わたくしを知らない?このセシリア・オルコットを?イギリス代表候補生にして入試主席である、セシリア・オルコットを!?」
と思っていたら名乗ってくれた。セシリアって言うのか。しかし代表候補生か……
代表候補生とはIS操縦者の国家代表の候補生として選出されたエリートの事である。
「で、そのイギリス代表候補生のエリートさんが俺に何のご様……」
「そう!エリートなのですわ!」
エリートという言葉に反応してセシリアは俺が言い終える前に人差し指をビシッと向ける。鼻に当たりそうなくらい近くに人差し指が存在している。一々ポーズを決める必要があるのだろうか?
「本来ならわたくしのような選ばれた人間と同じくする事だけでも奇跡……幸運なのですわよ?少しはその現実を理解していただけます?」
どこらへんに幸運の要素があるのか教えて欲しいもんだ。今のところ偉そうに振る舞われて下に見られてるだけな気がするんだが。
「そうか、そりゃ有り難い事だな」
「……馬鹿にしていますの?」
幸運って言ったのはお前だろ、この返答の何処が癪に触ったんだよ。当たり障りのない答えを選んだつもりだぞ。
面倒くさいのに絡まれた。これが今の俺の率直な感想だ。
「全く、唯一男でISを操縦出来ると聞いていましたから、少しは期待出来るかと思ってましたけど、期待外れですわね」
「いや……俺に期待されても困るんだが」
勝手に期待されて期待外れとは……俺に一体何を求めているんだよ?
「まぁでも、わたくしは優秀ですから貴方の様な人間にも優しく接してあげますわよ」
へえ~。この態度が優しさねぇ。優しさの意味を履き違えてませんか?代表候補生殿。心の中で軽く毒づく。口には出さない、面倒な事になるからな。
「……貴方、何か失礼な事を考えてません?」
「いいえ、何も」
何故か感づかれた、なんでだ?ついでに言うと失礼なのはさっきからのお前の振る舞いだよ。
「まぁ、ISの事でわからない事があれば……泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよろしくてよ」
フフン。と自慢気に語ってくるセシリア。別にわからない事があれば先生に聞くからいいです。だから解放してください。
「何せわたくしは、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートなのですから」
だからもう……んっ?それって……
「それって、もしかして模擬戦の事か?」
「それ以外にありませんわ」
だよな……なら。
「俺も勝ったぞ。教官に」
「……………は?」
俺の言葉にセシリアは目を見開いており、明らかに驚いている。嘘はついていない。対戦相手の山田先生が突っ込んできたのを避けたらそのまま勢いで壁に激突して気絶したから不戦勝になったからだけど、それでも勝ちに変わりはない。余り胸を張れないが。
「わ、わたくしだけだと聞きましたが?」
本当に知らないらしいな。
「『女子では唯一』ってオチじゃないか」
「つ、つまりわたくしだけではないと……?」
「まぁ、そういう事だろ」
残念だったな、唯一じゃなくて。
「あ、貴方、貴方も教官を倒したというのですか?」
「……とりあえず、落ち着けよ」
「こ、これが落ち着いていられ……」
キーンコーンカーンコーン
3時間目開始のチャイムが鳴る。やっと解放される。今の俺にとっては福音に聞こえた。
「っ、また後で来ますわ!いいですわね!?」
いや、よくない。だがそう言うと更に怒りそうだから一応軽く頷いておく事にする。さて、さっさと授業の準備っと。
「それでは、この時間は実戦で使用する各種装備の特性について説明する」
先程までの授業と違い、この時間は千冬姉が教壇に立っている。よっぽど大事な事らしく、山田先生までもがノートを手にしていた。
「あぁ、その前に再来週に行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めねばならないな」
授業が始まるかと思いきや千冬姉が思い出したかの様に別件を言う。
「クラス代表者とは言葉通りの意味だ。対抗戦だけではなく、生徒会の開く会議や委員会への出席なども担う、簡単に言えばクラス長だ」
成る程、何となくだがわかった。
「因みにクラス対抗戦は入学時点での各クラスの実力推移を測る為の物だ。現時点においては大した差は無いが、競い合うのは向上心を生む。1度決まれば1年間変更されない。選出方法は立候補でも推薦でも構わない」
ざわざわとクラスメートの声で色めき立つ教室。こういうのって中々決まらないんだよな。委員長とかはともかく、面倒な係は特に決まらない。中々決まらないのに嫌気が刺して自分がやると言う奴が現れるの待つか、決まらないからクジかなんかで決められるんだよな。
「はい、織斑先生」
流石IS学園。即座に手を上げるとは、普通の学校じゃこういうのを決めるのに授業1回分の時間使うけど早く決まりそうだな。
「織斑君を推薦します!」
立候補ではなく推薦だったか。……ん?今……織斑って言ったよな?
