「我が名はむきむき。紅魔族随一の筋肉を持つ者!」   作:ルシエド

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 値段が曖昧ながらも出てるWEB版だと屋敷は
カズマさんの手持ち三百万
+ミツルギから決闘で剥ぎ取って売り払ったもの(有り金全部、装備全部、アイテム全部)
=小さい家くらいの値段
 でしたね。カズマさんの金で買って、流れで皆が住むようになって、カズマさんが「俺の金で買ったから一人で住むとか言えない雰囲気」「まあでもそんな小さいこと言う気はない」「一人で住んでも寂しいし」と口には出さずツンデレ発揮するという


3-3-1 ロマンを求めちゃったその先に

 カズマは先日の文通やらネックレスやらの件でベルゼルグ王女に興味を持ち、ギルドから色々と紙媒体を借りてきてそれを読みふけっていた。

 ここは屋敷の中庭。

 今日はいい天気で、暖かな陽とそよ風が肌に心地良い。

 

 カズマが紙をペラペラめくり、ふと顔を上げると、視線の先には二人の紅魔族が居た。

 むきむきが椅子に座って、めぐみんがその髪を切っている。

 カズマが視線を紙に戻し、ワンセット読み終わった頃にまた顔を上げると、今度はめぐみんが椅子に座ってむきむきに髪を切って貰っていた。

 

(家族みたいなことしてるのな)

 

 カズマは今度は新聞に手を伸ばして目を通してみるが、どんな紙媒体に目を通してみても、書かれているのは王族やらアイリスやらの武勇伝ばかり。

 もっと言えば、ベルゼルグ王族の無双話ばかりであった。

 眉間を揉み、カズマは空を見上げる。空の雲の形がおっぱいに見えた。

 

「なあめぐみん、むきむき。ベルゼルグ王族って皆こんなアレなのか。

 なんか万の軍が一塊になってきたのを撃退した、と書いてあるんだが」

 

「ふふっ、カズマは面白いことを言うんですね?

 万の軍を率いる将が、万の軍より弱いわけがないでしょう。

 王都の軍を率いる王女なら、王都の万軍より強いが道理というものです」

 

「道理じゃねえよ!」

 

「でも多分アイリスって僕よりずっと強い女の子だよ?」

 

「おかしいなー、王女ってそういう生き物じゃなかったはずなんだけどなー」

 

「アイリスより強い勇者様って僕ちょっと想像つかないや」

 

「そういう生き物じゃなかったはずなんだけどなッー!」

 

 カズマ視点、この世界最強の人類は間違いなくこの少年である。その少年が微笑みつつここまで評価しているのだ。

 カズマの心境は、魔人ブウの強さを語る超サイヤ人孫悟空を見ているヤジロベーのそれに近い。

 パワーバランスの調整を神が放棄したんじゃないだろうな、とカズマは頭を抱える。

 彼が頭を抱えている内に、めぐみんの散髪は終わっていた。

 

「腕を上げましたね、むきむき」

 

「褒めてもらいたかったからね」

 

(何!?)

 

 カズマは心中で驚愕する。

 めぐみんが爆裂OSで動き、爆裂アプリを一気に複数起動して処理落ちするバカPCな人間であると最近まで思っていたカズマだが、最近は女らしいところもあると思っていた。

 というか、戦ってなければ女性らしいのだ。

 例えばの話だが、こうしてむきむきと絡んでいたりする時には、カズマにもめぐみんは普通に可愛い女子に見えるのである。

 

 そんなめぐみんの感性は女性的だ。かつ基本的に言動に躊躇いがない。

 女性らしく髪にも気を遣っているし、そこに不満があれば容赦なく指摘し、そこを改善するように迫る。めぐみんはそういう女だ。

 そのめぐみんが、素直に散髪の腕を褒めている。

 これは由々しき事態であった。

 

 切って貰ったばかりの髪を得意げにかき上げるめぐみんは、カズマの目にはいつもより二割増しに美少女に見えた。

 

(これは……そうだ!

 有名な美容院に行ってきたんだー、とかほざいてたクラスの女子の雰囲気!

 どこが違うんだよ分からねえよ、とは俺もクラスメイトも思うんだが!

 でもなんとなくどこか違う感じがする! 自信に満ちた表情がそれを裏付ける!)

 

 むきむきの髪切りの腕が、めぐみんをちょいかわめぐみんにランクアップさせたのだ。

 得意げな顔にちょっとイラッとしたものも感じるが、自信満々に振る舞う姿がそれさえも相殺してしまう。

 

(俺が前世でよく行ってた駅前の1000円でカットしてくれる美容院とは違う……!

 そうだ、これは、この髪のカットの出来は……よく分からんがたぶんマーベラス……!)

 

 女の命とも言える髪をむきむきに任せ、あまつさえここまで満足してるめぐみんを見て、カズマの脳裏に閃きが走る。

 

(まさか、そういう関係なのか? 俺が気付いていないだけで二人はそういう関係なのか!?)

 

 クズの流儀に沿った閃き。略してクズ流閃(りゅうせん)

 だが彼は、閃きに流され判断を誤るような愚か者ではなかった。

 

(いや、落ち着け。妄想で男女の仲を邪推するなど、愚の骨頂……!)

 

 地球に居た頃のカズマならばこの邪推を確信に昇華させていただろう。

 だが、今のカズマは違う。

 ダスト達が紹介した、この街に存在するサキュバス風俗に日々通った経験が、彼を一つ上のランクに押し上げていた。

 今の彼は意識の低い童貞ではなく、意識の高い童貞なのだ。

 

 商売女で童貞を捨てた童貞を素人童貞と言うのであれば、サキュバス風俗で(自分の脳内だけで活かされる)性経験を積み上げているカズマは、言うなれば"玄人童貞"。

 淫夢という名の脳内妄想の中で、そんじょそこらのヤリチンが目じゃないくらいの性経験を積み上げた、機動武闘伝自慰ガンダム。オナニーマスタークズ沢。カズマスターベーション!

 

 彼にはそこそこの恋愛判断力と状況判断力がある。

 カズマは一時の感情には動かされず、めぐみんとむきむきが恋仲でないことを見抜いていた。

 何という冷静で的確な判断力か。

 

「カズマも髪切ったらどうですか?

