女子だけあべこべ幻想郷   作:アシスト

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第1章 紅魔館騒動
気が付けば空


 

 

 

何が起こったのか、俺には全く理解できていなかった。ので、とりあえず状況確認をしてみようと思う。

 

 

身体は動くし痛みはない。おそらくは五体満足。だが、この違和感はなんだろう。まるでジェットコースターにでも乗っているかの様な浮遊感を身体に感じる。

 

次に周りを観察する。上を向くと、なんの変哲もない青い空と白い雲が見える。太陽も昇ってるから、今は朝か昼の時間帯だろう。逆に下を向けば、緑の木々が所狭しと立ち並んでるのがわかる。一般的に言う森というやつに違いない。

 

 

 

……おかしい。オレはさっきまで、ホントについさっきまで、自分の部屋でひたすらゲームをしていたはず。もっと言えばポケ〇ンをプレイしていた。6Vが出るまでひたすら孵化厳選に勤しんでいたはずだ。

 

その日は日曜日で大学の講義がなかったことを良い事に、朝から晩まで3DSと向き合っていた。長きに渡る苦労の末、オレはついに念願の6Vの孵化に成功したのだ。

 

 

 

そう、成功したはずなのだ。

 

なのに、どういうことだコレは。さっきまで味わっていた気持ちの良い達成感は、気持ちの悪い浮遊感に早変わり。

 

もしかして夢か? ほぼ一日中ゲームをしていた疲れと、6V孵化成功の達成感が相まって寝落ちてしまったのか?

 

 

その可能性は十分ある。というかそれしかないだろう。今は深夜の筈なのに太陽が出てるし、何より、さっきまで現在進行形でゲームをしていた俺は今、空から地面に向かって真っ逆さまに落ちているのだ。

 

夢以外あり得ない。夢じゃなかったら死ぬ。

 

落ちる前にほっぺをつねって起きようか。……いや、どうせ地面に落ちた衝撃で目が覚めるか。ならこのままでもいいだろ。

 

 

 

…………ホントに夢だよな? 妙に浮遊感が妙にリアルなんだけど。

 

 

 

段々と不安が募っていくオレこと牧野真一(まきのしんいち)は、地面に墜落するまでこの状況が夢であることをただただ神に祈り続けるのであった―――――――――――。

 

 

 

 

*――――――――――――――――――――*

 

 

 

緑のチャイナ服、龍の文字が書かれた帽子、綺麗な赤の長髪。大きな鼻ちょうちん。

 

 

「…………クカー………スピー…………」

 

 

春の程よいポカポカとした暖かさに手も足も出ず、立ったまま寝るといった器用な行為をしている彼女”紅美鈴”は、吸血鬼の住む真っ赤な館、紅魔館の門番である。

 

基本的、紅魔館への来客は少ない。白黒の魔法使いは図書館目当てでよく来るが、彼女の場合は門からではなく空から突撃してくることがほとんど。館の主である吸血鬼が客を呼び込まない限り、美鈴の仕事は紅魔館門前の見張りぐらいしかない。ぶっちゃけ暇なのだ。

 

だからと言って、仕事中に寝ていいわけでもない。万が一、メイド長に寝ているところを見つかったら、大量のナイフが身体から生えることになるだろう。

 

 

ドカァァァ―――――――ン!

 

 

「ぅえやああ!?わわわ私寝てませんよ咲夜さん!?だからナイフはやめ…………って、あれ?」

 

 

突然の爆発音と地響き。身の危険を感じた彼女は飛び起き、誰もいないのに土下座をする。

 

 

「なんだろうあれ……」

 

 

メイド長がいないことにホッとする最中、彼女は気になるものを見つけた。ここからそう遠くない森の中から、煙が上がっているのだ。

 

何かが燃えているのか?はたまた弾幕ごっこでもやっているのか?彼女はそう考えた。

 

 

「(でもこの近辺で炎を操る妖精や妖怪はいませんし……かといって、ただの弾幕ごっこであそこまで煙が上がるとは思えませんし……)」

 

 

この近くに住む妖精や妖怪で一番強いのは、おそらくあの氷精だろう。しかし彼女は文字通り氷を操る妖精。彼女の弾幕で爆発が起こるとは思えない。

 

相手が紅白の巫女のような圧倒的強者ならば話は別だろうが、“気を使う程度の能力”を持つ美鈴でも、彼女たちの持つ強い“気”を近くに感じることはできなかった。

 

代わりに感じ取れたのは、非常に弱弱しく、今にも消えてしまいそうなほど小さい“気”だった。

 

 

「(……確認しに行くぐらいいいですよね)」

 

 

もし“気”の正体が、紅魔館に仇なすものだったなら、その場で()してすぐに戻ってこればいい。それぐらいなら咲夜さんも許してくれるだろう……たぶん。

 

そう判断した美鈴は、ダッシュで“気”の感じる方向へ向かった。

 

 

「(それにしてもこの“気”……違和感を感じますね……)」

 

