破天荒警察官と復讐少女(休載中)   作:獄華

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書いてたら10000超えてた。
ともあれようやく一人目にありつけました……。


第12話 一人目 瀬尾優人

翌日になり十千万に泊まった子供達は怠さを我慢しながら学校へ登校した。

両津達も勤める派出所へ通勤途中だ。

 

「相原君達が上手くいくか不安ですね……」

 

「分からん。だがわしはあいつらを信じてみたいと思う。ああいう徹や英治みたいな子供は今となってはあまり見掛けんからな。あの柔軟さでわしらが勤務してる間は彩菜と頑張ってほしいもんだが」

 

「確かに彼等は珍しいタイプだな。将来の大物かもしれん」

 

「言えてるな!。あいつらにはまだまだ成長してほしい限りだ!わしらはここにいる間人生の先輩として色々教えてくか!」

 

「先輩みたいな人間が量産されないと良いんですがね……」

 

何だと!残念、貴様!と怒鳴ってる内に派出所が見えた。

 

 

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外白咲中学校の保健室では必死に懇願してる生徒達がいた。

 

「う~ん。だけどね。転校手続きも踏まぬまま学校を変えてはいけないのよ」

 

「え~。お願い西脇先生!。このままじゃ彩菜が可哀相よ!」

 

「お願いします、西脇先生」

 

次の日になり十千万から出た相原達は外白咲中の校内に入り外白咲の生徒達の母親的存在である保険医の西脇由布子に相原、英治、中尾、純子、久美子の5人が彩菜をどうかこの学校に通わせたいことを相談していた。

……話は中々難航しているが。

 

「だって藤沢さんのこと無理矢理犯したり、タバコの火を背中に押し付けたりする人達なんですよ!。そんなことされされ藤沢さんが無理に白咲中に登校する必要無いと思います!」

 

純子が声を大にして言った。

 

「確かに私も藤沢さんがそんな学校に行く必要は無いと思うけど、藤沢さんは自分の学校の先生には相談してみたの?」

 

「したら……イジメられてるクラスメイトに秘密をばらすぞって言われて。それに白咲中だったら相談しようとしてあいつらの目についてどんな報復されるか分からないから……」

 

手を震わせながら彩菜は喋った。

 

「成る程……。貴女が白咲中では孤立無援の中戦ってたってことは分かったわ。頑張ってたのね藤沢さん」

 

無意識のうちに頷く……。

西脇の一言に涙が出た。

昨日と今日と泣いてばかりだ。

 

「待ってて、校長先生に直接話してくるわ。もしかしたら少しの間は貴女のことをこっちで匿えるかもしれないから」

 

「マジすか!?」

 

英治は歓喜の声をあげた。

 

 

西脇が居なくなった後の保健室で彼らは今後について話し合う。

「ふぅ、取り合えず西脇先生の腕を信じるとして俺らは彩菜を酷い目に遭わせた奴等に復讐する作戦を今から練ってきたいと思う」

 

皆、相原に視線を向ける。

 

「ではまず、久美子から聞いてるが一応確認をとるぜ。彩菜一番最初に君が復讐したい相手を言ってくれ」

 

「瀬尾優斗」

「その瀬尾って奴は彩菜に何をしたんだ?」

 

相原が聞き返すのを見て、内容を昨夜の入浴の時に聞いた久美子は目を伏せた。

瀬尾優斗の名は相原に話したが内容は言っていない。

 

「騙して家に連れ込まれ犯されたの。元々別の不良達に私は犯されてたんだけど瀬尾はそんな私に君を助けたいって言って近づいてきた……ホイホイ信じた私も馬鹿なんだけど」

 

「そこで犯された。ってことだね」

 

中尾が聞いた。

 

「うん……。あいつは本当に許せない。助けるなんて甘いこと言ってやったことは奴等と同じなんだから……だから一番にしたの」

 

「本当女の敵ね!そいつ!あそこを蹴りあげてやりたいわ!」

 

「全くだね!」

 

