色を持たない機竜   作:怠惰ご都合

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久しぶりに、前回から三ヶ月での投稿。
このペースだと、今までの投稿期間からして、次は半年後かも・・・・と我ながら不安になります。


降りかかる思い違い

学園から調査場所までの距離を、前回の半分の時間で到着し、機竜を解除する。

遺跡に入る前に、周囲の確認をしておく為である。

ただ森に囲まれているというだけで、別に怪しむ箇所はない。

 

「ねぇねぇ、そこの人」

 

「・・・・・・・ッ!?」

 

遺跡(ルイン)を近くの陸地から眺めていると、背後から声をかけられた。

勢いよく振り向くと、そこには小さな女の子が立っていた。

見た目からして、ラナより二つ下といったところか。

茶色い髪を腰までストレートにしているその少女は、いたずらっぽい笑みを浮かべている。

おかしい、そう思わずにはいられなかった。

今は、機竜を解除しているとはいえ、周囲は警戒していた。

にもかかわらず、声をかけられるまで気配を感じ取れなかったのだ。

 

「・・・・どうしたの?」

 

そんな事を考えていると女の子は小首を傾げる。

 

「あぁ、別になんでもないよ。それより、えっと・・・・・・」

 

「何してるの?ここら辺は戦い(・・)があったばっかりだら危ないよ?まだ幻神獣(アビス)だっているかもだし」

 

その言葉に少し引っ掛かった。

この付近には村や集落などはなかったはず。

こんな小さい子どもが一人で親と離れて行動できるとも考えにくい。

なのに、目の前の女の子はどうして戦闘があったことを知っているのか。

その事が不思議だった。

 

「・・・・・・うん、知ってるとも」

 

「じゃあ、どうして?」

 

「実は、ちょっとしたお仕事なんだよ」

 

「えー、私とそんなに年は変わらないように見えるけどなぁ」

 

「あー、それはちょっと嬉しいなぁ。でもねぇ、こう見えても、僕は働き者なんだよ?」

 

「本当かなぁ」

 

女の子はクスクスと笑い出した。

端から見れば可愛らしいが、その笑顔が僕にとっては気味悪く感じた。

 

「・・・・だって、まだ構えてない(・・・・・)じゃない‼」

 

そして、彼女の笑顔は、弧を描くようなそれに変化した。

 

「・・・・・くっ!?」

 

慌てて腰の機攻殻剣(ソード・デバイス)を抜く。

両手に伝わってきたのは、金属がぶつかり合う衝撃だった。

目の前には、短剣の刃がもう少しの距離まで迫っていた。

直感に従うままに抜いていなければ、そう考えると冷や汗が頬を伝う。

そして彼女は、口に例の笛をくわえようとしていた。

 

「・・・・その、笛は」

 

「えぇ、その通りよ。これでお客様(アビス)を沢山呼ぶの。だってお兄さん、好きでしょ騒がしいの」

 

キィィィイイィン‼

そんな甲高い声が聞こえると同時に、ハミアを中心とする周囲のあらゆる方向から、咆哮が聞こえてくる。

声からして、さっきのようなディアボロスではなく、ガーゴイルだと解る。

しかし、二十近くはいると思う。

加えて、目の前の彼女も機竜で戦うであろう。

別に一人でも対処できなくはないが、時間がかかることは必至。

はっきり言って、かなり面倒くさい。

 

「・・・・うーん、確かに騒がしいのは好きだけど、時と場合があるからさぁ。あと相手によるし」

 

「お兄さん、文句ばっかり言ってると、嫌われるよ」

 

「・・・これから来る相手に好かれてもなぁ。だってまともに対応しても疲れるじゃん」

 

「うーわ、だらしなーい」

 

「よく言われるなぁ、それ」

 

こんな会話をしていても、少女が刃を納めるということはない。

かといって、笛を吹いて、多数の幻神獣(アビス)をけしかける・・・・訳でもない。

 

「ねぇ、聞かないの?どうして吹かないのか」

 

「・・・・いやまぁ、正直なところ気になってるけど、この状況で聞ける余裕を持ち合わせてる訳でもないからさぁ」

 

