待っていて下さった読者の方々、ありがとうございます。
それでは、どうぞ!
歓迎パーティが終わり、解散した後。
「どうしよう・・・・。寝場所のこと、すっかり忘れてた・・・・・!」
満腹になり、雑用などの疲れも押し寄せてきた頃、すぐにでも睡眠をとろうとしていたルクスだったが、自身の寝床がないことを、今更になって気付く。
さすがに何日も医務室に泊まらせてもらうわけにもいかず、その上、この学園には女子寮しかない為、ルクスの部屋はまだないのだ。
それでも睡魔の囁きは続く。
「休んでから、考えよう・・・・・」
そう言って壁に寄りかかると、ルクスの意識はすぐに闇へと飲まれていった。
帝都の城下町。その外れにある小さな屋敷の一室にルクスと客人が座っていた。
五年前の四月。
帝都より北東の領主、アティスマータ伯は、二十日後、各地のレジスタンスを集めて蜂起。
近隣諸国の支援も受け、総軍七万に
その超重要機密を伝える為に、フギルは来ていた。
妹のアイリが、辺境伯の元へ向かう、ちょうど十日前のことだった。
「お前が計画した通り、全てはうまくいっている」
「ありがとうございます」
「・・・・あれから五十日。お前は俺の予想を遥かに超えた。帝国軍での訓練で、史上最年少の使い手にして、幾百の勝利を収め、その実力を示してきた。本来であれば、その前人未到の偉業は、国中で、皇帝からも称えられるべきもの。だが、お前は妾腹の第七皇子。しかも帝国の政治に異を唱えた人間だ。いくら実力を持ち、功績を上げようと、そんな人間を『英雄』になどできないというわけだ」
「僕は、そんな事を望んでいるわけでは・・・・・・」
「わかっているとも、賢弟」
ルクスの言葉に、フギルは微笑む。
「・・・・しかし、その戦い方は変えるべきではないか?敵を救うために、己を危険に曝す必要はない。犠牲は出るが、もっと安全に・・・・」
「いいえ。仮に計画が成功したとしても、それでは意味がないんです」
「軍の人間の大半は、皇族の傀儡だ。
「フギル兄さん、責任がないとは言えない彼等も、ただ強いられているだけかもしれないんです。軍の人たちにも家族がいるはずです」
「・・・・・ふぅ。まったく、その覚悟は敬服にすら値するね」
フギルは苦笑し、立ち上がる。
「・・・・・・そういえば、賢弟よ。お前に調査を頼まれていた、投薬と手術の人体実験についてだがな」
「・・・・・はい」
ふいに放たれた一言に、ルクスはかすかに、動揺の色を見せる。
行き過ぎた、男尊女卑の風潮。
女性は全て道具、男に従うのが当然という帝国の伝統文化。
市民等がさらわれる光景は珍しくなかったが、この時期はそれが多発していた。
軍部のとある特殊な人体実験に年端も行かない少女を使用するという、おぞましい出来事が。
「表向きは疫病を直す為の薬品製作だが、毒物や兵器の実験という噂がある。事実、得体の知れない後遺症や「死」という結果を伴って少女たちが帰されるそうだ」
ルクスの表情が強張る。
「それに、今回はお前と仲良くしていた少女、フィルフィ・アイングラムも連れられたようだ。姉のレリィの懇願も断られたそうだ。早くて二週間で実験が開始されるらしい」
「わかりました」
「三日後にまた来よう。それまでに決めておいてくれよ、賢弟。《ワイバーン》と《バハムート》、どちらかをな」
その言葉にルクスは頷く。
そこでフギルは不意に、何かを思い出しルクスの方を向く。
「・・・・そうだ賢弟、特別に協力者を手配しよう。心配するな、実力はお前と同じぐらいだ」
フギルは部屋を後にし、一人残されたルクスは窓から雨を眺めていた。
翌朝ルクスが目を覚ますとそこは、廊下の絨毯ではなくベッドだった。
「・・・あれ、僕いつの間に部屋で寝てたんだろう?昨日は確か廊下で・・・・」
上半身を起こし昨夜、意識を失う前の状況を思い出そうとしていると、正面のベッドで悠が同じことをしていた。
「どういうことだ?俺は昨日・・・」
二人が困惑しているとガチャっと音を立ててドアが開かれる。
「あ、やっと起きたね二人とも。おはよ」
入ってきたのは何故か満面の笑みのハミアだった。
「・・・・・」
「・・・・・おはよう」
余りの驚きに挨拶を返せたのは悠だけだった。
そして悠は再び口を開く。
「ハミア、最初に一つ答えてくれ」
「どうぞ!」
「それじゃ、遠慮なく。ここはどこだ?」
「宿舎だよ!」
「・・・・なるほど宿舎か」
「・・・・・悠、あっさり納得しないで!?っていうかここって寮じゃないんだ!?」
ようやく状況を理解したルクスは動揺を隠せなかった。
そして悠は、ルクスの言葉に再び驚く。
「・・・・・・・え、違うの?」
「そうだよ悠!その反応が正しいんだよ!」
ハミアは二人を落ち着かせる為に答えを教える。
「だってさ、この学園の寮って女子寮でしょ?」
「・・・・まぁ」
「・・・そうだけどさ」
「ま、それでも二人が『女子寮がいい』って言うなら僕は止めないよ。好きな方を選んで?」
「こっちがいい!」
「俺も同じく!」
二人から同じ答えを得たハミアはうんうんと頷き、再びドアを開ける。
「それじゃ、二人の分の部屋も確保してあるから、自由に使ってね!」
そう言って部屋を出ようとするハミアを見て、ルクスは質問する。
「あ!ねぇハミア。今更だけど、この部屋ってどうしたの?」
