時系列としては22話の直前のクリスマス。
第0話の「誰か」の物語です。
町はクリスマスムード一色だった。
ジングルベルが鳴り響き、色とりどりのイルミネーションが夜の町を彩っていた。
おまけに寒いと思っていたら、雪までちらつき始めていた。
そんな中、あたしはある家に向かって重い足取りで歩いていた。
その家はあたしが世話になっている家だ。
あたしは四年前に両親を亡くして、天涯孤独の身の上である。だからその家の人達とも戸籍の上では赤の他人だ。
にもかかわらずあたしを家族として引き取ってくれた優しい人達である。
名乗り忘れたが、あたしの名前は神代 ひかる。
時にはキュア・アルティメットなんて恥ずかしい名前を名乗る時もある。
四年前に妖魔獣とかいう、化け物連中と戦って戦って戦い続けて、最後には私を戦いに巻き込んだ奴に裏切られて、勝利と引き換えに、家族やろくでなしの相棒といった、それ以外の何もかもを無くした不良娘だ。
重い足取りで歩いている中、ふと右腕の銀色のブレスレットが目に入った。
これがろくでなしの相棒の残した、ただ一つの形見である。
歩きながらあたしは四年前の事を思い出していた。
回想 四年前
あの日、あたしと翼は互いの両親を含めて家族ぐるみでハイキングに出かけた。
あたしと翼がプリキュアとかいう訳わからん理由での縁が出来た事で、互いの両親の間にも自然に付き合いらしきものが出来たのだ。(もっともプリキュアの事は親には言ってないが)
あたしと翼は、弁当を食べた後、近くを散策するなどしていると、グルトの野郎が話し掛けてきた。
グルト「ひかる、翼。キュアブレスを貸して欲しいグル」
ひかる「あん? 何だよ急に」
翼「何に使うのかしら?」
グルト「うん、プリキュアの力をもっと強くするために簡単な調整をするグル。すぐ済むから貸して欲しいグル」
ひかる「ふーん、まあそれなら」
翼「貸したげるわ、すぐ返しなさいね」
グルト「ありがとうグル。ちょっとあっちで…」
そう言ってグルトはキュアブレスを持って丘の向こうへ行った。
ひかる「やれやれ、プリキュアか。妙なものになったもんだなホントに」
翼「全くだわ、あなたみたいな馬鹿女といるのがこんなにときめくとは思わなかったわ」
この翼というやつは、学校一成績はいいのだが、それを鼻にかけ、ときめきを感じないとかいうふざけた理由で他人を見下すろくでなしだ。
そのため、生徒間や教師からも社交性ゼロの問題児扱いされている。
ひかる「けっ、テメェみてぇなろくでなしがときめくとな。天変地異の前触れだなこりゃ」
かくいうあたしも、素行不良のため、周りの利口なやつらからは敬遠されている。
かくして、あたしと翼の仲はプリキュアという一点だけでつながった不良と問題児の腐れ縁ではあるものの、決して悪いものではなく、お互いに嫌な気分ではなかった。
こうやって互いをことあるごとに罵り合うのも、いつものことだった。
あの時までは。
適当にぶらついていると、あたし達の前をひらひらと妙に三角三角したチョウが飛んできた。
ひかる「あれは…トリム!」
翼「まさか妖魔獣が!!」
次の瞬間、あたし達の両親のいる近くで大爆発が起きた。
ひかる「何!?」
翼「行きましょう」
あたし達は驚いてそこに向かった。
息を切らせて駆けつけたあたし達は、目の前の光景に愕然とした。
そこにいたのは、いや、あったのはあたしの両親と翼の両親「だった」ものだった。
ひかる「うそだろ…」
翼「なんで…」
「ふぉっふぉっふぉっ。どうかしたのかい、プリキュア」
嫌らしい笑い声が響き、振り返るとそこにいたのは、妖魔獣のボスのスライムの汁ベエとゴーレムの筋タロウだった。
ひかる「て、テメェらが、父さんや母さんを…」
翼「よくも…よくも…」
だがよく見ると連中の足下にはグルトがいた。
ひかる「グルト、早くキュアブレスを返せ!!」
翼「調整なんか後でいいから、早く!!」
あたし達は叫んだが、グルトは怯えているだけだった。
そんなグルトに苛ついていると
筋タロウ「欲しいのは…これか…妖精なんて馬鹿な奴だな…」
筋タロウがキュアブレスをちらつかせた。
翼「な、なんで…」
翼の疑問に答えるようにグルトが叫んだ。
グルト「よ、妖魔獣! 約束が違うグル!! キュアブレスを渡せば、もう何もしないって、フェアリーゾーンも無事だと約束したはずグル!!」
それを聞いてあたしは驚いた。
ひかる「なっ、何考えてやがる!! そんな約束連中が守るかよ!!」
汁ベエ「全くそ〜の通りだよ。死にな、プリキュア」