「そっかぁ。あ、でもでも、そんな事言っても止めないから、ね‼」

 

「・・・・なッ!?」

 

その一言をきっかけに、刃が近づいてきた。

しかしそれは、ハミアが力を緩めたのではない。

少女の力が強くなったのだ。

 

「意外、お兄さんってあんまり鍛えてないんだね」

 

「いやいや、そんな事はないよ。君の力が強いんだ・・・・とッ!?」

 

再び、刃が近づいた。

心なしか、少女の笑顔に殺気が混じったような気がする。

 

「お兄さん、何か言ったかしら?私ねぇ、最近聞こえが悪くなったみたいなの。だからね、もう一度言ってもらえるかしら?」

 

「・・・・いや、僕が鍛えてないんじゃなくて、君の力が強いなぁ・・・・って」

 

「・・・へぇ、そう。ふぅん、そうなの」

 

そう返事して、彼女は片手で笛を吹こうとした。

彼女は短剣を片手で持っているにもかかわらず、力が弱まることはなく、むしろ強くなっている。

 

「いやいや待って待って‼」

 

「・・・・えー、どうしてようかなぁ。そうねぇ、私のお願い聞いてくれたら止めてあげてもいいわねぇ」

 

「・・・うーん」

 

「安心して、一つだけよ」

 

「・・・んー」

 

「割と本気でお願い・・・・じゃないと吹いちゃうから」

 

「一つだけ・・・・だからね」

 

「やったやった‼」

 

嬉しそうに返事しながら、少女は笛と短剣を納めた。

それと同時に周囲から唸り声が消えた。

 

「えっとねぇ、実は私、最近外に出てきたばっかりで、都市?の事とか何も知らないの。だから案内して‼」

 

「・・・・いいよ」

 

「やったぁ‼本当の本当に約束だからね‼」

 

「日程はどうするのさ」

 

「そうねぇ、明日とか」

 

「・・・・なんか、嬉しそうだね」

 

「嬉しいに決まってるじゃない。だってデートなのよ?」

 

「デ、デート!?」

 

瞬間、ハミアの顔が紅くなった。

そうなのだ。

実はハミア、デートや甘える等のそういった事に弱く、聞いただけで照れてしまう程、初なのである。

 

「あはは、何で紅くなってるのよ。意外と可愛いのねぇ、お兄さん」

 

「・・・・ッ⁉」

 

「あら残念、今日はもう時間切れね。じゃあねまたね‼」

 

「あ、ちょっと!?」

 

名前を聞こうとするが、少女は森に走って行った為に、聞けずじまいだった。

 

「・・・・い。おいハミア‼」

 

その場に立ち尽くしていると、頭上からリーシャの声が聞こえてきた。

 

「は、はい!?」

 

驚きのあまり、敬語になってしまった。

 

「そんな所に立ってないで、お前も手伝え‼今からルクス達を救出するぞ」

 

「はいはい」

 

「さっさと機竜を展開しろ‼」

 

言われるがままに、ハミアは《ビフロスト》を展開して、リーシャの後に続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから暫くして、ルクスとクルルシファーは救出された。

ちなみに遺跡(ルイン)の外壁は、リーシャが纏う《キメラティック・ワイバーン》の武装(ドリル)によって見事な穴が空いた。

二人を救出してから帰投するまで、一度も幻神獣(アビス)と遭遇する事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんな時間からお出かけかな?」

 

「・・・・なんだ、あなただったの」

 

廊下にて、丁度医務室から出てきたばかりのクルルシファーに、ハミアは話しかける。

 

「良家のお嬢様のささやかな趣味は夜遊びだった?」

 

「あなたにしては珍しく笑えない冗談ね。・・・・いつから気付いてたの?」

 

「ついさっきだよ。だってさ、王立士官学園(アカデミー)遺跡(ルイン)調査なんて今までにも何回もあったはずでしょ。なのに、今回は無償で手助けするなんて酔狂でもなきゃ信じらんないじゃん。それも色んな意味で、有名過ぎる『王国の覇者』様ともなれば尚更ね?」

 

「そう、それで私が関係してると思ったのね」

 

