女子だけあべこべ幻想郷   作:アシスト

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始まる旅

 

 

毛布の暖かなぬくもりを感じながら目が覚める、幻想入り2日目の朝。

 

昨日は本当に濃い一日だったと思う。美醜感覚が逆転した異世界に妖怪に魔法使いに、おまけにファーストキスまで奪われて。何だよこの世界、なんでもありかよ。

 

昼間までは驚くことばかり起こったり、メーリンさんに襲われかけたりもしたが、それ以降は平和だった。夕食も美味しかったし。レミリアさんが納豆食べてたのは驚いたけど。

 

吸血鬼が豆……?とは思ったが、炒った豆じゃなければ問題ないらしい。基準がよく分からん。

 

後は、フランさん(ちゃんと土下座した)にアーンされたり、照れてる咲夜さんにアーンされたり、ニッコリ笑顔の咲夜さんがオレにアーンしようとしたメーリンさんにナイフをアーンしたりと。みんなで食べるご飯はやっぱり楽しいなぁと、一人暮らしのオレはシミジミそう思ったね。

 

 

 

 

あ、食事中に聞いたことなんだけど、オレが幻想入りした原因は、この幻想郷を造ったと言われるスゴイ人、八雲紫さんという方が原因らしい。つまり、オレの3DSとポケ〇ンがお陀仏したのもその妖怪が原因となる。許すまじ八雲紫、お前がラスボスだ。

 

 

 

 

レミリアさんとフランさんは吸血鬼と言うこともあり、夜こそが彼女たちの活動時間らしいが、オレは夜に眠る人間。疲れていたこともあり、早めに就寝させてもらった。

 

いやー今日もいい天気だ。窓から差し込む日の光が直接ベッドに当たって気持ちいい。紅魔館には窓が少ないらしいから、起きる前にもう少しだけゴロゴロしてしまおう。5分ぐらいいいよね?

 

 

そう思って寝返りをうつオレ。

 

 

「おはようだぜ、ダーリン」

 

 

うわビックリ。どこかで見たことある顔がドアップでオレの目に映った。

 

オレのファーストキス窃盗罪で図書館に収容されていたはずの魔法使いさんやんけ。

 

 

「……どうしてここに? 図書館で縛られていたはすでは?」

 

「愛の力を以てすればあんなのすぐに解けたぜ。それに、夫と一緒に寝るのは普通だろ?」

 

 

さも当たり前のように答える魔理沙さん。もちろんオレは結婚した覚えなどない。

 

………ん? ちょっと待て。今魔理沙さん、一緒に寝たって言ったか?

 

 

 

「オレが寝てる間に……何かしたか?」

 

「キスしたぜ、沢山。真一の寝顔はカッコいいから卑怯だ」

 

「………それ以上の事はしてないよな?」

 

「? それ以上の事ってなんだ?」

 

 

あっ、この娘意外に子供だ。

どうやらオレの貞操は無事みたいだ。

 

歳を聞くのは失礼だから推測させてもらうが、魔理沙さんの年齢はおそらく咲夜さんより少し下ぐらいだろう。つまり中学生ぐらい。中学生女子の性知識など知らんが、別にそう言うことを知らなくてもおかしくはない歳ごろの筈だ。知らんけど!

 

 

「知らないならいい。咲夜さんにバレる前に、早く出て行ったほうがいいぞ」

 

「気になるなぁ……まぁいい。出て行く前に話があるんだ」

 

「結婚は無理だぞ」

 

「そこは良いぜ。私もまだ結婚できる歳じゃないしな。結婚を前提にしたお付き合いで我慢する」

 

 

それは我慢していることにはならないと思うんですよオレは。

 

 

「それよりも頼みがあるんだ」

 

「……頼み?」

 

 

 

 

 

 

*――――――――*

 

 

 

 

「………もう、行ってしまわれるのですね」

 

「長居しても悪いしな」

 

 

朝8時。起床して、朝ご飯までご馳走になった真一は今、紅魔館の門前にいた。そこには彼と咲夜の姿だけではなく、傘を差したレミリアとフランドールも居合わせていた。

 

 

「お前ならいつ来ても歓迎してあげるわ。せいぜい生き延びることね」

 

「バイバイお兄さん! また一緒に遊ぼうね!」

 

 

本来であれば今の時間帯、吸血鬼のスカーレット姉妹にとっては就寝中の時間であるが『客人に別れの挨拶一つもしないのは紅魔館当主としてあり得ないことよ!』とのことで、普段はあまり飲まないコーヒーまで飲んで眠気を我慢し、わざわざ真一を見送りに来たのだ。

 

フランドールはピンピンしているが、レミリアは朝更かしが辛いのか、目元に若干の隈が出来ている。

 

門番であるハズの美鈴がこの場にいないのは、昨日本能の慄くまま暴走しすぎたせいでレミリア直々に出禁をくらったからである。真一が旅立てば、再び門番へ復帰するらしい。

 

 

「ああ、また来る。皆には世話になったからな。元の世界に戻ったら、また幻想郷に来れるように努力する」

 

「良い心がけね。その言葉、確かに聞いたわよ」

 

 

真一にはある考えがあった。ラスボス八雲紫を倒し脅せば幻想郷と外の世界を行き来できるのでは?と言う考えだ。

 

