2次創作ですし別にいいですよね・・・?
「…………何よこれ」
紅魔館の主にして永遠に紅き幼き月、『レミリア・スカーレット』の寝起き一発目のセリフである。
彼女の従者であるはずの十六夜咲夜に叩き起こされ、有無を言う暇も着替える暇も与えられることなく、地下の大図書館に連れてこられた彼女。つまり、今の彼女は可愛らしいピンク色のパジャマ姿で、薄水色の髪には寝癖がぴょこんと立っていた。
とてもではないが、カリスマを自負する吸血鬼が人前に現れる姿ではない。
「…………何よこれ」
全く同じセリフを口にするレミリア。大事なことだから2回言った訳ではない。目の前に広がる状況を、彼女は全く理解できないのだ。
見るも無残に倒れた本棚と本の山。ところどころ焦げたような跡がついている床や壁。その一部に所狭しと突き刺さっているナイフ。ぐるぐる巻きにされて身を拘束されている白黒の魔法使い。
どれもこれも、寝起きの脳では理解できなかった。何より一番理解できないのは、レミリアを連れてきてすぐに咲夜が近づいた、男の存在であった。
「犯行現場よ。レミィ」
この場にいる者たちの代表として、パチュリーが口を開く。
「…………なんの?」
「強漢」
意味が、分からなかった。
*―――――――――――――――――*
オレはゲームが趣味だ。だから、大学ではオタクとかそう言う連中とつるむことが多い。その中に矢島くんというやばい奴がいる。
矢島くんは言った。
「拙者の嫁である”マジカル☆ラブハートDX”の主人公、ラブピーちゃんはギザかわゆい魔法使いなんだお。いつかそのラブリーチャーミーな魔法を使ってマンガの中から飛び出し、拙者のファーストキスを颯爽と奪っていくんだお」
オレは言った。
「もしもし? 脳外科ですか?」
矢島くん。君の妄想は幻想郷でなら叶うかもしれないぞ。
奪われちゃったよ……。ザ・魔法使いって感じの格好をしたギザかわゆい女の子に奪われちゃいましたよ……。ファーストキスは未知の味だったよ………。心臓ばっくばく、しかもすげぇ大胆なプロポーズまでされちゃったよ……。
一瞬、何をされたのかわからなかったが、全てを把握しきったときには、もういろいろと凄かった。
オレの上に乗っかっていた魔法使い、名前を魔理沙さんと言うらしいが、告白まがいなことを言い終えたと同時に、いつからいたのかわからない咲夜さんにドロップキックされた。
そこからはもう何が何だか。魔理沙さんに向かって大量のナイフを投げる真顔の咲夜さんがいて、それに便乗するようにパチュリーさんも魔法みたいなものをブッパして、負けじと魔理沙さんも魔法の様なものをブッパ。
戦争だった。オレみたいな一般人が入ったら命はないぐらいの、過激な戦いだった。
そんな中オレに近づいてきたのは、オレをぶっ飛ばした張本人のフランさん。後から聞いた話だと、彼女はかの有名な吸血鬼様らしい。力の制御が未熟の様で、オレをぶっ飛ばしたのも故意ではなかったとのこと。
戦争の軍配は咲夜さんたちに上がった。魔理沙さんはパチュリーさんが魔法陣から取り出した縄で縛り付けられ、身柄を拘束された。戦場となった大図書館は、彼女たちの余波によって半壊状態。
幻想郷の女の子レベル高くない?
帰れるか不安になってきた。
「真一様! 大丈夫ですか!? ご精神に異常をきたしておられませんか!?」
次に声をかけてきたのは咲夜さん。今の彼女にはキリッとした表情はなく、心の底からオレを心配しているような表情をしていた。
彼女の奥に水色の髪をしたフランぐらいの幼女が眠そうに立っているのが見えるが、今は咲夜さんに対応する。
「あ、ああ………ビックリしたけど大丈夫。……初めてだったけど」
「は、初めて!? ……くっ、時間を戻せない自分がくやしい! 何が『時間を操る程度の能力』よ! 全然操れてないじゃない!」
ダンッっと、両手を床に悔しそうにたたきつけ、涙を流しながら咲夜さんはそう語る。時間を操る能力て、もしかして咲夜さんも吸血鬼もしくは魔法使いなの?
