如何に鍛えに鍛えた屈強な鋼の肉体を持つティアラ婆さんといえども所詮は人の子。本気になった美鈴の──妖怪の打撃に人間が耐えうる筈もなく……今現在、彼女は陥没した床の中心で蹲った状態で倒れ伏せている。(ボーボボ曰くヤムチャ)
「これでようやく一息つけるわね…」
ティアラ婆さんを倒してホッと安堵のため息をはく。
時間にして半日も経っていない、それこそ数時間足らずの出来事なのに極度の疲労を感じるのはなんでだろう…
ボーボボが連れてきた老婆が突然キレて筋肉ムキムキになるのを皮切りに…
滾った婆さんが爆走。道中にいたイリエワニとモヒカンを蹴散らし、彼女に案内されて辿り着いた古城では首領パッチが肥溜めに落ち(よそ見による落下。自業自得)、見捨てたけど。
中に入ったら老婆の格好したモヒカンのお出迎えがあり、中庭ではゴリラの群れに追われ、モヒカンを犠牲(囮とも言う)にして入った地下のダンジョンではモヒカン軍団と実は敵対している組織の首魁だったティアラ婆さん、さらに喋れるゴリラと混戦による戦闘。途中からゴリラと共闘。その間に天の助とボーボボがティアラ婆さんから接吻をぶちかまされ戦線離脱。
…と、やたら濃い内容の酷い一日だった。もうヤダ。
正直、婆さんみたいな変人のいる組織とは二度と関わりたくないのだが……あの婆さん戦闘中に息子がどーのこーの言ってたし、無理だろーなー。
そして現実は非情だった。
真っ先に気付いたのは美鈴。彼女は己の能力でティアラ婆さんの変化を誰よりもいち早く察知した。
「気の性質が変化していく…? いいえ違う、元に戻っていく…? 初めから別人だった!?」
驚きつつも後ろに飛び退いて婆さんから離れる美鈴。
貼ってあった札が剥がれ落ちていくように身体中の表面から細長い紙がどんどんと抜け落ちていくティアラ婆さんの姿をした何か……徐々に露になっていく過程でティアラ婆さんに化けた者の正体を私たちは知る。
「「 モヒカン!!!? 」」
そう、そこに横たわっていたのは彼の老婆ではなく、この組織に有象無象にいるモヒカンの一人。
やがて、彼の体を覆っていた最後の一枚が剥がれると同時に見計らったかのようにティアラ婆さんの声がどこからともなく聞こえてきた。
『くっくっく… ティアラ婆さんかと思ったか? 残念! モヒカンでした!』
もはや聞き飽きた野太い老婆の声。だが声はすれども姿は一向に見えない。
『中世のヨーロッパじゃあるまいし、組織のリーダーを勤める者が先陣を切って戦うわけがなかろう? 安全な場所から遠隔操作でそこのモヒカンを操って動かしていたんじゃ!』
本当だ。パッと見た程度ではわかりづらいが、モヒカンの背中に携帯電話のアンテナっぽいのが刺さっているのが見える。おそらく、それでモヒカンを操っていたんだろう。なんかどこぞの団体に所属している能力者に似ていなくもない。
『ちなみにアイテム名は「
おい。
そのまんまだし。名称が。
『シャルナークは死んだ! もういない!
だけどワシの背中に! この胸に! 一つになって生き続ける!』
ああ、やっぱしシャルナークだった。…にしてもこの組織の連中はジャンプ作品由来のアイテムを作ってくる。何か深い意味でもあるのだろうか? あとシャルナークはいい迷惑してると思う。
『特に意味はない。ただの趣味じゃ』
疑問を口にした覚えはないのに何故か伝わり律儀に答える婆さん。考えることが顔にでも出ていたのだろうか…?