 

彼女曰く、生きている者は絶対に、その者特有の“気”を纏っている。しかし、人なら人の“気”、妖怪なら妖怪の“気”と、種族で“気”の感覚は似通っているため、“気”だけでそのものが人か妖怪かを判断することはできる。

 

違和感こそ感じるものの、今回の“気”の感覚からして、相手は人間であることが美鈴にはわかった。

 

 

結局、違和感の正体は分からないまま、彼女は煙が上がっている場所へと到着した。その場所は“ある一点”を除いては、何の変哲もない、ただの森の1エリアだった。

 

「クレーター?」

 

その場所には、何か重いものが空から墜落した時に生成されたような小型のクレーターがあった。煙の正体はクレーターの中心から発生していた砂埃だったのだ。

 

だんだんと砂埃が晴れていき、クレーターの中心が見えてくる。

 

 

「……?…………え!??」

 

 

彼女は目を疑った。何度も目をこすって、クレーター中心を確認する。そこにいたのは彼女の予想通り、倒れて気を失っている人間だった。

 

ただの人間であれば、彼女も驚くことはなかっただろう。しかし、その人間はただの人間ではなかった。

 

 

「お、おおおっ、おおおおおおお、男の人ぉおおおおおおおおおおおお!?」

 

 

叫び声が広い範囲に轟く。その叫びは紅魔館にも届いていた。

 

彼女が見つけたのは、この幻想郷では非常に希少種な存在。

 

“男”の人間だった。

 

 

 

*――――――――――――――――――――*

 

 

 

「さささ咲夜さん!どうしましょうこの人!?どうしましょうこの人!!?」

 

「落ち着きなさい美鈴。お嬢様とこの殿方が起きてしまうわ」

 

 

そう口にする紅魔館の完全で瀟洒なメイド長“十六夜咲夜”だが、彼女も内心はかなりひどい事になっていた。

 

美鈴が門番中、犬やらネコやらを拾ってきたことは何度かある。途方に暮れる女の外来人を紅魔館に招き入れたことも多くはないがある。が、男を拾ってきたことは初めてのことであり、先にも後にも今回だけだろうと咲夜は思った。

 

気絶こそしているものの、男に目立った外傷はなかったため、そのまま客室のベッドに寝かせた。彼女たちは今、その目の前にいる。

 

 

「とりあえず……そうね。ほ、ほっぺを、ツンツンしちゃおうかしら?」

 

「咲夜さん奥手!気絶している今なら何でもできるんですよ!チューだってできちゃいますよ!」

 

「ち、ちゅー!?で、できるわけないじゃない!」

 

 

咲夜は林檎みたいに顔を真っ赤にさせる。

 

紅魔館のメイドをしている彼女は、人里に買い物に行く機会が少なくない。少ないとはいえ、人里にも男はいる。話した経験こそないけれど、彼女は紅魔館の中ではそれなりに男への耐性がある方である。

 

彼女も女だ。男を見かければ自然と目で追ってしまうこともある。イケメンなら尚更だ。だからと言って美鈴のように、気絶している男にキスやそれ以上の行為をしたいと思うほど、彼女の性欲は強くない。あわよくば、健全なお付き合いをしたいと思うぐらいだ。

 

もちろんそれは彼女が人間だから、と言うこともある。妖怪であり、咲夜の何倍もの年月を生きている美鈴は、男に飢えて飢えて飢えまくっているのだ。

 

 

「そ、それに……私たちのような女にキスされたのがわかったら……」

 

 

真っ赤な顔から一変して、咲夜の表情はシュンと暗くなる。

 

一片のシミもない、白く汚い肌。神様が敢えて酷く創ったかのように整ったブサイクな顔。とてもではないがグラマーとは言い難いスラッとした酷いスタイル。

 

それが彼女たちの外見。彼のいた世界であれば全国に通用するような美少女だが、貞操概念と“女性に対しての美醜感覚”が逆転した幻想郷で言えば、彼女たちはドが10個ぐらいつくほどのブスなのだ。

 

 

「だからこそです!顔を見られるだけで絶望的な表情をされる私たちだからこそ、チューするチャンスは今しかないんですよ!いいんですか!?これの逃したら死ぬまで異性とチューなんてできませんよ!」

 

「か、顔の事に関しては諦めているけれど、性格までブサイクになったつもりはないわ!チャンスかもしれないけれど、殿方のことを考えるならほっぺをスリスリするぐらいまでが限界よ!」

 

「限界は超えるためにあるんです咲夜さん!言っておきますが私、彼をここまで背負ってきただけで興奮しちゃって、もう下半身がびっちゃびt」

 

 

 

「……ぅうん……やっぱ夢だったか………?」

 

 

 

 

美鈴がいろんな意味で品のない事を口走ったそのとき、彼、牧野真一は夢ではない夢からようやく目を覚ました。

 

 

 

 

 




別に美醜逆転させるの女子だけでもよくね?と思って書いた。後悔はしてない。

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