結子と恵美の話がメインですが他にも沢山キャラが出ます。
「先輩が白咲町に行ってもうすぐ一ヶ月近くになりますね」
「そうねぇ」
「居たら居たで煩いが居ないと居ないで静かなもんだ」
派出所の面々は両さん無き派出所で静かな日々を送っていた。
『えぶりでぃニュースの時間です。速報です。日本各地で旧日本軍の亡霊を見たとの目撃情報が相次いで続いており……』
「何!?」「そんな馬鹿な!?」「嘘!?」
信じられないと言った様子で中川はニュースの内容を検索すると……ズラリと目撃情報が出てきた。
「これって……!」
その画像に写し出された人物に中川は見覚えがあった。
「部長!麗子さん!この人、芋頭巡査ですよ!」
「え、この前東京に研修に来たあの人!?」
「どれ見せてみろ!」
中川のスマホを見ると確かに芋頭巡査の姿が写っていた。
『ある証言によるとこの亡霊の写真を撮った時に「やめてくれぇ魂を吸われる」等と発言したと言われており依然真相は不明のままです』
「……うむ。間違いなく芋頭巡査だ。そう言えば署長からそろそろ次の署からも送られるだろうと言ってたがまさか度井仲署だったとはなぁ……あいつらだけでも不安なのに更に頭が痛くなりそうだよ……」
「「部長……」」
大原部長は頭痛薬を飲みに居間の方に向かった。
「圭ちゃん白咲町は益々大変なことになりそうね……」
「はい、間違いありませんね……」
……………………
………………
…………
……
「え~、コレガ真田幸村のちょんまげの法則であり……」
「ハァ……」
「東から太陽が昇れば西へ沈むというわけである」
塾での講習中、少女は溜め息をつく。
老いた講師の言うことも全く頭に入らない。
白咲中3年3組の生徒滝嶋結子は色んなプレッシャーに駆られ押し潰されそうになっていた。
いい成績を取らなかったり、遊んだりすると折檻する両親のこと。
その両親に隠れ年齢を偽り夜にクラブ『ムーン』なる場所に通ってること。
……最後に籍だけ白咲中に残し実質外白咲中に行ってしまった親友のこと。
クラブに通ってる時は楽しい『あの人達』と話せるからこれらの悩みも一時的に考えなくて済むが……学校、塾や家等では勢い付いて回る駒のようにこれらの思考に支配される。
(楽しい時は忘れられるなんて酒で上機嫌になるアル中みたい。)
ふと考え、窓に写る自分の顔を見つめ自虐的に笑った。
……今の自分はそんなアル中と何ら変わらない気がするのだ。
毎日両親に怯える日々は確実に自分の心をジワジワとゆっくり壊して来ている。
おまけに彩菜には酷い言葉を吐いて一方的に絶縁してしまった。
クラスの連中に虐められ苦しんでた彩菜はその日以来益々虐められるようになった。
……ふと過去の思い出が頭を過る。
『何泣いてるのよ……私が悪いみたいじゃない』
(……成績が良くても私は大馬鹿だ。)
『じゃあ友達辞めましょ!2度と話し掛けてこないでッ!!』
(何で私はこんな酷い事を言ってしまったの……。あの子は苦しんで私に助けを求めて来たのに。)
言うまでもなくその日以来彩菜の虐めは悪化の一途を辿った。
原因を作ったのは自分みたいなものだ。
「…な…ごめ……さ……」
蚊が飛ぶような声を漏らし、堪えきれなくなった結子は目を抑え静かに泣いた。
幸い席が一番後ろだったため彼女が泣いてることに気付く塾生はただ一人を除き誰もいなかった。
「結子……」
同じく一番後ろですぐ隣の席である恵美を除いて。
恵美は結子の背中を擦りながら彼女にハンカチを渡した……。
「それでは今日はここまで!。諸君!気を付けて帰るように!」
ありがとうございましたぁ!と元気な塾生達の声が響いた。
