色を持たない機竜   作:怠惰ご都合

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一ヶ月ぶりの投稿になります。


事は予想外に起こる

 機竜使い(ドラグナイト)が敵として警戒しているのは、同じ機竜使い(ドラグナイト)だけではない。

 それよりもよほど気をつけなくてはならない、人の天敵が、今の世界には存在する。

 幻神獣(アビス)

 十余年前、機竜が発見された遺跡(ルイン)から時折現れるようになった、謎の幻獣。

 その種類は無数にあり、見つけた人間や動物を見境なく襲うと言われている。

 獣と違うのは、その尋常ならざる強さと、不可解な生態、そして特殊能力だ。

 故に、ほとんどの大国では、遺跡(ルイン)の近くに砦や関所、城塞都市を幾重にも置き、機竜使い(ドラグナイト)を配備して、不測の事態に備えている。

 この城塞都市(クロスフィード)も王都と遺跡(ルイン)の間にある、防衛拠点も兼ねた都市なのだ。

 さらに、人が注意しなければいけない存在は、もう一種いる。

 二十五年前、何の前触れもなく世界に出現した超巨大生物。

 ただ移動するだけで甚大な被害をまき散らす、ひたすらに巨大なモノ、ドラゴン。

 そして、常識外の怪物が現れると、同時に人間の中にドラゴンと同様の力を持ち、ドラゴンに対抗する”D”と呼ばれる存在が現れた。

そんな ”D”はドラゴンを討伐するために、王立士官学園(アカデミー)の中にある教育機関『ミッドガル』で日々訓練している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「キャアアアァァァァッ!?」

 

 観客席にも自分以外の”D”がいるのか、悠は考え、同時に安心してしまっていた。

 ドラゴンは出現していない。今、迫っているのは幻神獣(アビス)だけだ。仮に、ドラゴンまで現れていたら、被害は現状よりも酷い事になっているのだから。

 だが、危険であることには変わりない、そう考えた悠は立ちあがって、隣にいるルクスを見た。

 彼も立っていたから考える事は同じなのだろう。

 丁度その時、ノクトの《ドレイク》から、ハミアの声が竜声で聞こえてきた。

 

 『ルクス、悠、聞こえているな?今からあのガーゴイル型を足止めする!悠はプラズマ化させた空気圧(エアー・ブリッド)を撃て!ルクスは《ワイバーン》を纏え!悠の準備が終わるまで一緒に時間稼ぐぞ!マギアルカさんは監督官の人と一緒に士官候補生達を避難させて!』

 

 それだけ言うとハミアは竜声の通信を断ち、リーズシャルテに一言告げて、ガーゴイルへと向かって行った。

 

 「来たれ、力の象徴たる紋章の翼竜。我が剣に従い飛翔せよ、《ワイバーン》」

 

 ルクスはすぐに《ワイバーン》を纏い、ハミアの隣へと寄って行く。

 それを見ていた悠も、意識を集中して、上位元素(ダークマター)を生成、その形態を変化させる。

 右手の中に現れるのは、空気のように軽い大口径の装飾銃。

 決闘前の対策で深月が描いてくれたラフスケッチを参考にした悠の架空武装、ジークフリートだ。

 悠は他の”D”と違って、上位元素(ダークマター)生成量は著しく少ない。

 平均は十トンなのだが、彼の場合は十キロなのだ。

 故に、ジークフリートの使用は数回が限度。

 だが、今はそんなことは気にせず、イメージを練り上げる。

 ゆっくりとトリガーに指を掛けながら、イメージを伝導させる。

 準備が終わり、いつでも撃てる事をハミアに伝えようとするが、ガーゴイルの翼から羽型の光弾が放たれ、自分に迫って来る。

 

 

 

 

 

 

 ガーゴイルが羽型の光弾をばらまき、無数の爆発が起きた直後。

 観客席とその周囲は、恐慌と混乱に包まれていた。

 

 「ねえ、抜剣の許可はまだ下りないの!?」

 

 「救援はまだなの!?警備隊は何をしているのよ!?」

 

 「ど、どうして三年生が演習なんかに行ってる、こんな時に・・・・・」

 

