女子だけあべこべ幻想郷   作:アシスト

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一方通行の運命

 

 

真一が吹っ飛んでくる少し前の出来事。

 

 

 

 

 

 

 

右を向いても本。左を向いても本。どこまでも本。気持ち悪くなるほど本。

 

パチュリーたちと別れた真一は、本棚で構成されたレーンの一つを歩きながら、自分の読めそうな本を探していた。“大”図書館と名乗るだけはあり、ここは彼の近所にあった図書館とは比較にならないぐらい広い。これだけ多くの本があるんだから、オレが読める本があったっておかしくないだろう。真一はそう考えていた。

 

 

探し始めること数分。

自分の考えが甘い事を彼は思い知った。

 

 

「…………読めねぇ」

 

 

文字が読めない。タイトルすら読めない。

 

自分の周りにあるものは本当にこの世の本なのかと疑い始める始末。今回は彼の運が悪かった。

 

彼のような外来人でも読める本は大図書館に存在する。しかし、彼が今いる場所は、パチュリーが主に魔法の研究で使う魔導書がまとめられているエリアであった。

 

いわゆる古代語。遥か昔の大魔法使い達が書き上げた魔導書を、ただの人間である真一に読めるはずもなく、仮に読めたとしても、その内容はちんぷんかんぷんだろう。英語で書かれている魔導書もほんの少し存在するが、英語が大の苦手である彼にとって、古代語と英語はほぼ一緒に見えた。

 

 

「あれ。お兄さんだあれ?」

 

 

それでも諦めずに本を探す彼に、声をかける吸血鬼が一人。

 

今日は魔法の勉強をしようと本を探していたフランドールである。

 

 

 

 

*―――――――――――――――*

 

 

 

ド低能なオレでも読める本を探していたら、きゃわいい幼女に声をかけられた。立場が逆だったら間違いなく事案。命拾いした気分だ。

 

宝石の様な物をつけた羽みたいなものを背中に付けた金髪幼女に身長を合わせるようにしゃがみ、彼女に対応する。

 

 

「オレは真一って言うんだ。君は? ここで何をしているんだ?」

 

「わたしフラン! お勉強中なの!」

 

 

天真爛漫の笑みを浮かべてフランと名乗る幼女は、持っていた本をオレに見せつけてくる。

 

………ダメだ、やっぱり読めねぇ。幻想郷の幼女でも読めるのにオレが読めないってすごく恥ずかしいことじゃないのか? 勉強中って言うことは、この本に書いてあることはこの幼女が学ぶような内容が書いてあるハズ。

 

ここは嘘でも知っているふりをして、知的に大人らしく振舞わせてもらおう。

 

 

「おっ、その本懐かしいなぁ。オレも子供の頃はその本で勉強してたもんだ。フランちゃんと言ったね。君、歳はいくつ?」

 

「えーっと……500歳ぐらいかな?」

 

 

なるほど。大人ぶりたいお年頃か。

 

 

「そうかそうか。君ぐらいの歳の子が図書館で勉強とは偉いね」

 

「ほんとう? わたしえらい?」

 

「おう。偉い偉い」

 

 

オレはそう言って帽子の上から彼女の頭をなでる。外の世界なら間違いなく事案。幻想郷でよかった。

 

フランちゃんは嬉しそうにえへへーと笑う。やばい、ロリコンじゃないのに胸がときめく。この子は将来有望だ、確実に美人に育つだろう…………あれ、紅魔館美人しかいなくね? もしかしてオレ、凄いところにいたりする?

 

アイドル級の容姿を持つ美女たちと一つ屋根の下と思うと、なんかテンションが上がるな。そう言えば男の人はまだ見掛けていないな。図書館にくる途中で見かけたホフゴブリンなる生物はオスらしいが、人じゃないし。

 

 

「ねぇねぇお兄さん! 私ね、この本でわからないところがあるの! 教えて!」

 

 

オレ、突然の危機。変な見栄張るんじゃなねえなオイ。

 

しかし、まだ焦る必要はない。たとえ文字が読めなくても、フランちゃんの言葉は分かるのだ。わからないことを直接口に言ってくれれば、オレでも答えられる。

 

 

「どこがわからないんだ? お兄さんが何でも答えてあげよう」

 

「えっとね、ここ!」

 

「ここ! じゃあどこかわからないなぁ。わからない内容をちゃんと口で言わないと。わからないことをちゃんと相手に伝えることも、立派な勉強なんだよ」

 

「ほへぇー……そうなんだー………」

 

