女子だけあべこべ幻想郷   作:アシスト

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これぐらいの科学力はある。はず。


閑話 月の科学は世界一

 

「幻想郷の命運は貴女にかかっているの。後は任せるわ」

 

「…………」

 

「……あの、八意様。私もサグメ様も、内容を全く掴めてないのですが」

 

「連絡した通りよ」

 

 

 

事の始まりは、サグメ様に入った一通の連絡だった。

 

連絡相手は我らが師匠であり、元月の使者のリーダーである八意永琳様。様々な事情のもと、現在は地上で暮らしている八意様ですが、それでも尚、月での知名度と権力は絶大です。八意様の鶴の一声で、我々月の民が動かされることも少なくありません。

 

サグメ様に入った八意様の連絡はこうだと言う。

 

 

『幻想郷がヤバイから、稀神サグメ殿に応援求めます。早く来て』

 

 

たったそれだけを一方的に言われ、連絡は切れたという。

 

サグメ様は八意様を尊敬している。故に応援を求められて首を横に振ることはなかった。5分もかけずに身支度を行い、幻想郷へ向かった。

 

が、サグメ様は意外に大胆であり、お茶目である。サグメ様の能力のことを考えると見張り兼護衛が必要だと判断した私の姉『綿月豊姫』は私にその役目を押し付けた。

 

 

『だって暇でしょ依姫。私は暇をつぶすのに忙しいから、八意様によろしく伝えておいてね』

 

 

適当な姉さまである。

 

 

事情が事情とはいえ、八意様に会える貴重な機会。私は二つ返事で護衛を了承し、サグメ様と共に八意様の住む永遠亭に足を運んだ。

 

八意様がヤバいと言うぐらいだから、何時何処で戦いになってもいいように、私もサグメ様も戦闘準備は万全だった。

 

 

しかしである。

 

 

「八意様。お言葉ですが、永遠亭(ここ)に至るまで幻想郷を見て回りましたが、脅威が迫っているような兆しは発見できませんでした。一体、どのような脅威が迫っているのですか?」

 

何事もないように賑わう人里に、森で戯れている妖精たち。

 

ヤバイという割には平和すぎる。混乱を防ぐために情報を遮断しているのだろうかとも考えたが、幻想郷の有力者たちが動いている気配すらないのはおかしい。

 

いったいこの幻想郷に何が起こっているのか、私もサグメ様も全くわからなかった。

 

 

【八意様。原因がわからないと対処もできません。詳しくお話をお聞かせください】

 

 

サグメ様は『口に出すと事態を逆転させる程度の能力』を持っている。その能力故にサグメ様は喋ってコミュニケーションが難しいので、私用のスケッチブックに文字を書いて会話をする。

 

 

「……そうね。少し説明不足だったかもしれないわ。百聞は一見に如かず、向こうの部屋を覗いてくれる?」

 

 

八意様がそう言って指差す方向には、何の変哲もない永遠亭の一室……ではなかった。

 

結界が張られているにも関わらず、襖の隙間から途轍もない力が溢れ出ており、並みの妖怪なら近づくだけで灰燼と帰す、それぐらい高濃度の力が感じられた。

 

まさか八意様は、幻想郷の脅威そのものをこの屋敷に封じ込めているのだろうか?確かにこの人が本気になれば不可能ではないでしょうが……ううむ、わかりません。

 

八意様の言われるがままに、私とサグメ様は少しだけ襖を開き、全ての元凶がいるであろう部屋の中を確認する。

 

 

 

 

「放しなさい優曇華!私は真一を探しに行くの!彼は人間よ!?もし何があったらどうするの!?」

 

「心配なのはわかります!わかりますから落ち着いてください!私がその人間を探しに行きますから、姫はここで待機してください!幻想郷を滅ぼすつもりですか!?」

 

「滅んだっていい!初めて(わたし)を映してくれた人が死んでしまう世界なんて、いらない!」

 

「噂をはるかに上回る醜い顔ね。この吐き気、気分を純化しなければ耐えられるものじゃないわ。死なないのなら、足ぐらいもいでも平気よね?」

 

「ゲームオーバーを怖がってたらハッピーエンドなんて見れないのよ!やれるものならやってみなさい女狐風情がァ!」

 

 

 

 

 

そっと閉じる。

 

 

 

何だろう。思っていたのと違う。

 

 

 

 

 

「……一体何がどうなったらこうなるのですか八意様!しかも中にいた狐、以前月を侵略してきた犯罪者ですよ!なぜ八意様の味方を!?」

 

「交渉したの。3日間契約よ」

 

「貴女を止め切ればうどんちゃんは私だけのモノ……そうでなくてもうどんちゃんは私だけのモノぉ……!」

 

「私のゲームオーバーは確定なんですか!?」

 

【不憫ね】

 

 

サグメ様の言葉はごもっともである。レイセン、強く生きなさい。

 

とにかく、八意様が言う『幻想郷の危機』が何なのかはよくわかりました。そしてサグメ様に応援を求めた意味も。

 

ほんの一瞬、チラッと輝夜様の顔が見えましたが、正直、喉元まで来ました。遙か昔、月の都を滅ぼしかけたと言われているあのお方の顔は今でも変わらぬようです。あのお方がそのまま外に出てしまったら、幻想郷に未来はないでしょう。