 「全員よく聞け!帯剣している生徒は全員抜剣だ!七分の力で、頭上に防壁を展開しろ。剣を持たない生徒の壁になれ!敵の始末はこちららでやる。今は幻神獣(アビス)に手を出すな!」

 

 初めての実戦に、狼狽する女生徒たち、叱咤する教官。

 それを離れて眺めながら、三和音(トライアド)の三人と、アイリ、ラナが集まっていた。

 アイリは身体が弱く、文官志望であるため、機攻殻剣(ソード・デバイス)装甲機竜(ドラグライド)を持っていない。また、ラナも文官志望のため、同じである。

 故に、二人を守るように、三人が機竜を身に纏い、上部に障壁を張っていた。

 

 「やれやれ、やはりまだ候補生らしく、皆さん突発的な騒動(トラブル)には弱いんですね」

 

 アイリが周囲を見回しつつ、ため息をつく。

 それを見たノクトは、アイリの言葉を肯定する。

 

 「Yes.ですが、無理もないかと。幻神獣(アビス)一体と汎用機竜で戦闘をする場合、最低でも上級階層(ハイクラス)の使い手が三名、中級(ミドル)なら七名が必要。下級(ロウ)ならば十数名以上を以て、撤退か拠点防衛のみの交戦が可能と言われています。ましてや、不意を突かれた、この状況では・・・・」

 

 「確かにね」

 

 蒼髪の凛々しい少女、シャリスは周囲を見渡して同意する。

 

 「戦闘可能な生徒たちにも、待機と防御を命じて正解だよ。幻神獣(アビス)の力を見て、動揺してしまった生徒など、使い物にならない。一度恐怖に侵食された兵は、そのとき戦闘に参加してはならないのさ。私の父が言っていたよ」

 

 「まあ、あの三人なら心配しなくてもいいでしょう」

 

 ラナは空を見上げて呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 悠は光弾が迫って来た瞬間、死を覚悟した。

 だが、いつまでたっても衝撃が来ない。

 目を開けると、マギアルカが《エクス・ドレイク》で機竜咆哮(ハウリングロア)を展開していた。

 幻創機核(フォース・コア)から発生させた衝撃波により、敵の投擲攻撃を弾く、機竜使い(ドラグライド)基本技術(スキル)

 それにより攻撃が逸れ、自分には当たらなかった事を理解した。

 

 「間に合ったようじゃの」

 

 「ありがとうございます」

 

 「うむ。ハミアから聞いておる。タイミングは任せるそうだ」

 

 「そうですか。では今から撃つと伝えてください」

 

 マギアルカは頷くと、竜声の通信を開いた。 

 

 『ハミア、今から撃つそうじゃ』

 

 『よし、頼んだぞ』

 

 通信が終わると、マギアルカは悠の横に並ぶ。

 どうやら、護衛をしてくれるらしい。

 しかし、ガーゴイルはハミアとルクスの二人と戦っている為に、狙いが定まらない。

 そして、ガーゴイルは観客席に狙い、砲撃を行おうとする。

 ハミアが急いで、大鎌を振り、ルクスも機竜牙剣(ブレード)を上段に振りかぶったその時、ガーゴイルは砲撃をやめ、くるっと、反転した。

 ガーゴイル種は、高い知能を持つ幻神獣(アビス)

 短い攻防で、二人の実力を把握し、その戦いの意図を呼んでいた。

 ハミアとルクスの行動目的は、観客席の生徒たちを守るための動き。

 それを認識したガーゴイルは、あえて生徒たちを狙うと見せかけ、二人の隙を誘った。

 

 「くっ・・・・・!?」

 

 「しまった・・・・・!?」

 

 全力を込めた二人の斬撃が、虚しく空を切る。

 二人はガーゴイルの前で、完全なる隙を晒してしまった。

 ガーゴイルが爪で攻撃しようとしてくる。

 そうはさせまいと、悠はトリガーを引いた。

 プラズマ化した弾はガーゴイルに当たり、動きを封じる。

 

 それを見ていたリーズシャルテ微笑を浮かべる。 

 

 「守りが堅いものが隙を晒したら、全力を掛けてでも一撃で仕留める、か。確かに、定石(セオリー)だな化け物。だが、人数を数え間違えたな。私たちは四人だぞ?」

 

 「ギ!?」

 

 ガーゴイルの動揺が、極大の閃光にかき消された。

 《七つの竜頭(セブンスヘッズ)》。

 リーズシャルテの駆る神装機竜《ティアマト》が持つ、最強主砲。

 砲口から放たれた七筋に光柱が、強固な金属の身体をぶち抜き、粉砕した。

 

 ァァァアアアァァアアアアアアッ!