 

流石は子ども。純粋だ。胸が苦しい。

 

案の定、彼女が指さした本の一ページは内容どころが何語かもわからない文字で書いてあった。何か魔法陣みたいなものも描いているし、いったい何の文学書なんだコレは。

 

 

「えっと、この魔法陣なんだけどね。ここには魔力の構成要素と魔力経路の組織図を文章化したものが書いてあるのはわかったの。けど、その隣に書いてあるところが何を表しているのかよくわからなくて……」

 

「……ふむふむ、なるほどね」

 

 

何がなるほどねだオレのバカ野郎。

 

魔法陣みたいなものかと思ったらマジで魔法陣だったよ。よく考えたらここの管理人のパチュリーさんも魔法使いなんだから、この幼女もその可能性があったって全くおかしくないじゃないか。

 

ってことは500歳ぐらいってのもマジなの? 合法ロリなんてレベルじゃないぞおい。

 

やっべーよどうすんだよ。“オレ、完璧に意味を理解してますけど何か?”的な態度取っちゃったよ。フランちゃん、いや、フランさんめっちゃキラキラした顔でオレの方見てくるよ。嘘ですなんて口が裂けても言えねぇよ。

 

とにかくそれっぽいこと言ってやんわりごまかしつつ、パチュリーさんの元へフランさんを誘導させよう。それしか方法はない。

 

 

「フランちゃん。本当に……この部分のことを教えてほしいか?」

 

「……?? どういうこと?」

 

「ここに書いていることはね、おそらく今のフランちゃんじゃあ到底太刀打ちできないほど複雑で綿密な内容だ。オレが説明したところで、君には内容の2割もわからないだろう」

 

「ええ!? おかしいなぁ……これ初心者用って書いてあったのに……」

 

「魔法にイージーもルナティックもないのさ!」

 

 

オレがそう言うとフランさんは『っ!』と、電流の走ったようなハッとした表情でオレを見る。罪悪感で心が押しつぶされそうだ。

 

 

「だけどパチュリーさんの説明なら、フランちゃんにも理解できるかもしれない」

 

「パチュリーなら?」

 

「彼女の知識量はオレの何倍もある。内容の要約も彼女の方が圧倒的に上手い。だから、この部分はオレにではなく彼女に聴くといい」

 

 

自分で言っててなかなか良い言い訳だ。オレの尊厳を失わせることなく、フランさんの中のパチュリーさんの株を上げる。誰も傷つかないラブ&ピースな言い訳……の筈だ。

 

まぁ、言い訳の時点で良いも悪いもないんだけどな。フランさんには悪いが、また別の質問を聞かれる前に、全く別の話題にすり替えさせてもらおう。

 

 

「ところでフランちゃん。君の背中のそれは何なんだい?」

 

「これ? これは私の翼なの。きれいでしょ!」

 

 

その場でクルリと横に一回転して、翼のアピールをするフランさん。

 

確かに綺麗ではあるが、翼には見えない。もしかして彼女も何かの妖怪なのだろうか。メーリンさんもあの見た目で妖怪らしいし、可能性はなくもない。

 

妖怪で魔法使いか……。本当にゲームみたいな世界観だ。改めて、異世界にいること実感するな。

 

 

「あ、お兄さん。おでこに虫がついてる」

 

「え、虫?」

 

「動かないで! わたしが追い払ってあげる!」

 

 

でこに違和感はないが、フランさんが言うのだから何かついているんだろう。

 

フランさんはそーっとオレに近づき、右手の中指を親指で抑えて、オレのでこに近づける。いわゆるでこピンだ。

 

いやいやフランさん。そんなことしたら虫の粘液がオレにも君にもついちゃうよ? 普通に手で払うぐらいでいいんじゃないかな?

 

 

「ていっ」

 

 

 

 

ばちこぉぉぉぉおおおおおおおん!!