怒りながら同調する久美子と純子を見て英治達は内容に恐れを覚えた。

瀬尾に対しての怒りだから怖がらなくてもいいはずなのだが内容が内容だけに恐怖してしまう。

廊下から保健室に向かい足音が聞こえてきた。

 

「西脇先生達が戻ってくるみてぇだ。じゃ、一人目は瀬尾優斗だな。後は奴の行動パターンを調べ近々作戦を実行にうつそう」

「徹、俺らには両津さんもいることだし是非助言をいただこうぜ」

 

「そうだな英治」

保健室の扉が開き西脇、校長の順番に中に入ってきた。

「この子が彩菜さんかね?」

 

「そうです。この子の様子を見る限り嘘を付いてるとは思えません。白咲中でずっと一人で頑張ってたみたいです」

 

西脇は落ち着きながら校長に説明する。

「相原君に菊地君、君達3年2組の生徒が彩菜さんを見つけたそうだね」

 

「ええ、まぁ」

 

「同じ白咲に住む同じ年代の者として彼女を放っておけません」

 

「……君達は素晴らしいことをしたな」

 

「「受けいれてくれるんですか!?」」

 

英治と徹の声が重なった。

 

「うん。しばらく彩菜さんは外白咲で様子を見よう。子供を捨てちゃ教師失格だよ」

 

校長の一言に久美子と純子は彩菜の手を掴みやった!やった!と大喜びだ。

英治と徹はハイタッチし、中尾も笑みを浮かべた。

 

かくして、彩菜は外白咲に暫く通うこととなる。

 

 

----

 

 

徹達はまた帰宅後十千万に集った。

今日は用事があるクラスメイトが多くひとみ、久美子、純子、英治、徹、健二、安永だけだ。

 

「しかし良かったな。まさか校長が認めてくれるなんてよ」

 

安永が嬉しそうに言う。

 

「本当だよな。俺一時はどうなるかと思ったぜ」

 

「心配すんな。そうなったら彩菜をこの旅館で匿って学校をボイコットするだけさ」

 

英治の言葉に徹は涼しい顔をして答える。

 

「徹君達……君達は十千万を何だと思っているのかな~!」

 

腰に両手をあてこちらを睨みつける千歌の瞳。

俺らの遊びの場所です!。なんて答えたら千歌に怒られそうだ。

 

大切な場所です。と英治と徹は口を揃える。

 

「それにしても両津さん達遅いね。まだ仕事中なのかな?」

 

ひとみの一言に一同壁の時計を見ると16時30分。

警察の勤務時間が英治達には良く分からないが中尾が平均的な勤務時間は8時間くらいと言ってた。

朝8時から勤務が始まるとして終わりは4時か?。

だったらもう帰ってくる。

いや、違う昼休みも一時間挟めば勤務終了時間は5時だ。

 

「中尾の言う通りだったらあと30分は来ないと思うぜ」

 

「そうか、じゃ、今日は両津さんに話すのはなしだ。俺らだけで軽く目標たてとくか」

 

敵を知るには行動から。

まずは彩菜に瀬尾優斗の特徴や習性を聞いていく。

 

「彩菜、そいつは普段はどんな態度で学校生活送ってんだ?」

 

「…普段は優しくて女子にモテて、優斗自身は自分の容姿を気にする典型的なナルシストなんだけど結構学業の成績も良いし評判は悪くないわね」

 

「彩菜を襲った時は本性が出たってわけか」

 

「うぇ~……やな男だね。きっと甘い顔してる時は心の中で相手を馬鹿にしてるに違いないわ!うちの親父みたいに!」

 

久美子の言葉に場に居た全員妙に納得した。

気さくな奴が裏では別な顔を持つ出来れば裏表がない人間になりたいが難しいのかもしれない。

「しかしよ、今の藤沢の話聞く限りそいつが相当な女好きだってことは分かったな。なぁ藤沢、そいつもしかしてデートとか頻繁にしてねぇか?」

「うん、後輩の女子とかと結構してるみたい」

 

「良く分かったな安永」

 

「ナルシストで自分の容姿気にする女みてぇな奴の行動なんてんなもんだろ?」

 