 

 断末魔の残響をまき散らし、ガーゴイルが爆散した。

 パラパラと、黒い金属の破片が降り注ぐ中で、三機の機竜が宙に浮いている。

 悪鬼の敗北と戻った平和に、待避していた女生徒たちから、安堵の歓声が上がった。

 

「何故、あれほど冷静でいられる?」

 

 リーズシャルテは《ティアマト》の接続を解除して、尋ねる。

 

 『砲撃の合図は、ガーゴイルの動きが止まった直後だ』

 

 竜声の通信でハミアが最初に言っていた、あの一言。

 つまり、ガーゴイルが二人を出し抜いたと思ったあの駆け引きそのものが、完全にハミアの描いたシナリオだった。

 二対一で攻撃し、『こいつらは邪魔だ』と思わせたことも。

 眼下の観客を守るような、戦いでの立ち回りも。

 全て、自分たちに渾身の一撃を叩き込ませ、リーズシャルテにその隙を突かせるため。

 

 「自分が冷静に状況を対処しなきゃ、周りを守れないからさ」

 

 「二人を信じていますから」

 

 機竜の接続を解除した二人が答えてくる。

 

 「やはり馬鹿だな、お前たちは」

 

 毒気の抜けた無垢な笑顔で、リーズシャルテは天を仰いだ。

 そして、二人に向かって、リーズシャルテは息を吸った。

 

 「話しておきたいことがあるから、医務室に行っててくれ」

 

 「分かった。悠、行こう!」

 

 ハミアは返事をして、悠を呼ぶと、リングを出て行った。

 

 

 

 

 

 

 模擬戦の後に、湯浴みをするのは、リーズシャルテの日課だ。

 戦闘の後は精神が昂ぶる。

 もちろん、夕刻まで大浴場全体分のお湯を沸かすわけにもいかないから、自分一人分のお湯を桶に汲んで、洗い場で汗を流すだけだ。

 無駄のない、しかし、年頃の少女らしい起伏のある肌の上を、熱い水滴が流れ落ちて行く。

 

 「ふぅう・・・・・」

 

 軽くお湯を全身にかけると、リーズシャルテは頬を染めて、悩ましい吐息を漏らした。

 戦闘直後の高揚感、勝利の満足感。

 そういったものなら、今までに何回も味わってきた。

 しかし、今日の感覚は、そのどれとも違った。

 

 「わたしを助けようと戦ってくれる男がいるとはな・・・・」

 

 新王国が設立され、その王女となったリーズシャルテにとって、旧帝国の象徴である『男』など自分の敵、あるいは、踏み台に過ぎない存在だと思っていた。

 旧帝国へのクーデターを計画した自分の父親からすらも、愛情を感じたことはない。

 恋愛感情などというのも、一度も抱いたことはなかった。

 そして、自分の下腹部、へそのすぐ下を指先で撫でながら、リーズシャルテは、もどかしい気持ちになる。

 知られてはならない秘密だったのに、今では嬉しいとすら思えるのが、不思議だった。

 お湯を含ませたタオルで、少女は自分の体を拭う。

 

 「ん、ふぁ・・・・」

 

 何気なくその手が、自分の胸に触れた時、とくん。という、甘い高鳴りを感じた。

 

 「ルクス・アーカディア、か」 

 

 形のいい少女の唇が、呟くと自然に綻んだ。

 

 「男の中にも、頼もしいヤツがいるんだな・・・・」

 

 その一言で、リーズシャルテは、自分の感情に気づいた。

 初めて、『人』で、欲しいものを見つけたのだと。

 

 

 

 

 

 

 あの時の行動が正しかったのか、今でも分からない。

 六年前。クーデターが起きる前年に、ルクスが宮廷へ向かったときの光景を。

 世界最大の大国、アーカディア帝国。

 帝都にある王宮の、離れの屋敷。

 その緑が溢れる中庭で、ルクスは空を仰いでいた。

 

