「それでは新王国第一王女リーズシャルテ対、ハミアの、機竜対抗試合をこれより執り行う!」
審判役の教官の声と同時に、
学園敷地内にある、
周囲を円状に石壁で囲い、中には土を敷いた広いリングがある。
その中央で、リーズシャルテとハミアは対峙していた。
中心のリングは低く、外に行くほど高く盛り上がった形状は、旧時代のコロシアムを彷彿とさせる。
観戦席には強靭な格子が張られ、さらに生徒の
ハミアが周囲を見渡すと、相当な数の女生徒たち、そして教官までもが、この死闘とも言うべき決闘を、見物しに来ているようだった。
マギアルカはルクス・悠の二人と共に座って、眺めている。
「みんな、どれだけ暇してんのさ?」
「お前が相手なのか?」
ハミアが呆れているとリーズシャルテが尋ねてくる。
「代表者は選んでよかったはずだけど?」
「ああ、今更文句をつけるつもりは無い」
まだ、お互いに
試合準備が整った後、
「一ついいかな?」
「何だ?」
「怪我しないうちに降参してくれない?」
一瞬の沈黙。
ふいにリーズシャルテの気配が変わる。
「寝ぼけているのか?」
ハミアの問いかけに、リーズシャルテは蜂蜜色の前髪をかき上げ、微笑む。
「本気なんだけど?」
「そうか。なら、わたしに勝ってみせろ!」
そう言ってリーズシャルテは
「目覚めろ、開闢の祖。一個にて軍を成す神々の王竜よ、《ティアマト》」
「
リーズシャルテの身体が、赤い機竜に覆われる。
いわゆる汎用機竜と呼ばれる三種、
「新王国の王族専用機。神装機竜、《ティアマト》。この機竜は、そこいらのものとはわけが違うぞ?」
「ハミア選手、接続を!」
審判役の教官に、促され、ハミアは仕方なく、
「欲せよ。希望を望みし万物の長。内に秘めし色をその身に映せ、《ビフロスト》」
同じように、ボタンを押しながら、機竜を転送するための
契約者の声を認識した銀色の刀身が、光を帯びる。
光の粒子が集まり、純白の機竜が姿を現す。
「・・・・
更に呟くと、瞬時にその装甲が開かれ、ハミアの身体を覆う。
頭、両腕、肩、腰、両脚、そして、翼、武装。
機竜と同じく、
竜を模した機械の装甲は、ハミアと一体化するように装着され、本人の体型より二回りほど大きな、
中でも、神装機竜と呼ばれるそれは、世界でそれぞれ一種しか存在が確認されていない、希少種の
その機体性能は、汎用機竜を遥かに上回る。
だが、同時に精神力と体力の消耗、操作難度もケタ違いだ。
使用時の疲労で死ぬことも珍しくない神装機竜の所持は、新王国の法律で厳しく制限され、相応の実力を持つ者しか、使用は許可されていない。
つまり、この《ティアマト》を扱えること自体が、無二の才能と弛まぬ努力の証明だ。
「
審判の声と同時に、二機の
先に飛翔したのは《ティアマト》を纏ったリーズシャルテだ。
ハミアは二本の
「いきなり撃つの?」
いわゆる、竜の吐く、強烈な炎を
動力たる
だが、発射までに『溜め』を要する分、回避行動までに十分な距離を空けられるか、防御の体勢を取られてしまうことが弱点だ。
現に今のハミアも、十分に回避可能な間合いを取っている。
故に、一対一での開幕早々、狙っていくものではないはずだが。
「ふっ・・・・・!」
そんなハミアの思惑を読んだように、リーズシャルテが笑う。
そして、ハミアに合わせていたキャノンの照準を、すっと、その少し横に逸らし、
ドウンッ!
発射した。
うねりを帯びた高熱の光芒が、上空から地上のリングへ、直線に放たれる。
だが、狙われていないため、動かなければ当たらない。
「はっ」
遥か上空では、リーズシャルテが、ハミアを見下ろして、口元を孤に歪めた。
右手には、たった今発射したキャノン。
そして、左手は、
「ッ!?」
ふいに、大型の
《ビフロスト》ごと、側方に弾かれ、突き飛ばされる。
すなわち、リーズシャルテがあえて照準を逸らして撃った、本来の砲撃。その軌道上へと、ハミアは押し出されたのだ!