その中でも取り分け元気な「うぉぉぉぉぉ!」と言う雄叫びが上がる。
「脳に電撃が走るぜ!今なら脳内発電で電気を賄えそうだ!目指せ志望校!遺産が貰えるのは死亡後!」
「こら、落地田!騒がずゆっくり帰りなさい!」
「無理です!今俺の頭と身体は勉強に燃えています!正にストーブいらず!歩く火力発電!塾生の皆!大村先生さようなら!」
「……あぁ。さようなら。全くあやつは勉強馬鹿じゃな」
「あははは……。毎回のことですからね。難出君は……」
呆れて言う先生に恵美も苦笑いしながら相槌をうった。
難出 落地田(なんで おちた)、恵美や結子が通う塾のちょっとした有名人で勉強中や帰り気合いが入ると雄叫びを上げるクセがある。
今は大分マシになったが恵美と結子が塾に入りたての頃はもっと酷かった。
「分かったぜ!」と急に言ったり「俺の馬鹿野郎!」等と騒ぐからみな戦々恐々としていたものだ。
「全く煩い男だ……。何の因果か学校でも塾でもあいつと一緒のクラスになってしまうし僕呪われてるのか……?」
言いながらある男子生徒は耳栓を両耳から外した。
「浅野君も災難だね」
「全くだ。まぁ将来日本を背負って立つにはこれくらいのハンディキャップを乗り越えろって言う試練なのかも知れない。取り敢えず僕も帰るか」
「あ、うん。またね」
帰ろうとした浅野だが、ボソリと恵美に耳打ちした。
「滝嶋……この頃元気が無いようだが何かあったのか?」
浅野と恵美の目が泣き腫らした顔で悲しそうに外を見つめる結子を捕らえる。
右手に恵美から渡されたハンカチを握りしめ……。
「色々とね……。家や学校やクラスのことから結子いっぱいいっぱいなんだ」
「そうか。確かに以前彼女と話した時厳しい家柄と聞いたな。僕が言うのも何だが多感な時期だ。一人になりたくなる時もあるだろう」
だが。と浅野は付け加える。
「今を頑張らないとより良い人生を築けはしない。困難を乗り越えてこそ人の真価が試される。滝嶋は今その時期なのかもな」
「困難を乗り越えてこそ……か」
下を向き浅野の言った台詞を復唱する。
「窪田もその内分かるさ。じゃあな僕はこれで……大丈夫君らなら乗り越えられるさ」
「ありがとう!じゃあね!浅野君!」
後ろ姿越しに左手を挙げ浅野も教室を出ていった。
「いやはや全く浅野はしっかりしとるのう。流石浅野理事長の息子なだけはあるわい」
「浅野理事長って白咲ヶ丘中学校創設者の……。浅野君は理事長の息子さん何ですか?」
「左様。この塾でも浅野と落地田が全問正解100点満点のトップタイだが白咲ヶ丘中でもあやつらが並んでトップのようじゃな」
「すご」
白咲ヶ丘中は白咲町内で一番生徒の教育に力を入れてると言われてるがその噂は本当のようだ。
学区に寄って大まかに子供達が通う中学は別れているが白咲ヶ丘中の学区じゃない外白咲中や白咲中の学区の児童が遠距離になろうと白咲ヶ丘中に進むのも納得が行く。
形はどうであれ皆真剣に生きてるんだ、と実感した。
「ささ。教室を閉めるぞ。窪田と滝嶋も帰りなさい」
「あ、はい!。結子帰ろう!」
「……うん」
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「星が綺麗だね~」
「……そうね」
どうも昨日のあの教室の時以降結子から元気を感じられない。
「言いたくないなら言わなくてもいいけど、さっきはどうして泣いたの?」
宥めるように優しい声音で恵美は訪ねた。
重く息を吐きながら結子はゆっくりと口を開く。
「……全てが嫌に感じたの。親のことも学校のことも塾の事もね。そして何より彩菜にキツく当たった自分が一番嫌になったこんな自分消えてしまえって」
