色を持たない機竜   作:怠惰ご都合

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男子三人が大変そう・・・・


編入後

「・・・・というわけで、彼らが今日からこの学園に通うことになった、ルクス・アーカディアとハミア・レン・ヴァンフリークだ。皆、慣れないことも多々あるだろうが、よろしく頼む」

 

 翌日。

 学園の校舎二階、二年生の教室の朝。

 担当クラスの女教官、ライグリィ・バルハートの紹介を受け、ルクスとハミアはなんともいえない表情を作った。

 ライグリィは、旧帝国時代、女性の身でありながら、唯一の機竜使い(ドラグナイト)として活躍し、クーデターでは、女性の味方として新王国側についた。

 更には、その美貌と凛とした性格も含め、女生徒達の間では、無二の人気を誇っているらしい。

 そんな教官の担当するクラスに入れたのは、ある種の幸運かもしれなかった。

 二人が士官候補生の女生徒であれば、だが。

 

 「・・・・・」

 

 「・・・・・」

 

 昨晩、女子寮には空き部屋がなかったので、結局男子三人は医務室に泊まり、今一つ寝つけない一夜を過ごした。

 今までに様々な事を体験してきたルクスにとって一番しんどいのは『場違い』であることだと、この教室を見て、ひしひしと感じていた。

 ハミアも同じ思いだろう。

 リーシャの強引さもさることながら、『将来の共学化を検討しての試験入学』として、仮入学ながら許可を出した学園長のレリィも、はっきりいってどうかと思った。

 

 「なんで女学園なのに、簡単に許可しちゃうんだよ・・・・・・」

 

 「絶対楽しんでるって・・・・・・」

 

 ハミアも似たような事を言っている。

 レリィは昔からあんな性格だとルクスは知っているが、さすがに自由過ぎる。

 

 「えっと、ルクス・アーカディアです。よろしくお願いします・・・・・」

 

 「ハミア・ゼン・ヴァンフリークです。よろしく」

 

 とりあえず、ぎこちなく挨拶をする。

 何気に同じクラスだったリーシャは昨日の疲れがあるのか、二人に助け船を出すどころか、自分が眠そうに舟を漕いでいた。

 小さなざわめきとひそひそ声が、教室の中に満ちている。

 当然だ。

 五年前に体制が変わったとはいえ、彼女たちにとって『男』は未だに警戒の対象。加えてルクスは、元とはいえ、男尊女卑の風潮を敷いてきた旧帝国の皇子。

 

 「ああ・・・・、帰りたい」

 

 「それについては同感だけど、悠の方がもっと辛いと思う」

 

 「そうだよね」

 

「そしてもう一人。今日から特別講師としてこのクラスに来てくれる人を紹介する」

 

 「・・・・嫌な予感」

 

 「・・・・うん。さすがに僕も読めたよ」

 

 教室のドアを勢いよく開けたのは二人が予想した通りの人物。

 

 「マギアルカ・ゼン・ヴァンフリークじゃ。これからよろしく頼むぞ」

 

 「キャアアアァァアッ!」

 

 教室全体が騒ぐ中、男子二人は溜め息ついていた。

 

 「レリィさんって何なの?」

 

 「ごめん、僕にも理解できない」

 

 「・・・・・あ。ルーちゃんだ」

 

 二人が小声で話し合っていると、ふいにそんな声が聞こえた。

 

 「え?」

 

 教室の窓際の席にいた、桜色の髪を持つ少女。

 ふわりとした髪は、二つのリボンでまとめられ、少女のぼんやりとした雰囲気、よく合っている。

 そして、制服を大きく押し上げている豊かな胸が、どこか幼さの残る少女に、不思議な魅力をもたらしていた。

 

 「久しぶり、だね」

 

 柔らかな声で、少女はルクスに微笑みかける。

 その間延びした喋り方と、独特の雰囲気にルクスは覚えがあった。

 

 「えっと、もしかして、フィルフィ・・・・・?」

 

 「うん、そうだよ」

 

 ルクスの問いに、少女が頷き、確信する。

 フィルフィ・アイングラム。

 大商家、アイングラム財閥の次女にして、ルクスの幼馴染でもある少女。

 更には、学園長レリィ・アイングラムの実妹だ。

 実際に会うのは、七年ぶりだろうか。

 当時、旧帝国とつき合いのあったアイングラム家で、歳が同じということもあり、幼い頃はよく一緒い遊んでいたことを、ルクスは覚えている。

 