 「久々に帝都に来たというのに、随分と浮かない顔だね。賢弟よ」

 

 大理石の柱に背を預けて立っていた銀髪の青年、第一皇子のフギルが苦笑する。

 ルクスの腹違いである長兄だが、事故による怪我と病気で、既に第一線を退いていた。

 故に、事情により同じく宮廷を追い出されていたルクスと、中の良い間柄だったのだ。

 

 「僕が、間違っていたんでしょうか?」

 

 視線を水面に置き、ルクスは呟く。

 王族の外套(マント)を身に纏った少年の表情は、冷たく凍りついていた。

 

 「いや、お前はよくやったさ」

 

 穏やかな口調で、フギルは答える。

 

 「帝国史上最年少で、機竜使い(ドラグナイト)の免許を取った栄誉。その表象の為に宮廷に招かれた機会を利用し、お前が父上に、皇帝陛下に奏上した手腕は見事だった。とても、十二になったばかりとは思えないよ」

 

 男尊女卑の制度強化法案。軍事拡大による重税。貧しい市民を使った、劇薬の人体実験。

 そのすべてを取りやめてほしいという申し立てを、ルクスはしてきたのだ。

 だが、その願いが聞き届けられる事はなかった。

 

 「お前の疑問ももっともだよ、ルクス。この帝国は完全に、間違った方向へと加速してしまった。」

 

 「・・・・」

 

 長兄、フギルの同意にも、ルクスは顔色を変えない。

 最大の機会を奪われてなお、悲憤も落胆も見せない弟に、フギルは言葉を続けた。

 

 「君の妹君も二ヶ月後に、辺境伯のところへ行くことになったらしいな。可哀そうに、あの事件で母を失った後、あの子も病に伏したままだというのに・・・・」

 

 「・・・・」

 

 「役割は、辺境警備の軍の士気向上、及び、外交目的辺りか?陛下のやり方は露骨だ。逆らえば、身内にも容赦ない」

 

 「兄さんは、どう思いますか?この帝国(くに)の状況を」

 

 ルクスはフギルに顔を向け、問いかける。

 幼さの残る、愛らしい少年の表情はなく、そこには、別の顔が浮かんでいた。

 それは、人ならざる支配者の微笑。

 倫理と感情を排した、超越者の笑みだった。

 

 「今の帝国は腐敗に塗れています。汚職、格差、圧制、重税、弾圧。一度狂った歯車は止まることなく加速している。皇帝陛下と重臣たちは、僕の奏上に耳を傾けもしなかった」

 

 淡々と。

 ルクスは静かな口調で、言葉を紡ぐ。

 

 「なのに、誰も止めようとはしない。誰も正そうとはしない。権能を持つ血筋の人間はおろか、ほかの重臣や領主たちすらも」

 

 「・・・・・そうだね」

 

 淡々と吐き出されたその事実に、フギルは相槌を打つ。

 

 「民草の生活を顧みず、不正を正さず、己が責務をも全うしない。奪い、押しつけ、貪るだけの貴族たち。確かに彼らは『人の上に立つ』誇りを失ってしまった。その部下と係累ですらがそうだ。今の貴族たちの腐敗は、彼ら自身も知っているはずだ。だけど、自分が搾取する側に、恩恵を受けられる側に回ってしまえば、その利益や立場を投げうってまで、人を救おうなどとは思わない。『他人の理不尽な不幸』など、いくらでも許容できてしまうんだよ」

 

 「・・・・・」

 

 フギルの言葉に、ルクスは微かに頷いた後、

 

 「ええ・・・・。だからもう、この帝国(くに)は、世界はもう、変わらない。変えられない。帝国軍が装甲機竜(ドラグライド)を独占している以上、反乱など悲劇の上塗りに過ぎません。抵抗とすら呼べない虐殺の話を、僕はいくつも耳にしました」

 

 「ああ。だが、今の俺たちでは、どうする事も・・・・」

 

 「いえ、それは違うと思います」

 

 諦観するフギルの言葉を遮って、ルクスがはっきりと告げた。

 

 「だから、お話があるんです。聞いていただけますか?そのために僕は今日、この帝都まで来たんです」

 