 変に髪伸ばしてかっこつける男ほど痛々しいものはないですよ」

 

「伸ばさん伸ばさん。俺昔からちょっと髪伸びるの早いんだよな……」

 

「エロい人ほど髪伸びるのは早いと言いますが」

 

「え、そうなの!?」

 

「ち、ちげーし! 俺はこの年頃の少年相応だし!」

 

 ヘタレだから行動には移さないものの、カズマは平成が生んだエロモンスターの一人である。

 

「私もむきむきも切れますが、どちらに頼みますか?」

 

「えー……じゃあ、むきむき頼むよ。めぐみんだと頭爆裂でアフロにされそうだ」

 

「しませんよ! 私が爆裂100%な人間みたいに言うのはやめていただきたい!」

 

 アフロにこそしないものの、めぐみんはこの世界が生んだ爆裂モンスターである。

 

 二人の会話の何が面白かったのか、むきむきはニコニコと笑っていた。

 

「僕カズマくんのことが分かってきた気がする。

 女の子にそういうことされると照れくさいとか、そういうのでしょ」

 

「おいむきむき! 変な想像働かせるのやめろ!」

 

「……ほう」

 

「ほら見ろめぐみんが調子に乗って『ほう』とか言ってんぞ!」

 

 カズマは美少女に手を握られただけでドキッとして、ちょっと好きになりそうになってしまうほどの幹部級童貞。体に触れられ髪を切られるなど、冗談じゃないのだ。

 むきむきの手の動きは神速で、その動きの正確さたるや米に絵画を書けるほど。

 カズマは散髪終了後に"頭が軽い"と感じたことに驚き、毛先が触っていて心地いいことにも驚いて、水鏡に映した自分の頭がかなりいい感じになっていることにたいそう驚いた。

 

(二割増しにイケメンになったんじゃないか? 俺……)

 

 なっていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギルドの一角で、アクアを脇に従えたカズマが、テーブル越しにむきむきと向き合っている。

 むきむきが息を呑むと、カズマは籠のように組んだ手の中にコインを十枚ほど放り込み、ジャラジャラとシェイク。そして、テーブルの上に放った。

 テーブルの上に放られたコインが、何の種も仕掛けもなく、全て表となって並ぶ。

 

「な、なにこれ!?」

 

「俺、運ゲーで勝率1/2とかなら負けたこと無いからな」

 

「そこに私の幸運強化魔法(ブレッシング)! これで一芸完成ってわけよ!」

 

 アクアの魔法で幸運ブーストしたカズマは、むきむきが見たこともないような事象を引き起こしていた。

 素の幸運も、魔法による強化幅も、もはや常識を超えている。

 少なくとも一発芸に使うような代物ではなかった。

 

「幸運ってこういうのだったっけ……

 こう、目に見えるようなものじゃなかったような……」

 

「運だけはいいのがカズマだから」

 

「はっはっは、お前に運だけとか言われるのは無性に腹立つな」

 

 カズマは散らばったコインを集めて懐に入れていく。

 飲み物を取りに行っていたらしいめぐみんが戻ってきて、無言で皆の前にコップを一つ一つ並べていった。

 

「むきむきに髪切ってもらってから、なんとなく調子いいんだよ。

 昔からこういう日はなんとなくいいことがある気がするんだよなあ」

 

「そうなの?」

 

「ああ、例えば……」

 

 カズマは思い出話をしようとするが、そこでギルド内にアナウンスが鳴り響いた。

 

『緊急クエスト! 緊急クエスト!

 街の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まってください!

 繰り返します! 冒険者の皆様は、至急冒険者ギルドに集まってください!』

 

「うおっ、なんだモンスターの出現か!?」

 

「え、キャベツ収穫じゃない?」

 

「キャベツ収穫の緊急クエストがあるわけないだろ!」

 

「いや、それが……」

 

『宝島です! 冒険者の皆さん、今年の宝島がやって来ました!』

 

「―――」

 

 ギルドの皆が、息を飲む音がした。

 

「これだわ!」

 

 アクアが席を立ち走り出す。他の者も次々席を立ち、ギルド裏で忙しく動き回っていたギルド職員達も、ギルドの内外問わず駆け回るようになっていた。

 状況についていけないカズマは、困惑するばかり。

 

「むきむき、宝島ってなんだ?」

 

「めぐみん、宝島ってなんだっけ?」

 

「信頼の順位が見える質問リレーありがとうございます」

 

 めぐみんは彼らと同じ新人冒険者だが、その知識量はむきむきやカズマよりはるかに多い。

 

「宝島は、玄武というモンスターの俗称です。

 玄武は、十年に一度甲羅干しに地上に現れると言われています。

 まあ細かい説明は省きますが……

 玄武は希少な鉱石を餌にするため、甲羅にも大量に希少鉱石がくっついているのです。

 希少鉱石の鉱脈に住む玄武の生態の副産物ですね。

 日没になったら地中に帰るので、そこがタイムリミットと思えばいいですよ」

 

「ゲームで言えば美味しい採掘場、ドロップが美味しいモンスター、みたいな話か」

 

 カズマはむきむきとめぐみんに先導され、アクアに少し遅れてギルドからツルハシとリュックを借りて身に付けていく。

 

「そんなに美味しい稼ぎになるのか?」

 

「カズマの運なら、数百万は余裕で稼げるんじゃないですか?」

 

 カズマは駆け出した。

 

「は、反応が早い! なんなんですかあの男!?」

 

「めぐみん肩乗って!」

 

 そしてめぐみんを肩に乗せたむきむきが、先に走り出したカズマを一瞬で追い抜く。

 

「ちょ、待っ、俺も乗せてくれ! 頼む、後で飯奢るから!」

 

 結局カズマも反対の肩に乗せ、数秒後にはアクアも同様に追い抜き、カズマと同じように「後でご飯奢ってあげるからー!」と叫ぶアクアも抱えて、むきむき達は宝島一番乗りを果たした。

 

 

 

 

 

 一番乗りをした皆でツルハシを振るう。

 遅れて来た冒険者達も次々とツルハシを振るい始めた。

 地球で言うところのプラチナ、タングステン、ニッケル、チタンに相当するものが次々と出て来る。かと思えば、ダイヤ、ルビー、エメラルドのようなものも出て来た。

 ここはまさしく宝島。

 小山の如き巨大な玄武の背の上は、金の卵が山積みなのだ。

 

 他の冒険者達は力一杯ツルハシを振り下ろしたりもしているが、むきむきは繊細な力加減で鉱石を叩いている。

 彼が全力でやると、鉱石を全て砕いて玄武の甲羅にまで突き刺さってしまうからだ。

 

(何も悪いことしてない、むしろ人の役に立ってるモンスターだもんね。

 怪我させないように、ある程度そっと、ゆっくりと、怪我をさせないように……)

 

 むきむきは体が大きいため、大きなリュックを背負って多くの鉱石を持って帰ることができる。

 持って帰れる量はめぐみんの数倍にもなるはずだ。

 むきむきは一番やらかしそうなアクアと、一番気にかけているめぐみんを常に視界に入れつつ、周囲の人達がぎょっとするスピードで鉱石を掘り当てていく。

 

「あ、ウィズさん」

 

「あ、むきむきさん!」

 

 すると、他の冒険者と同じように鉱石を採掘しているウィズを発見した。

 とびきり美人なウィズの頬に、一点だけ付いた泥の跡がよく目立つ。

 良い人なのに抜けている、ウィズの性格をそのまま表したかのような顔であった。

 

「今日は私も頑張りますよ!

 ここで稼がないと、今月の借金の利子も返せないんです!