中々の考察力を安永は発揮する。

更に彼はこう加えた。

 

「普段頼れるパイセンってなら都合がいいぜ。その後輩に真実を伝えて失望させるのがいいんじゃねぇか?」

 

笑いながら彼は腕を鳴らしていた。

 

「確かに頼りがいあるイケメン先輩は本当は腹黒くて卑劣な男だったなんて知ったら後輩の方から白けるかもな。それにモテモテって個人的にムカつくぜそいつ」

 

「徹の言う通りだ!」

 

「英治、相原……怒りが別んとこに向かってるぞ……」

 

「ともあれ奴の行動パターンが分かった。後はここから瀬尾に対する復讐計画を建てるだけだな。よしクラス内でチームを2つに分ける。瀬尾の行動を数日変わりがわり監視するチームと復讐の計画を練るチームだ」

 

監視……、刑事みたいだ。

でも復讐計画を練る方も面白そうだ。

 

「瀬尾から直接手を下された彩菜は復讐計画チームが最適だと思うんだがいいか?」

 

「うん。ありがとう徹君」

 

「おもしれぇな。まさかクラス全員でこんなこと考える日がくるなんてな」

 

「張り切ってるな安永……」

 

色々あんだ。と英治に言い、監視チームと復讐計画チームの振り分けはどうすんだ?と相原に聞いた。

「明日学校で説明する。んじゃ今日はお開きだ」

 

失礼しましたー!と元気な声で子供達は去った。

 

「千歌ちゃん。あの子達色々考えてるみたいね。ふふふ」

 

「うん……。徹君や英治君達だから心配無いとは思うけど。一線を越えなければいいね……」

 

心配そうに子供らが出てった後の玄関を見つめた。

 

「ただいまー!。全くあの班長は愚痴が止まらんな」

 

「うむ、今日も昼飯がカレーライスがいいかハヤシライスがいいかでブツブツ言ってたな!」

 

「ああいう人物だと割り切るしかありませんよ」

 

「お帰りなさい!両津さん達!」

 

「千歌ちゃんは今日も元気だな!」

 

「ありがとう。今徹君達が出てったんだけど会わなかった?」

 

「あぁ!会ったぞ!清々しい顔して両津さんお疲れ様です!って走ってきやがった!ははは!。次お暇な時に力を貸してくださいと言ってたな」

 

「ダッシュで駆け抜けていきましたよ」

 

「なんか楽しいことでも会ったんだろうな」

 

楽しいこと、ね……と思いながら千歌は旅館の仕事に励む。

 

 

----

 

翌日、外白咲中の3年2組に彩菜はいた。

校長の話によれば特例中の特例とのこと。

白咲中学校とPTAを説得させるのにかなり骨が折れたようだ。

「似合うよ彩菜ちゃん!」

 

「可愛い……」

 

「そう、かな。ありがと純子ちゃん。ルビィちゃん」

 

制服も学校側から支給された。

彩菜と外白咲3年2組の女子生徒にも変化が起きる。

ほぼ全員の女子を名前で呼ぶようになっていた。

2日という短い期間の中で輪が深まったのか、彩菜は登校初日にしてクラスに馴染んでいた。

 

「おはよう彩菜。だんだん元気になってきてるみたいで嬉しいぜ」

 

「おはよう徹君。なんだか外白咲のみんなと話してると心が安らぐの。今までのことが嘘だったみたいに……」

 

本当に虚構だったらどれだけ楽か。

 

「そうか。よしじゃあ皆HRが始まるまでまだ時間があるから振り分けの話をするぞ」

 

「昨日アプリで送られてきた例の復讐計画のチーム分けか?」

 

「そうだ。お前らが見やすいように黒板に書いてくぜ」

 

徹はカツカツと音をたてチョークを動かした。

 

「できた。ほら。勉強よりも重要なことだから絶対忘れないで覚えろよ」

 

教師のように黒板を2回叩いた。

 

「分かったー」

 

「勉強は覚える気になれねぇのにこういうことは覚えんだよな俺って」

 

 

クラスメイト達は黒板に記された振り分けされた人物達の名前を其々、ノートに書いたり暗記するなどして頭に焼きつけていた。

監視チームは

 

