女子だけあべこべ幻想郷   作:アシスト

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貴方の瞳に映る

 

 

「ひ、ひめさま………?」

 

『……(これ)はアンタのせいじゃない。私の自業自得。罪を忘れて期待した私への……罰』

 

 

輝夜の事情を全く知らない真一は、彼女の涙に動揺した。確かに姫様相手に強く言い過ぎたかもしれないと感じていた彼であったが、彼女が涙を見せるとは思っていなかった。

 

そんな彼にも、仮面で隠れた輝夜の顔が、どれほど悲しみに呑まれた顔をしているかは感じ取れた。

 

 

『私の顔のこと、知らないわけじゃないでしょ? この顔で、私は多くの命を奪ってしまった。きっとこれからも、私の意思に関係なく、多くの命をこの顔は奪っていく。それが、私の罪。私は生まれた時から罪を背負ってるの。そして……この涙もまた、永遠に背負わなきゃいけない私の罰』

 

「い、いきなりどうしたんだよ……。罪とか罰とか、訳がわからない」

 

『私だって訳わかんないわよ! 何かをしたわけでもない、何かをされたわけでもない! なのにどうして、私は罪を背負わなきゃいけないの!?』

 

 

輝夜の億年溜まっていた気持ちが溢れだす。

 

彼女の顔は確かに、命あるの者の生を奪い、死を与えるものであった。しかし、それは絶対ではない。強い力を持つ者や、遠目で見た者たちならば、死にかけることはあっても死ぬことはなかった。

 

だからこそ、彼女は『ブサイクの権化』と呼ばれるようになり『絶対に見てはいけない』と言い伝えられてきたのだ。本当に見た者全てが死ぬのなら、そんな呼び名が付く前に人類は滅んでいる。

 

 

『私が本当に辛いのは、誰からも恐れられることじゃない。誰の瞳にも私が映らなくなること、誰も私を見てくれないこと。私と言う存在を……誰も認識してくれなくなること』

 

「………」

 

『……ごめんなさい真一、アンタはもう出て行って。ほんの数分だけど(アンタ)と話せて楽しかった。だから………これ以上、私を期待させるようなことをしないで」

 

 

 

*――――――――――――――――*

 

 

 

 

顔がヤバい。草食系。月の民。

 

 

オレが姫様に関して知っていることはこれぐらいだ。だから、姫様の言ってる罪とか罰とか、正直よく理解できなかった。いや、姫様の事情を知っていたところで、きっと理解はできてはいないだろう。

 

月の民はオレたち地上の人間と比べて、圧倒的に寿命が長いらしい。顔が見えないとはいえ、姫様も見た目相応の年齢ではないってことだ。

 

何十年、何百年、もしかしたらそれ以上かもしれない。自分の顔を見た者が死に、多くの人が自分を避け、自分を見てくれなくなっていく寂しさや辛さ。20年程度しか生きていないオレに理解できるわけがない。

 

 

だけど、そんなオレにも1つだけ理解できたことがある。目の前で泣いてる女の子を見て見ぬふりする奴は、ヤバいを突き抜けたクズ以下のゴミってことだ。

 

 

「……誰の瞳にも映らない、か。確かにオレの瞳にも姫様は映ってない。大体、そんな仮面つけてたら映るものも映らん」

 

『…………っ………? なにを………?』

 

 

さっきとは逆に、今度はオレから姫様に迫る。 顔は見えないが、きっと困惑した表情をしているのであろう。

 

 

いい加減、見えないのは不便だ。

 

 

へたり込んでいた姫様のすぐ傍まで近づき、オレは覚悟を決める。

 

 

「ゲームオーバーを怖がってたらハッピーエンドなんて見れない。殺せるものなら殺してみろ」

 

 

そう言い放って、彼女の仮面を勢いよく外す。

 

 

オレの瞳に映ったのは、涙を流した一人の女の子だった。

 

 

 

*――――――――――――――――――*

 

 

 

カラン、とダース・〇イダーの仮面が畳の床に落ちる。

 

本当の意味でようやく対面した真一と輝夜。2人は何も言わず、ただただ互いを見つめ合った。

 

 

 

輝夜は自分の顔を何度も呪ってきた。

 

たとえ自分であっても、鏡を見るたび吐き気が止まらなかった。流石に数億年毎日見てきた今となってはそれはないが、自分の顔を見るたび、彼女の心には哀しみが募った。

 

初めてだった。自分の顔を見て嬉しく思うのは。

 

 

 

15分ほど静寂が続いたところで、真一が口を開く。

 

 

 

「………姫様。オレ、生きてるか?」

 

「………うん」

 

「………オレの瞳には、姫様が映ってるか?」

 

「……………うん!」

 

 

