第0話 ある物語のエピローグ
どこかにあるなんの変哲も無い平和な街
そこになんの変哲も無いごく普通の雨が降っていた。
???「終わった… 何もかも終わったんだ。そうだよ、終わった… 終わったんだ… 私は勝った… 勝ったんだ… ザマァ見やがれ… クソ野郎ども…」
道行く人も誰もいないほどの土砂降りの雨の中で傘もささずに、ずぶ濡れになって、「誰か」がうわごとのようにつぶやきながら一人ふらふらと歩いていた。
いや、雨に濡れていることも、それどころか雨が降っていることすらその「誰か」は気づいていないようだった。
その「誰か」は、どこか自分に無理矢理言い聞かせているようにつぶやいていた。
誰一人として見てはいなかったが、その様を見れば十人中十人がその「誰か」が正気ではなくなってしまっていると判断しただろう。
それでなくとも、明らかにその「誰か」の出立ちは異常であった。
身にまとった服はホームレスもかくやというほどに泥だらけのホロボロ。
体の方も全身擦り傷や切り傷だらけであり、服越しにも血が滲み出していた。
さらには足を捻挫でもしているのかズルズルと引きずるようにして歩いていた。
そして顔は雨でずぶ濡れになってはいたものの、目からは止めどなく涙が流れているのが誰の目にも一目でわかった。
にもかかわらず、表情だけは笑っていた。
その「誰か」は狂気に満ちたように声をあげて笑い続けていた。
そしてしばらくのち、石にでも躓いたのか盛大にひっくり返り、全身を地面に勢いよく打ち付けた。
にもかかわらず「誰か」は悲鳴一つあげなかった。
それどころか痛みすらろくに感じておらず、自分が倒れたということすらほとんど認識していないようだった。
地面の上に転がりながらも、いまだに狂ったように笑い声をあげ続けていたのだから。
???「あ、あは… あはは… あーっはっはっは… いゃーっはっはっは… はは… はーっはっはっは…」
その「誰か」は、しばらく地面の上で転がった後、天を仰ぐようにして大の字になり、枯れるような声を出して、泣きながら、一際大きな声で狂ったような笑い声をあげた。
だが、その「誰か」の泣き声は、悲しいかな誰に聞こえることもないまま雨音の中に静かに溶け込んでいった…
世界に生きるほとんどのものが知る由もないまま始まった「誰か」の数奇な物語は、こうしてその狂ったような笑い声とともに静かにそして悲しく終わりを告げた。
そうして、いくばくかの平和な時が過ぎ、新しい物語が紡がれていくことになる…