安永宏、小黒健二、天野司郎、宇野秀明、菊地英治、谷本聡。

 

復讐チームは

 

藤沢彩菜、橋口純子、堀場久美子、朝倉佐織、津島善子、黒澤ルビィ。

 

 

相原が選抜したのは男子生徒、女子生徒、各6名ずつだ。

安永が疑問を浮かべた様子で相原に質問する。

 

「相原。クラス全員は動員しねぇのは分かったが俺が監視チームってのは納得いかねぇぜ」

 

「大人数でもやるようなもんでもねぇからな。お前の場合いきなりぶん殴ってなんの理由も知らず瀬尾のこと倒しても意味ねぇだろ?。復讐の方法は俺らチーム外の奴等も考えてくが復讐の実行は久美子に任せたいと思う」

「任せて!瀬尾のクソ野郎に女の恐さ教えてみせるから!頑張ろ!彩菜!」

 

「……うん!」

 

いよいよ始まるのだ。

瀬尾への復讐が。

 

 

 

放課後メンバーに選抜された生徒は十千万に向かった。

「徹の話だと今日は両津さんがいるらしいぜ」

 

「あの人がどんな風に行動しろって言ってくるか俺楽しみだ」

 

「安永君。手を下すのは私達女子よ。ま、両津さんにも協力してもらったら万々歳だけど」

 

お邪魔しまーすとそれぞれ挨拶を済まし、旅館の一室へと入った。

 

「やっぱ居たんすね。両津さん」

 

「今日は非番だからな。徹から聞いたぞ英治!。なにやら早速誰かに実行するみたいだな。ワシでよければ力を貸すぞ」

 

「ありがてぇ。でも本当両津さんで良かったよな。両津さん以外の大人だったら綺麗事並べられて藤沢は救えなかったろう」

 

嫌気がさした顔で安永は話す。

 

「そうよね!。どうせあなた達まで手を染めてやり返すことないでしょ!とか言ってさ!。被害者側は泣寝入りして終わりだよ!」

「安永、堀場。今日僕達は文句を言いに来たんじゃないだろう。両津さんに助力をもらいにきたんだ」

 

「そうよ二人とも……この堕天使の詠唱で静かに……」

 

「君も騙って話を聞くんだ善子」

 

「なによ!」

「はははは!結構、結構。むしろそれだけ元気があってこそ楽しく生きられるってもんよ。で、最初はどんな野郎なんだ?」

 

「瀬尾優人って男で……」

彩菜は瀬尾から受けた屈辱を全て話した。

 

 

「う~む、とんでもないゲス野郎だな……その若さにして白鳥麗次やチョビヒゲ頑固ジジイに匹敵するとは……」

 

「白鳥麗次とチョビヒゲ頑固ジジイって……?」

 

「キザな倒産の天才と脳が石で出来てる奴等だ。よしっ!ワシもお前達と一緒にやり返すのを手伝うぞ!。復讐チームは久美子達女子だったな?」

 

「はい!」

 

「では早速作戦会議だ!。彩菜の怒りを奴等に見せつけるぞ!」

 

おう!と活気よく女子達は返事する。

残された男子達も彩菜から示された瀬尾優人の情報を元に行動を監視する準備に入った。

 

「あいつらはヤル気満々なみてぇだな。俺らも負けられねぇ!」

 

「ヘッヘー!。瀬尾がやられてる様子を実況したいぜ!」

 

「天野……全く君は実況が好きだな。僕らも動こう英治」

「あぁ」

 

皆それぞれの思いを背負い動き始めた。

彩菜を救う為に。

 

白咲の町に平和をもたらすために。

 

 

----

 

 

……同日……白咲中……3年3組……

 

 

「と、言うわけで藤沢は今日から暫く外白咲中に通うこととなる。卒業までこちらに戻って来るかは分からん」

 

担任は身辺上の理由で彩菜が外白咲に通学するようになった話をした。

話を聞いたクラスメイトの大半はどうでもいいような状態で、「なんだそんなことかよ」 「嫌いだし顔見なくて清々したわ」 と、声を上げていた。

その裏で動揺を受けた生徒も少なからず居るわけだが。

 

(彩菜が……外白咲に……もう白咲には帰って来ないの?)