 「学園に通うんだ?嬉しいな。よろしくね、ルーちゃん」

 

 フィルフィはあんまり嬉しくなさそうな棒読みで、挨拶してくる。

 棒読みだが、もともとフィルフィは感情表現が苦手な女の子だということを、ルクスは知っている。

 そして、口数がそう多くない分、正直な性格だということも。

 だからこう見えて、本気で喜んでくれているのだろう。

 

 「あ、うん。こちらこそ、よろしく」

 

 「よし、ルクス。お前の席はその子の隣だ」

 

 「じゃあ僕はルクスの後ろの席に座ります」

 

 「いいだろう」

 

 ハミアはライグリィから許可をもらうと席に着いた。

 緊張しっぱなしだったルクスだが、幼馴染の隣に座って、初めてほっと息をつく。

 少しでも話し相手になってくれそうな友達がいたことで安心する。

 昨日から色々疲れていたルクスは、安堵に頬を緩ませつつ、隣に座る幼馴染の少女を見る。

 

 「あの、教科書一緒に見せてくれない?」

 

 「・・・・・・」

 

 ルクスがそういった瞬間、プイッと、フィルフィは真顔のままそっぽを向いた。

 

 「えっ・・・・?」

 

 「フィーちゃん、でしょ?」

 

 「・・・・・えっ?ここでその呼び方で呼ぶのッ?」

 

 「・・・・・」

 

 こくっと、フィルフィが頷いて肯定する。

 ルクスは冷や汗と共に、思い出した。

 フィルフィは、昔から気に入った相手に対しては誰でも愛称で呼び、呼ぶように求めてきた事を。

 ルクスも、幼い頃はとても仲がよかったので、そうしていたのだけど。

 

 「き、気持は嬉しいけど、さすがにここでそれはさ・・・・。一応ほら、僕たちもう、いい歳なんだし、士官候補生なんだし、学園なんだし・・・・」

 

 というか、見知らぬ同級生たちの前でというのが、一番恥ずかしかった。

 その辺の事情を察してくれないかな。と、期待していたルクスだったが。

 

 「・・・・・」

 

 プイッ。

 言い訳するルクスを見て、フィルフィは再びそっぽを向く。

 ざわざわ、とクラスメイトたちのどよめきが、聞こえてきた。

 

 「皆、騒ぐな。授業を始めるぞ」

 

 ライグリィの声で、教室はいったん落ち着きを取り戻す。

 

 「フィルフィさん?」

 

 「・・・・」

 

 「フィ、フィルフィ。こ、これくらいでいいでしょ?ほ、ほら、今は授業中だしさ・・・・・」

 

 「・・・・・・」

 

 「ねえ、フィーちゃん。教科書一緒に見せてもらってもいいかな・・・?」

 

 「うん、いいよ」

 

 その瞬間、くすくすと、教室中から笑い声が漏れる。

 

 「かわいー」

 

 「フィーちゃんだって」

 

 「あの二人、そういう仲だったんだ?」

 

 そんな声がいくつも聞こえ、ルクスは顔が真っ赤になった。

 は、恥ずかしすぎるっ・・・・!

 何だよこれっ!?

 どんな状況だよッ!

 

 「く、くくく・・・・」

 

 ついでに気真面目そうなライグリィ教官まで、笑いを押し殺していた。

 

 「ル、ルーちゃんって。くく、顔真っ赤だし・・・・」

 

 ハミアは隠そうともしなかった。

 ルクスは今すぐ逃げ出したい衝動を堪えて、どうにか授業を受ける。

 

 「・・・・むぅ」

 

 目を覚まして、その様子を不機嫌そうに見ているリーシャ。

 そして、もうひとりの女生徒の視線に、ルクスは気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・・・であるからして、彼は男性である前に”D”、つまり私たちの数少ない同胞なのです。性別で区分することなく、仲間として受け入れることこそ、われわれが高い社会知識を持つ人類であることの証明だと・・・・」

 

 ここは王立士官学園(アカデミー)にある体育館。

 ”D”である生徒が整列し、壁際には教職員が並んでいる。視線が向けられた壇上で、深月はマイクを通して語っていた。

 俺はその隣に立っている。身に着けているのは学園の制服。デザインは他の生徒に近いが、俺のものは当然男子用だ。サイズは気味が悪いほどぴったりだった。

 

 「・・・・・もちろん、それでも不安に思われることは多いと思います。ですから私は皆さんの生活のために、全力を尽くすとお約束いたします。彼は私の兄ですが、身内であるからこそ、問題を起こした場合はより厳しい処分を・・・・・」