 でないと……でないと……店全部が、抵当が、もう大変なことに……!」

 

「……た、大変ですね」

 

 ウィズは運がなく、商才もない。

 この世界における商人は幸運が高い人間の適正職である。

 売れない商品ばかりを仕入れてしまう上、仕入れた商品が世間でヒットするという幸運にも恵まれない彼女は、おそらくこの世界でも指折りに商人に向いていなかった。

 

 むきむきは夢中になって掘っているウィズのリュックに、自分のリュックから特に価値がありそうな鉱石を放り込んでいく。

 速く静かで正確な放り込み。ウィズは気付いてもいない。

 

(頑張ってください)

 

 むきむきはウィズから離れて再度掘削を始めるが、宝の山のようなこの場所に冒険者しか集まっていないのは、それ相応の訳がある。

 

「うわぁー! 鉱石モドキだぁー!」

 

 ある冒険者がツルハシを振り下ろすと、そこからモンスターが跳び出してきた。

 "鉱石を掘りに来た人間"、あるいは"鉱石を餌とするモンスター"を餌とする生物だ。

 じっと動かずエネルギーの消費を抑え、餌が来るのを待つという意味では、蟻地獄のそれに近い。

 

「これだから冒険者しか招集かけられてないんだよね、宝島」

 

 むきむきはツルハシとリュックを放り出し、一歩で移動、モンスターを一蹴。

 蹴られた鉱石モドキはハンマーで叩かれた発泡スチロールのごとく粉砕されていた。

 助けられた冒険者は、一瞬呆けていたがすぐさま礼を言って頭を下げてくる。

 

「さ、サンキューむきむき!」

 

「いえいえ」

 

 宝島に一刻も早く行って稼ぎたい、装備を家に取りに行く時間も惜しい、と武装を置いてきた者も居る。

 鉱石も重いため重い装備は家に置いてきた、という者も居る。

 宝島は十年に一度しか訪れないためにそこにある危険を知らない、あるいはそれを甘く見ている冒険者、というのも居る。

 そういった人物は、こうしてモンスターにやられてしまうのだ。

 

 ここは十年に一度、金に目が眩んだバカが死ぬ場所でもある。

 

「た、助けてくれぇ!」

 

 どうやら今回は、鉱石モドキもそれなりの数が居るらしい。

 むきむきも走っているが、複数箇所で同時に出現されると、遠い方はどうしても後回しになってしまう。

 なのだが、むきむきから見て遠い方の冒険者は、むきむきとは別の誰かに助けられていた。

 その誰かは、巧みな魔法でモンスターをあっという間に一掃していく。

 

「大丈夫、大丈夫、最悪私がしばらく何も食べなければいい話……

 リッチーはご飯食べなくても死なない、大丈夫、大丈夫……!」

 

「ウィズさん……!」

 

 命を捨てる覚悟並みに悲壮な覚悟で人助けに走るウィズ。むきむきは思わず泣きそうになった。

 金は余ってるんだから定期的にお店に行って買ってあげないと、と少年は決意する。

 

 そして、人間だった頃の心を捨てきれないリッチー、そんなリッチー同様に自分の稼ぎは後回しにしている少年を見て、情に流されてしまった者がまた一人現れる。

 玄武が背負う甲羅の上に、爆殺の快音が響き渡った。

 

「お前らは他人のために一文の得にもならんことしてなきゃ気が済まんのか!」

 

「カズマくん!」

「カズマさん!」

 

「さっさと片付けてさっさと掘りに戻るぞ!」

 

 不幸な人間は損をする。利己より利他を優先する人間は損をする。

 それを相殺するには、とびきり幸運な人間の助けでもなければ不可能だ。

 

「よーし、カズマさん!

 助けてもらったお礼です! リッチーのスキルを見せてあげますね!」

 

 ウィズがカズマにスキルを教えながら敵を倒したりする中、宝島の上に嬉しそうなアクアの声が響く。

 

「やたっー! 最高品質のフレアタイト!

 これ一つで一ヶ月はお酒飲むだけの毎日を送っても問題なくなるわ!」

 

 (困っている人々が目に入っていない)女神の神聖で麗しい声をBGMに、三人は人に害為すモンスターを駆逐していった。

 

 

 

 

 

 日が沈む。玄武が去って行く。

 だが、宝島の採掘は終わらない。

 

 カズマが咄嗟に「むきむき! ダルマ落としの原理だ!」とか叫び出し、むきむきが「なるほど!」と何やら妙な理解を示して、玄武の甲羅の上の鉱脈にフルパワーパンチ。

 皮膚に貼られた絆創膏が剥がされるように、パコーンと宝島の甲羅の上の鉱石だけが全て引き剥がされ、地面に落ちる。

 そうして地面に落ちたものが軒並み回収されて無くなるまで、宝島の採掘は続いた。

 

 その翌日のこと。

 

「しゃあっ! 大儲けじゃあっ!」

 

 冒険者ギルドは、採掘物の査定を終えて大金を手にし、大喜びしている冒険者達で溢れていた。

 

「おう少年! 宝島では助けてくれてありがとよ!」

「最後のあれも助かったぜ! 宝島の宝の山を全部落としてくれたしな!」

「おかげで装備も新調できたぜ! ガハハハハ!」

 

「ど、どーもです」

 

 今回の宝島は、参加した冒険者のほとんどが満足できる結果になった。

 モンスターの被害は少なく、鉱石を掘れた時間も長い。

 むきむき、ウィズ、カズマの行動のおかげである。

 大人勢に絡まれてむきむきは歩きにくそうにしているが、褒められてちょっと嬉しそうでもあった。

 

「めぐみん! どっちが多く稼げたか勝負よ!」

 

「別にいいですけど、何を賭けるんですか?」

 

「え? ええと……明日むきむきと買い物に行く権利とか」

 

「荷物持ち兼話し相手、と。むきむきー、すみません、商品になってくれますかー?」

 

「いいよー」

 

「だ、そうです。いざ勝負!」

 

「負けないわよ!」

 

 宝島が生んだ熱気と活気は、見ているだけで楽しくなるような、そんな雰囲気を生み出していた。

 

「なんでよ! 最高品質の鉱石が山ほどあったはずよ!

 なのになんで換金総額が十万エリスも行ってないのよ!? おかしいわ!」

 

「アクアさん、落ち着いて聞いてください」

 

「なによ!」

 

「これらは最高品質の鉱石っぽく見えるだけのクズ鉱石ばかりです。

 これはマナタイトではなくそのパチもんのクボタイト。

 これもフレアタイトではなくクボタイト一属の一種。

 控え目に言って、一つ残らずゴミです。価値がありません」

 

「なんでよっー!」

 

 喜んでいないのは、ド底辺の幸運に時々凄まじい節穴になるアクアくらいのものであった。

 節穴に曇りはないため、くもりなきまなこであることに変わりなし。

 アクアを見なかったことにすれば、リッチーのウィズまでもがかなり稼げていた様子。

 

「はわぁ……私にしては珍しく、こんなに稼げました……!

 昨日の宝島の時だけ、不思議と幸運が倍になったみたいです!」

 

 ちなみに鉱石の目利きができるウィズ、観察力があるむきむきはアクアのような勘違いはしない。二人が価値があると見たものは、ちゃんと価値のあるものだった。

 ウィズの『幸運が倍になった気がする』という言いようは、あながち間違ってもいない。

 実際に、二人分の幸運がリュックの中には詰まっていたのだから。

 

(よかった、ウィズさんもこれでご飯ちゃんと食べられるかな)

 

 ちなみにそういった事情もあって、むきむきの稼ぎはPT内でもドベである。

 元より幸運値が低い上、他人にいい鉱石をあげて稼げるわけもない。

 それとは対称的に、幸運が高いカズマはというと。

 

「カズマ、お前はどのくらい稼げたのだ?」

 

「ほれ」

 

 カズマが金と交換するための査定用紙を、ダクネスに見せる。

 ダクネスがいつも自然に浮かべている笑みが固まり、その一瞬で凍りついた。

 

「……0が七個はあるように見えるのだが」

 

「0が七個あるからな」

 

「え? は? なんなのだこれは!?」

 

 一千万や二千万では収まらない額の大金が、そこには記されていた。

 

「え? え?」

「ちょっと見せてください!」

「カズマさん凄い!」

 

「一個一千万でも格安ってレベルの最高品質のマナタイトとかいくつもあったんだと。

 それ以外にもそれと同じくらいのやつがゴロゴロ換金の査定に入ってたな」

 

「おかしい! いくらなんでもおかしいわ!

