BLEACH外伝 〜飛燕旅して城に止まれり〜 作:二毛目大庄
青年が1人、夜の街を歩いていた。
恵まれた身体に革ジャンを着て、その風貌はどこか自信に満ちているようだ。
周りを威圧するような目つきは、よくみるとどこか暗い影を感じさせた。
買い物を終え、帰宅する途中、ふと青年の鼻をくすぐる風。
ーこの風は…
青年は立ち止まり、目を瞑った。
懐かしい、そんな風だった。
目を瞑ると同時に、昔の風景を思い出そうとする。
しかし、まるでフィルターが掛かったように思い出す事は出来なかった。
ー無理もねぇな。
青年は自嘲的に笑みを浮かべると、ポケットに手を入れ1人街を歩いていった。
「いよっしゃ、パトロール終了!」
「まだ南川瀬が残ってますよ、副隊長」
黒装束に身を包んだ2人組が、夜の空座町を駆ける。
副隊長と呼ばれた男は立ち止まり、部下風の男の声を背に受け、気怠そうに腕を組んだ。
「…おー、そうだった。 よし、王隠堂」
男は、王隠堂と呼んだ部下風の男の方に向き直った。
王隠堂は嫌な予感がした。
長い付き合いで分かる。
この人のこの眼は何かを企んでいる顔だ。
「これから空座町は俺じゃなくお前の担当だ。 そうだろう?」
「いや、しかし引き継ぎがまだ…」
「南川瀬はお前に任せた!」
ーやっぱりそうだ。
男は王隠堂にパトロール任務を任せ、その場を離れる為に跳躍の姿勢に入った。
と同時に、ある事に気付いた。
男の目つきが変わる。
「副隊長、これは…」
「あぁ。北西の方角、 虚だ。 しかも2体だな」
「北西… 北川瀬の外れですね」
「もうちょっと西だったら鳴木市で十番隊の管轄だったのに惜しいな。 しょうがねぇ、行くぞ」
「はい!」
副隊長と呼ばれた男は軽口を叩きつつ、本来の任務である虚の浄化の為に王隠堂と共に北川瀬に向かった。
青年はもうすぐで自宅、という所で、再び足を止めた。
ーまたあの風だ。
今度は先程よりも格段に強く香った。
それはもはや風が香ったというよりも、空気の塊に触れたような感触さえあった。
ーまさか、俺に何かが近づいている…?
青年は不安を掻き消すように、自宅へと歩みを進めた。
その一歩目で、青年は何かにぶつかり尻もちをついた。
洗いたてのジーンズが泥で汚れる。
「なっ…」
青年は顔を上げた。
が、そこには何も無かった。
ー? 俺は何にぶつかって…
「危ねぇ!!」
青年の背後から怒鳴り声が聞こえたかと思うと、座ったままの青年は、後ろに引っ張られた。
同時に目の前の地面が抉れた。
「なっ…」
振り返ると黒装束に身を包んだ2人組が立っていた。
目の前で立て続けに想定外の事態が起きた青年は、慌てて立ち上がり、2歩3歩と後ずさった。
「あんた達誰だよ…!」
「坊主、話は後だ。下がってろ。 王隠堂、抜け」
「はっ!」
王隠堂は自身の腰に差した刀を抜くと、ヌラッと前方に構えた。
「副隊長、こいつは…」
「滅多にお目に掛かれねぇ大物だ。 王隠堂、ツイてるな」
青年は2人がの話の内容が全く掴めなかった。
「あんた達、何を言って… !?」
青年が苛立った様子で王隠堂の肩を掴んだ瞬間、青年の視界にとてつもない大きさの仮面の化け物、虚が眼に飛び込んできた。
と同時に再び尻もちをついた。
ジーパンはすでに泥々であった。
「何だ、この化け物は…」
「あーあ、見ちまったか」
「申し訳ありません、副隊長。 抜刀状態で人間に触れられてしまいました」
「いや、しょうがねぇ。 後で『処置』しとくさ。 それより王隠堂、こいつを1人でやれるか?」
副隊長と呼ばれている男が顎で化け物を指すと、王隠堂は口元を締めた。
「勿論です。これからこの街を守っていくのは僕なんですから…!」
王隠堂はそう言うと、決意を込めた声で叫んだ。
「佇め『神去』!!」
王隠堂がそう叫ぶと同時に、今まで構えていた刀が両刃の直刀に姿を変えた。
そのまま右肘を大きく後ろに引きつつ、刀を肩の高さまで水平に持っていくと、鋒を虚に向けた。
ー扱いの難しい両刃の直刀… そして独特なあの構え、あの身のこなし。 やはり王隠堂は現世派遣にしとくには惜しいな。
副隊長と呼ばれた男は、戦いの様子を見守りながらそう確信した。
王隠堂の戦いが終わり、副隊長と呼ばれた男は腰を抜かした青年に手を差し伸べた。
「ほれ。 立てるか?坊主」
「…坊主って歳じゃねぇよ」
青年は差し伸べられた手を掴まず、自力で立ち上がり、ジーパンの泥を手で払い落とした。
「あんた達、何者だ? そんであの化け物は…」
「あぁ、自己紹介がまだだったな。 こっちに居るのがお前の命の恩人で、俺の部下の王隠堂 永賢」
紹介された王隠堂はぺこりと会釈する。
「そして俺が、志波 海燕だ。 よろしくな!」
先程まで副隊長と呼ばれていた男は、志波 海燕と名乗ると人差し指と中指を額に当てて、そう挨拶した。
「副隊長…」
「あぁ、分かってる。 で、あんたは?」
「俺は…銀城 空吾だ」
この出会いが、後に護廷十三隊を含めた尸魂界全体を大きく巻き込む事になろうとは、この時は誰も予想だにしなかった。
皆さんこんにちは。
本日は当駄作をお読み頂きありがとうございました。
今回の作品は、僕が描きたかったエピソードの一つ、銀城空吾にまつわるお話です。
彼はかつて厳格な尸魂界から特例措置をとらせた人物で、その霊圧・才覚共に超絶していたはずでした。
しかし、その座を棄てて現世に行方を眩ませた、と原作にあります。
一体彼に何があったのでしょう。
彼が何故死神代行になり得たのか。
そして何故その座を棄てて現世に行方を眩ませたのか。
なるべく原作に忠実に、そして矛盾のないように、そして何より僕が納得いく形でこの物語を完結させたいです。
まだ描きかけの小説も有りますが…笑
引き続きお見守り下さると、筆者冥利につきます。