城門前にあった二体のガーゴイル像。
二人のモヒカンとの戦闘のどさくさに紛れて城内に入ったのだろう、今は主を失った台座だけがその場に残されており、どことなく哀愁を漂わせている。
私たちはボーボボたちが
やがて美鈴が小声で「います」と呟くと、ゆっくりと慎重に扉を外側──こちら側へと引いて開けていく。
少女移動中 NowLording...
古びた外観の城塞にふさわしい無機質な石造りになっているだろうと予想した私たちは城内の内装に漠然とした。
一言で説明するならば『エッシャーのだまし絵』
彼の画家が描いた無限回廊、無限階段を用いた立体化不可能な建築物が、その世界観をそのまま切り抜いたような風景が目の前に広がっていたのだ。
無論、こんなものが現実にあるハズもなく私たちはそこかしこに漂う魔力の残滓から目の前の光景は幻術、幻影の類いで作られたものと判断。すぐさま美鈴が姿を見せぬ敵を討つべく構えを見せる。
『
腰を落とした半身の構えから東洋の龍を模した気を右腕から放つ美鈴。
たとえ、どんなにうまく姿を隠そうとも……生物の放つ気を感じ取れる能力を持つ彼女の前では隠匿、隠蔽など意味を成さない。
「 ぐわぁぁぁ~~~~~っっっ!!!? 」
──当然、それに該当する姿を見せぬ敵もまた例には漏れず、龍の顎に胴体を挟まれ、咥えられたまま上昇、天井付近まで昇ると……今度は獲物を咥えたまま身を捻って頭を下にして急降下。
哀れ、件の敵は背中から床に叩きつかれ──轟音とともに大量の砂塵が巻き上がり辺りを覆う。
やがて土煙が晴れた後にはどこぞのZ戦士の一人の如く床に倒れ伏す姿が見られた。
その様子を見た首領パッチが慌てて言う。
「ああっ!? みんな見て! あれはモヒカンじゃない!!」
首領パッチの言う通り、それはモヒカンではなく……老婆の格好をした大男だったが…
「あわわわ、僕たちはなんてことを…」
「見ず知らずのおばあさん、ごめんなさい」
──にも関わらず、あっさりと騙されて「あわわわ」と狼狽える天の助とシュンとした表情と態度で謝る首領パッチ。
そこへ名案と言わんばかりにボーボボがあっけらかんと言った。
「よし、首領パッチと天の助がやったことにしよう」
「「 ええええぇぇぇぇっっっ!!!? 」」
これにはさすがの二人も猛反発するがボーボボは「じゃかましいわ!!」と一喝。伸ばした鼻毛を二人に打ち付けて問答無用で黙らせる。
しかし、そんな三人の心配(?)をよそに老婆の格好をした大男はむくりと起き上がって見せ…
「あいたたた。背筋を鍛えていたからいいものを……そうでなきゃ大ケガをするとこでしたよ?」
人の良さそうな柔和な笑みでそんなことを宣う。
背筋を鍛えたところで先ほどの攻撃を耐えきれるとは思えないのだが…
「 36連ババチョップ!! 」
突然、うちと一緒にいるババァ──もといティアラ婆さんがババァの格好をした大男に向かって両手による手刀を叩き込み、身に付けている衣服やカツラを切り刻んで剥いでいく。
「くくっ… おれの変装を見破っていたのか~~!!」
やがて、ティアラ婆さんが技を出し終えたあとには……世紀末ファッションに身を包んだモヒカンが露になった。
必死の形相で「なぜだ!?」と問いただしてくるモヒカンに筋肉ムキムキで上半身が黒のビキニ姿の老婆───ティアラ婆さんは拳をゴキゴキ鳴らしながら言い放った。
「 お前のようなババァがいるか!! 」
「「 お前が言うな!! 」」
これにはモヒカンだけじゃなくティアラ婆さんを除いた一同の声が重なった。もっとも言われた当の本人は何がおかしいのか「くっくっく…」と腕を組みながら悪党の首魁のごとくほくそ笑んでいるが…
「どちらにしろ、ここでお前たちを倒すことに変わりはぬぅわぁいぃわぁっ!!」
ゆったりとした不思議な歩行技術で左右に残像を残しながら近付いてくるモヒカン。私たちとの距離を数歩まで縮めると両足を揃えて跳躍、山なりの軌道を描いてドロップキックを放ってきた。狙いはティアラ婆さんの頭部。ほぼ頭上から落下する形で──
「笑止!! このババァにただのドロップキックなど児戯に等しいわ!!」
あろうことかモヒカンの放つ飛び蹴りを二つの手で足首を掴んで阻止。
「かかったなアホが!」
だが、そうくること見越していたのか、モヒカンは脚を左右に大きく広げて開脚。ティアラ婆さんの腕による拘束を足で力任せにこじ開けて広げさせ…
「喰らうがいい!