 

「まだ私はあのことを彩菜に……謝ってないのに……」

 

 

ある少女は小さく自分の内の気持ちを声にしていた。

……一方である少女は。

 

(逃げてんじゃないわよ……彩菜。アンタが誰とつるんでるか大方予想がつくわ。あの相原とかいう男でしょう。……外白咲にいようが絶対にあんたは……)

 

 

『必ず苦しめてやるから』

 

 

憎悪をさらに増した。

彩菜達の最初のターゲットとなった瀬尾もどうでもよさそうに担任の話を聞いていた。

 

(彩菜ねぇ、虐めに堪えきれず学校を変えるか。ポスターだかで見たっけな。転校もいじめ対策の1つだって、セオリー通り実行したってわけか)

 

フッ、と鼻で思わず笑った。

脳裏に蓮達から屈辱を受けた彩菜を助ける振りをして自宅に連れ込みさらに彼女を犯した光景を思い浮かべて。

転校する前にいい経験させてくれてありがとうと彩菜にでも会ったら言いたいくらいだ。

 

だが生憎今は一個下の別の彼女がいる。

名は池田沙智。

可愛くて良順な子だ。

しかしある理由により優人と沙智は表立って付き合えないでいた。

(そろそろまた始めるか……)

 

不敵に笑い彼は授業に望んだ。

 

 

『お前も彩菜と同じ目にあわせてやる』

 

放課後優人は早めに帰宅する。

「たしか待ち合わせ場所は……因知気商会の近くのカラオケ屋だったな」

 

家に着いた優人は沙智に「今から行くよ」と連絡を入れ着替えて細心の注意を払いカラオケ店を目指した。

歩くこと15分。

 

「待ってましたよ!優人先輩!」

 

「やあ沙智ちゃん。学校じゃないんだからそんな堅くならず優人君でいいよ」

 

やだごめんなさいと彼女は頭を下げ、優人の腕に自分の腕を組む。

そのまま二人は店へ行き受付を済ませ部屋へと入った。

彼女はマイクを握り歌う気満々だ。

 

「私から歌っていいですか優人君?」

 

「勿論。俺はゆっくり選ばせてもらうよ」

 

「ありがとう!今流行りのタンタンタヌキーズの歌をいきますね」

 

「いいねぇ。じゃあ俺はアナコンダデストロイの『ああ……私はトグロ』でも歌おうかな」

 

「渋いですね優人君」

 

 

----

 

 

「楽しそうに歌なんか歌ってやがる」

 

「全ての行動が癪に触るぜクソッタレ!」

 

「落ち着けよ。これからこんなことが少なくとも2週間ぐらいは続くんだろうからな」

 

和人がなだめるように言う。

監視チームの面々は早速瀬尾の動向を見張っていた。

まぁクラス全員で決めたこととは言えカップルの様子を見るというのは英治達にとって辛いものである。

しかし情報収集し瀬尾の習性をつかんで英治達は久美子達に報告しなければならない。

 

 

それから2週間、英治達は瀬尾を見張り続け大分彼の行動パターンが分かってきた。

瀬尾は彼女の池田沙智とほぼ毎日町中を歩き回りデートをしてること。

 

デート中の瀬尾が何かに異様に警戒してるように見えること。

 

後者は最初瀬尾が自分達の追跡に気づいているものかと思ったがどうも違うらしい。

何処か別の恐ろしいものに怯えてるようにも見える。

 

自分達の追跡がバレてるってわけではないので別に問題は無いが。

「それで僕達は瀬尾の習性をほぼ把握したことをいつ久美子達に伝える?」

 

「んなもん早けりゃ早いほどいいだろなぁ英治?」

 

「あぁ。早速今すぐにでも両津さんがいる十千万へ行こう」

 

最後の追跡を追えた彼等は十千万へ向かった。

 

 

「お邪魔しま~す……げっ!」

 