「レミィ、ここの施設を無力化した以上、長居は無用よ」
「わかってるわよパチェ。こんな辛気くさいところからさっさと脱出するわよ」
施設の無力化。つまり囚われている妖精たちの解放だが、私の知らぬ間に行われていたらしく、地下へと続く階段からわらわらと妖精たちが現れてはそのまま天井にある地上へと続く穴へと消えていく。そのうち何体かが倒れている咲夜を見て怯えていたが…
「組織の人間がいない以上ここに居ても無意味。私たちも帰るわよ。紅魔館の居住区部門は破壊されたみたいだけど結界に守られている地下の図書館は無事なんでしょ?」
それから囚われた妖精たちが全ていなくなりダンジョンの機能は停止。ゴリラたちも去っていき、あとに残ったのは私たち紅魔館の住人とティアラ婆さんの依り代となったモヒカンが一人。その彼の命も風前の灯火と化していて今にも消えそうな気配が漂っていた。
そんな彼も何かを言い残したいことがあるのだろう。震える手で虚空を掴むような仕草で細々と呟いた。
──…死ぬ前に……彼女を……作りたかった…
それだけ言うと腕が力無く垂れ下がり……それ以降ピクリとも動かない。
何か共感することがあるのか、ボーボボが片手でモヒカンの瞳をそっと閉じ、両腕で彼を抱き上げると、天の助と首領パッチとともに涙を流しながら叫ぶ。
「「 モヒカ────ン!!!! 」」
なんかゴメン。
私もモヒカンのために心の中で詫びた。
涙流すボーボボらを見て、先ほどのティアラ婆さんはモヒカンが化けたものということもあってフランは気付いたのだろう。彼女はそのことを指摘する。
「それじゃあ、ボーボボと天の助は モヒカン と キス したことになるんだね」
「「 ぐはぁっ!?(吐血) 」」
今度はボーボボと天の助が口から大量の血を吐く。ついでに抱えていたモヒカンを落とす。
それでも老婆とのキスと比べたら幾分ダメージは少ないのか、暫くしたら立ち直ってみせた。もっとも、すこぶる顔色は悪く、足腰も生まれたての小鹿のごとくぶるぶる震えていたが……ともかく私たちは古城をあとにした。
少女移動中 NowLording…
徐々に遠ざかっていく古城を背に紅魔館へと帰路に着く私たち。なんやかんやで辺りはすっかり暗くなっていた。
咲夜は美鈴に背負われる形で、バイクにはパチェとフランが二人乗りで跨がり、あとは徒歩で一塊になって移動している。
その私たちとは別にやや後ろに首領パッチがアヒルの子のようにあとをついてきている。
そんなかわいいものでもないけど…
歩いて少々時間が経った頃、疎外感に耐えられなくなったのか、恐る恐る首領パッチが話しかけてきた。
「あのー…」
「 ダメだ 」
振り向きもせずに拒否するボーボボ。
「お前はファブの原液に1ヶ月ほど浸かって臭いを消さない限り近づくのも話しかけるのも禁止な?」
酷いことをさらりと述べる。でも気持ちはわかる。だって首領パッチは肥溜めに落ちたんだもん。しかも敵に捕らわれ、ティアラ婆さんの強化に使われ、いいように利用された。
……………………あれ? よくよく考えたら私たちの足を引っ張ることしかしてない? もしかしなくても首領パッチって役に立ってない? 今回の件。
「とりあえず1ヶ月間、お前だけドッグフード」
「え? 俺ごときにドッグフード!? いいの!?」
罰としてボーボボは言ったつもりなのであろうが何故か自分を卑下し諸手を上げて大喜びする首領パッチ。だがボーボボが懐から取り出したのはどう見ても食えそうにない金属質の光沢を放つ骨。
「首領パッチ! メカの素だ!」
金属製の骨を全力投球するボーボボ。狙い違わず首領パッチの顔面に命中。「ごがっ」という端から聞いてても痛そうな音が鳴る。
「せめて食えるモン寄越せよ!」
額に青筋を立てつつ怒り心頭に発した首領パッチがネギを片手に飛び掛かるも、ボーボボは天の助の左足首を掴み、彼の体を得物代わりにして首領パッチを地面に叩き落とし、さらにボールを蹴る要領で林の奥へと蹴飛ばす。
「首領パッチ菌がつくぞー! 逃げろ~!」
なんてことを宣いながら天の助をソリ代わりにして颯爽と私たちの目の前を駆け抜けていく。
「「 ………………………………………… 」」
古城での戦闘が思った以上に体力を消耗していたのか、私たちはしばしの間、過ぎ去った彼らの後ろ姿を呆然と眺めていた。
「元気ね。あの人たち」
たっぷりと間を置いてから言ったパチェの一言に私たちは無言で頷く。
ト" ト" ト" ト" ト" ト"
再び歩き出そうとしたとき、やたらと無駄に迫力のある日常生活において聞かないであろう重低音の効果音が背後から聞こえてきた。
「てめぇらはこのオレを怒らせた」
振り向けばそこには血走った目でこちらを見ている首領パッチの姿があった。
「吹っ飛ばされた先にこんなのがあったぜ」
手には木製の桶と柄杓。桶には何やら液体とも固体とも判別がつきにくい物がなみなみと注がれていて、そこかしこに悪臭を放っている。ご丁寧に達筆で「肥」という文字が書かれていた。
「オレが味わった苦しみキサマらも味わえぇぇ~~っ!!」
桶と柄杓を振りかざして追いかけてくる首領パッチから脱兎のごとく脇目も振らずに逃げ出したのは言うまでもない。
(´・ω・)にゃもし。
とりあえず文字数だけ埋めた。
遅れてスマン。