女子だけあべこべ幻想郷   作:アシスト

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衝撃の事実

 

 

おもちゃ箱をひっくり返したように散らかった大図書館で話を続けるのもどうかと思ったレミリアの提案により、魔理沙を除く全員が、地下から上がり、一階にある大広間へ移動した。

 

そのついでに、レミリアは身だしなみを整えた。パジャマと寝癖があってはカリスマもクソもないからである。

 

咲夜の手も借りて、いつもの服装と寝癖一つないセットされた髪型で登場したレミリアを見た真一は、どこか彼女に気品のある風格を感じた。カリスマを自負する彼女が放つオーラは、まさに本物だった。

 

ちなみに魔理沙は図書館にぶらぶらと吊るされていた。彼女への処置は、この会話が終わった後に改めてするようだ。一体どのような処置が施されるのか、真一には想像もつかなかったし、そもそも、これから何が起こるかすら想像できていなかった。

 

 

「全員揃っているわね」

 

「お姉さまおそーい」

 

 

フランドールに文句を言われつつも、レミリアは見た目からして一番高価な椅子に腰を掛け、この場に集うメンバーを見渡す。

 

 

「(咲夜、パチェ、小悪魔、フラン、ナイフが頭に刺さった中国。みんな腐敗したリンゴを擬人化したような顔つきをしているけれど、腐っても紅魔館の主戦力。こうしてみると圧巻ね。いろんな意味で)」

 

 

まぁ、顔に関しては私も人の事言えないけど。レミリアは心の中で苦笑いをしながらそう思った。

 

そして忘れてはいけないのが、今回の主役であり唯一の男、牧野真一。

 

レミリアは少し楽しみだった。真一の秘密を知ったとき、彼女たちがどのような反応をするのか。

 

 

「あのー……咲夜さん。私、真一さんを運んできた辺りから記憶が曖昧なんですが……」

 

「そこから先は許されざる記憶よ。今は黙ってお嬢様のお話を聞きなさい」

 

 

咲夜はそう答えながら、美鈴の頭に刺さっていたナイフをスポッと抜き取り回収する。ナイフだってタダじゃない。消耗はなるべく避けたいのだ。

 

 

「改めて、紅魔館へようこそ牧野真一。いきなりで悪いけど、お前がどういう人間か一発でわかる質問をしてやろう。嘘は許さないわよ」

 

「…………?」

 

「私を見て、どう思う?」

 

 

レミリアは自分の顔を指さし、真一に問う。

 

彼女の質問に、思わず真一は首を傾げた。決して質問内容の意味がわからないからではない。わからないのは質問の意図であった。

 

どう答えれば正解なのか、真一は考える。が、嘘をつくなと言われた以上、自分の気持ちを正直に答えるのが一番良いのかもしれないという結論に至った真一は、碌に考えることなく口を開いた。

 

 

「小さくて可愛らしいと思います」

 

『!?』

 

「?」

 

 

な、なんだってー!? と心の中で叫ぶ4人と、真一の答えに特にピンと来ないフランドール。

 

 

「ふ、ふふふ…………皆、今のコイツの言葉を聞いたでしょ。つまり、そういうことよ」

 

 

少し動揺した様子でレミリアは言う。彼がああ答えるのはレミリアにとって運命的に明らかであったことだが、実際に本人の口から褒められると、嬉しくも恥ずかしい気持ちに彼女は支配された。何せ、彼女が外見を褒められたのは生まれて始めての経験だったからだ。

 

 

「そ、そういうことってお嬢様…………」

 

「どういうことよレミィ。魔法じゃなければ、彼は何だと言うの?」

 

「まだわからない? それならもう回りくどいマネはせず、直接答えてあげるわ」

 

 

 

 

「この人間が住んでいた世界では、ブサイクと美女の概念が逆転しているのよ。それはもう天邪鬼もビックリするぐらい真っ逆さまにね」

 

 

 

 

 

*―――――――――――――――――*

 

 

 

 

 

オレには堀内さんと言う、矢島くん並みにヤバい友達がいる。

 

 

堀内さんはメタボリックで、眼鏡で、ぱっつんの前髪がその眼鏡に半分かかっていて、一人称は『吾輩』語尾は『ナリ』口癖は『デュフフ』。オレは悪口は嫌いだが、俗に言うブサイクと称される外見だった。ヤバいだろ?