 カズマが豪運だからってそんな……あ。ああ! 私のブレッシング!」

 

「そういうことだ」

 

 カズマの幸運、プラスアクアの魔法。

 宝島が来る前にアクアが一芸のためにかけていた魔法が、効果が切れるまでの間、カズマに凄まじい恩恵を与えていたようだ。

 アクアの魔法は、効果も持続時間も当然規格外クラスである。

 

「ねえカズマ、その稼ぎは私の魔法のおかげでもあるでしょ? 私にも何割か……」

 

「知ってるぞアクア。お前今回の鉱石の稼ぎ当てにして、ツケで酒飲みまくってたろ」

 

「ギクッ。そ、そうよ、だからその酒代くらいは……」

 

「お前その前に、俺がこの前貸した金返せよ」

 

「……」

 

「おいこっち向けアホア」

 

 目を逸らしたアクアの目線の先には、むきむきの姿。

 アクアが請えば、むきむきは嫌な顔一つせず金を出すだろう。

 そう予測したカズマは、小金を袋に入れてアクアの前に投げる。

 アクアはフリスビーを投げられた柴犬のように、その小金に飛びついた。

 

「いやこれ本当に凄いよ、カズマくん」

 

「俺は前に居た場所で、新人の戦士を育てたりしててな。

 初心者しか教えられない程度の腕しかない、とかよく言われてたよ。

 けど、それでも俺は仲間達から重宝されてた。

 俺が居ると、敵を倒した時レア物の素材とかがよく手に入ったからだ。

 俺はカズマ、過程でぐだぐだになっても結果的に手に入ったものでチャラにする男」

 

「こ、幸運だけで……」

 

「人は俺を、『レア運だけのカズマさん』と呼ぶ……」

 

「いやそれ半ばバカにしてるんじゃないでしょうか」

 

「うっせ」

 

 ドロップ率一桁%という名の悪魔でさえ、カズマの前ではひれ伏すだろう。

 カズマはリスクが低めな割に一気に稼げる宝島の存在を知り、この世界にはまだまだ他にもリスクが低くメリットが大きいものがあることに気付いてしまった。

 言い方を変えれば、彼はかなり調子に乗っていた。

 

「むきむき、ほら持ってけ。お前には家を買って貰った恩があるからな」

 

「!?」

 

 カズマは百万エリスほどを手元に残し、残りをむきむきに渡した。

 魔法で建築が行えるこの世界の建物の物価は安い。むきむきが購入した屋敷も地球ほどに高くはない。

 が、屋敷は屋敷だ。他の建物より安いというわけでもない。

 カズマがむきむきに渡した金は、かの屋敷の購入金額の半額に相当していた。

 

「こ、こんなに受け取れないよカズマくん!

 元々使い途のないお金だったから使っただけだったのに!」

 

「いいんだ、むきむき。金なんてまた稼げばいいんだからな」

 

「金に余裕が出て来ると調子に出るのがまさに小市民だな……」

「多分またすぐに同じようなことしてお金稼げると思ってるんですよ」

「絶対そうですね」

 

 うろたえるむきむき、微笑むカズマ、白い目で見ているダクネスめぐみんゆんゆん。

 普段のカズマならこの金を握り締めて「もう一生働かねえ」と言い出し屋敷に引きこもっていただろう。

 そうしなかったのは、また稼げるだろうと調子に乗っているのもあるが、この前ホモインキュバスに狙われる地獄から助け出された恩も理由だった。

 カズマ個人がむきむきという個人へ向けている友情恩義その他諸々、も理由としては存在しているかもしれない。

 

「はっ、そ、そうか!

 カズマらしくないこの行動!

 その真意はあの屋敷でむきむきと並ぶ権利者、大家となること!

 カズマはその権力を悪用しこう言うのだ!

 『この家に住みたかったら……分かってるよな?』

 『金が無いなら、そのいやらしい体で支払うしかないよなぁ?』

 なんと卑劣な……だが、私がそんな卑劣な要求に屈すると思うなよ!」

 

「お前は本当にダメだな」

 

 カズマに向いていた白い目が、ダクネスの方に向く。

 この女騎士のダメさは、むきむきも最近はちょっと察してきた感があった。

 ちなみにカズマに至っては、ダクネスに言われてから"その手があったか!"と思っていたりした。エロマさんも口には出さないだけで平常運転である。

 

「カズマさんはなんというか……

 結果オーライを人間にしたかのようなダメ人間ですね」

 

「おおっと、ゆんゆんにそう言われるとなんだかダメージ大きい気がするぞ」

 

 レア運のカズマさんは結果良しのカズマさん。

 結果良ければ全て良しのカズマさんだ。

 局所的に見てもカズマらしさというものは見えず、全体を見渡さなければカズマらしさというものは見えない。

 

「最近の俺はツいてるからな! しばらくは面倒事も来ないと思うぞ!」

 

 良くも、悪くもだ。

 

『緊急クエスト! 緊急クエスト!

 街の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まってください!

 繰り返します! 街の冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まってください!

 普段顔を出さない方も、皆さん考えられる最大の武装で、必ず参加でお願いします!

 特別指定モンスター、高額賞金首、機動要塞デストロイヤー接近中!

 冒険者の皆様は、直ちにギルドに集まってください! 繰り返します! 機動要塞―――』

 

 宝島の件で熱気に呑まれていたギルド内が、一斉に冷たく静まり返った。

 

「アクアとカズマがセットで調子に乗るとすぐこうだ! お前達は本当にもう!」

 

「嘘だろおい!? いや機動要塞って何だ!?」

「待って、私何も悪いことしてないでしょー!?」

 

 ダクネスが怒鳴ると、カズマとアクアがあわあわと慌て出す。

 更に、面倒事は立て続けにやってきた。

 

『続報! 人型要塞ジェノサイダーも出現!

 両者共にアクセルの街に一直線に向かってきます! 繰り返します、デストロ―――』

 

 調子に乗った者は痛い目を見る。誰も知らない、この世界の鉄則だ。

 

「私知ってる! これ知ってる!

 私達が調子に乗ると来るアレよ!

 私達がちょっと運良かったりすると揺り戻しで来るアレよ!」

 

「畜生! 宝島で超ラッキーとか思ってたらすぐこれか!

