女子だけあべこべ幻想郷   作:アシスト

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咲夜さんにほっぺをすりすりされたいだけの人生だった……

ほとんど説明回なので美鈴が空気です。ごめんねめーりん。


ゲームの様な世界

 

 

真一は欠伸をしながらムクリと身体を起こし、ここかどこかを確認するように周りを見渡す。

 

彼の目に最初に映ったのは、真っ赤な壁だった。紅魔館なのだから内装もそれなりに紅いのは当然なのだが、そんなこと彼が知っているわけもなく“なんだこの寝起きの目に悪い赤色は”と言わんばかりに目を細める。

 

彼女たちと真一の目があったのは、その後であった。

 

 

彼の顔は決してブサイクではなかった。ブサイクかイケメンかの2択ならば、イケメンだろう。が彼をイケメンとして紹介するならば、おそらく首を傾げる人も多いに違いない。つまり、良くも悪くも普通の顔なのだ。

 

が、男の少ない幻想郷に住む彼女たちにとって、男がイケメンかブサイクなんて些細な問題だった。何故なら、自分たちがブサイクだからだ。「イケメンとならつきあいたい(2つの意味で)」とか「ブサイクとはつきあいたくない(2つのい(ry))」などと言える立場ではないことは、彼女たちも重々承知している。

 

つまり何が言いたいかというと、幻想郷ではイケメンのハードルが非常に低いということ。ブサイクでも彼女たちには普通の顔に見え、普通の顔であれば十分にイケメンに見えてしまう。マジのイケメンと会えたなら、彼女たちは涙を流して神に感謝するだろう。

 

 

そんな彼と目があった咲夜と美鈴。彼女たちには彼がかなりのイケメンに見えるため、目が合っただけで、彼女たちは赤面した。美鈴に至ってはもっと濡れた。

 

それと同時に、彼女たちは悲鳴を上げられることを覚悟した。彼からすれば、顔で空気を汚せるような絶世のブスが目の前に2人もいることになるからだ。いや、悲鳴だけで済めば良い方。悪ければ再び気絶してもなんらおかしくない。寧ろ気絶してくれた方が私たちにとっては都合がいいんじゃないかと考えてしまう。

 

 

彼が気絶する様子はない。それがわかったと同時に彼女たちは思った。“短い青春だった”と。

 

 

 

 

しかし、彼が悲鳴をあげることは一向になかった。

 

きょとんと目をパチクリさせ、彼女たちに向かって口を開く。

 

 

 

「………不法侵入者?」

 

 

 

*―――――――――――――――*

 

 

 

何が何だかさっぱりわからん。略してさぱらん。クソゲーでも楽しめるのがオレ。アニメは普通に面白いし。いや今はそんなことどうでもいい。

 

ゲームをしてたら突然空。空から落ちて目が覚めたと思ったら今度は目に悪い赤色をした部屋の中。横を向いたら頬を赤く染めたメイド服とチャイナ服を着た2人の美人と目があった。

 

初っ端からおかしいことしか起きてないが、この状況も大概おかしい。オレには恥ずかしそうにしながらコスプレ姿で朝起こしに来るような幼馴染はいない。不法侵入者という単語が口走ってしまったがよく見たら、いや、よく見なくてもここオレんちじゃねぇな。

 

そこから導かれる答えは一つ。

 

 

「…………夢か」

 

 

夢の中で夢でも見ていたに違いない。ならばオレがする事は一つ。2度寝だ。夢の中で2度寝ってどういうことだよって思うが、考えても無駄だ。だって夢だもん。

 

今何時かわからんけど、多少寝過ごしたっていいだろ。明日の講義は午後だけだし。

 

そう思って再び毛布にくるまる。

おやすみなさーい。

 

 

「いや寝ようとしないでください!」

 

 

はい、おはようございます。何故か無理やり起こされ、メイドさんにモフモフの毛布を剥ぎ取られた。夢なのに妙にリアルなモフモフ感だったなぁ。

 

と言うか何なんだこの人たちは。夢の中の住民なのにオレを起こそうってか。可愛いからって調子に乗りやがって。

 

 

「……なんなんですアンタたち。オレは眠いんです。寝かせろ」

 

「え、ええぇ……?この状況で……?」

 

 

メイドさん困惑。いちいち人の反応もリアルだなぁ。夢の中なんだから『お休みなさいませご主人様』って言ってくれてもいいだろうに。

 

 

 

 

………ん?ホントに夢かコレ?

 

 

「…………もしかして………夢じゃない?」

 

「……咲夜さん。この反応はおそらく」

 

「ええ。間違いなく外来人ね」

 

 

いやアンタたちの方がよっぽど外来人に見えるぞ。

 

メイドさんもチャイナさんも外国人っぽく見えるけど日本語上手いなぁ、とか思ってみる。やっぱり夢なんじゃねコレ。

 

だって考えてもみろ。これが夢じゃないとしたら、どういう状況だよ。誘拐? 身代金とか期待しても無駄だぞ。うちの両親はそこらへんのゲームのラスボスより鬼畜だからな。冒険に出始めたレベル1の勇者に直接勝負を仕掛けに行くような連中だから。

 

 

悩ましそうに頭をひねっていると、オレの姿を見かねたのかメイドさんが口を開いた。

 

 

「……これは夢ではありません。信じられないと思うのですが、私が今から説明することは全て、夢ではない現実です」

 

 

 

 

*―――――――――――――――*

 

 

 

十六夜咲夜は彼に全てを説明した。森で倒れていたところを美鈴が助けたこと。外来人の意味。幻想郷の事。この世界が真一のいた外の世界と隔てられた、忘れ去られた者たちが集う場所であること。真一が途中で質問してきたことも、丁寧にすべて説明した。

 

説明をしている間、彼女は不思議な感覚に陥っていた。

 

 

 

『彼は彼女の説明を、彼女の目を見て聞いていた』

 

 

 

人と会話するとき、相手の顔を見るのは至極当然のこと。それはこの幻想郷においても言えることだった。

 

しかし、咲夜の顔は幻想郷基準で言えば下の下の下の下の下のさらに下。最下層でこそないが、男女問わず見るのもをすべてを不快にさせる絶望的なブサイク加減なのだ。

 

 

―――男性とお話すると、こんなにも心があたたかくなるのね。

 

 

自分と目を合わせて話を聞いてくれる彼に、彼女はそんな気持ちを覚えたのだった。

 

 

「…………………」

 

 

咲夜の説明を聞き終え、黙り込む真一。それも無理はない。彼女が言ったことは、常人なら絶対に信じられないような、まさに幻想のような話だからだ。

 

幻想の中で生きる彼女たちと、現実で生きる彼とでは常識が違う。彼の持つ常識は幻想郷では通じないのだ。故に、理解に苦しむのも当然と言えば当然の事だった。

 

ちなみに、幻想郷の事を話したとはいえ“女子に関しての美醜感覚が逆転している”ことを咲夜は教えなかった。厳密には、教えることができなかった。何故なら彼女たちもまた、彼の世界の常識を知らないからだ。

 

 

「…………よし。大体わかった」

 

 

頭の整理がついたのか、5分ほど黙り込んていた真一がようやく口を開く。

 

 

「し、信じていただけましたか?」

 

「ああ。つまり“幻想郷”っていうゲームの世界に入ったと思えばいいんだろ。それならわかりやすい」

 

 

あながち間違ってはいない彼の考え。彼はベッドから立ち上がり続けて口を開く。

 

 

 

「元の世界に戻るために、この幻想郷を冒険する。それがこのゲームのクリア条件だ」

 

 


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