外へ繋がる扉には鍵がかかっていた。
奴隷はすかさず鍵束を取り出す。
「(しまった、どの鍵だ?)」
片っ端から鍵を抜き挿しし、九番目の鍵で解錠できた。
「鍵は…挿しっぱなしでいいか」
奴隷は鍵束から手を離し、庭に出る。
昨日準備していた梯子を壁にかけ、梯子を登る。
壁を乗り越えて、紅魔館からの脱出に成功する。
「やった…やったぞぉ!逃げられた!」
奴隷は歓喜した。
しかし、心の中では少し喜べなかった。
なぜなら、辺りは真っ暗だったからだ。
それに、ここからどこに行けばいいのかも分からない。
「…とりあえず紅魔館から離れよう」
もし咲夜が目覚めてレミリアに知らせたら大変だ。
見つかる前に、紅魔館から離れることにした。
具体的にどこに向かっているのか分からない。
頭にはただ紅魔館から離れようとしかなかった。
しばらく走っていると、近くで水の音がする。
そちらの方向に向かってみると、大きな海…もとい湖が広がっていた。
「こんなところに湖が…」
辺りは暗く、さらに霧まで発生しているので奥までは見えない。
奴隷は乾ききった喉を潤すために湖の水を手ですくい飲む。
水は冷えていて、とても美味しかった。
「さて、ここからどこに行けば…」
奴隷は宴会を一度見ている。
紅魔館以外にも建物があり、そこに人が住んでいるはずだ。
あの宴会に参加している誰かに出会えたら幸運だ。
「(安全そうなのは魔理沙やルナサさんに、姉妹のメルランさんにリリカさんぐらいかな。あとは…話しかけてきた幽霊?)」
宴会に出席していた全員が安全という確率はない。
せっかく紅魔館から逃げられたのに、出会った人が危険な人物なら元も子もない。
湖の水を顔にかけて目を覚ます。
「さて、行くか」
その声には不安が混じっている。
湖に沿って建物、もしくは人を探す。
しばらく歩き続けたが、何も見つからない。
「湖沿いにはないのか?…この森の中に行かなきゃならないか」
夜の森、というだけで怖いのに、紅魔館からいつ追手がくるのか分からない。
びくびくしながら森に入ろうと決心する。
「よしっ!」
息を吹き、森へ入る。
その時、背後で大きな水の音がした。
「!?」
心臓が飛び出るのを抑えつつ、振り返る。
「この身体はいちいち水を得ないと、いつも通りに動けなくなるのが難点ですね…。まぁ、お嬢様に仕えるならこれくらいのリスクも目をつぶって…え?」
ぶつぶつと言いながら湖の中から現れたのは…なんと美鈴だった。
お互い驚いていて、そこだけ時間が止まってしまってるかのように固まっていた。
先に口を動かしたのは美鈴。
「ど、奴隷さん?ここで一体何をして…」
美鈴の問いかけに、奴隷は反射的に地面を蹴って逃げ出した。
「奴隷さん、待ってください!」
美鈴の制止の声が聞こえたが、今の奴隷には言葉を判断出来なかった。
ひたすら走る。
「なんで、なんで!?何故美鈴があんなところにいる!?」
美鈴は咲夜と違って妖怪。
肉弾戦で勝てるわけがない。
ここは素直に逃げるしかなかった。
奴隷の頭は逃げることにいっぱいで、今どこを走っているのかすら考えられなかった。
周りの状況すら分からない。
それぐらい逃げるのに必死だった。
「止まっちゃだめだ止まっちゃだめだ」
美鈴は気を使うとかなんとか言っていた。
それはサーチにもなるらしい。
ここで止まっては自殺行為だ。
奴隷は美鈴から逃げることだけに集中していて、上から響いた音に気づけなかった。
カコン、という音がした。
そんな音に気づかず走っていた奴隷の上から何かが落ちてきた。
「え?」
奴隷もすぐ上まできて気づく。
しかし、遅かった。
落ちてきたモノが奴隷の腹を切り裂いた。
奴隷の腹から鮮血が溢れ出る。
「な、んで…」
奴隷は力なく倒れる。
奴隷の視線の先には、小さな桶に入っている緑髪の少女が鎌を持っている姿が見えた。
「♪」
彼女の名前はキスメ。
種族は釣瓶落とし。
木の上から首や釣瓶が落ちてきて人間を喰らうとされる恐ろしい妖怪である。
「まさか人間がこんなところにいるなんて。久しぶりのご馳走だわ」
キスメは涎を垂らして、小さな手を奴隷の腹に突っ込む。
「う、ぐあああ!?」
腹から経験したこともない痛みが発生する。
そんな奴隷の悲鳴を聴きながら、キスメは一気に手を引く。
「美味しそうな大腸ね」
奴隷は内蔵を失ったショックで意識を失った。
キスメは大腸にかぶりついて、満足していた。
「ふふ、あとは持ち帰ろ。新鮮なうちに食べないとね」
キスメは奴隷の足を掴んで引きずる。
あとはこのまま住処に持ち帰るだけだった。
しかし、それは一人の妖怪の登場によって止められた。
「奴隷…さん?」
現れた妖怪は美鈴。
奴隷の悲鳴を聞いてここに来た。
目の前の血まみれの奴隷の姿を見る。
そして、キスメを見る。
「貴様!」
美鈴は大きく踏み込み、桶ごとキスメの顔面に蹴りをくらわす。
キスメはどこかへ飛んでいってしまった。
「奴隷さん!奴隷さん!」
美鈴は奴隷を看る。
かすかに息をしていることを確認して、奴隷を背中に乗せて紅魔館へと急いで向かう。
「待っててください奴隷さん、死なせませんよ!」
急ぎつつ、なるべく揺らさないように美鈴は走る。