奴隷になってからそろそろ一年が経つ。
確定とまでは行かないが脱出手段もある程度揃ってきた。
しかし、それには壁がある。
「(紅魔館脱出の前に、まず檻から脱出しないとな…)」
何をするにも、檻から出られなければ意味がない。
今までは紅魔館の人達に開けてもらっていた。
自分で開けたことは一度もない。
「(あいつらは鍵で開けてるから、鍵さえ奪えば…)」
咲夜らがいつも檻の鍵を持っているとは思えない。
どこかに鍵を置く部屋があるはずだ。
奴隷はまだ紅魔館の全ての部屋に入ったことはない。
「(今日の時間にまだ行ってない部屋に行こっかな)」
今日やることを決め、咲夜を待つ。
約十分後に咲夜は来た。
手には鍵を持っている。
咲夜は鍵で檻の扉を開ける。
「来なさい」
奴隷はいつものように、しかし鍵に目をつけたまま檻の外に出る。
フランドールの部屋を出て咲夜についていくが、何故かいつもと違う方向に歩き出す。
「メイド長?今日はいつもの掃除じゃないのか?」
「ええ。奴隷も
「あー?」
「ついてくれば分かるわ」
奴隷は何をするのか考えながら、咲夜についていく。
咲夜についていき、ある一つの部屋に入る。
「うっ…」
部屋に入った途端、甘ったるい臭いがした。
「メイド長、なんだこの臭いは」
「腐乱臭よ」
「え?」
疑問に思っているのもつかの間、奴隷の目の前に何かが置かれる。
「貴方にはこれを
「…は?」
奴隷は目の前に置かれた物を見る。
それは…人の形をしていた。
「なっ…解体って
「そうよ。臭いがするのは、それは腐りかけだからよ」
「腐りかけって…ふざけんな!俺に人間を解体しろというのか!?同じ人間を!?」
こればかりは立場なんてクソくらえだった。
何故人間である俺が人間を解体しなければならないのか。
「はぁ、貴方がそういうと思ってわざわざ死体にしたじゃない。それとも、生きている人間の方がよかった?」
「そういう問題じゃねぇよ!…待てよ、お前生きている人間を解体…殺したことあるのか?」
「ええ、この場で生きたまま解体したことあるわ」
咲夜の言葉にゾッとする。
そんな奴隷を無視して咲夜は話す。
「本当は、貴方が解体される側になっていたのよ?いいじゃない、解体する側で」
全ては、あのチビ吸血鬼のためのことなのか。
「狂ってる…」
そう奴隷は吐き捨てた。
「屁理屈はその辺にして、さっさと解体なさい」
「くっ…」
解体部屋の扉は閉まってる。
咲夜の腰に鍵束が見えるが、奪おうとすれば奴隷が解体される側になる。
「(こいつがナイフを持っていなければ…!)」
もはや言いなりになるしかない。
震える手で解体用の包丁を握り、振り上げる。
「(すまない…名前も知らないのに…)」
心の中で何度も何度も謝りながら、振り上げた包丁を振り下ろした。
鈍い音が響き、奴隷の足元に右腕が転がり落ちる。
「次は左腕、両足。そして首を切って血抜きをしなさい」
「…」
そこからは、意識を保つのに精一杯だった。
切れば臭いは強まり、切断口からは腐りかけのドロドロの血が流れ落ちる。
咲夜はその血液を瓶の中に入れて回収していた。
「血抜きが終わったら、胸をこれで開いて邪魔な骨を取って…」
もう咲夜の言葉すら耳に入らない。
奴隷は何も考えれないまま振り下ろし、胸を裂いて肋骨を抜き取る。
手には腐りかけの血が付着している。
「後は腹を切って内臓を取り出せば終わりよ。残りの部分の処理はこっちでやるわ」
「…」
腹を切り、切断口に手を突っ込んで内臓を取り出す。
大腸、小腸、肝臓、胃、すい臓…。
奴隷は朦朧とした意識の中で、理科の教科書にあった内臓の模式図と本物はほぼ同じなんだな、と思った。
「ご苦労様。奥に洗面所があるから、そこで手を洗ってきなさい」
「…」
ふらふらとおぼつかない足取りで洗面所に向かい、血まみれの手を洗う。
鏡に咲夜の後ろ姿が映る。
咲夜が内臓の分別を行っている。
血まみれの手はすっかり綺麗になった。
咲夜の仕事も終わり、二人で解体部屋を出る。
檻の中に戻されても、奴隷は無言だった。
奴隷は自分の手を見る。
この手を死ぬまで洗いたい。
奴隷にはそれしか思いつかなかった。
この先一、二ヶ月ほど奴隷は脱出のことなんて頭になかった。
仕事が捗らなくて怒られたが、そんなことは気にしなかった。
奴隷が立ち直り、脱出に本腰を入れるのはまだ先の話である。