「・・・・・へぇ」
完全に虚を突かれた、回避不能のタイミングにもかかわらず、ハミアは笑っていた。
そして、突然リーズシャルテが横に吹き飛ばされ、キャノンも横にずれたことでハミアにはあたらなかった。
「な、何をした!?」
体勢を立て直したリーズシャルテは尋ねてくる。
「何って、同じ事をしただけだよ。自分だけが《
「・・・・くっ!」
神装機竜のみが使える専用の特殊武装。
《
平常時は四つほど機体に装備され、発射したユニットを自在に動かし、直接ぶつけて敵を破壊する。
「でもいい使い方だったよ」
開幕と同時に、リーズシャルテは飛翔しつつ、《
汎用機竜を出力、性能共に上回る神装機竜。
それにいきなり主砲を向けられれば、誰だって意識がそちらに向かう。
更に、側方へ照準を外して発射し、相手にとっての右側を意識させたところに、視界に入らないように迂回させた《
一撃必殺の計略。
一切の容赦もない、悪魔じみた戦術。
「それを淀みなく実行できるとはさすがだよ」
「褒めてくれるのは嬉しいが、貴様の武器が少ない事は忘れていないよな?」
現在のハミアの武器は、手に持っている二本の
肩につけていた
「当然さ。むしろここからだよ」
次の瞬間、リーズシャルテがいきなり、
「《ティアマト》よ!本性を顕せ!」
声と同時に、周囲の観客席で、大きなざわめきが波紋のように広がっていく。
直後、《ティアマト》の周囲にパシッと光が走り、何かが転送されてくる。
普段は負担が大きいため、使用を避けている
さっき構えていたキャノンよりも、さらに二回りほど大きな主砲。
それが《ティアマト》の右肩と右腕部に、連結、接続された。
それは七つの砲口を持つ、巨大な砲身。
女神ティアマトは、魔物の軍勢を生み従え、更に自身も七つ首の竜と化す。
《
絶対の自信と、威圧の笑みを浮かべるリーズシャルテが
「わたしのダンスは少々荒っぽくてな。踊りが得意だと助かるんだ。楽しませてくれよ?」
その周囲には、先程まで四つだった《
どうやらこちらの武装も、
武装の数に比例して、負担や操作何度も倍増するのだが。
「ちょ、ちょっと待ちなさい!リーズシャルテ姫!相手を殺す気ですか!?《ティアマト》の付属武装まで使ったら、いくら手加減しても、模擬戦の域を超えてしまう!」
それを見た監視役の教官たちが、慌てて止めようとするが、
「だ、そうだが?負けを認めるか?」
上空に佇むリーズシャルテの問いに、ハミアは短く、ただ、はっきりと答える。
「言ったでしょ?ここからだって」
「では、見せてみろ!」
リーズシャルテが叫ぶと同時に、
瞬間、くるくると辺りを浮遊していた投擲兵器、計十六機の《
《
すると、辺りを漂っていた二つの《
「あっちゃー。もう無理だよ!先生に言って止めてもらわないと・・・・!」
シャリス、ティルファー、ノクトの三人は、学年こそひとつずつ違うが、学園では
父親が新王国軍の副司令官を務めていることもあり、三年生のシャリスが年長で、リーダー格。遊びも勉強も、楽しんでやってきた。
特に、正義感の強いシャリスは、学園の自警係にも進んで名乗りをあげた身だ。
新王国が設立して、早五年。
男尊女卑の風習は徐々に廃れつつあるものの、人の意識はすぐに変わらない。
新政府そのものや、女性への厚遇に反発し、暴動を起こす人間も後を絶たない。
だからこそ、学園にも時々現れる男の犯罪者から、生徒たちを守ることに、誇りを抱いていたのだが。
「まさか、こんな闘いが起こってしまうとはな」
今となれば、あの騒ぎは自分たちで大きくしてしまったこと。
それについて、三人は少しだけ後悔があった。
ちなみに、
リーズシャルテに神装機竜《ティアマト》を使われた場合、大抵の人間では、まず相手にならない。
更に付属武装まで転送し、全力を出したところなど、一度しか見たことがない。
広いリングの中を縦横無尽に飛び交う無数の
溜めを完了し、一瞬でも動きを止めれば発射される超火力の主砲、《
この二つの圧倒的な力に、神装を使えない機竜などで、抗う術などないはずだ。
「あなたが気に病む必要はないですよ。シャリス先輩」
ふいに、隣にいたルクスの妹、アイリが、そうシャリスに声をかける。
「そうですよ。あの一件は、三人が勝手にやった事なんですから、自業自得です。半端な正義感なんて持っているから、いつも余計な
更に、アイリの隣に座っているラナも声をかけてくる。
「・・・・・以外に面白い子だな、君達は」
その傍観ぶりに、シャリスが苦笑を返したとき、
「でも、そんなどうしようもない兄さんたちにも、ひとつだけ、いいところがあるんですよ」
アイリはそう言って、そっと中央のリングを指差した。
「それは?」
シャリスが聞き返し、リングに視線を移したとき、大きなどよめきと共にそれが見えた。
「一度決めたことは、必ずやり遂げてみせることです」
演習場のリングの中で、激しい熱風が渦巻いていた。
発射された後、それ自身の推進力で攻撃を行う、《
追加された付属武装を含め、計十六機からなるそれが、ハミアの二本の大鎌からの攻撃を迎撃していた。
「ほらほら。何時まで避けてるのさ!」
立て続けに襲ってくる攻撃に、リーズシャルテは避けるか、《
「もらった!」
やっと、ハミアの背後を取り、《七つの竜頭《セブンスヘッズ》》を撃つことができたが、ステップだけで避けられてしまう。
「残念!」
その上、鎌の先端が《
なんとか回避すると、今度は後ろから銃撃を受けた。
リーズシャルテが飛翔して、そちらを見ると、先程まで落ちていたはずの、
よく見れば、
「くッ・・・・・!?」
「どうして《
銃弾を回避しているリーズシャルテの耳にハミアの声が背後から聞こえてきた。
急いで距離を取ろうとするが間に合わず、吹き飛ばされた。
「ぐあッ・・・・・!?」
吹き飛ばされた衝撃で意識が朦朧としている中で、リーズシャルテは考える。
自分が吹き飛ばしたからだ。
では何故、吹き飛ばされたのか?