 影を帯びたルクスの笑顔と、困惑した顔のフギル。

 その光景がぼやけて消えて行く。

 

 その時、ハミアの声が聞こえた。

 

 「あの時、ルクスが取った行動は正しかったんだ!」

 

 どうやら、考えているうちに医務室に到着したらしい。

 

 「でも、僕があんなことをしたせいで、多くの人が・・・・」

 

 「けど、そのおかげで助かった人が大勢いるのを俺たちは知ってるだろ?」

 

 ルクスの言葉を遮って、悠が今までに自分たちが見てきた事を問いかけてくる。

 

 「うん」

 

 「なら、今はその人たちの為に頑張るんだ」

 

 「ありがとう、二人とも」

 

 そして、三人はリーズシャルテが来るまで、話をしていた。

 

 

 

 

 

 

 「待たせたな」 

 

 三人が話をして数分後、リーズシャルテが医務室に入ってきた。

 

 「それで、話って何ですか?」

 

 リーズシャルテが椅子に座ったのを確認して、ルクスが尋ねた。

 

 「お前たちはわたしを、わたしたちを守ってくれた。それだけで納得しておこう」

 

 「結構さっぱりした方なんですね。姫様は」

 

 ルクスがぎこちない笑顔を浮かべて言うと、

 

 「ああ、そうだぞ。わたしはとても、実力のあるものには寛大で、鷹揚なお姫様なんだ」

 

 リーズシャルテは嬉しそうに、愛らしい笑みを返してきた。

 彼女が少し前まで三人に抱いていた警戒と敵意は、すっかり消えてなくなったらしい。

 幼いというより、純真無垢で正直な態度が、清々しかった。

 

 「うんうん。なかなか使えるヤツらだな」

 

 と、どこか頬を赤らめて頷く姫君に、三人はほっと、安堵の息をつくと

 

 「よし。わたしはお前たちを全面的に信じよう。だから、約束を果たしてやる」

 

 リーズシャルテはいきなり立ち上がり、そんなことを言ってきた。

 

 「約束?」

 

 「い、言っただろ?わたしが決闘を仕掛けた理由だ。アレを見られたからには、そのまま逃がすわけにはいかなかったんだ」

 

 「あ。すみません、全部見ちゃって。・・・・でも、綺麗でしたよ?」

 

 「お、思い出させるなアホ王子ッ!」

 

 赤くなったリーズシャルテにタオルを投げられて、ルクスは視界を塞がれた。

 失礼なことを言っちゃったのかな?

 相変わらず、女の子との話し方はよくわからない。

 そう思って、ルクスが目の前のタオルを取ると、

 

 「こ、これのことだ」

 

 信じられない光景が、目の前に広がっていた。

 窓から差し込む夕陽の中で、リーズシャルテの肌が見えていた。

 制服のブラウスを上まで捲り上げ、スカートをおろし、ほんの少しだけ、下着をずりさげ、めくれさせている。

 まるで、見て欲しいとでも言うように。

 西日のせいだけじゃなく、目を逸らしたリーズシャルテの頬は、羞恥で赤くなっていた。

 

 「・・・・そういうわけだ。これが決闘を挑んだ本当の理由だ。あのとき風呂場で、これを見られたから・・・・」

 

 「・・・・」

 

 幼さの残る体つきに、確かな成長に兆しを示す、少女の生々しい丸み。

 その未成熟な美しさに、ルクスは完全に目を奪われていた。

 

 「な、何を黙っているっ!?なんとか言ったらどうだ!?」

 

 「っ・・・・!あ、あの、その・・・」

 

 完全に我を忘れつつ、ルクスは考える。

 そうだ。あのとき雑用をした酒場で教わった話術(テクニック)を使おう。

 女の子を褒める時は、まず、本人と服の相性を・・・。

 

 「その、とてもよく似合ってますよ。その白い下着・・・・」

 

 「うわあぁああ!?アホかお前っ!?ドエロ!死ねっ!」

 

 「ルクス、酒場での事は忘れよう」

 

 「賛成だ。俺もフォローできない」

 

 隣ではハミアと悠が,呆れていた。

 また失敗したよ!もうあそこで得た知識は忘れよう・・・・・。

 ルクスが後悔しているうちに、顔から火を噴いたリーズシャルテが、慌ててスカートを引き上げる。

 だが、ルクスには、それ以外のものもしっかり見えていた。

 