日本のマンガ『ジョジョ』と『キン肉マン』と『ハンター×ハンター』その他諸々を参考にして編み出したオレの必殺技を! 散っていった
無防備になった首に左右から手刀を叩き込んできた。
どうでもいいが参考にするマンガが多すぎるような、と思いつつ二人の成り行きを見守る。
「
必殺! 猫なでパンチ!! 」
名前長っ! それに最後の猫なでパンチって何!?
肉と肉がぶつかり合う鈍い音。
その直後に骨が砕ける不快な音が私たちの耳に届いた。
「ああぁぁ~~~っ!!!? おれの指がァァァっ!?」
ティアラ婆さんの首に変化はなく、代わりにモヒカンの十本ある指の全てがあらぬ方向に折れ曲がっていた。
「ワシの肩のこりは鋼鉄の強度を誇る。
生半可な攻撃ではワシの首は落とせんわ!」
ほぐせよ。その肩のこり。
私がティアラ婆さんの発言に呆れてる間に「バババババ!」と絶え間なくモヒカンの体に隙間なく拳による乱打を叩き込み…
「ババァ────っ!!!!」
最後に訳のわからん雄叫びとともに強烈な左ミドルキックでモヒカンの右腕をへし折り、さらに胴体の半ばまでその太い脚をめり込ませ、その衝撃でモヒカンは遥か遠くまで飛ばされ────どこかで壁にでもぶつかったのだろう、轟音が轟いた。
その容赦のない攻撃に敵であるにも関わらず私はモヒカンに同情し、ボーボボたち三人は恐怖におののき抱き合う。
そしてモヒカンを倒したことで幻影が解かれたのであろう、だまし絵のような世界から、石畳で敷き詰められた大広間と瓦礫に埋もれ血塗れになってピクリとも動かないモヒカンの姿が現れた。
「くっくっく… どうやら、これが地下へと進むための鍵束のようじゃな」
一体いつの間に手に入れたのか、ティアラ婆さんの手にはモヒカンから奪い取ったと思われる古めかしいカギが束ねられた鍵束が握られていた。
「…にしてはカギが多いわね。道中、一体いくつの扉を開けなきゃならないのよ?」
私の目の前に掲げられてる鍵束。そこにおさめられているカギの数は十や二十ではきかない。かなりの本数がそこにあった。
私の疑問に咲夜が答える。
「この地下施設は全部で99階あります」
あまりの多さに私も含めボーボボたちもげんなりする。
「──ですが、ここを利用する人たちのために近道やエレベーターなどがあります」
そう言って中庭に通じる通路を指差す。
そこには鬱蒼とした緑が、木々と草花が多い繁っていた。
「例えば、ここを真っ直ぐ突っ切って行くとエレベーターに辿り着きます」
「うっしゃー! ほんじゃ早速行ってみようぜ!」
「首領パッチさん! 待ってください!」
「ん? どうした咲夜?」
名を呼ばれて振り向く首領パッチ。
咲夜は両手でメガホンの形を取って警告を発した。
「そこにはでっかい 肥溜めが! 」
時すでに遅し、首領パッチは足下から肥溜めに突っ込む羽目になり……そのまま底無しの沼のごとくズブズブと沈んでいく。
「ひぃぃぃぃっ!? 誰か助けてくれぇぇ~~~っ!!」
「大丈夫か!? 首領パッチ!」
「ボーボボ! 頼む! 助けてくれ!」
ボーボボの方へ必死に手を伸ばす首領パッチ。しかしボーボボが首領パッチを助けるような素振りは一切見せない。ただただ事の成り行きを見守るばかり、しまいには片手でパタパタ振って…
「ゴメン。やっぱ無理だわ」
「えぇぇっ!? ちょ!? お前!?」
「だってお前 臭い し」
「臭いって、お前!?」
ならばと、他の面子に顔を向けるが全員明後日の方向に顔を向けて視線を合わそうとする者はいない。
「フッ…」
そこでようやく諦める決心がついたのか、キザったらしい笑みを顔に張りつかせ、親指を立てた拳を天に突き上げながら肥溜めの中へと消えていった。
「 首領パッチぃぃぃ~~~っ!!!! 」
ボーボボの慟哭が城内に木霊するが、誰も彼を責めることはできなかった。
だって臭かったし…
(´・ω・)にゃもし。
いろいろとゴメン。