答えだけを言うならそれはイエスだろう。真一ぐらいの顔面偏差値なら、紫は二つ返事でOKを出す。もちろん彼女に会えればの話だが。

 

 

「外の世界にお戻りになると言うことは、真一様の目的地はやはり……」

 

「ああ、博麗神社だっけか。そこへ向かってみることにする」

 

 

咲夜の問いにそう答える真一。

 

これも昨日の夕食時に、真一が聞いたことだった。外来人が元の世界に戻るには、博麗神社に住む『奈落の醜い巫女』こと『博麗霊夢』の力を借りるのが一般的であることを。

 

奈落の醜い巫女って何ぞい。と思う彼であったが、きっとそれも美醜感覚の問題でそう呼ばれているのだろうと思い、オレの感覚で言い換えれば『楽園の素敵な巫女』かなぁ、と勝手に解釈していた。

 

 

「真一様。よろしければ、こちらをどうぞ」

 

「? これは?」

 

 

咲夜は花柄の風呂敷で包まれた小さな箱を、真一に手渡す。

 

 

「博麗神社まではかなりのお時間を有しますので、お弁当をご用意させて頂きました。………ご迷惑だったでしょうか……?」

 

「いやいや全然そんなことないから!寧ろすごく助かる。ありがとう咲夜さん」

 

「………」

 

 

一瞬見せた咲夜の寂しそうな表情に、真一は少し焦る。

 

真一自身は、外の世界でモテたことはない。故に、自分に好意を持っていることが分かっている相手に接されると、どう対応すればいいのかわからなくなることがあるのだ。

 

彼の感謝の言葉を聞いて、咲夜の顔は少しだけ明るくなった。しかし、その表情には少しだけ不安の色があることを彼は悟った。

 

好きな人と離れ離れになる辛さ。今の咲夜の心はそれに支配されつつあったのだ。

 

彼女は弁当を手渡した彼に近づく。

 

 

「さ、咲夜さん?」

 

「…………」

 

 

意を決した表情をした咲夜。真一がそれに気づいた時には、その行為は終わっていた。

 

 

「……?? お姉さま。どうして私の目を隠すの?」

 

「貴女にはまだ早いからよフラン」

 

 

傘を持っているため左手を使えないレミリアは、フランドールを抱きしめるように、右腕を使って彼女の目を覆い隠す。

 

咲夜は頬に軽く触れる程度のキスを、真一にしたのだ。

 

 

「……ずっと、ずっと待っています」

 

 

咲夜は真一の耳元でそう囁くと、逃げるように紅魔館へ戻っていった。あまりの恥ずかしさのあまり火照った顔を、真一に見られたくなったからだ。

 

対する真一の顔も真っ赤である。下手をすれば、ファーストキスを奪われた時以上に真っ赤かもしれない。

 

 

「あれ? 咲夜はどうしちゃったのお姉さま?」

 

「恋の病が悪化したのよ。そっとしておきなさい」

 

「おいおいダーリン。嫁が傍にいるのに浮気とはどういうことだぜ」ツンツン

 

「……それで、何でアンタがここにいるのよ。魔理沙」

 

「嫁だからな」

 

 

恥ずかしさのあまり意識がトリップしていた真一であったが、実は始めからずっと彼の傍にいた魔理沙に箒で腰を突かれて戻ってきた。

 

 

「夫を護るのが妻の務めだ。私が責任を持って、ダーリンを霊夢の元まで連れてくぜ」

 

「………ボディーガード的な奴だ。オレ1人だと危ないのは事実だし」

 

 

魔理沙の言葉を無視して、レミリアに説明する真一。

 

彼女のお願いとは『博麗神社への道案内をさせてくれ』というものだった。魔理沙の強引な性格からして、彼は彼女からは絶対に幻想郷へ引き留められると思っていたので、彼女のお願い内容には驚いた。

 

曰く『夫のわがままを聞くのも妻の務めだ』とのこと。自分を一番に見てくれるなら、真一を束縛するつもりは魔理沙にないらしい。

 

真一は彼女のお願いを引き受けた。なんの力も持たないと思っている(・・・・・)彼に取っては願った叶ったりであったからだ。

 

 

「まぁ、真一がいいならそれでいいわよ」

 

「よっしゃ。それじゃあ行こうぜダーリン!」

 

「ダーリン言うな。……レミリアさん、フランさん。改めて礼を言わせてくれ、ありがとう。咲夜さんたちにも礼を言っておいてくれ。んじゃ、またな」

 

「ええ、次会う日を楽しみにしているわ」

 

「またねーお兄ちゃん!」

 

 

 

出会いがあれば別れもある。

 

紅魔館を後にした彼は、白黒の魔法使いをパーティに引き入れ、外の世界に戻るために、博麗神社へと歩き始める。

 

真一の旅は、まだまだこれからだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉さまお姉さま」

 

「どうしたのフラン?」

 

「どうして魔理沙は箒で飛ばないのかしら? お兄さんを乗せて飛んでいった方が早いよね?」

 

「………やっぱりお子様ねフランは」

 

「???」

 

 

 

歩いたほうが真一と長くいられる。

 

魔理沙の考えは、フランにはまだわからなかった。

 

 





ここまでで第1章終了です。
閑話を挟んで第2章へ続きます!

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