変身できないあたし達は、汁ベエの放ってきたどす黒い光弾に言い様になぶられ、ボロボロになった。
そんな光景を見ながらも、グルトは何もしようともせず、ただ震えているだけだった。
ひかる「くそっ!! なんとかしてキュアブレスを取り返さねえと…」
翼「言われなくてもわかってるわよ、馬鹿女。そのなんとかは思いついたの?」
ひかる「そう簡単に思いつくか、ろくでなし。 テメェはどうなんだよ?」
翼「あなたと一緒にしないでもらいたいわ」
自信たっぷりにそう言うと、翼は筋タロウに目掛けて走って行った。
ひかる「なっ何を!?」
翼の行動に驚いていると、翼は汁ベエの毒の体液をまともに浴びながらも、筋タロウに組み付いた。
筋タロウ「ふん…馬鹿が…」
しかし、当然相手になるはずもなく、手痛い一撃とともにあっさり吹き飛ばされた。
あたしはそんな翼に慌てて駆け寄った。
ひかる「何考えてんだテメエは!?」
翼を抱き起こしてそう怒鳴りつけると、汁ベエの毒と筋タロウの攻撃ですでに虫の息だった翼の手に、キュアブレスがあったのが目に入った。
ひかる「お前…まさか…」
翼「アンタを…助けたかった…だけよ…馬鹿…」
ひかる「って、テメェが死んでどうすんだよ!!」
翼「何のために…二人いると…思ってるのよ…馬鹿女…。あとは…頼んだわ…」
最後の力を振り絞るように、キュアブレスをあたしに渡してそう伝えると、毒にやられた翼の体はあたしの手の中で髪の毛一本残さず溶けて消えた。
ひかる「おい…翼…つばさーっ!!!」
そんな光景を見てグルトは怯えたように逃げ出した。
グルト「し、仕方なかったグル。フェアリーゾーンのためだと思ったグル!! そ、それに伝説の戦士プリキュアならこれも運命グル!! 諦めて欲しいグル!!」
今なお忘れられないその言葉を残して。
汁ベエ「ふぉっふぉっふぉっ。ざまあ無いねえ〜」
筋タロウ「実に…もろい…絆だ…」
あたしは怒りやら悲しみやらでぐちゃぐちゃになった頭で、自分の金色のブレスを左手に、翼の銀色のブレスを右手に着けると、涙でほとんど見えない目の前でそれを交差させた。
ひかる「うぉぉーっ!!!! プリキュアパワー、サモンアップ!!」
『Summon, lightning cyclone power. Explosion, ultimate power』
次の瞬間、あたしに目掛けて雷が落ちてきたかと思うと、続けてあたしを中心に竜巻が発生した。
アルティメット「闇を裂く究極の閃光 キュア・アルティメット!!」
アルティメット「うあーっ!!!」
変身して妖魔獣に立ち向かったあたしだったが、いかに二人力といえども、精神的にボロボロだったため、変身前のダメージもあって思うように体が動かず、大苦戦を強いられた。
そうこうしているうちに、あたしも汁ベエの体液を浴びせられた。
その毒に苦しんでいると、筋タロウが猛烈なパンチを繰り出してきて、あたしはそれをまともに食らった。
筋タロウの一撃に吹き飛ばされ地面に転がると、連中の後ろにあるラドンパの箱が霞む目に入った。
アルティメット「!!!」
汁ベエ「プリキュア、こ〜れで我が輩達の勝ちだよ」
とどめをさそうと妖魔獣が向かってくると、あたしは最後の力を振り絞り、大ジャンプで攻撃をかわし、ラドンパの箱を奪った。
筋タロウ「何!?」
アルティメット「これで…どうだー!!!」
ラドンパの箱を連中に向けるとブラックホールもかくやというような強烈な吸引力が発生した。
汁ベエ「お、おのれ〜!!」
筋タロウ「プリキュア〜!!」
その叫びとともに、連中はラドンパの箱に吸い込まれていった。
アルティメット「へっ、へへっ。ざまあ…みやがれ…」
だがあたしも体力を使い果たしてしまい、連中を封印したラドンパの箱を今の戦いで出来た地面の亀裂に投げ込むと、よろよろと後ろに下がって行った。
そして、そのまま足を踏み外して崖下に転落して行ったとこまでは覚えている。
回想終わり
そんな事を思い出しながら歩いていると、いつの間にか目的地に着いていた。
しかし目的の家の前まで来たものの、敷居が高く呼び鈴を鳴らす事もできなかった。
ひかる「元の場所に帰るとは言ったものの、いまさらだよな…」
あたしは大きくため息をついた。
ゴールデンウィークの最終日、バイクに乗ってフラッと昔住んでいた隣町、夢園市へと足を運んだのがそもそもの始まりだった。
友達を助けたいと必死になってる中学生とたまたま出会った。