 ざっけんなこら! 素直にいいことだけ起こしてくれよマジで!」

 

「二人共落ち着いて!」

 

 北西から機動要塞デストロイヤー。

 南東から人型要塞ジェノサイダー。

 人類が長年「あれを相手にするのは無理だな」と放置していた、この世界を震撼させる二大ロボの襲来であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時代は、紅魔族というものがこの世界に生み出された大昔にまで遡る。

 ある日のことだ。

 魔道大国ノイズの偉い人は、何をトチ狂ったのかある天才科学者の申請を受けてしまった。

 

『人型の巨大ロボを作ろう』

 

 この科学者が神様から特典を貰った転生者だったがために、事態は斜め上の方向へかっとびながら進んでしまう。

 本来ならば許可が出されるはずのなかった人型巨大ロボ製造計画が進行し、ノリノリの転生者が手をかけまくる。

 かくして、大昔の大国に巨大人型ロボが誕生してしまった。

 

 転生者は「ガンダムパクって作ったロボットだからヒュッケバインって名前にしよう」などとほざいていたが、それは脇に置いておこう。

 

 人型ロボを作ってやり遂げた感を出してしまった転生者だが、そこに新たに「あれと同じくらい強いやつもう一個作れ」という国の無茶振りが飛んで来る。

 金も人も潤沢に支給されていたが、満足感と達成感に浸っていた転生者にやる気はない。

 それどころか「この気持ちに水差してきやがって」とイラッとさえしていた。

 

 やる気なく適当にプロジェクトを進めていた転生者だが、当然のように二機目のロボは大暴走。

 ノイズ国の人間、及びノイズ国がそこにあったという痕跡を残らず破壊しながら、二機目のロボは大暴走を継続する。

 

 一機目のロボは今、人型要塞ジェノサイダーと呼ばれている。

 二機目のロボは今、機動要塞デストロイヤーと呼ばれている。

 両機共に、人類からは魔王軍に比肩する脅威と見なされていた。

 

 ジェノサイダーは定期的にパイロットを見つけては搭乗させ、搭乗者の意志に沿った大被害を発生させる。

 デストロイヤーは高速で大陸中を走り回って、進行ルートに存在するものを無差別に蹂躙・破壊する。

 足の生えた鉄の大災害がその辺を歩き回っているようなものだ。

 

 とんでもない話である。

 人類史において、ジェノサイダーとデストロイヤーが同時に同じ場所を攻めたことなど―――一度もなかったというのに。

 

「カズマ、夜逃げの準備よ!」

 

「お前は開口一番何言ってんだこの駄プーリスト!」

 

 もう二度とフラグを立てたりしない、とカズマは固く決意を固めていた。

 

「……もう一生調子に乗らないよう、俺は自分を戒めておこう。

 ん? いやそうだ、めぐみんの爆裂魔法とかでぶっ壊せるんじゃないか?」

 

「無理ですね」

 

 人類最高火力を持つめぐみんは、きっぱりと言い切った。

 

「デストロイヤーはひどく頑丈です。

 並の投石機や弩弓程度の物理攻撃ではビクともしません。

 しかもとてつもない巨体で馬のように速く走ります。

 近寄ろうとすれば上級のモンスターでもすぐ踏み潰されますよ。

 落とし穴に落としても足も壊れません。

 それどころか穴の下から跳び出してきます。

 強力な魔力結界があるため爆裂魔法でさえ届かないでしょう。

 運良く機体に取り付けても、機上にはゴーレムなどがわんさか乗せられています。

 一人や二人辿り着けたところで、リンチされてお終いですよ。

 私の爆裂魔法は消され、むきむきは踏まれ、アクセルはあっという間に廃墟になります」

 

「なにそれこわい」

 

「ちなみにジェノサイダーはデストロイヤーほどの防御力は無いそうです。

 その代わりに、デストロイヤーをはるかに上回る攻撃力を持っているとか」

 

「よし、逃げるぞ!」

 

 脱兎のごとく逃げようとするカズマの肩を、むきむきがむんずと掴む。

 

「待ってカズマくん! アクセルの街に住んでる人達を見捨てるのはかわいそうだよ!」

 

「そんな無茶な戦いに駆り出される俺の方がかわいそうだろ!」

 

「カズマくんならなんとかできるさ!」

 

「俺をなんだと思ってるんだお前は!」

 

 俺を過大評価するなと叫ぶ方が正しいのか、もっと自分を信じなよと叫ぶ方が正しいのか、はてさて。

 

「カズマ」

 

「ダスト? なんだお前、お前まで真面目に戦えとか言うんじゃないよな」

「ダスト先輩……」

 

 チンピラ冒険者・ダストが、真剣な面持ちでカズマに語りかける。

 自然と、ギルド内に集まった無数の冒険者達が、ダストとカズマ達を見つめていた。

 街を愛する気持ちなど欠片も持っていなさそうな、カズマよりクズいと言われることもあるこの男が、真剣な面持ちで一体何を語るというのか。

 

「何も手がないなら俺もお前も逃げればいい。だがよカズマ、分かってるのか?」

 

「何がだよ」

 

「お前は知ってるはずだ。分かってるはずだ。

 この街にはかけがえのないものがある。

 俺達が大切に思うものがある。

 俺達の想い出が刻まれたものがある。

 他のやつが無価値に思ったとしても、俺達にとっては大切なものが」

 

 普段のダストからは想像もできないような格好良いことを言って、むきむきが感動に身を震わせ、カズマがハッとその意図に気付く。

 

(……そうだ、この街には)

 

 カズマの目に闘志が宿り、それを見て取ったむきむきが熱く声を荒げた。

 

「そうだよカズマくん、この街にしかないものがあるはずだよ!」

 

(そうだ、この街にしか無いもの―――サキュバス風俗(サービス)

 

 カズマが立ち上がり、ダストの熱い言葉に感化された男達が、次々と立ち上がる。

 

「だな」

「俺達には、この街を守る理由がある」

「ここで逃げたら男じゃねえよな」

 

 男達のよく分からん熱気に当てられてか、女性陣も流れに流され格好良く立ち上がっていく。

 立ち上がる皆を、むきむきは心底尊敬する目で見ていた。

 

(そうだ、俺の好きなマンガの主人公が言ってたはずだ。

 逃げ出した先に―――理想の風俗(らくえん)なんてありゃしないんだと)

 

 熱く立ち上がる皆を従えるのは、魔王軍の準幹部クラスを何度も撃退、あるいは仕留めてきた実績を持つ、指揮官冒険者・佐藤和真。

 

「名案を思いついたぞむきむき。

 あの鉄クズどもに、アクセルに喧嘩を売ったこと、後悔させてやる!」

 

「カズマくん!」

 

 むきむきの目に映るカズマの姿は、外面だけは最高にヒーローしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デストロイヤーは街の北西、ジェノサイダーは南東から攻めて来ている。

 カズマとゆんゆんは街の北西に、むきむきとめぐみんとダクネスとアクアは南東に向かう。

 敵は世界観ガン無視の巨大兵器。

 その上誰も知らないことだが、アクアが送り出したチート持ち転生者の能力が造り上げた、世界の条理を無視する反則兵器群だ。

 

 されども、アクセルを防衛する者達に不安はない。

 くだらない理由で戦うカズマと、まっとうな理由で戦うむきむきが、どれほど頼りになるのかを……アクセルの冒険者達は、よく知っていたからだ。

 

「よし来い、どんと来い! この私が鎧で受け止めてやる!」

 

「ダクネスさん、受け止めたら踏み潰されますよ?」

 

 ダクネスは平常運転だったが、むきむき達と同じように街の南東に防衛に来ていた冒険者達はやる気十分。

 いつでも戦える、といった気概でいた。

 人型要塞ジェノサイダーが、外部スピーカーを使って喋り出すまでは。

 

『その街の頭のおかしい紅魔族、出てきな!