「借りた!ほぼ押し切った感じで!」
ハミアが部屋を出ていくと二人は顔を見合わせ、同時に溜め息をついた。
ちなみに終始笑顔だったハミアはというと、
「・・・はぁ、良かった。昨日の事を『実は覚えてた』なんて言ったら、どんな顔をすればいいのかわからないや」
ドアを閉めた途端に頭を抱えて蹲り、こちらも深い溜め息をついていた。
そう、あの後二人を部屋まで運び自身もベッドに倒れ朝を迎えたまでは良かった。
しかし、目を覚ました途端に昨夜の出来事を思い出してしまったのだ。
なんとか、二人の前では隠し切れたが、他の生徒や教師たちにも隠せるとは限らないの。
それでもやるしかないのだとハミアは決意した。
「兄さん!こんなところにいたんですか!探したんですよ!」
身支度を整えたルクスが廊下を歩いていると、進行方向からアイリが寄って来た。
「おはよう、アイリ」
「おはようございます、兄さん。早速ですけど今から
「あぁ、今日の依頼だよね」
「はい、お願いしますね」
そう言ってアイリは去って行った。
ハミアにも依頼内容を伝えに行くのだろう。
「大変だなぁ、アイリ」
今とは違う、病弱だった頃のアイリを思い出しながら、ルクスは
ルクスが仕事場へ向かっている中、ハミアは学園長室へと来ていた。
「それでなんの用かしら?」
椅子に座っているレリィが微笑みながら聞いてくる。
「・・・・はい。お願いがあってきました」
「・・・聞きましょうか」
レリィの目がゆっくりと開かれる。
しかしハミアは続ける。
「・・・・・常時、
「それは『
「・・・・・・いいえ、違います」
「じゃあ、貴方個人に対して『
「はい」
「残念だけど、許可できないわ」
「・・・・・」
「どうしても欲しいのなら、素直に『
「・・・・・」
ハミアが黙っているとドアが勢い良く開かれる。
「ふっふっふ、話は聞かせてもらったぞハミア!」
ハミアは来訪者が誰なのか振り向くまでも無く判ってしましまった。
同時にどうせ廊下で盗み聞きしていたのだろうと悟る。
「その願い、わしが聞き届けた!」
「ちょっと貴女、何言ってるのよ!勝手に・・・・・」
「まぁ待っておれ、理由は後で話す」
「・・・・・・ありがとう、ございます」
ハミアは礼を言うと、静かに部屋を出て行った。
そして、残ったのは満足げに笑っているマギアルカとそんな彼女に呆れてるレリィだけとなる。
「・・・・聞かせてもらうわよ」
「何、いらんお節介というやつじゃ」
「・・・・・」
「滅多にない息子の我が儘を叶えてやりたいという親心かの。例え、それが血の繋がらない相手であろうと、な」
「・・・貴女にしては珍しく、随分と余計なお世話を焼くのね」
「それが家族というやつじゃ」
部屋を出たハミアは、演習場の観客席へと来ていた。
どうやら、ルクスが『
まぁ、当のルクスが困った表情をしていることから、リーシャが強引にやらせたのだろうが・・・・・。
結果を言えば、リーシャの計画は失敗に終わった。
ルクスは『無敗の最弱』の異名を持ち、自分からは攻撃を仕掛けない。
そんなルクスがリーシャの思惑通りに動くはずもないのだ。
「・・・・・まぁ、ルクスだしねぇ」
そして見物を終えると、誰にも気づかれないように演習場を後にした。
翌日、鳴り響く警鐘の音とともにハミア・ルクス・悠の三人は目を覚ます。
「おい二人とも、何が起きているんだ!?」
「わからない。でも、これは・・・・・」
「ルクス、悠をイリス達と合流させてくれ。
慌てる悠を落ち着かせたハミアは冷静に指示を出し、自身の
ルクスも、素早く準備を済ませ、悠を誘導する。
誘導を終えると、機竜格納庫へ向かった。
通達によれば、一体の大型
「・・・・正体不明機」
ハミアが一人で呟いていると、リーシャたちが出撃していく。
意を決したハミアはライグリィ教官へ呼びかける。
「教官、学園長から話は聞いていますか?」
「・・・・ああ聞いているよ。許可を得ているのだから行ってくるといい」
返答を聞いたハミアは格納庫の外へ出て
「
ラナが静かに近づき、こちらを見上げてくる。
「・・そんなに心配しないでよ。ただ例の機竜を見てくるだけだって」
ラナがゆっくりと頷いたのを確認し、リーシャたちの後を追った。
学園を出てしばらく経過した頃、突如目の前に一機の装甲機竜《ドラグライド》が現れた。
鈍い赤色の飛翔型機竜だった。
「・・・・・誰?」
今、目の前にいるのは報告にあった正体不明機だろう。
「・・・・・・・」
相手からの返答はない。
ただ静かに右手に持つ
「・・もう一度聞くよ。あなたは誰?」
ハミアが言い終えると同時に、無数の銃弾が襲ってきた。
銃声が止み、静けさが周りを包む。
「・・・随分なご挨拶をするんだね。ま、ある程度の予想はしてたけどさ」
二つの
「フフフフ」
ハミアの姿を確認した
「・・・・・?」
訝しむハミアを無視し笑い続ける。
「突然のご無礼を失礼しました」
若い女の声が響く。
「私の名はロッサ。本日はハミアさんのお相手をさせて頂きます」
「・・・・つまり、リーシャ達の元へ向かわせる気はないってこと?」
「ええ、その通り。さぁ《ラミア》、共に奏でましょう。剣戟の調べをあの方へ捧げる為に!」
次回は戦闘シーンからの始まりとなります。
戦闘シーン自体はそんなに長くないかもしれませんが、ご容赦ください。