そんでもってたまたまそいつが、あたしが通ってた中学の女生徒だったもんで、放っておけず送ってやる事にした。
そしたらヘンテコな機械の熊に襲われて、久しぶりにプリキュアに変身して戦った。
幸いそいつは弱っちい奴だったが、逃げ足は速くとどめをさし損ね、話も碌に聞けなかった。
悔しがっていると、そこに青いチョウの姿をした怪物が現れた。
新月のフライシアと名乗ったそいつを締め上げて話を聞くと、次元撃滅軍団ブラックムーンとか言う奴らが、あの呪われた力であるエンジェルクリスタルを狙ってフェアリーゾーンに侵攻したらしい。
案の定というべきかなんというべきか、フェアリーゾーンの奴らはプリキュア助けてくれと言って逃げ惑うだけで何もしなかったらしいが(知ってても誰が助けてなんかやるか)、命惜しさにエンジェルクリスタルの在処を白状したらしい。
まあ、それで妖精どもが見逃してもらえる訳でなかったのは当然として、フェアリーゾーンはともかく、この世界にまで攻め込まれたんじゃたまらない。
新月のフライシアにアジトまで案内させた後、とどめをさしてフラッシュ・イリュージョンでそいつに化けて潜入する事にした。
相手の強さもわからないのにケンカを売る訳にいかないから、敵の情報収集をすることを目的に、うまく行けば内部から叩けると踏んだのだ。
したらまあ、後は驚きの連続である。
エンジェルクリスタルの封印のために残した五個の力の欠片で、新しいプリキュアが誕生するわ。
その内の一人があの時の女生徒だわ(たぶんあの時にアイツを認めた所為で成長したプリキュアの力の欠片が反応したんだろう)。
挙げ句の果てが、よりにもよって、エンジェルクリスタルは絶対に使ってはいけないものだと言った張本人の妖精の王子様が、それを使おうとしているわである。
その結果、闇の力が増大していき、ブラックムーンが滅んだ後も妖魔獣が復活してしまった。
なんとかもう一度封印するチャンスを伺って、怒りと屈辱を必死に飲み込んで、妖魔獣っぽい姿に化けて同じように潜入したが、そっちの方は失敗。
幸いにして雑草の種にプリキュアの力を加えて作った雑用係ゾーゾことゾーゾ草というもう一つの切り札を持っておいたおかげで何とかなった。
こいつは食べることで一時的に巨大化できるが、一定時間が過ぎれば草の方が食した者の栄養を根こそぎ吸い取り、即座に枯れてしまうようにしておいたのだ。
妖魔獣に恨み言の一つでも言ってやろうと、最終決戦の場所に顔を出したら、今度はティア・ストランとか言う奴らが入れ替わりで侵攻してきた。
奇襲を受けて吹き飛ばされたアイツらをなんとか助けてやると、もはや毒を食らわば皿までといった気分で、ティア・ストランに潜入した。
そんなこんなで、身の休まる暇が全くなかった。
はじめの頃に捕まえたトリムの力のおかげで、綱渡りみたいな作戦もなんとかうまく行ったのがせめてもの救いだった。
しかし、さすがにあたしもこんな戦い方は懲りたし、もうあの妖精も懲りただろうと思っている。たぶん世界も平和になるはずだ。
仮に万が一のことがあっても、アイツらのことだし大丈夫だろうと思っている。
とは言え、プライベートでは連絡もなしに半年以上行方不明になったことだけは確かである。
あたしを引き取ってくれた人達に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
どう言って謝るべきか、門の前で考えていた時だった。
「あーっ、ひかるお姉ちゃんだ!!」
その声に驚いて振り返ると、この家
見る限り、近くのコンビニに買い物に行っていたのだろう。
戸惑っているあたしをよそに、私の手を取って家の中に引っ張って行った。
ひかる「ちょっ、ちょっと待った。ひとみちゃん」
戸惑ったあたしだったが
ひとみ「パパ〜、ママ〜、お兄ちゃん、ひかるお姉ちゃん帰ってきたよ〜!!」
うれしそうな声で、中に呼びかけた。
もうこうなったら仕方ない。なるようになれである。
あたしはため息とともに腹をくくった。
「ひかる、無事だったのか!!」
そう言って真っ先に声を掛けてくれたのが、この家の家長である佐島
あたしは、おやっさんと呼んでいる。
自動車修理工場を経営しており、四年前行き倒れていたあたしを拾ってくれた優しい人だ。
「一体どうしてたのよ。ずっと心配してたのよ」
本当に心配そうな声を出してくれたのが、専業主婦の佐島
昔は看護師をしていたらしい。
「ばっかだなー、姉ちゃんがどうにかなる訳ねえじゃん。殺しても死なねぇって」