 めぐみんとか言ったはずだ!

 あたし達の陣営の切り札の一つを持って来てやった!

 お前に復讐し、お前に奪われたものを取り戻すためにねぇ!』

 

 周囲の冒険者が一斉にめぐみんを見た。

 めぐみんはその隣のむきむきを見た。

 むきむきは首を傾げてめぐみんを見返した。

 

「指名されてるわよ、めぐみん」

 

「……」

 

「ねえめぐみん、何やらかしたの……?」

 

 問うアクアの声は微妙に震えている。

 ギルドでカズマやダクネスに向けられていた白い目が、今度はめぐみんに向けられていた。

 

「めぐみん、あの声の人と何かあったの?」

 

「……知らない人ですね。魔王軍の卑劣な策略ではないですか?」

 

『聞こえてるんだよそこの頭のおかしい紅魔族!』

 

 むきむき以外の全員が白い目でめぐみんを見ていた。

 めぐみんは観念して、先月あったことを語り出す。

 

「実は先月、街の外に行った時に上級悪魔と会いまして」

 

「上級悪魔!?」

 

「ほらあれですよ。一日一爆裂にむきむきに付き合って貰って、街の西に行った時……」

 

「……ああ、あの時!」

 

 むきむきと別れていた少しの時間の間に、めぐみんは上級悪魔と会っていた。

 

「私のペットのちょむすけを邪神とか言ってきたんですよ。

 ああ、この悪魔は頭がかわいそうなんだな……

 と、私は思いましたが、そこで上級悪魔と一対一で戦うことになれば私も苦戦は必至」

 

『おい』

 

「私は悪魔に言いました。

 『ちょむすけに別れを言う時間が欲しい』と。

 『明日になればあなたに引き渡す』と。

 悪魔は少し申し訳無さそうな顔をして、飛んで去って行きました」

 

 そして、それから。

 

「後顧の憂いを断つために、私はその悪魔が十分離れてから爆裂魔法を撃ちました」

 

「おい」

「おい」

「おい」

 

「ですが、あの悪魔には仲間が居たのです。

 射程距離ギリギリだったのもいけませんでしたね。

 魔法の発動準備の時、仲間の悪魔があの悪魔に警告し、回避行動を取らせてしまいました。

 私の爆裂魔法は最強なので、回避しようと防御しようと倒せていたつもりなのですが……」

 

「生きていた、と。……あれ?

 でも一ヶ月前ってことは、悪魔でも全治一ヶ月になるダメージは与えたんだよね」

 

「直撃しなかったとしても、爆裂魔法は爆裂魔法ですよ?」

 

 得意げなめぐみんを、むきむき以外の皆が白い目で見ている。

 

「あの悪魔は、ええと……おねショタとかそんな感じの名前を名乗っていましたね」

 

「おねショタ……」

「悪魔で名前がおねショタとか……」

「業が深いな……」

 

『アーネスよアーネス! 何勝手に変な名前を付けてるんだい!?』

 

「大差ないじゃないですか」

 

『大差しかないわぁ!』

 

 上級悪魔・アーネス。

 めぐみんの帽子の中に居るペットの黒猫、ちょむすけを狙う悪魔。

 仲間に助けられ、めぐみんの爆裂から生き延び、本日巨大ロボで復讐しに帰って来た悪魔であった。

 

『ええいもういい!

 あたしを助けて今も寝込んでいる仲間のため!

 そして偉大なるウォルバク様の完全復活のため!

 卑怯で物騒なお前をまず潰し、目的を果たさせて貰うとするさ!』

 

 ジェノサイダーが動き出す。

 

「そうはいかない。めぐみんは僕が守る」

 

 同時に、むきむきも動き出した。

 むきむきが走り、跳び、弾丸のごとき速度で拳を振るう。

 ジェノサイダーも60m超えの巨体から鉄の拳を繰り出した。

 肉の拳と鉄の拳が衝突し、少年の方は吹っ飛ばされ、人型要塞は衝撃でよろめく。

 

『むっ、なんというパワー……何奴!』

 

「我が名はむきむき! 紅魔族随一の筋肉を持つ者!」

 

『むきむき……幹部の方々と戦って生き残ったという、あの!』

 

 巨大ロボとむきむきの戦いが開始される。

 人型要塞の名は伊達ではなく、ジェノサイダーは全身火器とでも言うべき出で立ちだ。

 その全身から弾丸、ビーム、レーザー、魔法、ありとあらゆる火砲が跳び出してきて、空と大地を走るむきむきがその合間を抜けていく。

 

 敵の凄まじい火力、そしてそれをかわしているむきむきの動きに、冒険者達が「おお」と思わず声を上げていた。

 その間、アクアとめぐみんは作戦通りにデカい一発の準備をする。

 

「さーて行くわよめぐみん。『マジック・ゲイン』!」

 

「! これは、凄いですね……! 魔力が一気に跳ね上がった気がします!」

 

「普段はカズマにばっかりかけてるから、めぐみんにかけるのは初めてね!」

 

 人類最強の火力砲台に、無限魔力のブースターがセットされている。

 このコンビのヤバさは、おそらく組ませたカズマでさえ正確には把握できていまい。

 

「むきむき、もういいぞ! 『デコイ』!」

 

 アクアがめぐみんの爆裂魔法を強化できる支援魔法を全てかけ、めぐみんがかつてないレベルでの爆裂魔法を準備したのを確認し、ダクネスが皆から離れてデコイを発動。

 機械のロックオンシステムがデコイスキルに引き寄せられ、攻撃の多くがダクネスへと向かう。

 その隙にむきむきはジェノサイダーから距離を取った。

 

「そうだ、もっと来い! もっと激しく攻めて来い!」

 

 ダクネスの額に銃弾がぶつかってカァンと弾かれたりしていたが、アクアに防御力を強化されたダクネスには、その激痛さえも快感の一種でしかなかった。

 

『くっ、こんな小細工で!』

 

 アーネスはダクネス以外の人間を狙おうとするが、もう遅い。

 

「黒より黒く闇より暗き漆黒に、我が深紅の混淆(こんこう)を望みたもう!

 覚醒の時来たれり、無謬(むびゅう)の境界に落ちし理! 無形(むぎょう)の歪みとなりて現出せよ!」

 

 めぐみんの詠唱は、既に完了している。

 

「『エクスプロージョン』ッ―――!!」

 

 まず、測定機器がエラーを起こした。

 あまりの魔力に、ジェノサイダーの計器のメーターが全て振り切れる。

 次に、モニターが異常を起こした。

 過度の光が、モニター越しに外の光景を目にすることを許さない。

 続いて、衝撃が来た。

 装甲を抉り取られ、微塵に粉砕され、巨体が揺さぶられる衝撃。

 最後に、熱が来た。

 機体の胸部が融解し、アーネスが搭乗していたコクピット前面部に大穴が空き、魔力で身を守ったアーネスの姿が外部に露出する。

 

『こ、この前よりも、数段上の威力っ……!?』

 

 そして間髪入れず、アクアが破魔の魔法を撃った。

 

「『セイクリッド・ハイネス・エクソシズム』ッッッ!!!」

 

 太さ10mクラスの悪魔だけを殺す破魔ビームである。

 アーネスは死ぬ気でそれを回避するが、光が左羽の先っちょにかすり、左羽が根本から消滅する。

 魔力で再生しようとするが、何故か再生しない。傷が治らない。

 地面に転がされたアーネスの顔が、さあっと青くなった。

 

「見つけたわよクソ悪魔!