 

 

 

突然の衝撃。次にオレが感じたのは、ジェットコースターに乗っているかの様な浮遊感だった。

 

 

 

………………なにこのデジャヴ。

 

 

 

 

*――――――――――――――――――*

 

 

 

 

 

吸血鬼のでこピン。その破壊力はロードローラーをも吹き飛ばす。

 

気が付けば、真一は流れ星のように空を駆けていた。きっと彼女に嘘をついた罰が当たったのだろう。

 

 

「痛ててて……何が起こったんだぜ?」

 

 

彼の吹っ飛んだ先には運悪く、死ぬまで借りようと本を探していた魔理沙がいた。

 

2人仲良く地面に真っ逆さま。真一の上に魔理沙が覆いかぶさるような形で地面に落ちた。普通なら気絶してもおかしくない高さだったが、2人は頑丈だった。

 

起き上がろうとした魔理沙は、身体に違和感を感じる。それもそのはず、下には真一がいるのだ。

 

 

「――――――えっ?」

 

 

彼の存在に気づいた魔理沙。今の彼らは、魔理沙が両腕を床につけ、真一を押し倒しているような体勢をしていた。

 

壁ドン体勢ならぬ床ドン体勢。貞操概念が逆転した幻想郷において、彼らの位置は決して逆ではない。男なら誰しも憧れる体勢であるが、それは相手が美人に限る。傍から見ればブサイクがイケメンを押し倒すと言う、現行犯逮捕されてもおかしくないような状況だった。

 

魔理沙はすぐ目の前にある真一を顔をじっと見る。

 

 

「うごご………何が起こったし………ん?」

 

 

時間さで真一が気が付く。彼の目に最初に映ったのは魔理沙の顔のドアップ。

 

瑞々しいきめ細やかな肌。ぱっちりとした黄色い瞳。髪の毛の色と同じ金色のまつ毛。

 

それら全てが鮮明に見えるほど、真一と魔理沙の距離は近かった。

 

 

「…………」

 

 

「……えーっと」

 

 

魔理沙は何もしゃべらない。ただ、真一の顔をじっと、視線で穴をあけるぐらいじっと見つめる。

 

真一にとって、魔理沙は美少女だ。故に初対面とはいえ、今の体勢はまんざらでもなかったが、すぐ近くでパチュリーさんたちも見てることに気づき恥ずかしくなったのか、少し頬を染めて口を開く。

 

 

 

「ど、退いてもらえないと起き上がれないんですが…」

 

「――――――――!」

 

 

 

 

魔理沙の頭の中には大量の疑問が浮かんでいた。

 

 

何故、顔だけで人を殺せるよな連中が集う紅魔館に男がいるのか。何故、この男は吹っ飛んできたのか。一体どこから男は吹っ飛んできたのか。この男は誰なのか。何故、イケメンなのか。何故、この至近距離で私の顔を見て悲鳴を上げないのか。何故、見る者の顔色を悪くさせる私の顔を見て、頬を赤く染めたのか。

 

 

 

――私のこのドキドキは、いったい何なのか。

 

 

 

 

そしてよぎる、星占いの結果。

 

 

彼女は確信した。ブサイクである私を拒まないこの人こそが、私の運命の相手なのだと。

 

 

 

 

「………いやあの、聞こえてま」

 

 

 

美鈴の時と違い、呆然状態のパチュリーも小悪魔も。魔理沙を止められるものは、誰もいなかった。

 

 

 

魔理沙は人間で魔法使いである。魔法使いになると言うことは、体内に魔力を宿すということ。つまり、ブサイクになることと同じだった。

 

それでも魔法使いになった理由は、彼女の師匠が使う“星の魔法”に憧れたから。私もいつかあんな魔法を使ってみたいと言う、子供の様な夢を持っていたからだ。

 

魔法使いにならなければ彼女にも未来はあっただろうが、ブサイクになってでも、恋愛を諦めてでも、師匠のような大魔法使いになりたいと魔理沙は考えた。他の人の目にはブサイクに映っても、大魔法使いは魔理沙の目にはカッコ良く映ったからだ。この話をパチュリーや人形遣いに話したとき『バカねアンタ。湖の氷精よりもバカ』と言われたのを魔理沙は覚えている。

 

しかし、心のどこかで、魔理沙は恋愛を諦め切れていなかった。でなければ、あのような占いに心を踊らされるはずないのだ。それは魔理沙が“女”である以上、仕方のないことだった。

 

魔理沙は幻想郷において、人一倍女らしい性格である。チャンスとあれば積極的に動こうとする行動力が、彼女の持ち味であった。

 

 

 

そんな彼女だからこそ、それはできることだった。

 

魔理沙は何かを言おうとした真一の口を閉じた。自身の唇を使って。

 

 

 

「…………ぇ?」

 

「いきなりで悪い。けど、頼みがある」

 

 

 

唇を離した魔理沙の顔も、キスをされた真一の顔も真っ赤だった。

 

そして彼女は、自分の人生において最初で最後の告白を彼にしたのだった。

 

 

 

「―――お前の一生を、私に死ぬまで貸してくれ!」

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