《ティアマト》の《
その時は、リーズシャルテも吹き飛ばされていた。
つまり最初から
そして、リーズシャルテが《ティアマト》の
遠距離用の武装が多い《ティアマト》では、接近戦が苦手な為、近寄られては《
《
そして、逃げるリーズシャルテを射程範囲まで追い込み、遠隔操作で発砲した。
ハミアの作戦を理解した途端、ハミアが近づいてきた。
「僕の勝ちだ」
そう言って、ハミアが鎌を振りかぶろうとした時、リーズシャルテが話しだした。
「いいだろう!お前の腕に敬意を表し、拝ませてやる!我が《ティアマト》の神装をな!」
「クソッ!」
ハミアが悪態をついて、急いで止めを刺そうとするが、それよりも先にリーズシャルテの声が響いた。
「神の名の下にひれ伏せ!《
瞬間、今まで宙を浮いていた《ビフロスト》とハミアが操っていた武装が、地面にめり込んだ。
神装とは、神装機竜だけに秘められた、特殊能力だ。
その能力は、神装機竜の種類だけ存在すると言われ、個々の正体はほとんど知られていない。
アイリから聞いた情報にも、これはなかった。
気付いた時点で遅かった。
先程まで、ハミアに弾かれていた《
「終わりだな」
それに加えて、《ティアマト》の付属武装、右肩と右足に接続された巨砲。
《
「く・・・・」
《
「なッ?」
ガクン!
と言う音ともに、《ティアマト》を纏ったリーズシャルテが、ぐらりと傾いた。
ほぼ同時に、ハミアと《ビフロスト》にかかっていた重力も解除される。
リーズシャルテは、何が起こったのか把握しきれていない様子で、自分の身に纏った機竜を見つめている。
「まずい!」
神装機竜は汎用機竜と比較して、その操作難度と使い手の消耗が激しいだけでなく、もっと根本的な危険がある。
それは、暴走だ。
身体に纏った装甲を、自分の手足と力加減で動かす肉体操作と、
その二種を巧みに使い分け、通常は操作を行っているのだが、極度の疲労や負担により、使い手のリズムが狂うと、機竜が想定外の行動を取ってしまい、暴走が始まる。
決着を急がなければ、お互いに危険だ。
それを見た瞬間、ハミアは《ビフロスト》の推進出力を最大にして、飛翔した。
「くッ・・・・!?こんな、こんなことで・・・・・・」
リーズシャルテの顔に、明らかな動揺と、憔悴の色が浮かぶ。
だが、瞬時に切り替える。
リーズシャルテは素早く
ハミアの周囲を舞っていた計十六機の《
制御の切断。
他の武装へ分散していた意識と力を集中し、ただ一点の破壊力を選択した。
主砲、《
「わたしが負けるかぁぁああ!」
裂帛の叫びと同時に、《ティアマト》が制御下に戻った。
上昇して斬りかかるハミアと、眼下に狙いを定めるリーズシャルテ。
二人の戦いが最高潮に達した瞬間。
決して起こるはずのない、異変が起きた。
ギィイイイイイエエエエエェェェェエェェェェアアアアッ!
「・・・・・!?この声は!」
雲を縦に貫き、獣の絶叫が降りてくる。
演習場の高い空から、人ならざる闖入者が、突っ込んで来た。
次回も早めに投稿するつもりです。