女子だけあべこべ幻想郷   作:アシスト

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非情なお願い

 

 

 

*―――――――――――*

 

 

 

「なるほど。つまり貴方のいた世界の人間には、私は美しくて優しくてナイスバディで見る者すべてを魅了する完璧な天才女医に映るのね」

 

「なんか盛ってるような気がしますが……まぁ美人には違いないかと」

 

 

真一は自分の頭がおかしくないことを主張するため、美醜概念が逆転していることも含め、これまでの経緯をすべて話した。

 

その話は彼女にとって夢幻の様な世界の話。しかし永琳は彼の話を信じることにした。

 

永琳にとって彼の話が嘘か真かなんて些細な問題だった。嘘ならばそれだけのことだが、もし本当なら永琳にとって彼ほど魅力的なサンプルはいない。

 

 

「牧野さん。一応聞くけれど、解剖される気とかない? 貴方の思考回路、実に興味深いわ」

 

「あるわけねぇだろ! 一応で聞くような内容でもないし。 貴女が血塗られたマッドサイエンティストか」

 

「失礼ね。私は探究心に忠実なだけよ」

 

「(否定しないだと……!?)」

 

 

真一戦慄。そして直感した。もしかしてこの人はオレのヤバ友ベスト10に食い込むほどのヤバい人なんじゃないか、と。

 

 

「おい。真一って言ったな」

 

「あ、ええと……藤原さんでしたよね。この度はありがとうございます」

 

 

真一と永琳がいる場所から少し離れた位置、壁にもたれながら真一の話を聞いていた妹紅が、彼に口を開く。

 

 

「別にいい。あと……妹紅でいい。それより。今の話が本当なら、お前の世界では私も可愛く見えたりするのか?」

 

 

ポケットに手を入れ、鋭い目つきで睨みながら妹紅は真一にそう聞いてきた。その様子に一瞬ひるんだ真一であったが、相手は美少女且つ恩人。怖がることはないと判断した真一は、自分の素直な気持ちを妹紅に伝えることにした。

 

すらっとした体型にサラサラな白髪。10代前半のようなツヤのある肌。整った顔。変わった格好をしているように見えるが、寧ろそれが様になっているようにも見える。

 

ここから導かれる答えは一つ。

 

 

「はい。少なくとも、オレの(まともな)女友達と比べれば頭3つ抜けてかわいいかと」

 

「………そうか。邪魔したな」

 

「あら、もう帰るの?」

 

「ああ」

 

 

妹紅はそう一言返事をして、荒々しく扉を開けて診察室から出て行った。

 

 

「……オレ、妹紅さんの気に障るようなこと言いましたかね?」

 

「さぁ?」

 

 

思わず永琳にそう聞いてしまう真一。それも無理はなく、妹紅の様子は誰が見ても明らかに不機嫌そうだったのだ。

 

永琳もよくわかってないような素振りを見せたが、何となく予想はついていた。しかしそれはあくまで予想。妹紅の気持ちを多少考えてあげるならば、不確定なことを彼に言う必要はないと彼女は判断した。

 

 

「それよりダメかしら、解剖。安心しなさい。バラした後はちゃんと元に戻すから」

 

「嫌ですし。何一つ安心できませんし。というかそう言う問題でもないし」

 

「頭だけでも、ダメ?」

 

「一番ダメなところだよ!」

 

「それは残念。それはそれとして、もう一つお願いがあるのだけれど」

 

「(嫌な予感しかしない……)」

 

 

ただ切り替えが早いだけなのか、どう見ても残念そうには見えない永琳の笑顔を見て、真一は妙な恐怖を覚える。

 

 

「姫の話し相手をしてくれない?」

 

「姫?」

 

「ええ。うちの姫、引きこもりなのよ」

 

「………若年無業者(ニート)?」

 

「違うわ、説明不足でごめんなさい。好きで引きこもっているわけじゃなくて、引きこもらざるを得ないのよ」

 

 

 

 

 

*―――――――――*

 

 

 

 

 

「うちの姫はね『顔で人を殺す程度の能力』を持っているのよ」

 

「……ちょっと意味がわからないのですが」

 

「文字通りの意味よ」

 

 

つまりオートザラキってこと? それとも永遠なる力の猛吹雪でもまき散らしてるの? つまり永琳さんはオレに死ねとお願いしてるの? どこまで非情なお願いしてくるのこの人。

 

 

「いやぁ………流石に命を持っていかれるのはちょっと……」

 

「いいえ。貴方に姫様の力は通用しない。今までの話が本当なら、ね?」

 

 

そう言って微笑む永琳さん。なぜだろう。すごく美人なのに怖い。例えるなら蛇に睨まれた蛙の気分。背筋が凍りそうだ。

 

 

「姫はね、人を殺せるほどのブサイクなのよ」

 

「殺せるって……それは比喩表現ですよね?」

 

「あら、そう聞こえる?」

 

 

ははっやっべぇ。目が笑ってない。

 

人を殺せるほどのブサイクってどんなブサイクなんだよ。オレの世界の基準で考えたとしても想像できない。顔面にスズメバチの巣でもくっ付いてるのか?