「パチュリー様、真一様のあの落ち着きよう……」
「ええわかってる。間違いなく、魔理沙は彼に呪いをかけたわね」
魔理沙さんを拘束し終えたパチュリーさんとサキュバスさんは、オレを見るなり妙な事を言いだす。
「答えなさい魔理沙。彼にどんな魔法をかけたの?」
「……魔法をかけられたのは私のほうだぜパチュリー。この魔法は間違いなく、恋だ!」
「汚物は消毒しなければいけないわね」
「お前に汚物呼ばわりされる筋合いはないぜ」
なんともギスギスとした雰囲気だ。いや、あんな戦闘するぐらいだから当然か。パチュリーさんが魔理沙さんにかざしている紙みたいなお札みたいなものは一体何なのか。何となく、物騒なものってことだけは感じ取れる。
聴く限り、魔理沙さんはオレとのキスに魔法をかけたらしいが、これと言って違和感はない。いや、顔は今までにないぐらい熱くなったけど、それはただ恥ずかしかっただけだと思うし。
「あの、オレはなんともないですよ? いやホントに」
「嘘おっしゃ……あ、いえ、その嘘を言わな……あ……うう…………」
「?」
急に口どもるパチュリーさん。あいさつした時も似たような反応だったような。
その様子を見たサキュバスさんが、代理としてオレに聞いてくる。
「真一様。本当になんともありませんか?」
「うん」
「うんって………何をされたかわかっているのですか!?あんな肥溜めから生まれてきたようなブサイクにファーストキスを奪われたんですよ!?」
どんな比喩表現ですか。
いくら嫌いな相手だからって流石に酷すぎないか。
「いや、言い過ぎですよサキュバスさん。魔理沙さん、普通に可愛いじゃないですか」
*―――――――――――――*
真一のそのあり得ない一言で、スカーレット姉妹を除く全員は確信する。
「魔理沙……貴女、とうとう禁忌を犯したのね……!?」
パチュリーは信じられない表情で魔理沙を睨む。
魔法使いの禁忌の一つに、女魔法使いによる男への洗脳魔法と言うものがある。幻想郷にもモラルというものは存在する。それ故、魔法使いにもこのような禁忌が創られたのだ。
「可愛い……ふへへ……」
よほど嬉しいのか、縛られているにも関わらず、蛇のように身体をくねらせながら微笑む魔理沙。幻想郷に住む彼女たちにとって魔理沙がブサイクなのは周知の事実であったが、これほど気持ち悪い彼女の姿を見たのは初めてだった。
「今すぐ彼にかけた魔法を解きなさい。私が貴女を焼く尽くす前に」
「はッ! ちょ、ちょっとまてパチュリー!? 私はマジで何もしてないぜ!」
「嘘おっしゃい! じゃあ彼のあの反応は何!?」
彼女たちにとって彼の反応は、例えるなら、氷精が東大に受かるぐらいありえないことだった。ありえないことが起こるのなら、それには必ず原因がある。
何処かの魔法使いは言った。ありえないことをするのが魔法使いだ、と。
パチュリーが魔理沙を疑うのは当然の事だった。
「知らん! 強いて言うなら、アイツは私の運命の相手ってことだ。悪いなパチュリー、幸せになるぜ!」
「偽りの幸せにすがるほど、貴女は落ちぶれてしまったのね……同じ魔法使いとしてのよしみよ。私がこの手で処刑してあげる」
「待て待て待て!? ホントとのホントに何もしてないんだって! やめろ! 本の角は洒落にならん!」
「やめなさいパチェ」
分厚い魔導書の角で魔理沙を撲殺しようとしたパチュリーを止めたのは、今までの一部始終を黙って見ていたレミリアだった。眠そうだった顔から一変して真剣な表情をする彼女。
『運命を操る程度の能力』を持つ彼女は、今まで彼らに起こった運命を読み取ることで、ここで何が起こっていたのかをすべて把握したのだ。それどころか、真一がどのような世界で生まれ育ったかも、彼女は見破った。
にわかに信じられないが、自分が運命を読み間違えるはずはない。そう思ったレミリアは、この運命を信じることにしたのだ。
「魔理沙は何もしていないわ。ソイツが異常なのは元からよ」
「誰が異常じゃ! というか、誰?」
―――――男を見るのはいつぶりだろうか。だが、コイツの運命は実に“おもしろい”。今夜は楽しい夜になりそうだ。
レミリアは両手の甲を見せつけるような変わったポーズを取り、真一に言った。
「私の名はレミリア・スカーレット。この紅魔館の主であり気高き吸血鬼。紅魔館へようこそ牧野真一。私が歓迎してあげるわ」