最初こそ驚いていた彼女だったが、今では落ち着きを取り戻している。

 

「それでどうするの?私を止めるのかしら?」

 

「いーや、理由はどうであれ、人の要件に自分から首を突っ込むなんて事はしたくないね」

 

「・・そう」

 

「ひょっとして止めて欲しかった?」

 

「まさか。そのつもりなら最初から無視してるわ」

 

「それもそうだね」

 

彼女は倉庫へと歩き出した。

ハミアは慌てて、その後を追いかける。

 

「それで?止めるでもないなら、協力してくれるのかしら?」

 

「それこそ、野暮って奴だよ」

 

そう言った直後、彼女は足を止めて振り向いた。

今度こそ、彼女は驚きを隠せなかった。

 

「だって、ルクスがいるじゃん。詳しいことは知らないけど」

 

「・・・・・・へぇ」

 

彼女はハミアを真っ直ぐに見つめた。

 

「な、なに?」

 

「意外だったわ。あなた、お節介が好きなのかと思ってたけど、実は面倒くさがりだったのね」

 

「その言い方は少し傷つくなぁ。意外って言うなら君だって、最も話しかけにくいかと思ってたよ」

 

「あら、それはごめんなさいね。でもお互いさまでしょ」

 

そして彼女は再び、倉庫へと向かって歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少しして、二人は倉庫に到着した。

 

「見送りならここまでで結構よ」

 

「うん、頑張ってね」

 

「それじゃ・・・・」

 

「あ、ちょっと待って」

 

「・・・・何かしら」

 

今まさに機竜を纏ったタイミングで、ハミアが話しかける。

 

「さっきの“止めない理由”に一つ追加いい?」

 

「・・・・どうぞ」

 

「ルクスが苦しむのが少し楽しいから」

 

そう告げると、クルルシファーは少しだけ笑顔になった。

 

「ふふ、そうね。確かにそれ同感ね」

 

「でしょ?」

 

「なら、私も追加いいかしら」

 

「どうぞ」

 

「あなた、私と同じで少し意地悪なのね」

 

「個人的には楽しんでるだけなのになぁ。客観的に見るとそうなのかなぁ。よく言われるんだ」

 

「なら当たりね。それじゃ、私はそろそろ行くわね」

 

「・・・・うん、頑張って」

 

そして彼女は既に暗くなった空へと飛んでいった。

 

「本当に、止めなかったんですね」

 

見送ってから暫くして、背後からロッサが話しかけてきた。

 

「言ったでしょ。面倒だからって」

 

「それだけ・・・・ですか?」

 

「・・・・」

 

「彼を、ルクス・アーカディアを信頼してるから。だから、あなたは止めなかった。違いますか?」

 

「・・・・驚いたなぁ、結構人のこと観てるんだね」

 

「茶化さないで下さい」

 

「・・・当たりだよ。概ね正解」

 

「概ね・・・・ですか」

 

ハミアはゆっくりと振り返る。

その先には、困惑顔のロッサが入り口付近で立っていた。

 

「そう。正答は、クルルシファーを含む皆だってこと。今この状況に関わりのある皆を、僕は信頼してるの。だから“概ね”なんだ」

 

そう言ってハミアはニヤリと笑った。

ロッサは少しうんざりした顔になった。

 

「やっぱり面倒くさい人ですね。ちょっとは素直になった方が可愛げがあるというものですよ」

 

「・・・・さっきも言われたなぁ」

 

「知ってます」

 

「・・・・それで、決めた?」

 

「はい。私はあなたたちと共に、あの人を・・・・ネレク様を止めます」

 

彼女の瞳には強い意志があった。

ソレは、僕の心よりも遥かに強い光だった。

 

「別に今じゃなくても・・・・なんて、愚問だね」

 

「その通りです。今でなくては、私はこの結論には辿り着けないでしょう」

 

「・・・・そうだね」

 

「あ、それと・・・・ですね」

 

「うん?」

 

気持ちの整理がついた所で、ロッサの顔は、少し困ったような恥ずかしいようなそんな表情を表した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・という訳で」

 

「うーん」

 