「私もそれがいいと思いまーす」
うん。織斑って言ってるな。おいおい、千冬姉は教師だからクラス代表にはなれないぜ。
「では候補者は織斑一夏……他にはいないのか?」
ですよね、俺だよね!最初からわかってたよ!
「お……俺?」
振り向かなくたってわかる。この無責任かつ勝手な期待を込めた視線の集中豪雨が。
「さて、他にはいないのか?いないなら織斑に決まりだぞ」
あぁ、こりゃ俺に決まりか。と思っていたその時。
「待ってください!納得いきませんわ!」
机を叩き立ち上がったのはさっき俺に絡んできたセシリアだった。明らか不服そうなのが見て取れる。
「そのような選出認められませんわ!男でISを動かせるからと言っても知識も実力も乏しい素人がクラス代表だなんて恥曝しですわ!」
酷い言いようだな、おい。実力は兎も角知識はあるっての。
「実力からいけば代表候補生のわたくしがクラス代表になるのは当然。それを物珍しさから極東の猿にされては困ります!この島国にまで来たのはIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをするつもりは……」
おい、俺は猿扱いか。てかイギリスも島国だろうが。俺だって猿回しの猿にされる為に此処に居る訳じゃねぇよ。
スコーン!
「っ!」
そんな興奮冷めやらぬセシリアの眉間を何かが襲う。直撃した後落ちてコロコロ転がっていく白い棒状の正体には直ぐ気付いた。
『った~……!」
『チョーク……』
セシリアを襲った凶器はチョークであった。誰かがセシリアに目掛け投げたらしい。てか、もう正体はわかっている。何故なら投げる瞬間を目撃したから。
『チョーク投げなんて初めて見たぞ……千冬姉』
チョーク投げを行ったのはこのクラスの担任、千冬姉である。流石は世界最強、千冬姉にかかればチョークさえもが凶器と化す。
「口を慎め馬鹿者が。代表候補生たる者、発言には気を配れ」
そうセシリアに説教する千冬姉。確かにセシリアの発言は行き過ぎていた。そりゃあ注意もされる。
「し、しかし!その男よりもわたくしの方が実力が上なのは歴然で……」
「ほぅ。織斑、オルコットはお前が選ばれた事が大層不服らしいが、どうする?」
此処で話を俺に振りますか、まぁ、俺も言いたい事があるから丁度いいか。
「まぁ……言いたい事はわかったけど、そんなに言うんだったら自分から立候補すればいいだろ。それとも、自分は代表候補生だから立候補しなくても推薦されるとでも思ってたのか?」
「なっ……!?」
どうやら図星らしい。
「そういうの、驕り高ぶるっていうんだぞ」
あー、スッキリした。この発言にセシリアが顔真っ赤にして怒りを露わにしている。もうどうにでもなれだ。
「貴方ねぇ、わたくしを侮辱していますの!?」
「侮辱してないだろ。むしろ俺を極東の猿だの、日本を島国だの好き勝手いってたのは何処のエリートさんでした?」
「ぐっ……!言わせておけば……」
そりゃこっちの台詞だ。さっきから好き勝手言ってるのはそっちだろ。
「もう我慢出来ません、決闘ですわ!」
怒りが許容範囲を越えたのか、再び机を叩くセシリア。
「いいぜ。このまま話をしても埒があかないしな」
もう四の五の言うよりこういう手段の方が分かり易い。
「言っておきますけど、わざと負けたりしたらわたくしの小間使い……いえ、奴隷しますわよ」
奴隷って、何時の時代だよ。此処は一応日本だぞ。奴隷に最も縁遠い国だと思うが。
「侮るなよ。真剣勝負で手を抜く程腐っちゃいない」
てか、手を抜く余裕なんて微塵もねぇよ。
「そうですか。何にせよ丁度いいですわ。イギリス代表候補生であるこのセシリア・オルコットの実力を示すいい機会ですわ」
「さて、話はまとまったな。それでは1週間後の月曜の放課後、第3アリーナで行う。織斑とオルコットは各自用意をしておくように」
ひょんな事から勝負をする事になってしまった、しかも相手は代表候補生。入学初日から波乱の幕開けだ。けど、やってやる!
「それでは授業を開始する」
千冬姉がぱんっと手を打ち話を締める。兎も角今は授業に集中しよう。気持ちを切り替えて俺は授業に集中しようと教科書を開いた。
今回は決闘を挑まれる話でした。またしても少年陰も形もなし。
少年「……」(もの凄くこっちを睨みながら悲劇の復讐者装着)
ご、ごめんなさい!次回こそ出番出すから許し……ギャアァ!