 

 今行われているのは、俺のミッドガル転入に関する説明を行うための集会だ。

 医務室で一夜を過ごした俺は、早朝に叩き起こされるや、この場所に連れてこられた。

 壇上に深月と共に立った時、好奇の視線が一斉に注がれたのだが、今はその全てが深月の方を向いている。誰もが熱心に、深月の話を聞いていた。私語は一切ない。

 

 「生徒会長か・・・・」

 

 俺は胸の内で感心する。皆の尊敬と信頼を勝ち得ていることが、この雰囲気だけで感じ取れた。

 深月へ熱い視線を注ぐ生徒たちを見回す。数はそれほど多くない。暇なので数えてみたが、全部で六十五人だった。五人から九人の列が九つ。それが教室の数かもしれない。

 ミッドガルでの教室分けは戦闘時の班分けを兼ねた小人数制だと聞いたことがあった。

 昨日一悶着あった銀髪の少女、イリスは一番端、五人の列にいる。そこだけ著しく数が少ないのは深月が抜けているからだろう。確か二人ともブリュンヒルデ教室だと言っていた。

 

 「・・・・・皆さんが彼を温かく迎えてくれることを私は期待しています。そして彼にも我々の誠意と信頼に答えることを求めて行きます。ですからどうぞ彼を、兄をよろしくお願いします」

 

 深々と頭を下げ、演説を締めくくる深月。すぐに大きな拍手が体育館の中に鳴り響いた。

 

 「さあ、兄さん」

 

 鳴り止まない拍手の中、深月が俺にマイクを譲る。

 

 「えっと・・・・物部悠です。不束者ですが、よろしくお願いします」

 

 我ながら情けないが、緊張でそんな程度のことしか言えなかった。

 だが拍手は一層大きくなる。

 

 「よろしくねー!」

 

 「私たちがついてるよ!」

 

 温かい言葉に心の中で感謝する。 

 本来ならば、男が入学することに対する抵抗感はかなり大きかったはずだ。だが深月はそんな皆の意識を十分程度の演説で変えてしまった。

 二人で一礼し、舞台の袖に引っ込んだ後、深月は長く息を吐いて微笑む。

 

 「これで学園全体の雰囲気は兄さんに好意的なものになるでしょう。でも、不束者では困りますよ」

 

 「あ、ああ、分かってる。深月に迷惑は掛けないように心掛けるよ」

 

 「言っておきが、これから兄さんが配属される教室は問題児揃いです。私の言葉もどれほど届いたのか自信がありません。受け入れてもらうには兄さん自身の努力が必要な事を、忘れないでください」

 

 俺の返事が上の空に聞こえたのか、深月は疑わし気俺を上目遣いで見て忠告したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 悠が自己紹介をしている頃、ルクスとハミアは授業の小休止の度に質問攻めに遭っていた。机の前に集まってくる女生徒の数が、祭りのように増えていた。

 

 「ねえねえ、フィルフィちゃんとルクスくんって、もしかして婚約者だったりするの?」

 

 「『雑用王子』って、普段はどんなお仕事をしているんですの?」

 

 「男の人って、装甲機竜(ドラグライド)の使い方はうまいの?適性率は、本来女性の方が上だって聞いたけど・・・・」

 

 「ハミアくんって女の子みたい」

 

 「髪もきれ~い」

 

 「ズボンよりスカートが似合いそうよねぇ」

 

 王女であるリーシャとの決闘、そして幻神獣(アビス)の撃退。幸か不幸か、風呂場に乱入した悪印象はすっかり拭われ、男子に対する興味と好感だけが、生徒たちに残ったらしい。

 

 「ねえハミア、想像と違うんだけど」

 

 「・・ああ。正直言って、逃げ出したい」

 

 貴族のお譲様たちが通う、士官候補生の学園。

 あまりにもくだけた

 

 「ルクスくん。そういえば雑用のお仕事も、まだやってるんだよね?」

 

 「えっと。はい、まあ・・・・・、僕の義務なので」

 

 自席を囲む女生徒のひとりに聞かれ、そう返事すると、

 

 「じゃ、私が頼めば、ルクスくんがここで『お仕事』してくれるんだ。よーし、さっそく頼んじゃおうかな」

 

 「あっ、ずるいずるい。私も頼みたかったのに!」

 

 「ルクスさん。そんなことより、わたくしと一緒にお茶でもいたしませんか?」

 