この生意気な奴が、佐島家の長男 佐島
この口の悪さは多分にあたしの影響があるのだろう。
健三「まあまあ、いいから座りなさい。話を聞こう」
おやっさんはそう言ってあたしを居間のソファーに座らせた。
ひかる「ハイハイ。座りましたよ、っと」
すると真剣な顔になっておやっさんは尋ねてきた。
健三「ひかる、一体何があった?」
やっぱり来たかと思った。しかし、事情が事情なだけにあたしは説明に窮していた。
健三「言えないか?」
何も答えないあたしを見ておやっさんは何かを察したように続けた。
健三「ひかる。 お前の過去は知らんし、話したくない事をあえて追求もしない。 しかしだな、お前に初めて会った日、お前は直視に耐えんぐらい心も体もボロボロになって道路に転がっていた」
それは確からしい。
あたし自身、妖魔獣を封印した後のことをよく覚えていないから何とも言えないのだが、どうもおやっさん達に会った時には精神崩壊寸前になっていたらしい。
次にまともな記憶があるのが、半年ほど後の精神病院のベッドの上なのだから、まあ多分本当にそうだったのだろう。
正気に戻った後リハビリを行い、まともに動けるようになって退院したのがそれからさらに数ヶ月ほど後の事であり、その頃には中学を卒業式にも行かないまま卒業していた。
医者曰く、肉体面はもとより、精神面でここまで完全に元通りと言えるほど回復したのは奇跡だと言う事である。
健三「お前を引き取ったのも、夜学に通わせたり、オートレーサーの資格を進めたのもだな。お前に何かしらの目標や生き甲斐を持たせたかっただけで、決して強制しているわけではなくてだな…」
そう。今のあたしの夢は、オートレーサーになってグランプリで優勝する事である。
おやっさんは、昔レーサーだったこともあるが、自分の実力の限界を悟って引退した経緯があるらしい。
そんなおやっさんの話を聞いて、あたしはバイクに乗り始めた。
はじめはただ何となくだったが、これが結構あたしの性にあっており、おやっさんの指導のもとレーサーになる事にした。
昼間は引っ越しやバイク便でトレーニングと実益を兼ねたバイト。夜に学校。休みの日はレースの練習をしていた。
あたしはそんな日々に大満足であり、嫌だなんて一度も思った事が無い。
しかし察するに、どうもおやっさんは、あたしがそんな生活が嫌で家出したと思っているようだ。
熱弁を振るっているおやっさんには悪いが、それは見当違いと言うものである。
とはいえ、この場ではかえってありがたかった。
ひかる「わかってるって。おやっさんの気持ちはよ〜くわかってる。でも心配しなくてもいいって。別にレーサーになるのが嫌な訳でも、この家に居づらさを感じた訳でもないから」
健三「そ、そうか。それは、本当か」
ひかる「ホントだって。ちょっと昔のやり残しを片付けに行ってただけなんだから」
それは確かに本当である。
ひとみ「じゃあ、ひかるお姉ちゃん、もうどこにも行かないの?」
ひとみちゃんが嬉しそうに尋ねてきた。
ひかる「ああ、どこにも行かねえよ」
あたしは、ひとみちゃんの頭をなでながらそう言った。
あたしだってどこにも行きたくない。こんな暖かい場所から出て行きたくなんて無い。
ホントの家族と住んでいた時と同じかそれ以上の家族がいるのだから。
裕紀「やれやれ、ま〜た居候が増えるのか」
ひかる「なんか言ったかこの口が!」
生意気なことを言うガキの口をつねりながらそう言った。
裕紀「ひてて、勘弁」
糞生意気な奴だがこれはこれでかわいい奴で、裕紀もあたしを姉のように慕ってくれているからこその態度である。さっきの言葉が本心でないことぐらいはみんなわかっている。
健三「よーし!! じゃあひかるも帰ってきた事だし、クリスマスパーティーといこうか!!」
ひとみ「やったー!! パーティー、パーティー」
典子「まったく。ひかる、料理手伝いなさい」
典子さんは呆れたようにあたしに手伝いを促した。
ひかる「ああ、わかったわかった」
あたしも腕まくりをして、台所へと向かった。
ホントに居心地のいい居場所だ。何もかもなくしたあたしには、贅沢すぎるほどのもの。
今度こそ無くしてたまるかとあたしは決意を新たにした。
それはそれとて、少なくとも明日は無断で休んで迷惑をかけたバイト先と学校に謝りに行かなきゃならんと思うとまた気が重かった。
まぁそれも平和な新年を迎えるための物だと思って我慢するしか無い。
来年が平穏な年である事をあたしは心から祈った。
エンジェルプリキュア 第22話へと続く