 この私の神聖なる魔法でこの世から塵も残さず滅してあげる!」

 

「な、何!? なんなのこいつ!? というか今の魔法は何!?」

 

 アーネスが一目散に逃げ、アクアが殺意満々にその後を追う。

 

「ダクネスさん、めぐみんお願いします! 後アクアさんも!」

 

「ああ、分かった! むきむきも連戦は厳しいだろうが、頑張れ!」

 

「はい!」

 

 むきむきはダクネスに後を任せて、カズマから預かっていた小型カズマイトを空に投げ上げ、合図を送る。

 合図を送った数秒後、むきむきはカズマと共に居たゆんゆんの下へと召喚されていた。

 

「頼むぞ、むきむき!」

 

「はい!」

 

 むきむきはゆんゆんに召喚対象として指定されている。

 めぐみんが昼間楽しげにゆんゆんをホラー話で怖がらせれば、夜眠れなくなったゆんゆんがむきむきを召喚、「眠くなるまで話し相手になって」と涙目で言うこともザラだ。

 そのため、ゆんゆんとむきむきの配置次第で、むきむきというユニットは戦場のどこにも飛ばせる存在となる。

 

(見えてきた!)

 

 むきむきはデストロイヤーに接近し、握り込んだ手の中に炎を生み出し、投げつけた。

 デストロイヤーの威容は言うなれば鉄の蜘蛛。

 八本足の生えた要塞に、筋肉魔法は通じるのだろうか?

 

「我焦がれ、誘うは焦熱への儀式、其に捧げるは炎帝の抱擁―――『ファイアーボール』!」

 

 通じなかった。

 当然のように、デストロイヤーの表面には焦げ目一つ付いていない。

 

「とうっりゃっ!」

 

 これではダメだ、とばかりにむきむきはデストロイヤーに飛び蹴りを仕掛けるが、そこにデストロイヤーの蹴りが合わせられてしまう。

 むきむきはデストロイヤーの胴を蹴ろうと跳び、そこで側面からデストロイヤーの足に蹴り上げられてしまったのだ。

 

「ぐあっ!」

 

 岩の城壁を軽く蹴り砕くデストロイヤーの蹴りが、むきむきを蹴鞠のごとく空高くへと蹴り上げる。

 

「むきむき君!」

「クソ、むきむきでもダメなのか!」

「どうすんだサトウカズマ!」

 

「まだだ、まだここまでなら想定の範囲内だ! ゆんゆん、プランB!」

 

「はい、『サモン』!」

 

 冒険者達はうろたえるが、カズマはうろたえない。

 今のカズマはサキュバス風俗を守るために戦っている。

 守るべきものがある者は強い。

 守るべき人達を思い浮かべられる者は強い。

 それは、今日までの戦いでむきむきが証明してきたことだ。

 風俗店を守るため、風俗嬢を守るため、今のカズマは決して折れない。

 

 なのだが、ゆんゆんもむきむきが蹴っ飛ばされたことで動揺してしまったようだ。

 召喚魔法の精度がちょっとだけ甘くなり、むきむきは不安定な姿勢で、ゆんゆんの至近距離に召喚されてしまう。

 

「うわっ、ととと」

 

「あっ、きゃっ!?」

 

「「あ」」

 

 そしてむきむきは転びそうになり、ゆんゆんがそれを支えようとして一緒に転び、ゆんゆんがむきむきを押し倒すように転倒。

 むきむきの手が下からゆんゆんの胸を押し潰すような姿勢になってしまう。

 ゆんゆんは一瞬呆けて、状況を理解して顔を真っ赤にして涙目になり、むきむきに背を向けてその場から逃げ出した。

 

「むきむきがカズマさんの影響でえっちな人になっちゃったあああああ!!」

 

「待って! その評価はちょっと待って!」

 

「何やってんだむきむき! 戦闘中だぞ! でも柔らかったかどうかだけは教えてくれ!」

 

「カズマくん!?」

 

 ゆんゆんが顔を真っ赤にして、目元を抑え戦場を離脱する。

 誰も離脱せずに終わる戦いであるだなんて、誰も思ってはいなかっただろう。

 だがこうして脱落者が出てしまうと、戦力が減っていく感覚にカズマは憤慨せざるを得ない。

 されど、カズマは止まらない。

 何人脱落しようとも、この街を守ってみせると決めたのだ。

 

「ああ、ゆんゆんに嫌われちゃう……」

 

「むきむき、気持ちを切り替えろ!」

 

「うう、うう……幽霊さん、幽霊さん、気持ちを切り替える勇気をください!」

 

 むきむきは右拳を見て勇気をもらい、拳を額に叩きつけて気持ちを切り替える。

 

「準備出来てるよな、クリエイターの諸君!」

 

「「「 おうとも! 」」」

 

「行けるなむきむき!」

 

「うん、頼りにしてるよ、カズマくん!」

 

「俺が見て」「僕が破壊する!」

 

 クリエイターという職業は、物作りに特化している。

 DTピンクがこの職業だ。この職業の者達は、魔力次第で塹壕からゴーレムまで様々なものを制作できる。

 彼らが今回作ったのは、カズマが指定したサイズ・重量の鉄球であり、その形は『野球ボール』のそれに似ていた。

 

(小学校の同級生の紫桜君からあの漫画を借りたのを思い出すな。一回やってみたかったんだ)

 

 むきむきの大きな手が、ソフトボールより大きなサイズのそれを掴む。

 その横で、カズマが右手を銃のような形にして、遥か彼方のデストロイヤーに向けていた。

 

「―――()()()

 

 カズマの目が、千里眼スキルによって遥か彼方のデストロイヤーを凝視する。

 

「行け、むきむき!」

「ふんっ!」

 

 むきむきは全筋力をかけて鉄球を敵へと全力投球。

 カズマの指定で最適な重さとサイズとなっていた鉄球は、むきむきの筋力を余すことなく受け止め、黒い流星となって八本の足の近くを通り過ぎていった。

 

「角度修正。そうだな、気持ち今の2m右に当てる感じで」

 

「了解!」

 

 カズマが千里眼で見る。見て、投げるのを隣の相棒に任せる。

 むきむきが投げる。敵の姿も見えてはいないが、相棒の目を信じて投げる。

 

「再度修正」

 

「了解!」

 

 互いが互いの能力を信じていなければできないコンビネーション。

 むきむきが言った場所に寸分違わず投げてくれると、カズマが信じられなければできない連携。

 カズマが自分に分かるように言ってくれると、デストロイヤーの移動速度も計算に入れて投げる位置を指定してくれると、むきむきが信じられなければできない連携。

 

 一投ごとに投擲は正確になり、とうとう鉄球はデストロイヤーの足の一本に命中。

 その凄まじい威力で、デストロイヤーの足関節を破壊していた。

 

「よし、足一本折れた!」

 

「このやり方にもだいたい慣れてきたか?

