女子だけあべこべ幻想郷   作:アシスト

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初めてのお見合い(前編)

 

 

 

 

「うどんちゃん……私たちズッ友だよぉ……!」

 

「もうお嫁さんに行けない……誰か助けてぇぇぇ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………あの、てゐちゃん。向こうの部屋から百合の花の香りがするんだけど。SOSが聞こえるんだけど」

 

永遠亭(うち)じゃ珍しい事じゃないから気にしなくていいよ」

 

 

ここ本当に病院? 大人のホテルとか言われても全然驚かないよオレ。

 

 

早く姫のところに行ってきなさいと言われ、永琳さんに半強制的に診察室を追い出された。それは別にいいのだが、姫様の部屋を聞かずに追い出されたのはよくない。精力剤を返品できなかったのも非常によくない。

 

とりあえず廊下を道なりに進んでいたら、ピンク色の服に人参のネックレスを付けた少女と遭遇し、訳を話したところ、親切にも案内してくれることになった。

 

名前はてゐちゃんと言うようだ。変わった名前だけど、そんな事言ったら永琳さんも大概だしツッコむのはやめた。

 

ウサギの様な耳も生えてるし、この子は妖怪なんだろう。そろそろオレの中にある妖怪のイメージ像が壊れそうだ。

 

 

「なぁてゐちゃん。姫様って、一体どんな人なんだ?」

 

 

そう言えばオレ、顔がスゴイ事以外何も知らないや。部屋につく前にもう少し情報が欲しい。

 

 

「姫様は草食系ウサ。話すときはお兄さんの方からガツガツ言った方ほうが良いウサよ」

 

「ほうほう」

 

「それからあとは―――――」

 

 

 

 

*―――――――――――――――――*

 

 

 

 

 

「ど、どうしよう………!?」

 

 

蓬莱山輝夜は今まで億単位の年月を生きてきたが、今ほど心が踊る日はないだろう。

 

てゐから告げられた『お見合い』のワード。当然のことながら、輝夜は一度もそんなことを経験したことはない。

 

そもそもお見合いなどできるわけがなかった。遠目で見られても男に失神されるほどブサイクな彼女である。机一つ挟み、目を合わせて2人きりでお話しするなど、夢もまた夢の話であった。

 

 

「殿方とお話はしたい……でもそれは……」

 

 

相手を殺すこと他ならない。しかもお見合いを持ちかけてきたのは相手の方。自殺願望者である可能性を考えたが、それならばもっとマシな方法を取るだろう。

 

男と話すのも何億年ぶりの彼女。こんな自分にわざわざ会いに来てくれた人を無下に殺すわけにはいかない。

 

 

「とにかくこの顔をどうにかしなくちゃ………何か方法は……」

 

 

(ブサイク)を隠せばお話しぐらいできるかもしれない。そう考えた輝夜は、押し入れから使えそうなものを探し出す。

 

 

 

「化粧でブサイクを緩和できるくらいなら今まで苦労してないわ。物理的に隠さないと………!! こ、これは!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「宇宙人!?」

 

「正確には月の民だよ。私は違うけど」

 

「ってことはもしかして……今から会うのって本物のかぐや姫なのか!?」

 

 

輝夜が月の民であることを知らされたタイミングで、真一はついに輝夜の部屋の前まで辿りついた。

 

ここまでは全て、てゐの計画通りだった。

 

 

「(いやぁー面白い事になってきたね!)」

 

 

てゐは診察室の外で、真一の話しをこっそり聞いていたのだ。だからこそ、輝夜の部屋に先回りして『お見合い』という嘘をついた。その方が面白そうだからと考えたのだ。

 

 

 

「姫様ー。例の客人を連れてきましたー」

 

『!! ご、ご苦労様てゐ。貴女はもう下がっていいわよ』

 

「はーい。……あ、そうだった。お兄さんの事情は姫様に伝わってるウサ(・・)。それじゃ、がんばってね」

 

「おう。ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

*――――――――――――*

 

 

 

 

竹取物語を題材にしたゲームをオレはいくつかプレイしたことある。それに出てくるかぐや姫はどれも一級品の美少女だった。

 

だけど断言できる。今オレの目の前にいるこの人は、ゲームに出てきたどのかぐや姫よりも、段違いで美しいと。

 

 

部屋に入った瞬間から、オレは輝夜姫様に見惚れてしまった。姫様は外に昇る月を眺めており、オレには背を向けて座っていた。

 

にも関わらず、オレは見惚れた。後ろ姿だけでこんなにも美しく、絵になるような人は生まれて初めて見た。

 

 

 

『初めまして。永遠亭の当主、蓬莱山輝夜と申します。以後、お見知りおきを』

 

 

デーンデーンデーン デーデデーンデーデデーン

 

 

姫様はゆっくりとこちらを振り返り、丁寧に頭を下げて自己紹介をしてくる。

 

その一挙手一投足から、彼女の育ちの良さが窺える。レミリアさんとはまた違う、高貴なカリスマをオレは姫様から感じた。

 

 

 

「………」

 

『どうかされましたか?』

 

「あ、いいえ。えと……牧野真一です。本日はよろしくお願いします」

 

 

デーンデーンデーン デーデデーンデーデデーン

 

 

でも何故だろう。頭の中であのBGMが流れて止まらない。

 

 

『緊張されているのですか?』

 

「え!? まぁその……していないと言えば嘘になりますね。お姫様とお話しするのは初めてなので」

 

『うふふ……そう緊張なさらないでください。私まで緊張してしまいます』

 

 

そう輝夜姫は言うが、どう見ても緊張しているようには見えない。と言うよりも顔がまったく見えない。

 

オレと姫様の間には、一枚の薄い壁があった。それが、オレの頭にあのBGMを奏でている。

 

 

「(一体全体……どうしてダース・〇イダーの仮面を付けてるんだ……?)」

 

 

素人のオレから見ても高級そうなピンク色の着物に、綺麗な黒髪。それらをすべて帳消しにするようなダース・〇イダーの仮面を姫様は身につけていた。

 

宇宙人ってもしかしてそういう意味? そもそも何でダース・〇イダーが幻想入りしてるんだよ!

 

 

 

『(………やばい……超緊張してきた……しかしイナバからもらった仮面がこんな形で役に立つなんて……これならお見合いもできそうね)』

 

 

「(これはツッコんだ方がいいのか……?いや、姫様相手に無礼な真似はできないし………もしかして顔を見られたくない? でもオレの事情(美醜概念逆転)は伝わってるっててゐちゃん言ってたし……)」

 

 

『(……やっぱり向こうも緊張してるようね、なかなか話しかけてこないわ。こういう時こそ女である私がリードしなくっちゃ!……あれ、でも待って。お見合いって……)』

 

 

「(いや、あえて仮面にはツッコまないでおこう。きっとあれだ。ニキビが酷いとか思春期的な理由だろう。………しかし、話し相手になるとは言ったものの、お姫様相手に……)」

 

 

 

 

『「(一体何を話したらいいんだ……?)」』

 

 

 


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