 

 

「『どうなったらこうなるのか』ね……。依姫、貴女は今まで生きてきて、殿方に顔を褒められたことはある?」

 

 

口元を抑えながら深呼吸していると、八意様はそう私に聞いてきた。

 

私は黙って首を振る。自分が不細工であることは自覚していますが、そのことに関して気にしたことはありません。人は見た目が全てじゃありませんから。

 

 

「褒められると、ああなるのよ」

 

「……嘘でしょう?」

 

「嘘で姫の顔を褒められる男がいる?」

 

「……嘘でしょ」

 

「このままじゃ姫が暴走して幻想郷が黄泉の国になってしまうから、運命を逆転させてどうにかしてってこと。お願いできる?」

 

【わかりました】

 

 

サグメ様はスケッチブックを閉じると、臆することなく結界をすり抜け、輝夜様のいる部屋の中に入っていきました。もちろん目をつぶって。

 

目をつぶっていても感じ取れるのほどの顔。サグメ様は一直線に輝夜様の元へ向かった。

 

 

 

 

*――――――――――――――*

 

 

 

 

輝夜の行動は、純粋な心配からくるものだった。

 

ようやく自分を映してくれた人間が目の前で姿を消した。それだけでも充分な理由なのに、途轍もなく胡散臭そうな青髪邪仙が彼を狙っているとわかれば、動かずにはいられない。

 

それは当然の行動。本来なら止める方がおかしい話だが、捜しに行くのが見たら死ぬ顔(輝夜)と言うのなら話は逆転し、止める方が当然になるのだ。

 

顔面の戦闘力に隠れがちではあるが、輝夜の身体的な戦闘力は幻想郷でも上位に入る。輝夜が拘束を抜けて真一を探しに行くのも時間の問題であると判断した永琳は、この先に起こる『輝夜が真一を探しに行く』事象を逆転させることにした。

 

それができる唯一の人物が、舌禍をもたらす女神『稀神サグメ』である。

 

 

サグメの能力の発動条件は、彼女本人が事象の当事者に対して、その事象について語ること。

 

 

「姫」

 

「真一に何かあったら私は……ん?貴女は確か月の……」

 

 

「貴女がその殿方を探しに行ったら、幻想郷は大変なことになるでしょう。ですから、別の方法を考えましょう」

 

 

その瞬間、運命は逆転する。

 

その影響からか、さっきまで聞く耳を持たなった輝夜は、サグメの言葉に反応した。

 

 

「べ、別の方法…?」

 

「そう。例えば―――――」

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

――――――――――――

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こちらカメラA班。牧野真一様と思われる人物を発見しました』

 

『B,C,D,E班でもそれらしき人物を発見。特徴適合率99.8%。全カメラの映像を回します』

 

「! このなかなかのイケメン、間違いなく真一よ!場所は!?」

 

『位置情報確認……3732-10地点。命蓮寺と呼ばれる施設がある場所です』 

 

 

 

職権乱用とは、まさにこのことである。

 

月の科学は世界一。特徴さえわかれば月の衛星カメラから特定の人物を探すことなど訳はない。

 

サグメと永琳は自分たちの権限を持って月の技術班を総動員させた。明らかに過剰戦力であるし、そもそも人探しのために使用するようなシステムではないのだが、永琳たちにやれと言われれば、月のウサギたちはやるしかないのだ。

 

現在、永遠亭にある無数のモニターには、月の衛星カメラに捉えられた真一の映像が映しだされていた。

 

時間が深夜と言うこともあり、真一は命蓮寺の一室で眠っていた。彼が無事であることがわかり、輝夜はホッと胸を撫で下ろした。

 

 

「優曇華、次に命蓮寺へ薬を売りに行く予定は?」

 

「2日後のお昼です。その時に連れて戻ってきますね!」

 

「と、言うわけだから、その時だけは優曇華を開放して頂戴」

 

「……わかったわ。でもそれまでは私のうどんちゃんよ!さぁ向こうのお部屋であの続きをシマショウ……!」

 

「\(^o^)/」

 

 

純狐に摘ままれて優曇華は闇の中に消えていく。ハッピーエンドとゲームオーバーは紙一重である。

 

 

「(この男が輝夜様のことを………。確かに、こんな殿方に褒められたら暴走してしまうかもしれないわね)」

 

 

真一の寝顔を見て、依姫はそう思った。月の美醜概念も幻想郷と変わらない。少しだけ、依姫は輝夜のことを羨ましく思った。

 

 

「ともあれ。正直やりすぎな部分もありますが、これで問題は解決しましたね。サグメ様、月に戻りましょう」

 

「…………」

 

「……サグメ様?どうかされましたか?」

 

 

 

依姫は何度もサグメを呼ぶが、本人は全く反応しない。

 

真一が映っている映像を、目を見開いてただただ眺めていた。

 

一分ほど経ったあと、サグメは震える手でスケッチブックにセリフを書き、顔を隠しながら依姫に見せた。

 

 

 

 

【わたし、ひとめぼれしたかも】

 

 

「………はいィ?!」

 

 

 

 

 閑話・完




アンケートやリア友からの要望が多かったサグメさんをようやく登場させることができました。本編でも登場させるよ!




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