「おい英治急に立ち止まってんじゃねーよ。なに突っ立って……うぇ!」

 

「両津パトリシア勘子よ~。ハ~イ、おかえりなさ~い。英治君。安永君」

 

そこにいたのは……金髪でガタイがよく筋肉隆々な女装した両津の姿であったなんの罰ゲームか下は御丁寧にスカートで……。

 

「こ、これはこの世のものなのか。於曾ましすぎる……視力が一気に下がったかも……寒気が……」

 

「貴様どういう意味だ英治!」

 

直ぐ様、ワシだって好きでこんなことするかと両津が怒鳴り返した。

激怒する両津の後ろから久美子が姿を現す。

 

「ふふふ作戦よ英治君瀬尾に一泡吹かせるためのね」

 

「作戦……?」

 

両津さんに女装させる作戦ってなんだよ。と英治は首をひねる。

 

「ああそうだとも。これでそのガキをぎゃふんと言わせ改心させるのだ。更正もワシらの仕事だからな」

 

 

「ってことは両津さん達はもう作戦内容はバッチリってことすか?」

 

「もちのろんよ。あとはお前らの報告待ちだ」

「こっちもバッチリです。安永や和人や小黒達と一緒に2週間張り終えて瀬尾の動向は掴めました」

 

「うむ御苦労!あとは日時をしっかりと決めるだけだな。よし久美子達に加え英治、お前達も実行の段取りを決めるのを手伝ってくれ」

 

監視チームは「はい」と返事し作戦の段取りについて計画チームと話あった。

(始まるんだ……外白咲のみんなと……あいつらへの報復が……)

 

 

明日、学校が終わり次第作戦開始だ。

 

 

 

翌日……白咲中……

 

「ごめんよ。……今日は予定があるんだ」

 

「えぇ~!」

 

「そんなぁ……」

 

ウザい奴等だ。失せろ

今日はアイツを家に連れ出すんだからな。

優人は自身の計画のため後輩二人を追い払う。

 

「この埋め合わせはちゃんとするよ。ごめんね君達」

 

「「は~い」」

 

邪魔者が消えた。

顔が良くて成績もそんなに悪くない彼が他学年の生徒から告白されることは珍しくない。

だが自分が相手を襲おうと計画してる時それは邪魔以外の何者でもない。

 

「ん、どうしたんだい結子。俺の顔に何かついてるのかい?」

 

「別に……キザだなぁって……」

 

「おやおや失礼だな。この頃元気が無いが何かあったのかい?」

 

「あんたに関係ないでしょ。行こ恵美」

 

「う、うんっ!じゃあね優人」

 

「あぁ。またな恵美」

 

学級委員長とその友達を見送った優人は帰宅し行き付けのカラオケ屋へ向かった。

 

『沙智、楽しませてくれよ』

 

 

その頃、沙智は一足早くカラオケ屋へ着いていた。

 

「優人君。早く来ないかな……」

荒々しいブレーキ音を立て彼女の近くに酷く傷付いたバン型の警察車輌が止まる。

 

バタン!とドアを勢いよく開け女装した男が「お前は何回道に迷うんだ誤道!」と怒鳴りながら飛び出してきた。

「すみません。私教習所では筆記は問題無かったのですが……実技は逆走したり道なき道を越えたりで……」

「お前は下手に運転せずワシらがことを終えるまでジッとしてろ!いいな!」

 

「はい分かりました。両津巡査長殿」

 

「怖かったよぉ……」

 

「泣かないのルビィ」

 

「じ、実に地獄への道を走るような堕天的なドライブだったわね」

 

「彩菜ちゃんと純子も無事?」

 

「うん……」

 

「なんとかね」

 

女装した男の他に6人の自分より一歳年上だと思われる女子達も降りた。

特に一人は魔術師みたいな黒い服を着て。

(って言うかなんでこの人達警察の車に乗って来たんだろ……)

「全く方向音痴にもほどがあるぞ。君が池田沙智ちゃんか?」

 

「は、はい!。あ、あのおじさんは……張り込み的なので……その女装してるんですか……?」

 