 

 

堀内さんは言った。

 

「この世にはありとあらゆる世界線が無限に存在するナリよ牧野師。吾輩の外見は一部の世界線においてはモテモテのモテで、この世界で例えるなら新垣〇衣みたいな外見ナリよ。デュフフ、モテモテはつらいのぅ」

 

オレは言った。

 

「もしもし、心療内科?」

 

 

 

 

 

堀内さん。君は幻想郷でなら新垣〇衣になれるかもしれないぞ。

 

 

咲夜さんを始めとする紅魔館の住人全員が驚いているが、オレ自身も驚きを隠せない。

 

もし今の言葉が本当ならば、今オレの目に映る絶世の美女たちは、絶世のブサイクと言うことになる。大変失礼であるが、小悪魔さんが言っていた肥溜めの比喩表現もそれなら納得がいくし、魔理沙さんにキスされたとき咲夜さんたちがあれほど俺を心配してきたのもなんとなくわかる。

 

相手にその気がなくても、ブサイクは褒められるとすぐに恋に落ちる、と堀内さんは良く言っていた。それがホントかどうかは分からんが、堀内さんはそうなんだろう。

 

 

では、この紅魔館の女性陣はどうなのか?

 

 

「真一様……私たちも、その。か、可愛くみえるのですか……?」

 

 

恐る恐る、頬を染めて恥ずかしそうしながら俺に質問してきたのは咲夜さん。果たして俺はここも正直に答えていいのもなのだろうか?

 

正直に言えば、すごく可愛い。特に咲夜さんの恥ずかしそうに三つ編みをいじる仕草は男心を刺激しまくっている。

 

可愛いと言われて嬉しくない女性はいないだろうが、堀内さんの言うことがマジなら、あんまりほめ過ぎないのがいいのではないかと考えてしまう。

 

下手に褒めて、もしも万が一、彼女たちの誰かが俺に好意をもってアプローチしてきたとしたら、オレがその彼女を好きにならない自信はない。そうなった場合、元の世界に戻るとき辛くなる。今のオレに『幻想郷に残る』という選択肢は残念ながらないのだ。

 

 

ものすごく己惚れた考えだが、可能性の一つとしてこれは捨てきれない。

 

 

「………少なくとも、オレの目にはみんな可愛く見える」

 

 

ここは敢えて正直に答える。可愛いのは事実だし、可能性が捨てきれないとはいえ、あのヤバい堀内さんが言ったことだ。信憑性はない。

 

『可愛い』ぐらいなら言ってもいいだろう。本音を言えば『ギャルゲーにいたら真っ先に攻略するぐらいみんな美人です』だし、それに比べればまだマシだろう。

 

 

 

 

ま、すぐに後悔することになったけどね。オレってホント、バカ。

 

 

 

 

*―――――――――――――――――――*

 

 

 

 

 

 

「(我が人生に一片の悔いなし)」

 

 

 

紅色の床に赤色の液体が飛び散る。

 

幸せそうな顔をしながら口から血を流し、倒れる女性の姿が一人。

 

コミュ障の魔法使い、パチュリー・ノーレッジだった。

 

 

「ぱ、パチュリー様!?」

 

 

男への耐性がほとんどない彼女にとって、彼の一言は衝撃的過ぎた。もはや喘息とは呼べない症状が彼女を襲ったのであった。

 

しかし、あまりにも耐性がないが故に、パチュリーが彼に惚れることはなかった。彼女の場合、真一にではなく“男”に褒められたことが衝撃的であったからだ。

 

 

「しっかりしてくださいパチュリー様! 小説の様な恋をしたいんじゃなかったんですか!?」

 

「……生まれて初めて可愛いって言われた……こあ……私は今初めて、魔法使いの寿命が長い事に感謝をしているわ……ガクッ」

 

「パチュリー様ぁ――――――――――!?」

 

 

小悪魔はパチュリーをお姫様抱っこして、すぐさま医務室へ向かう。

 

その一部始終を見た真一は、いかに彼女たちがブサイクとして扱われてきたのか、その一片が味わった気がした。

 

同時に後悔した。可愛いと言う単語は、彼女たちには刺激が強すぎるのだ。

 

 

「……ッ――――――」

 

 

現に咲夜は、先ほどとは比べ物にならないほど赤く染まった顔を両手で隠しながら照れていた。その仕草はまさに乙女のそれであり、彼女の性格を表しているのが良くわかる。

 

美鈴に関しては彼の一言で全てを思い出し、後で彼を襲う事を無意識のうちに計画していた。

 

 

 

「ねぇねぇお姉さま。咲夜たちどうしたの? もしかして……病気なのかな?」

 

「その通りよフラン。咲夜たちは今まさに病気にかかったのよ。………恋と言う名の、病気にね!」

 

「(何も上手くねぇよ………)」

 

 

生まれて初めて、真一はドヤ顔を殴りたい衝動に駆られるのであった。





紅魔館が舞台のギャルゲー欲しい………欲しくない?



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