 「ハミアくん。ケーキを食べに行かない?」

 

 「みんなー、依頼があったらわたしがまとめるよ?一度に言い寄っちゃ、ルクっちも大変でしょ?」

 

 と、クラスメイトだったティルファーがやってきて、皆をまとめ始めた。

 

 「ルクっち。くくく・・・・・」

 

 ハミアはルクスのあだ名で笑っている。

 学園でも有名らしい三人組、三和音(トライアド)のひとりであるティルファーは、どうやらクラスでも盛り上げ役(ムードメーカー)的な存在らしい。

 

 「ふぅ・・・・」

 

 だけど、正直、ほっとした。

 うまいこと、ティルファーが皆をとりなしてくれれば・・・・・。

 

 「はいはーい。ルクっちへの雑用依頼は、紙に書いてこの箱に入れてねー。うんそう。指定の日付も入れてさ。後で順番にやってもらお」

 

 「えぇぇぇぇえ!?」

 

 「大丈夫だよ。みんなお金持ちだから。これでルクっちの借金も早く返せるよ!」

 

 「・・・・・・」

 

 ティルファーの用意した木箱に、はみ出すほどの依頼書がぶち込まれているのを見る限り、その前に倒れてしまいそうな気配がした。

 

 「が、がんばれルクス。くく、応援して・・・・・」

 

 「ハミっち、何言ってるのー?ハイこれ、ハミっちの分」

 

 肩を震わせて笑っているハミアの机にティルファーが木箱を置いた。

 よく見ればルクスの木箱より多く入っている。

 その瞬間、ハミアの笑顔が引きつった。

 

 「ハミア、頑張るのじゃぞ!」

 

 「・・・・・・」

 

 「・・・ハミア、諦めて」

 

 ルクスの一声により、ハミアは机に顔を伏せてしまった。

 ちなみに悠の分もあるそうだ。

 ティルファーがユっちーと呼んでいた事を思い出したルクスは再び胃が痛くなったのだった。

 

 

 

 

 そして、昼休みになり、精神的に疲れたハミアとルクスが、しばらく机に突っ伏していると、

 

 「そ、そのよかったら、一緒にメシでも食べにいかないか?ルクス」

 

 「うわっ!?」

 

 いきなり頭の上から声を掛けられ、ルクスは飛び起きた。

 目の前にいたのは、リーシャだった。

 彼女は授業中、半分近く寝っぱなしだった気がするが、いつのまにか起きていたらしい。

 だが、少しばかり顔が赤い。

 

 「えっと、ハミアは?」

 

 「わたしはハミアがいても構わないぞ」

 

 「リーシャが誘ったのはルクスだろう。僕は自分で作るから行ってきなよ」

 

 「二人で!?」

 

 「・・・・わたしが一緒じゃ、ダメか?」

 

 ざわっ、と。

 その瞬間、小さなどよめきが、教室に満ちる。

 

 「そ、それとできれば、ルクスにはこれから、わたし専属の世話係になって欲しい。ちょうど従者が、ひとり欲しかったからな」

 

 リーシャが胸の前で、指をもじもじと絡ませながら、そう言うと、

 

 「ええっ!?」

 

 ルクスの叫びと共に、クラス全体が、再びざわめいた。

 

 「え?どういうことかしら?」

 

 「リーズシャルテ様って、人嫌いで侍女すらつけていませんでしたわよね?」

 

 「それが『男』の彼を、従者にするって・・・・・」

 

 「まさか・・・・」

 

 クラス中の女生徒達から、遠巻きにそんな声が聞こえてくる。

 

 「そ、そんなことは・・・・・」

 

 大声で嫌がるわけにもいかないので、困る。

 

 「い、いいだろそれくらい。あのときわたしの裸まで、強引に見たんだし・・・・」

 

 リーシャの言葉に、「きゃああっ」と、教室中から高い声が上がった。

 さすがに風呂場の件は噂になっていたが、あまり広まってはいないようだった。

 

 「それは・・・・その」

 

 「・・・・・・」

 

 そっと一人の少女が、困惑していたルクスに近づいてきた。

 

 「・・・・・フィーちゃん?」

 

 フィルフィだった。

 昼休みのためか、既に昼食に焼きドーナツらしきものをもくもくと食べながら、向かい合っているルクスとリーシャの真横に立っている。

 相変わらずの無表情ではあるが、強烈な存在感も感じ取れる。

 

