女子だけあべこべ幻想郷   作:アシスト

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魔理沙が図書館を抜け出した直後ぐらいのお話。


※キャラ崩壊注意


閑話 親バカ

 

 

 

魔法の森の入り口付近に位置する、和風造りの一軒家『香霖堂』。

 

幻想郷では滅多に見ない男の半妖『森近霖之助』が営むこの店は、幻想郷で唯一、外の世界を含むあらゆる道具を販売する道具屋である。

 

お店と言っても、訪れる客は非常に少ない。場所自体は人里に近いところにあるが、人里外へ出る人間はほとんどいない上、売っている物も骨董品のような希少価値はあるものの、実用性にかけるものが多い。

 

故に、彼はいつも暇をしているが、今日は珍しく来客が来ていた。

 

 

「相変わらず暇してるねぇ、お前は」

 

「……今、丁度暇じゃなくなったよ」

 

 

霖之助がカウンターで本を読んでいると、足を持たない一人の女性がふわふわと入ってくる。

 

長い緑色の髪をした彼女は、悪霊にして大魔法使い。魔理沙の師匠でもある『魅魔』であった。

 

 

「おや? 何か用事でもあるのかい?」

 

「悪霊退治さ。霊夢からもらったお札を試すときが来たようだ」

 

「やめてくれ。あの札は私に効く。というか霖の字、私は客だよ? お茶の一杯ぐらい出してもいいじゃないか」

 

「あいにく、お金を払わない者を僕は客とは呼ばないんだ。……と、言いたいところだが、君にならいいだろう。少し待ちたまえ」

 

 

霖之助は本を閉じ、店の奥にあるキッチンへと茶を入れに向かう。

 

彼は成年男性以上の高身長に、無駄に蓄えられている知識。顔立ちもいわゆるイケメンの部類であるため、女性にまとわりつかれることは今まで多くあった。

 

しかし、彼は"幻想郷の男"である。恋愛に興味のない性格と相まって、彼は女性に容赦しない。ブサイクならなおさらだ。養豚場の豚を見る目なんて比喩では生温いほどの目で、彼はブサイクを見下す。

 

 

 

しかし、それにも例外はある。

 

 

 

1つは客だ。『お客様は神様』という言葉があるように、お金を払う客であれば、彼もそれなりの態度をとる。

 

博麗の巫女服は彼が仕立てているものだ。彼女はツケておいてと言うが、その後で妖怪の賢者がちゃんとお金を払いに来るため、彼は渋々作っている。いや、仮にお金を払わなくとも、彼は作るだろう。

 

 

それはもう一つの例外である、彼に取って娘の様な存在である魔理沙が関わっている。

 

 

霧雨魔法店で修業をしていた彼は、魔理沙が幼少の頃から知っている。小さな子供に美人もブサイクも関係ない、霖之助は彼女を妹のようにかわいがった。

 

 

「どうぞ」

 

「ありがとさん………緑茶か、悪くないねぇ」

 

「お買い上げになるかい?」

 

「考えておくよ。ところで今日は魔理沙はいないのかい?」

 

「そのうち来るだろう。また男に関しての愚痴をこぼしにね」

 

 

魔理沙は霖之助をもう一人の父のように慕っている。幼い頃からの仲である2人の間に恋愛感情はなく、言うなれば親子みたいな関係だった。

 

彼女は良く彼に愚痴を言いに来る。"人里歩いてただけなのに舌打ちされた"など"男が私の顔を見て悲鳴を上げた"など。大体が男に関する愚痴であった。

 

 

 

魔理沙は知らない。霖之助が彼女の愚痴を聞いているとき、心の中で怒りに燃えていることを。 

 

 

「まったく……何故魔理沙はモテないんだろうね? あんなにも可愛いのに」

 

「泥の上に汚水を塗ったような顔立ちだからじゃないかい?」

 

「それは君のことだろう。魔理沙は天使だ、君と違って」

 

「命が欲しくないようだねぇ霖の字」

 

 

 

どんな子供でも親には可愛く見えるもの。

 

霖之助は親バカであった。実際の親ではないが、親バカに近いバカであった。

 

魔理沙の友人である霊夢の依頼なら、彼は進んで手を貸すのだ。

 

 

 

「まぁ仮に、魔理沙に好意と持つ男が現れたとしても、僕が許さないけどね」

 

「何様だいお前?」

 

「お父様だ」

 

 

もはや病気だった。

 

 

「……お前がお父様なら私はお母様かな」

 

「冗談は死んでから言ってくれ」

 

「悪霊だから死んでるようなもんさ私は。魔理沙の親代わりと言う意味なら、私たちは夫婦だろう」

 

「ふぅ……それ以上、僕の気持ちを害することを言わないでほしいね。吐き気止めはどこにしまったかな………」

 

「お前も悪霊にしてやろうか? あ゛あ゛?」

 

 

魅魔の杖に魔力が集中する。ブサイク故にいろいろ言われることには慣れている彼女だが、我慢の限界はあるのだ。

 

今にも香霖堂が消滅しようしたその時、バァン!と入り口の扉が勢いよく開かれた。

 

 

「おや、いらっしゃい魔理沙」

 

「おお魔理沙じゃないか。どうしたんだいそんなに慌てて」

 

 

噂をすればなんとやら。扉を開けたのは白黒の魔法使いの魔理沙であった。

 

 

 

彼女は香霖堂に入るなり、満面の笑みで言葉のダイナマイトを投下した。

 

 

 

 

 

 

「聞いてくれ!香霖!魅魔様!私、彼氏ができたぜ!」

 

 

 

 

 

 

 

パリン!(湯呑が割れる音)

 

 

 

 

パリン!(眼鏡が割れる音)

 

 

 

 

 

 

 

「…………草薙の剣はどこにしまったっけか」

 

 

「落ち着け霖の字。変なキノコを食べただけかもしれない」

 

 

「違うぜ魅魔様。マジのマジだ。キスも済ませた」

 

 

「」

 

 

 

 

その後、暴走する霖之助を止めるのにかなりの時間を費やした魅魔と魔理沙であった。

 

 

今日も香霖堂は平和である。

 

 

 






香霖と魅魔様の出番はおそらくもうありません。2人のファンの方はゴメンよ……。


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