真一の瞳に映った自分の顔を見て、彼女はまた涙を流す。そして嬉しさのあまり、彼に抱き付いた。

 

彼も今度は拒まなかった。今の輝夜からは先ほどの様な欲に塗れた邪念を感じないからというのもあるが、本当の理由はそれではない。

 

下手をすれば、欲の塗れた邪念を感じていたとしても、彼は拒まなかったかもしれない。

 

 

「(っややっやややややあっやややっべぇ! 綺麗とか可愛いとか美人とかそんなちゃちなもんじゃねぇ! なんだこの人!? 女神かよ!)」

 

 

顔は平静を装っていたが、内心はとんでもないことになっていた。

 

牧野真一は日本人である。もはや幻想入りしてもおかしくない日本人系美人の最上級種『大和撫子』。そのお手本となったと言っても過言ではない彼女の外見に、真一の心は撃ち抜かれかけていた。簡単に言えば、一目惚れの一歩手前である。

 

そんな人に抱き付かれているのであるから、彼の心臓はマッハであった。

 

 

「(………男の心音って、こんなにも大きくて早いのね。でも………心地良い………)」ギュッ

 

「(ああああああああああ! 抱きしめられたドキドキするあああああああ!)」

 

 

2人の心境の差は歴然であった。

 

 

「………ありがとう、真一。私を見てくれて」

 

「ずっと見ていたい(お礼を言われることじゃないさ)」

 

「え?」

 

「なんでもないです!」

 

 

輝夜が真一から離れる。彼女の目にはもう涙は残っていなかった。

 

本音と建前がリバースしてしまうほど動揺していた真一も何とか正気を取り戻し、再び輝夜と向かい合う。

 

 

「でも、本当に大丈夫なの?その……私の顔、死ぬほど醜いものよね……?」

 

「そんなことない! というかオレ、外来人だから! 寧ろスゴく可愛いっていうか、こんなに綺麗な人今まで見たことな」

 

 

 

「………えっ!?」

 

 

今度は輝夜が動揺する。しかし、これは可愛いと言われたからではない。

 

目の前にいたハズの真一の姿が、突然消えたからである。

 

 

「!? 何かあったの姫!」

 

 

いち早くその異変に気付いたのは、外にいた永琳だった。

 

部屋の外で輝夜の部屋を封印していた彼女。その封印に外部から穴が開けられたことに気づいたのだ。

 

永琳が部屋に入ったとき、中にあったのは輝夜の姿だけ。真一の姿は消えており、その代わりに真一がいたであろう床にポッカリと穴が空いていた。

 

 

「夜分遅くに御免下さいねぇ。芳香ちゃんの具合が悪いみたいなのよ。診てもらえない?」

 

「オナカガイタイゾー」

 

 

その穴から出てきたのは、幻想郷では非常に数少ないブサイクの未亡人、壁抜邪仙『霍青娥』。彼女は背中には死人の部下『宮古芳香』が背負われていた。

 

 

「貴女一体どこから………?お生憎様だけど、病院は生きてるものしか治せないの。他を当たって頂戴」

 

「まぁ酷いわ!ウチの娘がこんなにも苦しそうなのに!」

 

「クルシイゾー。シニソウダゾー」

 

「死んでるじゃない」

 

「シンデタゾー」

 

 

わざとらしい演技をしながら話す青娥と、至って素の芳香。そうこう話している間に、いつの間にか彼女たちが通ってきた穴は綺麗さっぱり消えていた。

 

 

「ち……ちょっとアンタ! 真一を、真一をどこにやったのよ!」

 

「しんいち? どこの高校生探偵かしら?」

 

「違うわ! 今アンタが出てきた穴に落ちていった人間の男よ!」

 

「男ぉ……?」

 

 

男という単語に一瞬、眉を顰める青娥。

 

狙ったようなタイミング、狙ったような位置に穴をあけて現れた彼女であったが、全ては偶然が重なった結果であり、彼女も何のことかわからなかった。

 

しかし相手は男と関わることなど120%あり得ない汚姫様。他に考えられる可能性を瞬時に思いついた青娥は"ああ、なるほど"と思って口を開く。

 

 

「御宅の姫様、面白い事を言うのねぇ。永遠亭(ここ)に男だなんて、幸せな夢を見る薬でも飲んだのかしら? 是非おひとつ頂きたいわぁ」

 

「”夢”、ね……確かにそうかもしれないわ。ところで貴女、どこからやってきたの?」

 

 

 

 

「お寺の墓地。芳香ちゃん用の良いパーツが手に入るかなーって忍び込んだけど、追い出されちゃったわぁ」

 

 

 

 




急展開の末、第2章終了。


次回は閑話。あのキャラのその後を書きます。

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