 

 

「並の人間なら命を落とすほどの醜い姫だけれど、貴方には命を落とすほど美しい姫に見えるはずよ」

 

「どちらにせよ死にませんオレ?」

 

「心配ならこれ飲む? 不老不死になる薬」

 

 

絶対に嘘だ。その薬、オレの語彙力じゃ言い表せない色してるもん。薬の色じゃないよ毒の色だよ。

 

薬はさておき、美しかろうが醜かろうが、その姫様とやらの顔は見てみたい気もする。死ぬほど綺麗な人なら尚更だ。

 

それにしても、竹林に住む美しい姫様か………。

 

 

「なんか、竹取物語みたいですね」

 

「? なあにそれ?」

 

「オレの世界の有名なお話です。竹から生まれたかぐや姫というお姫様のお話でして、そのかぐや姫はこの世のものとは思えない程の美しさだったとか」

 

「うちの汚姫様がこっそり書いてた自作小説(くろれきし)のような夢物語ね。鳥肌が立つわ」

 

 

永琳さん。それ以上は言わないであげてください。

 

 

 

「とにかく、こんなオレでよければ姫様のお話し相手、お受けしますよ」

 

「ありがとう。じゃあいってらっしゃい。姫によろしく」

 

「…………え?今から?」

 

「寝ていたら叩き起こしていいわ。なんなら襲っても構わなくてよ。姫にとっては2度とないチャンスだもの。はいこれ精力剤」

 

「………」

 

「ゴムは付けなくていいわよー」

 

 

やっぱ永琳さん。オレのヤバ友トップ5に入るぐらいヤバい人だよ。

 

 

 

 

 

*――――――――――――――*

 

 

 

<アアッ!?ジュンコサン!?ソコハダメデス!ソコハヨワインデスワタシッ!

 

 

 

「お盛んねー………それにしても退屈ねー…………」

 

 

 

一泊数十万ぐらいしそうな豪華な和室に、布団が一組敷かれている。

 

その布団の上でコロコロと転がるピンク色の着物を着た人間核兵器が一人。彼女こそが『蓬莱山輝夜』本人である。

 

永遠の時を生きる彼女に朝も夜も関係ない。吸血鬼のように昼夜逆転した生活をすることも珍しい事ではない。

 

世界を滅ぼす程度の顔面戦闘力を持つ彼女は現在、暇を持て余していた。

 

 

「ヒマー………イナバに持ってきてもらった本も読んじゃったしー………お昼寝しちゃって眠れないしー……………話し相手は……元からいなかったわねー」

 

 

 

『見たら死ぬ顔』

 

この異名は伊達ではない。男は言わずもがな、女性であっても命の保証はない。ブサイクの頂点に君臨する彼女には、友達どころか話し相手すら碌にいなかった。

 

強いてあげるとすれば、同じ不老不死である『藤原妹紅』。犬猿の仲とはいえ話すときは話す。しかし、一週間に一度来るか来ないかのペースでしか彼女は来ない。幻想郷にケータイが普及しているわけもなく、いつでも話せる相手は輝夜にはいないのだ。

 

不老不死であるものにとって、暇は最大の敵。そのブサイクさ故に外に出ることを許されない輝夜にとって、(ヒマ)と対抗する手段は多くなかった。

 

 

しかし、今目の前にいる彼女の(ヒマ)は、倒されることとなる。

 

 

「…………」

 

「あ、妹紅じゃない。殺し合いでもしにきたの?」

 

「…………」

 

 

戸を開けていきなり彼女の部屋に入ってきたのは、先ほどまで診察室にいたハズの妹紅だった。彼女は黙ったまま、彼女に近づいていく。

 

 

「な、なによ。どしたのもこたん。嫌なことでもあった?」

 

「………輝夜。お前は今まで………『かわいい』と言われたことがあるか?」

 

「………え?」

 

「わたしは………あるぞ」

 

 

何を言っているのか意味がわからない。輝夜は布団から起き上がって妹紅を見る。

 

妹紅の顔は、今にも燃え上がりそうなほど真っ赤に染まっており、気を抜けばにやけてしまいそうな口元を必死でこらえていたのだ。

 

 

「へ、へぇー。物好きな男もいるものね。妹紅のことを可愛いだなんて、なんの罰ゲームかしらねー?」

 

「………じゃあ、わたしは帰る」

 

「え!? ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 結局何しに来たのよアンt熱ッ!?」

 

 

いきなり帰ろうとする妹紅の腕を掴んだ輝夜であったが、あまりの熱さに手を離した。よく見れば藤原妹紅、顔だけでなく、身体中が赤く染まっていた。

 

妹紅は輝夜の呼び止めもお構いなく、そのまま無言で輝夜の部屋もとい、永遠亭を後にした。

 

 

「………何だったのよアイツ」

 

「失礼するウサー、姫様」

 

「今度はてゐ?……貴女は正常の様ね」

 

「?」

 

 

入れ替わりで入ってきたのはてゐ。再び永琳から雑用を任された彼女は、輝夜の部屋にやってきた。

 

 

「なんでもないわ。それで、どうしたの?」

 

「はい。『姫様と是非お見合いしたい!』と言う男が来ていまして、今からお連れするウサ」

 

「へぇー。物好きな男もいるものね。私とお見合いしたいなんて…………お見合い!?」

 

 

 

慌てふためく輝夜とは対照的に、てゐの笑顔は終始真っ黒に輝いていたのだった――――――――。

 








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