 「ごっくん。ルーちゃんが困ってるよ。リーズシャルテ様」

 

 口の中のドーナツを呑み込んで、フィルフィは言う。

 

 「何だ。誰かと思えば、アイングラム財閥の天然娘か。めんどくさいなー。よし、わたしのおやつをやるから、大人しく下がっていろ」

 

 リーシャは一瞬だけ眉をしかめたあと、懐から紙包みを出し、フィルフィに命じる。

 ほのかな甘い匂いと、包みから見える、黄金色の光沢。

 中身はどうやら、蜂蜜で味付けしたパンらしい。

 

 「・・・・・」

 

 学園内では、貴族間の上下関係はなく、平等な士官候補生として扱うと、学園の規則には明記されていたが、あくまで建前の為に、実際にそうはいかない。

 王女は結局、王女ということだ。

 

 「別に、ルクス本人が助けを求めたわけじゃないだろ?幼馴染だかなんだか知らないが、むやみに首を突っ込んでくるものではないと、わたしは忠告するぞ」

 

 リーシャが諭すように言う。

 フィルフィは、受け取った包みのパンを、小動物のようにもくもくとかじっていた。

 

 「あ、それは食べるんだ・・・・・・・」

 

 フィルフィは甘いものに目がない。そして、マイペースだ。

 その辺も、昔と変わっていないようだ。

 

 「ルーちゃんが困ってるのくらい、見ればわかるよ。だからやめてあげてお姫様」

 

 間延びした、ゆるやかな口調だが、しっかりと告げる。

 普段はぼーっとしているため、何を考えているか分からないフィルフィだが、意外としっかり主張するし、頑ななタイプなのだ。

 白熱する二人を見ていた教室内のクラスメイトたちは、その光景に目を輝かせ、大いに盛り上がり始めた。

 

 「一体どちらが勝つのかしら?」

 

 「新王国のお姫様とアイングラム財閥の幼馴染だなんて・・・・・」

 

 「くくく、ルクスはどっちなのさ?」

 

 「ちょ、ちょっと二人とも、落ち着いて・・・・・ってハミアも笑ってないでよッ!?」

 

 ルクスが声を上げた瞬間、

 

 「忙しそうなところ悪いけど、いいかしら?」

 

 凛とした響き。

 透明感のある声が、教室の中に聞こえた。

 妖精のように美しい相貌の少女に、ルクスは見覚えがあった。

 クルルシファー・エインフォルク。

 北の大国、ユミル教国からの留学生であり、同じ士官候補生のクラスメイトだという。

 一昨日の事件においては、逃走したルクスを投げ飛ばして気絶させた、あの少女だった。

 

 「クルルシファーか。用なら後にしろ。わたしは今、大事な話が・・・・・・」

 

 リーシャが頬を膨らませて、そう抗議するが、

 

 「ちょっと学園長から用事を頼まれたの。昼休みに二人を案内して欲しい場所があるって。だから借りていくわ。いいわね?」

 

 「広くて迷いそうだから助かるよ」

 

 「えっと・・・・、あ、はい」

 

 二人は助け舟に乗る。

 

 「じゃあ、そういうことだから」

 

 クルルシファーは、そう告げると二人を連れて、リーシャとフィルフィの返事も待たずに、廊下へと歩いて行った。

 

 「・・・・まさか、才女のクルルシファーさんまで、興味を抱かれるなんて」

 

 「面白いことになってきたわ」

 

 「ねぇ、ミッドガルに入った男も気にならない?」

 

 「見に行きますわよ!」

 

 背後から聞こえるクラスメイトたちの黄色い声に、ルクスは若干の不安を抱きつつ、廊下を歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いたわよ!」

 

 「なんだッ!?」

 

 クラスでの自己紹介と生徒指導室での事情聴取を終え、机に突っ伏していた悠の耳に女生徒の声が響いた。

 姿を確認したところ、士官候補生のようだった。

 

 「ルクスくんともハミアくんとも違って、守ってくれそう!」

 

 「ッ!兄さん、とりあえず逃げてください!」

 

 「お、おい、深月?」

 

 「急いでください!地図を渡しますから屋上へ!」

 

 「わかった!」

 

 深月に言われた通り、悠は教室を出る。

 追いかけてくる女生徒達には、”D”も士官候補生も関係なかった。

 ただ、男性を追いかける、その為に協力しているようだ。

 そこまで理解した悠は急いで屋上へと向かった。

 

 




次回は歓迎パーティーまで進めようと思います。
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