奴隷とレイセンが消えた数十分後、月人と玉兎兵を撃退したレミリア達が紅魔館に戻った。
「まだあれくらいならいけるわ。問題は賢者よ」
「流石に天照大御神を使われると…」
「分かってるわ」
とある賢者に一回の攻撃で負けてしまったことを思い出した。
魔理沙が広めたせいで、恥ずかしくて部屋から数日出られなかった。
「会う人会う人、口々にあの事ばっかり…。もうそうなりたくないわ」
廊下を歩いていたレミリアだが、ふと気づく。
「咲夜、奴隷の姿が見えないんだけど知らない?」
「そういえば見当たりませんね。全く、どこほっつき歩いているのやら…」
死体がないので、とりあえず死んではいない。
レミリアはそのことに安堵し、次なる戦いへの準備を始める。
そんな噂の奴隷は、危機的状況に陥っていた。
「嘘…だろ?」
周りには玉兎兵がいる。
それもかなりの数だ。
突然の奴隷の登場に、玉兎兵も驚いている。
そういえば、ここはどこなのだろう。
周囲を見てみると、外じゃなくてどこかの施設の中のようだ。
幻想郷には似つかない、機械が沢山置いてある。
外の世界にもあんな機械はない。
「かっ、構え!」
一人の玉兎兵の声に皆が反応し、奴隷は銃剣を突きつけられる。
奴隷は両手を上げて、何もできないことをアピールする。
「(どうすれば…!)」
外道なやり方を思いついた。
ここから生き残る為には、手段を選んではならない。
両手を上げている奴隷を見て、玉兎兵は少し気が緩んだ。
その隙を狙って、奴隷はすぐ近くにいたレイセンを拘束し、レイセンの首元に銃剣を突きつける。
「動くな!この玉兎が死んでもいいのか?」
奴隷が行ったのは、人質作戦。
効果はあったようで、玉兎兵はたじろいでいる。
「撃つなよ。玉兎にも当たるし、俺に当ててもこの場所が玉兎の血で穢れるだけだ」
「卑怯な!」
奴隷はレイセンを拘束しながら、後退りをする。
「そうだ、そのまま…」
開いている扉の所まで後退り、そこからレイセンを抱えて逃げ出す。
「待て!」
玉兎兵は、逃げた奴隷を追う。
どこに行けばいいかは分からなかったが、殺されないためにも逃げるしかなかった。
一つの個室を見つけ、中に入って玉兎兵をやり過ごす。
「行ったか…。いつ見つかるか分からないから、さっさと出口を見つけないと」
安堵している奴隷とは逆に、人質にされて今でも口を塞がれているレイセンは必死に抵抗する。
「あっ、やべ…」
奴隷も逃げるのに必死だったので、レイセンを抱えていたことを忘れていた。
レイセンの口から手を離す。
「あー…悪かったな。紅魔館で散々殴った挙句、人質にまでさせてしまって」
手段を選ばない方法だったので、いくら敵でも罪悪感があった。
兎耳を生やした少女というだけでやりづらい。
「…いきなり謝れると強く言いづらいなぁ」
「あんまり大声出すなよ。バレるから」
「むしろ私はそっちの方がいいんだけど」
「いや、ほんとごめんなさい」
今、レイセンに大声を出されては危険だ。
さっきの玉兎兵がまた追ってくる。
最悪の場合、再びレイセンに酷い目をあわせることになる。
しばらく隠れていると、近くで玉兎兵の声が聞こえた。
「見つかった?」
「いえ…私も全て把握しているわけじゃないから」
「依姫様に報告は?」
「すでにしているわ」
玉兎兵の会話を盗み聞き、どうやら玉兎兵の上司がいるらしい。
「(依姫…八雲紫が言っていた綿月依姫?)」
賢者と言っていた。
要注意人物の一人だ。
「(まずいな、ここから逃げないと)」
玉兎兵はどこかに行ったようだ。
要注意人物への報告を済ましてあるとすると、すでに奴隷らを探している可能性がある。
「レイセン、と言ったな。俺は危害を加えずにここから出たい。協力してくれないか?」
「不浄の者に協力なんて、依姫様に知らされたら…」
「その不浄の者を追い出す為に協力してくれ。この場所を穢されたくないだろ?」
「…出口を教えるぐらいなら」
「それだけでいいよ。ありがとう!」
レイセンに出口を教えてもらう。
「追い出したのはレイセンの功績に入れといていいからさ」
功績という単語をつけて、レイセンが他の玉兎兵に報告しないように保険をかける。
誰でも功績を独り占めにしたい欲がある。
「それじゃあ三十秒だけ目をつぶって。目を開けたら、俺はもう敵だ」
レイセンは頷き、目を閉じる。
「(素直だな、いい子だなぁ…)」
撫でたい衝動を抑え込み、出口がある方向へ走る。
三十秒後、レイセンは銃剣を手に取り奴隷が向かった方向へ走る。