話しかけられたので恐る恐る答える。

 

ヒソヒソ

 

(ねぇ、久美子……もしかしてもしなくても両津さん池田さんに怖がられてるよね)

(あんな格好だからね。第三者の目から見たら変質者としか映らないんじゃないかしら)

 

「いや確かにワシは警官であることには間違いないが重要な計画がありこんな格好をしている」

 

「なにに対しての重要な計画なんですか……?」

 

沙智はもう泣きそうだ。

 

「両津さんじゃもう無理みたいね。私達も説明するよ。純子、彩菜」

「うん」「ええ」

 

「怖がらせてごめんね。池田さん私達は別にあなたには何もする気はないから安心して」

 

笑顔で久美子は話かけた。

 

「は、はぁ。あれ……あなたはもしかして藤沢彩菜先輩ですか?」

 

「私のことを知ってるの……?」

 

「はい。先輩には1年の時に私が転んで怪我をした時助けてもらった恩がありますからあの時はありがとうございました」

 

沙智は深々と彩菜に頭を下げた。

 

「そう言えばそんなことあったかも。よく覚えてるわね池田さん」

 

「沙智で大丈夫です。それより小耳に挟んだのですが彩菜先輩が外白咲に通ってるってお聞きしました。でも転校したわけじゃなくて籍はこっちにあるとか。どうしたんですか?」

 

「それはねーー

 

「白咲中で彩菜があのクラスの連中にいじめを受けたからよ」

 

「え?」

 

久美子の言葉に沙智は言葉を失う。

いじめ?。

あんな楽しそうなクラスで?。

 

「あなたと付きあってる瀬尾優人。あいつも彩菜のことを助ける振りして犯した野蛮な男よ」

 

「う……そ……ですよね。優人君がそんな……」

 

思わず顔を伏せる。

 

「事実よ。私は優人を信じたら裏切られたの」

 

「そんな……」

 

膝をつき彼女は泣き出した。

瀬尾優人は絶対に許せないクズだったとしても彼女に直接語るのは少し酷か。

 

「だけどね池田さんあなたには未だ道がある。それは私達と一緒に彩菜の優人への復讐を手伝う道が彩菜をとる?それとも優人をとる?」

 

「私は……」

 

彼女にとり重い決断かもしれない。

どっちを選ぶのか。

 

「彩菜先輩を信じたいです。怪我の恩もありますしあの時の彩菜先輩の優しい顔は忘れられないから」

 

 

「沙智……ちゃん」

 

後輩の顔が目に焼きついた。

 

「それで私は皆さんとなにをすればいいんですか?」

 

「難しいことじゃないわ。強いて言えば女子会みたいなものかしらね男は優人一人よ。両津さんは華麗な勘子ちゃん役だから」

 

「うふ。ああ腕が鳴るわ~」

 

「仕掛け役はあなただからね彩菜負けないで」

 

「うん。ありがとう久美子」

 

「お礼は上手くいってから!さあ待つわよ!」

 

彼女達は受付を済ませ部屋を確保した後、「中学生ぐらいの男の子が来たらお友達は隅の部屋で待ってます」と言ってくださいと伝えた。

5分後。

優人は店に入ったが沙智の姿が見当たらない。

 

「あれ……待ち合わせしたのに」

 

「お客さま~中学生ですか?」

 

「まぁ、そうですけど」

 

「お友達は隅の部屋で待ってるとのことです」

 

「はぁ」

 

勝手に部屋取りやがって。

沙智の自分勝手な行動に少しイライラしながら優人は隅の部屋へ入った。

 

「沙智ちゃん……勝手に部屋を取るような真似は……」

 

「それでね~」

 

「やだぁ!本当に!」

 

どうなってんだと思わず優人は笑った。

外白咲に通い始めた彩菜の他に見たことのない女子が5名。

しかもどれも結構いい顔をしている……一人あからさまにゴツいのがいるが気にせずに。

 

 

「あ!優人君来たんですね!この人達は私の友達です」

 

こんにちはと彩菜を除く5人は頭を下げる。

 