 それじゃあペース上げていくぞ、むきむき!」

 

 魔法が効かない?

 近寄って物理攻撃ができない?

 上から攻められない?

 動きが速い?

 並の投石機程度の威力では壊せない?

 

 なら、魔法を使わず特大威力の遠距離物理を食らわせればいい。

 それをパッと思いつける人間と、その発想を現実にできる人間が、アクセルには存在していた。

 

「二本目やったぞ!」

 

「どんどん行こう、カズマくん!」

 

 デストロイヤーの八本足が、アクセルから遠く離れた地点で、一本、また一本と破壊されている。

 カズマに千里眼スキルを教えたキースが、壊れていくデストロイヤーを千里眼で見ながら思う。

 自分じゃカズマの代わりはできなかっただろう、と。

 本職には及ばないスキルでも使い方次第なんだな、と。

 千里眼ってこういう悪用するものだったっけ、と。

 

「……魔王軍が堂々と攻めて来たら、このやり方で頭吹っ飛ばされそうだな」

 

 クリエイターに鉄球(だんがん)を用意してもらえる状況で、かつ屋外の戦いであるのなら、大抵の敵はこれで一方的に蹂躙できるかもしれない。

 何せ、視界外からの魔力反応無しアウトレンジ攻撃だ。

 使える状況が限られるものの、これほど酷い対軍攻撃はそうあるまい。

 ましてやこれは、デストロイヤーの関節を狙えるレベルの精密攻撃なのだから。

 

 基礎スペックが馬鹿みたいに高いむきむきが、カズマの発想力と容赦の無さと噛み合うと、無敵の要塞でさえ敵ではなくなってしまう。

 デストロイヤーもデストロイ。

 カズマという鬼が、むきむきという金棒を振るっているかのようだ。

 

「ねえ、思ったんだけど」

 

「ああ」

 

 もはや、このコンビにまともに対抗できるのは、魔王軍の幹部クラスくらいのものだろう。

 

「この二人をセットで敵に回したら、絶対に死ぬな……」

 

 傍で見ていた冒険者達は、そのヤバさを身に沁みて実感していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、アーネスは。

 

「皆……!」

 

 なんと、アクアから逃げおおせることに成功していた。

 なのだがそれは、彼女の力によるものではない。

 上級悪魔であるアーネスを慕う中級悪魔、下級悪魔が、身を挺してアーネスを逃がしたのだ。

 

 逃げてくださいアーネス様、と誰かが言った。

 ここは僕らに任せて下さい、と誰かが言った。

 何、また後で会いましょう、と誰かが言った。

 残機が減るだけですからね、と誰かが言った。

 「悪魔風情が生意気なのよ消えなさい!」とアクアが全員まとめて消し飛ばしていた。

 

 無論、悪魔は人間を食い物にする生き物だ。

 人間を苦しめたことも、人間を殺めたこともある。

 だが、だからといってここまで無情に消し飛ばされる道理があるのだろうか、とアーネスは唇を噛みしめる。

 悪魔にだって友情はある。

 悪魔にだって仇討ちする権利はあるはずだと、アーネスは拳を強く握っていた。

 

「運良く逃げられた皆、無事で居なよ……あたしは、戦うからさ」

 

 運良くアクアの魔法の範囲外に居て、その後も運良く逃げ出せていた部下の悪魔達が逃げ切れるようにと、アーネスは切に願う。

 彼女に逃げる気はない。

 彼女が敬意を払う主・邪神ウォルバクを救うためには、めぐみんのペットのちょむすけを回収することが必須事項なのだ。

 でなければ、かの邪神は消えてしまう。

 上司のため、部下のため、アーネスは体を引きずるようにして歩く。

 

 コクピットの前部分が壊れたジェノサイダーに再度乗り、システムを再起動するアーネス。

 幸いなことに、コクピットがモロ出しなこと以外は、大した損傷も見当たらなかった。

 だが、これでは先程のように神聖魔法をモロに食らってしまいかねない。

 どうすればいいのか。

 

「?」

 

 アーネスが相打ちで終わらせる覚悟を決めていると、その時操作モニターに謎の文字列が浮かび上がってきた。

 

「『これを見ている者に告げる』

 『このメッセージが見られている頃、私は既に死んでいるだろう』

 『このメッセージが出た時、この機体は余程の窮地に追い込まれているだろう』

 『その時のため、人類の希望のため、このシステムを残す』……?」

 

 言いたいことだけ言っている感、これがやりたかっただけ感がプンプンとする文字列。

 常に使えるようにしておけばいいのに、ピンチにしか使えない仕様にするという、ほとばしる自己満足臭のロマンシステム。

 アーネスの瞳に映るのは、これまで誰も見つけることができないでいた、人型要塞ジェノサイダーの切り札となるシステムだった。

 

「……行ける! このシステムなら!」

 

 アーネスがモニターを操作すると、アーネスの手元にガラスカバー付きのスイッチが、口元に集音マイクが現れる。

 悪魔は拳を振り上げ、モニターに表示されたキーワードを見ながら、拳を振り下ろす。

 

「『ウルトラ・ノイズ・フュージョン』!」

 

 キーワードが叫ばれ、振り下ろされた拳がガラスカバーを叩き割るようにして、その奥の合体始動スイッチを押した。

 

 

 

 

 

 ジェノサイダーが飛翔する。

 全ての足がもぎ取られてしまったデストロイヤーもシステムを再起動。

 デストロイヤーは各パーツを分離させ、ガチョンガチョンとパーツを変形、ジェノサイダーをベースにして変形合体。

 ジェノサイダーの胸の穴も塞がって、先程よりもはるかに大きな超弩級巨大人型機動兵器が完成し、人型要塞大地に立つ。

 

「な、なんだ!?」

 

『これが魔道技術大国ノイズの技術の集大成!

 二つの機械兵器が合体して誕生する究極兵器!

 その名も、"マジンガーンダム"! とか言うらしいねえ!』

 

「……!?!?!? オラァ! これ作ったやつ出て来い!

 日本の版権担当者の前に突き出して、訴訟祭り地獄に叩き込んでやる!」

 

 マジンガーンダムというネーミングが、地球出身のカズマの逆鱗に触れた。

 カズマ以外の皆はどこが怒りどころなのかさっぱりだ。

 が、地球出身者であれば怒る人は怒るネーミングである。

 

『やれる……これならやれる! 人間どもをまとめてミンチにできる!』

 

 アーネスの視線と、現れた合体メカ・マジンガーンダムのカメラアイがアクアを睨む。

 

『仲間の仇を取らせてもらおう!

 このクソプリースト! まずお前を踏み潰されたトマトみたいにしてやる!』

 

「ええい悪魔ごときが生意気よ!

 むきむき! その筋肉で粉砕してあげなさい!

 私が授けた名誉アクシズ教徒のアクアゴッドパワーを見せてやるのよ!」

 

「ええ!? いやそもそもそんなパワー貰った覚えないんですけど!」

 

「そういえば私もあげた覚えないわね」

 

「脳味噌アクシズってるんですか!?」

 

 アーネスは無言のままロボの足を上げさせ、小山のごときサイズの巨体の全体重をかけ、アクアを踏み潰すべく足を振り下ろした。

 

 

 




やわらかかったらしいです

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