「……結子。それ本気で言ってるの」
今まで聞いたことのない親友であり幼馴染みである彼女の豹変した声音に身体が固まる。
恐る恐る顔を覗くと恵美は怒った表情をしていた。
「当然よ!。彩菜には酷い言葉を吐いて!成績は上がらなくてっ……!親は厳しいし!私なんて生きてる意味ないのよ!」
パチンと結子の頬に痛みが走った。
「この馬鹿!」
ぶたれた、恵美に……。
「何すんのよ!」
「彩菜に謝りもしないで……一人で勝手に駄目だって決めつけて!あんた馬鹿何じゃないの!?もっと私を頼ってよ!」
「頼って解決するの!?。あんたに話せば急に事態が良くなるわけ?だったらなんぼでも話すわよ!…………でもそうならないからこうして苦しんでるんじゃない……」
膝を尽き結子はまた涙を流した。
「結子……」
30秒程静寂が二人を包む。
「恵美……」
静寂を先に破ったのは結子だった。
「私はね本来なら白咲ヶ丘中に行けって親に言われてたの」
「結子は頭がいいから当然だろうね」
「けど私は反対した。あなたと一緒の中学校に通いたかったから……あなたと一緒に楽しい思い出をいっぱい作りたかったから」
「私の為に……ありがとう。そしてごめんなさい結子……」
「本当よ。……って言うのは簡単だけど楽しかったよこんなことになるまで彩菜や美穂と一緒に遊んだりさ。辛かったいや、今でも辛いけど楽しい日々は確実に私の頭の中にあるもの」
胸に手を当て服をギュウと掴んだ。
「この日々は絶対に忘れない。例えこれからが辛くても」
「違うでしょ」
ポンと恵美が両肩を叩く。
「これからも楽しい日々にしてくよう頑張るんでしょ?」
「……ふふ、そうね」
これからの日々が楽しくなるなんて保証は何処にも無いが結子は不敵に笑った。
昔の結子のように。
(人生なんて計算付くでいけたら苦労しない。だから自分で楽しく過ごせるように変えてくんだわ)
「良かった、完全復活かな?」
「馬鹿ね7割にも充たないわよ。でもありがとう恵美。おかげで元気出た」
「本当にいい顔だよ結子」
カシャリとスマホの写真を取る音が鳴る。
「やったわねカメラマン志望者」
「志望はしてませ~ん」
あっかんべー、と可愛く恵美は舌を出した。
「まぁいいわ。ところで!あんた今日一発私のこと叩いんたんだから明日付き合ってもらうわよ」
「いいけど何処に?」
「ムーンよあんたも何回かいったことあるでしょう?」
「あー、あの結子がよくサボってるクラブね」
「サボってるゆうな!。英気を養ってると言ってほしいわね」
「いいよ。明日は勉強忘れて結子に付き合ったげる」
「ふん、いつも上の空のクセによく言うわ」
「なにをー!」
喧嘩を終え更に仲良くなった二人は駄弁りながら帰路に着いた。
その様子をとある一行が車の中から見つめていたとは知らずに…………。
「政、ネット社会の今でもああして拳で語り合う学生が居るんだな」
「へぇ、あっしもあんなに骨がある女子中学生達は始めて見ました。人間どんな時代になっても分からないもんです」
「ん!政、1句浮かんだ!」
「へい組長!」
「闇に潜み学生争うあーそーかい」
シーン……
「流石組長!……キレが違いますぜ。なぁ竜造!」
「ヘ、へぇ!政の兄貴!」
「うん。まだまだワシもナウいかな」
「そりゃあもうヤングキラーです組長は!」
「うん」
一句読み終えた御所河原組組長、御所河原金五郎之助佐ヱ門太郎を乗せた車は子分の政の運転で暗い白咲の街に消えていった。
また白咲町内の別の場所では……。
「此処等に両津巡査長殿が止まってる旅館があるはずなんだべが……」
旧日本軍の服装に身を包み三八式歩兵銃を肩に担いだ男が闊歩していた。