「君も人が悪いな。こんなサプライズを用意してくれてたなんて」

 

「優人君の話を皆さんに話したら会いたい!って言ってね、久美子さん」

 

「そうそう。こんな美形な彼氏を持つ沙智ちゃんが羨ましいな~」

 

「久美子ちゃんはどこ中なの?」

 

「外白咲、こんな格好いい人うちらの中学には居ないよ~」

御世辞もここまでくると感心するものだ。

少なくとも彩菜にとっては性格は論外として顔も相原や英治や和人の方がよっぽど格好いい。

勿論いいのは彼らだけじゃないが。

「ありがとう嬉しいよ。それより彩菜はどうなんだい?馴染めてんの?あっちに」

 

「……まぁね。楽しいよ」

 

「ふ~ん。そりゃ良かった。いや心配してんだぜみんな。彩菜が学校嫌になったのかってな」

 

馬鹿にしたような口調で彼は話す。

だが皆で決めたんだ。

復讐していくと。

 

「心配?。よくもそんな出任せを口にできるわね」

 

「あ?」

 

「忘れるわけないじゃない。あなた達から受けたことをその内沙智さんも私と同じ目に会わせるつもりだったんじゃないの?優人」

 

「はは。いつの間にか冗談が上手くなったな。言い掛かりはやめろ……確かに彩菜が蓮達に犯されてたのは知ってるけどさ」

 

「確かにこのリトルデーモンの言ってることの確証は取れないでしょうね。でも私達にはこの子が嘘を付いてるとも思えない。彩菜の目は地獄を目の当たりにしてきたように弱々しい目をしていたのよだから私達は彩菜を信じる堕天使に誓ってね」

 

「……君厨二病?」

 

「堕天使だってば!」

 

「よし……ヨハネの言う通りよ。死にそうな私を救ってくれたのは外白咲のみんなのおかげ。だから私はあなたを許さない」

 

バン!と優人が机を叩いた。

 

「調子のってんじゃねぇぞクソアマ。テメェみたいにいじめられてた女が付け上がってんじゃねぇ!!」

 

「彩菜!」

 

優人の拳が勢いよく彩菜の顔を捕らえようとした瞬間……寸前で1つの手が優人の拳を受け止めた。

「認めてるじゃねぇかお前も、彩菜がいじめられてたってな!」

 

「やっぱお前男か……女装してんじゃねぇ。オッサンオカマか!?」

 

「馬鹿本官は立派な男だ!。お前みたいな悪ガキを更生するために派遣されたな!」

 

「面白いこと言うな!。なら止めてみな!」

 

「じゃ、遠慮なく」

 

「おぉぉぉぉぁお!?」

 

両津はそのまま優人を持ち上げ壁に叩き付けた。

プルルルと受付と繋ぐ電話がなる。

 

『お客さま~!なんかでっかい音がしましたが!』

 

「あ~ちょっとプロレスごっこやってるんで気にしないでください」

 

ドンガラガッシャーン!

 

『今の破壊音はなんです~!』

 

「過激な曲のイントロです!それじゃ!」

 

ガチャンと電話を切った。

 

「いくぞ!今度はジャンピングラリアットだ!」

 

 

ドーン!

 

 

「ぎぇぇぇ!」

 

優人は気を失った。

 

「どうだこの身のこなし。う~む、中々に動いたな全くこの仕事は神経を使うよ……」

あんたノリノリだったじゃないと全員心で突っ込んだ。

 

「それじゃずらかるか。ワシはこの馬鹿を背負っていく」

 

「うわ~漫画みたいに両目が渦巻きになってる」

 

「完全に延びるってこういうことを言うのかしら」

 

「優人をどうするの両津さん」

 

彩菜は気になり聞いた。

 

「更生させるんだよ。社会の厳しさを教えてな。ワシは道を外した者にはそれなりの罰が必要だと思う。甘えだけでは人は成長せん怒ってやることも必要なんだ」

 

目の前の両津勘吉が歩んだ人生と自分の人生の差を感じさせる台詞だった。

帰りの誤道が運転する車の中でずっとその台詞が頭に残る。


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