 「その紋章は・・・・、もしかして旧帝国の?」

 

 「・・・・・や、やっと気づいたか?ということは、まだ誰にも、このことは言っていないんだな?」

 

 ルクスが頷くと、服を直したリーズシャルテは、椅子に座った。

 黒い竜を象った、旧帝国の紋章。

 その烙印がリーズシャルテのへその下、下腹部にあったのだ。

 

 「いったいどうして・・・・」

 

 「それはまだ教えられない。だけど、この紋章のことは、誰にも言わないでくれ。お願いだ。約束してくれるか?」

 

 「・・・・・」

 

 新王国の姫の身体に、旧帝国の印がある。

 裏切りの証か、あるいは血統の詐称なのか。

 誰かに知られれば、あらぬ疑いを招きかねない事実だが、ルクスは疑問より先に、リーズシャルテのことが気になった。

 口を噤んでうつむいたリーズシャルテからは、必死さが伝わって来た。

 見逃して欲しい・・・ではなく、信じて欲しい。

 そう、心で言っている気がした。

 きっと、後ろめたい、単純な書く仕事ではないのだ。

 ルクス自身とて、そういう過去がある。

 だからわかる。

 この子にはたぶん、悪いところはない。

 

 「大丈夫です。誰にも言いませんよ」

 

 「本当か?誓えるか?」

 

 「はい。僕の持つ、機攻殻剣(ソード・デバイス)に誓います」

 

 ルクスは姿勢を正して、そっと頭を下げる。

 リーズシャルテはルクスの隣に立っているハミアと悠を見つめる。

 

 「僕も誓うよ」

 

 「俺もさ」

 

 それを聞いたリーズシャルテは、ほっと息を漏らし、笑顔を見せた。

 

 「よかった。最初はあの決闘で、一度地下の牢獄に監禁してから、いろいろと尋問するつもりだったんだ」

 

 「えー・・・・・えええええっ!?」

 

 僕たちをボコボコにして医務室送りにしてから、監禁して問い質すつもりだったのか!

 

 「ハミア、助かった」

 

 「い、いや。僕もそこまでは想定してなかった」

 

 二人の意見に同感だ。

 お姫様の発想じゃない。

 結構大雑把だ、この子・・・・・。

 

 「よし。ではこの件は一件落着だ。というわけで、お前たちには明日から、正式にこの学園に来てもらうぞ」

 

 「あ、そういう話でしたね。元々は・・・・」

 

 学園長のレリィに依頼された、機竜整備士見習いの任務。

 色々あったけれど、ようやく本来の雑用仕事に戻れる。

 ルクスがそう、胸を撫で下ろしたとき、

 

 「あ。ちなみに整備士見習いの雑用は解約させたからな?明日からお前たちは、うちの学園に、士官候補生の生徒として通ってもらう。物部悠は”D”としてな」

 

 「あ、はい。わかりました」

 

 生返事で答えた数秒後、ルクスはその意味を反芻して、

 

 「って、えぇぇえええええッ!?」

 

 思わず、叫び声を上げる。

 

 「じょ、冗談ですよね・・・・?だって、僕たちはそもそも男・・・・・・」

 

 「そ、それと、私の事は級友らしく『リーシャ』と呼んでくれ。これも約束だ」

 

 どうやら、完全に本気らしい。

 

 「まあ、俺はそのつもりだったしな」

 

 「・・・・・・・」

 

 悠は納得しているが、ハミアの声は聞こえない。

 横を見てみると、姿がない。

 その時、ドアの開く音をルクスは聞いた。

 悠と目で合図して、ハミアの腕を掴む。

 

 「ハミア?」

 

 「どこに行くつもりだ?」

 

 「・・・・・・放してくれないかな?用事を思い出したんだけど・・・・」

 

 「これからよろしくな、ハミア」

 

 リーズシャルテが笑顔で迫って来る。距離を取ろうとするがルクスと悠に両腕を掴まれている為、部屋から出られない。

 さらにドアを閉められてしまい、ハミアは素直に、学園に通うしかなかった。




気付いたら八千時超えていました。
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