「わ、私は病気なんでしょうか」

 

ロッサはネレクに対して抱いていた気持ちを相談してきた。

数分前に、協力すると伝えたからだと思う。

勿論、仲間として、友人として相談してくれたのは嬉しい。

だが、これは正直に伝えていいものか。

これは・・・・あれだ。

陥れば盲目になると言われるヤツ。

ハミア自身、経験した事がないから何とも言えない。

ソレを治すには、素直に諦めるか、新しく見つけるか、叶えるかのどれかだと言われている。

 

「・・・・えっと、その」

 

さっきまでの凛とした表情はどこへやら、今ではもじもじしていて、見ているこっちが恥ずかしくなってしまう。

いやしかし、せっかく相談してくれたのに、答えず嘘をつくのも、ハミアの気持ち的に良しとしない。

暫くの葛藤を経て、ハミアは正直に伝えると決めた。

 

「・・・・ロッサ」

 

「は、はいっ!?」

 

「落ち着いて聞いて。まず、ソレは病気じゃない。人間として、誰もが一度は経験するであろう問題だ」

 

「では、なんですか」

 

「・・・・恋」

 

「は?」

 

「それは“恋”と呼ばれるものだ」

 

「それは、あれですか?相手の事しか考えられなくなると本などで表現されている」

 

「うん」

 

「相手の気に入るような自分になりたいとか書かれている」

 

「うん」

 

「相手を、何がなんでも自分のモノにして、自分だけを見てくれるように努力し、自分が気に入らない相手の部分を排除して、思うがままに仕立てる」

 

「・・・・うん?」

 

最後は何か、物騒な内容だったような気がする。

彼女は一体、どんな本で“恋”を知ったのか、怖くて聞くに聞けないから止める事にする。

とにかく、彼女がネレクに対して抱いている胸の苦しみは、恋で間違いないだろう。

それも初恋と言われる、非常に希少な程の。

 

「・・・・あ、あっ」

 

段々と、彼女の顔が赤くなっていく。

 

「まぁその、・・・・頑張ってね?」

 

ハミアはそっとその場を後にする。

廊下に出ると、倉庫の中からバタバタと騒がしい物音が聞こえてくる。

 

「ハミアよ、あまりからかうでないぞ」

 

正面にはマギアルカが立っていた。

 

「・・・・いつから聞いてたの?」

 

「確か・・・・『病気なのか』という所からじゃったから」

 

「それ凄く、肝心な所じゃん‼」

 

「そうなるのう。まぁ、それなりに接するようにな。・・・・姉に当たるのじゃから」

 

「姉?」

 

「うむ、姉じゃな」

 

聞き直したのは、決して聞こえなかったからではない。

信じられなかったからである。

 

「何を勘違いしておったかは知らんが、ロッサはお主の、一つ年上じゃ」

 

まずいまずい、普通に年下だとばかり思ってた。

正確には、ラナと同年だと思って接していた。

 

「姉の言うことは、素直(・・)に聞くのじゃぞ」

 

マギアルカは、ハミアの母は笑顔でそう告げた。

そして、倉庫の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、想定外の事に遭遇した人間はどのような行動をするのか?

答えは、何もしない。

厳密には、何もできなくなる。

脳が、情報を処理できなくなり、思考が停止する。

ハミアとて普通の人間。

であるならば、何も考えられなくなることもまた必至。

 

「・・・・」

 

何も考えられなくなったハミアがとった行動は、睡眠だった。

今は考えたくない。

そっとしておいて欲しい。

明日になれば『全ては夢だった』で片付いているかもしれない。

そう思ったが故の選択だったのだろう。

だから、ルクスが決闘に間に合ったとか、クルルシファーが追い詰められたとか、バルゼリットが予想通りの悪でその後に投獄される等を、ハミアは後から知ることになる。

勿論、応援にも参加していない。

ただ、年上に対して生意気に意見した事を恥じながらベッドの中で朝日を迎えただけだった。

 

 




これで原作二巻の話は終わりですね。
1巻分と比べると少ないのは・・・・自分自身でも把握しています。
それでは次は原作三巻からの話になります。

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